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~ミランダ視点~ コボルドの英雄

 このコボルド本当に強い。

 あれから幾度となく剣を打ち合い、互いに(わず)かな隙を突いて傷を負っていく。


 コボルドなんて、それなりに身体能力が高いだけで、原始的な闘い方しか知らない、獣のモンスターでしかないのに。


 どうしてここまで強くなれたのか?


 しかし、闘いを優位に運べる突破口が見えてきたわ。

 ≪流体移動≫によって距離を取ると、馬鹿みたいにそれを追ってくる!


 私は体勢も崩さずに下がりながら打ち合えるけど、さすがのコボルドも体力が尽きて来て、動きが雑になって来てる。


 それに足場が悪いのは幸いだった。

 私はどんなに足場が悪くても、問題なく重心を安定させる事も出来るし疲れる事もないけど、コボルドの方はそうはいかない。


 徐々(じょじょ)に足が上がらなくなって、動き回る私を追って(つまづ)き、足を取られる事も増え始めた。


 私は優位に立ってる!

 下がるのを止め、触れる事の出来ない間合いに立ち、いつでも下がれる状態で細剣での攻撃を浴びせ続ける。


 コボルドは反撃出来ずに、身を守るばかり!

 腕も下がり、上半身への攻撃を(さば)けずに、(かわ)すのが精一杯のようね。


 息が上がり、肩が下がった瞬間!

 ここぞとばかりに(わず)かに出来たその隙を突き、細剣で目を狙い腕を伸ばす!


 弾かれた!?

 

 細剣を手放してしまった!


 コボルドのどこにそんな力が!!


 間一髪(かんいっぱつ)、首への一撃を(かわ)し、剣を振りかぶり追撃をしてくる(わず)かなその隙に距離を取った。


 細剣を拾い上げるとコボルドも息を切らし、大きく肩を揺らして呼吸を整えている。

 

 私の頭の中に何かが(よぎ)ってしまった……

 セリルが倒れ、果敢に巨大な悪魔に立ち向かうディル様の御姿とこのコボルドを重ねてしまった。


 そう思った瞬間。


 光に包まれたような感覚があった。


 コボルドの動きがゆっくりに見え、こちらを目掛けて剣先を向ける。

 

 距離が徐々(じょじょ)に近づいてくる……


 私は……この一撃を避けなくては……


 駄目だ、細剣を持った手が上がらない。


 見事だと思った。

 これこそが英雄なのだと、美しいとすら思えた。


 ディル様お許し下さい……私はこのコボルドの英雄リックに……


 

 目の前に邪悪が広がり、その剣が私に届く事は無かった。


 「何を遊んでいる? 私の方は片付け終わったぞ」


 アトラスはコボルドの渾身の一撃を素手で受け止め、そのまま剣を握りつぶした。

 

 「粗末な剣だ。 お前は最後の一人。 飽きが来るまで楽しませて貰おう」


 私は自身の抱いた思考に困惑した。

 リックは私との闘いで、呼吸をするのも苦しい程のはず。


 助けたいと思ってしまった。


 私は自身の行動に困惑した。

 何をしている!?


 リックを抱えてアトラスから私は今逃げている??


 私は何を?


 気が付けば街に辿り着いていた……


 人の気配はない。


 アトラスが追って来る気配もない。


 「おい……そこの角を曲がった直ぐの扉に入れ」


 リックは荒い息を抑え、吸い込んだ空気を吐き出すと共にそう告げた。


 私はそれに従い、鍵も掛かっていない扉を開けて中へ入る。

 中には何も無かった。


 暗く(ほこり)臭い部屋の中で、リックが腰を下ろし、息を(ととの)えている。

 

 「なんで助けた?」


 「自分でも分からない、ただ、体が動いてしまった」


 「そうか……あいつ、追って来ないな」


 「そのようね。 追って来ていたとしたら確実に見つかって殺されているわ」


 「俺はお前に勝ったのか?」


 「変な質問ね。 そうね、私はあの時、死を覚悟していたわ。 不思議な感覚だった。 あなたが英雄なのだと、そう思って受け入れようとしていた」


 「じゃあ、お前は俺に殺された! 今から俺に(したが)ってくれ」


 「敵討ちではないの?」


 「強い奴に弱い奴が何されたって文句はない! だから俺は強くなった!」


 「そう……」


 リックの中ではもう復讐を終えていると言う事なのかしら?

 この男に従う……私の行為はディル様を裏切った事になるのだろうか?


 気が狂ってしまいそう……私はどうしたいのか私自身が分からない。


 こんな私ではディル様に合わせる顔もない……


 自身の答えが見つかるまで、私はこのリックに着いて行く事に決めた。

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