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茫然自失

 宙を舞ったセリルを受け止めると、力が抜けて意識がない……

 

 「ミランダ……セリルを頼む」


 何をしているんだ……こうなった原因はなんだ? 僕が止めなかったのが悪いのか?

 分からない……今思えばヴァジールに魔物の軍勢が来てからずっとセリルは変だった気がする……


 考えたって仕方がない。

 今僕は……凄く怒っている! 自分が不甲斐ない! このやり場の無い怒りを何処にぶつければいい? そんなの決まってる……あの悪魔を殺す!


 僕は全身全霊の力をもって走り抜ける!

 悪魔は僕を見た。 

 そして巨腕を振りかぶって僕を叩きつけようと振り下ろす。


 体が大きい分見た目よりかなり早い。

 でも、そんなの僕には関係がない。


 僕は≪飛燕≫でその腕を(かわ)し、悪魔の巨大な腕を駆け上っていく。


 僕が一瞬消えた事が予想外だったのか、悪魔は一瞬身を引き、肩を蹴って飛び上がった僕から逃げるように顔を背けようとする。


 しかし、遅い!

 僕は悪魔の左目に双剣を突き刺し、すぐにその場から飛びのく!

 悪魔は僕を叩き潰そうと自分の顔を手の平で叩きつけ、凄まじい咆哮(ほうこう)を上げる。


 飛びのいた僕はクルリと回り、双剣を翼のように広げて、滑空(かっくう)するように、悪魔の目に近づく。


 悪魔はそれを阻止する為、僕を両手で掴もうとしてきたけど、再び≪飛燕≫で腕に飛び乗り、そこから加速して一気に右目にも双剣を突き刺した!


 その場から飛びのき、地上に着地すると、悪魔は両手で顔を抱え、悶え苦しみ、僕を探しているのか、顔の近くを叩く様な仕草をしている。


 悪魔の動きが止まり、視界を失ったはずなのに僕の方を向いて、口から黒い炎の(かたまり)を吐き出す。


 しかし、すでに僕は精神を集中させ、双剣を握る。

 ≪虚空破斬(こくうはざん)≫実体のない敵や、液体のような不定形のスライムなどにダメージを与える為の剣技だけど、この技は魔法も切り裂く事が出来る。


 この黒い炎が魔法なのかは分からないけど、切れると言う確信がある。

 黒い炎は四つに引き裂かれ、僕を避けるようにして掻き消えていく。


 (わず)かに(かす)った、二名の精鋭が発狂するが、すぐに回りに居た精鋭隊の人間から一撃を貰って、気絶した。


 僕は精神を集中させて闘気を練り上げる。

 闘気を剣気にかえ、剥き出しの覇気によって技を放つ!


 僕は飛び上がり、悪魔の胸の辺りで双剣を振りかぶる!

 ジャレイフの教えてくれた、大物食らいの大技、≪スピリットオブボルケーノ≫!

 双剣から溢れ出た剣気が刃となり、巨大な悪魔に二本の剣筋が刻まれる!


 そして、悪魔は四つに裂かれて倒れ伏す……


 二体目だと!?


 倒れた悪魔の後ろから、もう一体巨大な悪魔が現れ、すでに振りかぶっている腕を、空中で身動きの取れない僕に振りかざす!


 僕はただ落下しているだけなので、≪飛燕≫を使えず、双剣を振り切った今から滑空(かっくう)する為に剣を戻しても間に合わない。


 僕は成すすべもなく、辛うじて双剣で防御するが、悪魔の(こぶし)に破壊されてしまい、そのまま地面に叩きつけられる!


 地面に当たって跳ね返り、セリルと同様に宙に弾き飛ばされた。

 声が出来ない……背中の骨が折れて息をする事すら……


 僕はミランダに受け止められ、すぐにポーションを飲ませようとしてくれているが、それを飲む事はおろか、唇を動かす事さえ出来ない。


 ミランダはポーションを口に含み、口移しで僕の中に無理やり飲ませてくれる……いや、なんか入ってきたぞ。


 ミランダのスライムか。

 スライムは僕の喉の奥に直接ポーションを流し込み、更に体の中から骨の補強(ほきょう)までしてくれた様で、ようやく呼吸をする事が出来た。


 「ディル! セリルも同じように処置したけど、意識が戻らないの。 それから……アトラスに怒りを(しず)めるように命令して!」


 アトラスを(しず)める? そう思ってアトラスの方を見ると、凄い剣幕(けんまく)で何かぶつぶつと(つぶや)いている……


 「アトラス怒りを(しず)めてくれ! 俺は無事だ」


 アトラスは我に返ったようで、すぐにセリルを抱えて宿に戻ろうと提案(ていあん)してきたが、ここで新たな人物が登場する。


 「今まで王子を守ってくれて助かった。 あの化け物は俺に任せろ!」


 そういって飛び出して来たのは、金色の毛皮の鎧を来た騎士で、ジャレイフにも聞いた事のある人物だった。


 ヴァジール帝国の英雄。

 カチェスタの北にある山に居た、伝説級とも言われる魔獣を倒した男。

 金獅子(きんじし)とも呼ばれる槍使いランジリオ・ギュスターブ!


 巨大な悪魔に向かって猛然(もうぜん)と突き進み、真正面からその体に槍を打ち込む!

 悪魔も一撃では倒れないが、次の一撃で首を折られ、さらに喉元(のどもと)を貫く!


 悪魔は倒れ、次の悪魔はもういない……


 いや、何かおかしい……


 明らかに場違いな道化師の男が拍手を送っている……


 いつから居た?


 周りの精鋭達もギョッとして、剣を構えた所を見ると、帝国の人間ではないらしい、そしてその男は僕の前で膝を突き、張り上げた声で話しかけて来た。


 「おお! ご無沙汰しております! ずっとあなたの行方を捜して居りました! 私です! マニエルです!」


 いきなり声を掛けてきて、全く心当たりのない名前を名乗り出した……

 僕の知り合いか? 記憶にはない。

 こんな奴会ったら忘れないと思うし、何者なんだ?


 「すまないけど、僕は君の事を知らない」


 「あっはー! 当然です! 私の記憶にも御座いません!」


 にっこりと笑顔を向ける……こいつおかしいぞ!

 僕の気持ちを読み取ってか、とっさにミランダが腰の細剣に手を伸ばし、躊躇(ためら)いもせずに突き出した!


 それをマニエルと名乗る道化師は、ヒラリと(かわ)し、一歩下がってお辞儀(じぎ)をした。


 「危な! これだから女に刃物もたせちゃいけないって何度行ったら分かってくれるのか……あーあ、いきなり斬りつけて来たもんだから……ホラ、王子の首、取れちゃいましたよ?」


 マニエルがそう告げた後、王子は力なく倒れ、地面に首が転がる……


 「ほら、この鋼鉄の糸を初めから首に巻いていたわけよ、おっと危ない!」


 精鋭の一人がマニエルに向かって剣を振りかぶった……そう思っていたけど、いつのまにか手に持っていた剣をマニエルが持っていて、逆に精鋭にその剣を突き刺していた。


 「いやねー、そうやってがっついてるから女の子にもてないのよん! でも死んじゃったからその悩みも無くなるわねん!」


 唖然として見ていたランジリオがマニエルの前に立ち、「王子を……よくもやってくれたな!」と息巻く。


 「おいおい! 小さな英雄の活躍根こそぎ持って行った奴がなんか言ってるぞー! 悪者は誰だー! 金獅子だー!」


 マニエルの言葉を無視してランジリオは槍を突き出す!


 マニエルの姿が一瞬にして消え、僕達の後ろから声が聞こえてくる。


 「俺のお仕事終わったの! 今日はこれで帰るから。 またの御機会(ごきかい)御座(ござ)いましたら、その時は宜しくお願い(いた)します。 それでわー!」 


 最後ににこやかな笑顔を残し、マニエルは去っていった……


 そう思った矢先、さっきまで戦っていた巨大な悪魔が突然街の中に現れた!

 全部で五体いる、ランジリオなら難なく倒せるだろうけど、ここから悪魔が現れた街までは距離もあり、大きな被害が出るだろう。


 「ディル! 宿に戻りましょう……」


 「何を言ってるんだ! 宿に戻っても!?」


 「アアア……嗚呼あああああ!!! (わずら)わしいいいいい!」


 突然アトラスが叫びだし、街の方へ走って行った。


 「アトラスは――大丈夫、それに宿は攻撃されないはず。 ディルもセリルも安静にしないといけない。 私を信じて!」


 ミランダのお陰で、なんとか僕は歩ける、ミランダはセリルを抱き上げ、宿へ向かう。

 ゆっくりと歩いて宿に辿りつくけど、まだ外では喧騒(けんそう)が聞こえる。


 目まぐるしく状況が変わり、全てを把握しきれない。

 無事に宿に帰って来れたのは幸いだった……


 僕は何を間違ったのか。


 考えるのも嫌になる。


 どうするべきだったのか……


 セリルは何故王子と呼ばれていたあの青年を(かば)ったのか。


 「ミランダ……僕はどうしていいのか分からないよ。 あの時止めていればこんな事には……」


 「気を病んではいけません。 ここは私が必ず守り抜きます。 まずは本体に戻って、アリアドネ達に現状の報告を」


 ミランダの指示に従い、僕は本体へと戻り、アリアドネ達に状況の説明をした。

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