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~ミランダ視点~ 復讐者

 はあ……自分にこんな感情が芽生(めば)えるとは思ってもみなかった…‥


 ディル様のセリルを見つめる眼差し……今でも自分を()めていらっしゃるご様子。

 あまりにも痛々しく、そして(はかな)い……


 人間の感情なんて自分には理解出来ないのだと決めつけていたけど、今なら分かる気がする。

 これは恋と言う感情なのかもしれない。


 思えばあの時、唇を重ねた時から……


 「おい、ミランダ。 聞いて居るのか?」


 「ごめんなさい。 少し考え事をしてたわ」


 「そうか。 考え事とは珍しいな。 それで、夜盗から話を聞き出し、その後殺すと言う話だが、何しろ数が多いみたいだ。 万が一にでも逃げられ、街に入られたら厄介だからな。 逃げた奴は君が追って殺して貰えるか?」


 「わかった。 それじゃあ今回は逃亡を阻止する事を目的に動くから、楽しみたいのなら全部アトラスがやっていいわ」


 「いいのか? 私は同胞相手に遠慮などしないぞ? それならたっぷり楽しませて貰うとしよう」


 アトラスが不敵(ふてき)な笑みを浮かべて、楽しそうに馬車を走らせている。

 以前は私も甚振(いたぶ)って殺したり、絶望の(ふち)に立たされた者を眺めるのが好きだったけど……


 今は以前と比べると差ほど興味も失せてしまった。

 傷つくと言う事の辛さを知ってしまったからだろうか?


 アトラスが注意を払うように(うなが)して来たので、私もそれに備える。

 私は逃走を阻止すればいいだけなので、大して身構える事もないけど……


 馬車が止まり、外へ出ると、獣人達が馬車を取り囲んでいる。

 中にはフードを深くかぶり、顔の見えない物もいるけど毛深い腕が見えるし、獣人で間違いないでしょう。


 数は二十人程で、全員武器を持っていて防具を着けている者もいる。

 見るからに安物だったり、自作した物だったりと粗末な物だけど、それなりに整っている所を見ると、人間が相手をするには少し厄介なのかもしれない。


 アトラスが狂ったように暴れはじめたので、私も逃げる素振りを見せた者から≪粘動体≫によって動きを封じて行く。


 ジワジワと一人ずつ(なぶ)り殺し、恐怖を(あお)るような発言をしているけど、それでディル様に頼まれた事を後で聞くつもりなのかしら?


 アトラスも馬鹿ではないので何か考えがあるんでしょうけど……忘れてないわよね?


 「ん? ミランダ! 一匹捕縛(ほばく)を解いて逃げたようだぞ。 私は残りを始末してから向かう。 先にそいつを追え!」


 まさか私の≪粘動体≫の束縛(そくばく)から逃げられる者が居るなんて……

 それに、足も速い。 

 気配も薄くて、≪粘動体≫から抜け出した事に気が付かなかった。


 街に入るまでには追い付けそうにないかと諦めていたけど、入り口じゃない方へと走って行く。

 街と繋ぐ別の出入り口でも作っているのかしら?


 徐々に距離を詰めて行くと、夜盗の姿が消える。

 消えた場所まで行ってみると、大きな穴を(ふた)で塞いでいる場所を見つけた。


 こんな場所まで地下に通路を作って、夜な夜な人を襲いに出掛けていたのね。

 確定と言う訳ではないけど、組織ぐるみの犯行の可能性は更に高まったかしら?


 急いで穴を下り、地下通路を突き進んでいるけど、随分(ずいぶん)と分かれ道が多い……

 このままでは逃げ切られてしまう……私は体を複数に分けて全ての道を突き進んで行く。

 

 分かれ道に差し掛かる度に身体が小さくなり、戦力も衰えるけど、≪流体移動≫なら追う速度は変わらない。

 このままいけば、追いつける!


 !?


 私の一部が一瞬で破壊された。

 追っていた夜盗に違いないとは思うけど、私が感知出来ない程の速度で攻撃をしてくるなんて……


 私は体を集め、破壊された場所へ向かい、辿り着いてみれば、何も変わらず地下通路だった。

 静かで、周りに気配を感じる事もない。


 しかし違和感を感じる……見られている?

 私はアトラス程、索敵能力は高くはないけど、特殊な能力でもなければ、まず私の感覚器官によって位置くらいは分かるはず。


 違和感は消えない。

 何者かが私を見ている。


 警戒をして回りを探っていると、いつの間にか目の前にフードを被った獣人が姿を現した。


 「ついに見つけたぞ、人間の女!」


 そういってその獣人は私に突っ込んで来た。

 その動きは予想より遥かに遅く、とても私の体の一部を破壊した者と同一人物とは思えなかった。


 しかし、私はその獣人の一撃を(かわ)せずに、肩に刃が突き刺さる。

 普通の剣で攻撃されても私にダメージはない。

 (かわ)したつもりの攻撃が、当たってしまった事は不可解ね。


 「(かわ)したつもりなんだけど、どうして私はあなたの攻撃を受けたのかしら?」


 「教えるものか! 俺はお前を殺す為に死に物狂いで技を磨いた! 今度は狩られる側に立ってもらうぞ!」


 「そう。 誰かは知らないけど、殺してあげる」


 獣人の男は何かしらのスキルを使っている。

 原理は分からないけど、(かわ)したと思ったら当てられるし、(とら)えたと思ったら()り抜けて行く。


 そして気配は目の前に居ても読み取れない程で、そこに存在しているのかどうかも分からない。

 厄介な能力だけど、攻撃してきた所を捕まえればいい。


 私は身を犠牲にして、攻撃が当たった瞬間にその腕を掴んだ。

 

 「やはり、このままでは傷は浅いか。 ならば!」


 戦慄(せんりつ)を覚えた。

 それと同時に掴んだ腕が凄い力によって弾かれ、距離を取った獣人の気配がはっきりとしたものへと変わっている。


 この獣人は強い。

 ディル様の能力の向上と共に強くなった戦闘の得意な眷属達と比べれば、それには及ばないだろう。


 しかし、(あなど)っていると逆に思わぬ深手を負ってしまうくらいには手強い。

 私は彼を(あなど)るのをやめた。


 私は細剣を握り、「行くぞ!」と、立ち向かって来る彼と正面から打ち合った。

 先程とは動きが変わり、速度も速いが、細剣が(かす)ると傷がつく。


 結局原理は分からなかったけど、実態を掴めなかったのは何かのスキルを使用している為。

 しかし、本人もそのスキルを使っていると、実力は出せなかったみたいね。


 この獣人の実力は、細剣を武器として戦う私と同程度。

 このまま戦闘を続ければ、体力の差で必ず私が勝てる。


 細剣での刺突を紙一重で(かわ)され、引いた手が戻るまでに必ず攻撃を仕掛けて来る。 

 拮抗した状況を変えたのは獣人の方だった。

 

 私には斬撃の効果は薄い。

 それを利用して相打ちを狙った私に鋭い痛みが走った!


 激しい打ち合いの中、獣人の刀身が私の身に刻まれる。

 剣の斬撃によってダメージを受けた!?


 勝利に向けた私の算段に、狂いが生じてくる。

 まずい――何故私がダメージを――


 咄嗟(とっさ)に≪粘動体≫を飛ばして、動きを封じようとすると、≪粘動体≫が何かの魔法によって獣人の体に浮き上がった魔法陣に吸収された。


 思わず驚愕(きょうがく)の声を上げた私を、気に掛ける事も無く、獣人は(ふところ)に飛び込んで来る。


 ≪粘動体≫は私の体の一部を使ったスキル。

 それを吸収されてしまった場合、その一部が失われる事になるけど、それは微々たるもので問題はない。


 問題は、私自身があの魔法陣に触れた場合、直接吸収される可能性がある事。


 ディル様の眷属である私が追い詰められている!

 

 肉薄した状態で魔法を使う余裕はない。

 私は擬態能力を使い、相手の目を(まど)わせながら剣を交える。

 

 効果がない。

 闘いに集中している獣人の感覚は研ぎ澄まされているようで、確実に私を(とら)えてくる。


 私は純粋な近接戦闘は、戦闘を行う眷属の中でも最弱と言ってもいい。

 しかし、私には物理攻撃が通りにくく、擬態能力も優れている。


 予測しずらい動きで相手を惑わし、その気になれば二人に分かれる事も出来る。

 その力を使い、正面からの打ち合いを避けて戦えば、アトラスにだって優位に立てると言うのに!


 こいつは、それを許してくれない。

 擬態能力を使い、どんな動きをしても、私を(とら)えてダメージを与えて来る。


 二人に分かれて戦えば戦力は衰え、吸収でもされてしまえば私はその時点で殺されてしまうだろう。


 さらに動きは未だ(おとろ)えず、逃走を今更初めても今度は私が追われ、追い詰められていく……


 安易に触れる事が出来ない以上、ミミックの体での直接攻撃などは出来ず、細剣による攻防を続ける事しか出来ないなんて……


 呼吸何て必要がないのに、一手交える度に息を呑み、体の細胞全てでこの戦いを感じ取る。

 ダメージを受けても(ひる)まず、細剣を突き出すとようやく一撃当てる事に成功した。


 目の上を(かす)った程度だけど、元々私の方が有利なはず、(わず)かでもダメージを与えれば私が勝つ可能性はその分増していく!


 獣人は被っていたフードを取り去り、獣人の顔が(あらわ)になる。


 「……コボルド?」


 「そうだ! お前に仲間を(もてあそ)ばれ、地獄の底に叩き落されたコボルドのリックだ! 少しだけ楽しまさせて貰うぞ!」

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