魔境の主のこれから
物思いにふけっていたって仕方がないか……
しかしここは街の人も立ち入らないような危険な森なのに本当に居心地がいいと感じる。
森の香り、暗くて冷たい空気に僅かに聞こえる川の潺。
空気を吸い込むと木の香りに胸が満たされて、吐き出すと何かどんよりした物が出て行くみたいで凄く気持ちが良い。
湿った土の匂いも風に揺られてざわつく森の声も全てが……
「ディル様。 気分は良くなられましたか?」
「うん、大丈夫。 オウル、ここはすごくいい場所だね」
「ありがとうございます。 川も近くにありますし、気に入って頂けて私も嬉しく思います」
「あの子の具合はどう?」
「順調に回復しているようです。 ただ――目も治せるのかリストに尋ねた所、特に異常はなかったと……」
「どういう事? ずっと目を閉じてたじゃないか?」
「私にも分かりません。 ただ、不思議な瞳をしていたのでそれが原因ではないかと」
「不思議な瞳? それならあの子が目覚めた時に聞いてみようか」
医務室に戻るとリストが駆け寄って来て「ほめて―」っと頭を差し出して来たので撫でてやると大喜びしていた。
治療を終えた彼女はベッドの上で眠りに着いている。
ここへ運んでくる直前までは顔色も悪くて傷も多かったけど、今は完治していて血色もいい。
疑っていた訳じゃないけど、リストの腕は確かなようで、もしもの場合でも安心出来る。
「リスト。 ご褒美と言うわけではないんだけど、医務室の見た目や設置器具なんかはある程度変更が可能だから、何か必要なもの希望があれば教えてくれるかな?」
「かしこー! 薬草を育てるおへやー。 どーぐわー、沢山あるからまとめて紙に書いてわたすー」
それならと魔境ポイントを使って、医務室と繋がる部屋を作り出し、薬草に必要な土の苗床や水槽を設置してあげて、希望にはなかったけど医務室の壁を白く着色して薬品棚を設置してみた。
これで今ある魔境ポイントはほぼ使い切ってしまった。
リストの感激した顔が見られたのは良かったけど、早々に自分のスキルでは作れない薬草を摘みに外へ出かけてしまった。
危険なんじゃないかと尋ねた所、ドライアドには森の加護があって危険もなく、道にも迷わないと教えてくれたので大丈夫だろう。
部屋に取り残されたオウルと僕で今後の方針に着いて話をする。
「聞いてくれ、僕には何も目的なんてない。 だけど、この魔境の主として相応しい人物になりたいと思っている。 それで僕に出来る事をやって行きたいんだけど、拠点の拡張なんかは魔境の力が溜まりしだい必要な物を立てて行く。 それで新たな眷属をあと四人召喚出来るんだけど何か考えはあるかな?」
「素晴らしいお考えですね。 その心掛けがあれば主として相応しい人物である事を疑うような眷属はいないでしょう。 新たな眷属に関してですが、私もこの森から出る事はなかったのでディル様のお求めになる事はお答え出来ません。 なので、知識ある者を眷属として召喚するのは如何でしょうか?」
知識ある者か、オウルは僕に取ってとても頼れる眷属だけど、元々は森の魔獣で外の事や他の種族の事までは分からないと思うし、僕に至ってはまだ子供であまりに経験不足だ。
リストはあんな感じだし、知識のある者を召喚するのはすごくいいかもしれないな。
「ありがとう。 魔境の力を貯める必要があるから日が昇ったら実行に移させてもらうよ。」