~皇后視点~悲劇の始まり
私の私室に現れたマヌエルと名乗る男は、あれから五年経っているけど、見た目も仕草もまるで変わっていない。
私はルネリアとの別れから立ち直れず随分老けたと言うのに……
「ご機嫌用、皇后陛下。 御無沙汰しております」
「なんの用かしら?」
「お久しぶりなんでね。 お土産を持ってまいりました。 ああ、俺は嘘が嫌いなんだ、捏造なんかじゃあないですよ?」
そういってマヌエルは私に、ホームシアターの様なマジックアイテムで映像を見せた。
映像の内容は信じられない物であったけど、虚構とは思えないリアルな物だった。
「ルネリアを攫ったのを指示したのが皇帝陛下だと言うの?」
「さあ? 俺はただ、実際に彼がこういう事を話しているのを見せに来ただけだ。 リアルなお飯事かもしれませんよ。 直接聞いたらどうです?」
「ええ、そうさせて頂きます」
マヌエルの見せた映像には皇帝陛下が大臣に指示を出し、護衛を連れた大臣が、暗黒街で夜盗と思われる男に、娘のルネリアを攫って売り飛ばすように依頼をしていた。
その際に私とランドルフには傷一つないようにと言って、お金を渡している。
そして、マヌエルは他にも映像を私に見せつける。
夜盗に連れ去られてしまったルネリアが、邪魔になる記憶を消されてどこかの街で売られ、目の見えないあの子は酷い扱いを受けながら働かされた後、使えないと判断されたのか、小さな街の教会の裏に捨てられた。
他には私がずっと皇帝陛下に求められても、その身を委ねなかった事で、皇帝陛下は美しい娼婦を抱くようになった事。
「ルネリアは現在何処に居るのか教えて頂けるかしら?」
「ああ? この汚ったないガキですかい? さすがにずっとこの子を記録し続けるのは俺も良心が傷みましてねー。 だって俺はそういう趣味じゃなくてもっとグラマラスな大人の女性が趣味でして! はっはっは!」
「記録をしていた? あなたの能力か何かなのね。 あなたの望む物を与えます。 娘の居場所を教えて下さい!」
「金さえ払えばなんでも手に入ると思っているんですか? これだから貴族育ちのお嬢さんは……娘さんを最後に記録した教会はアブリ―の街ってとこだ」
「何を……」
マヌエルは唐突に美しい刀身のナイフを私に手渡す。
「俺が欲しい物なんて決まっている。 あんたの愛だ。 最も俺がハンサムだからって俺に惚れてもらっちゃ困るけどなぁ! 死が愛おしくなったらそれを使うといい」
マヌエルはそう言ってまた何処かへ消えてしまった。
アブリ―の街……
翌朝、皇帝陛下に夜盗の事を聞くと、目を背け、大臣と共に罰が悪い顔をしたのであれが事実だったと確信を得た私は旅に出る決意を皇帝陛下に表明する。
「待ってくれ……私にはお前が居なければならないのだ。 お前が去ると言うのなら、私は……」
「あなたには美しく若い娼婦が居るではありませんか」
そういって私は振り返りもせずに、共を連れて城を出ていった。
アブリ―の街までヴァジール帝国の領土からそれ程離れてはいなかったけど、十日かけてようやく辿り付き、教会を見つける。
教会の神父は周囲の者と比べれば身形も良く、養っているであろう子供達は、ボロボロの服を着て何かしらの仕事を与えられていた。
話してみると、確かに私の伝えた特徴にあった子供を養っていた事はあるようだけど、教会から追い出し、それでも仕事を与えては居たものの、何処かへ行ってしまったと言う事らしい。
街中聞きまわると、涙が途絶えなくなり、自分の力不足を呪った。
あの子は眼も見えず、寒空の下縮こまって夜が明けるのを待っていたと言う…‥
そしていつの日か足が腐り始め、ズルズルと引きずり、異臭を放ちながらゴミを漁っていた……
門で治安を守る兵から残念な言葉を聞いた。
恐らくルネリアの最期に関わるであろう言葉。
ルネリアは何故か真夜中に森の方へと街を出ていった。
森には魔獣が多く住み付いており、そのまま帰って来なかったと……
私の気持ちなど関係なく、その夜は私が来たことを街全体で祝っていた。
宿を貸し切り、部屋に閉じこもっているとまたマヌエルが姿を現す。
「皇帝陛下は若い女の子と乳繰り合っていましたよー! そんな事は置いといておめでとうございます! 心より皇后陛下を祝福させて頂きます!」
「何をしに来たのかしら? 今は一人にしてもらいたいんだけど……」
「いやぁ……雰囲気的にそういう感じじゃないんですかい? ほら! 街は賑わっていますよ!」
「一人にして」
「はっはっは! 独りぼっちで泣いている女性を俺が見逃すわけないじゃないですか。 ハンカチ! 持ってますよ!」
近づいて来たマヌエルに「一人にさせて!」っと彼から渡されたナイフを手に取り彼に振りかざした。
「おっと! 危ねーな! 子供の頃はお転婆だった口ですかい? 怖い怖い。 それは兎も角……娘さんの居場所が分かって良かったじゃあないですか! 森で魔獣の胃袋だなんて――ロマンチックだなぁ――」
「いい加減にしなさい!」
「本気で怒っているんですか? 本当はあんたも望んでた! 娘の死を! 違いますか?」
「そんな訳ないでしょう! 今でもルネリアが無事でいる事を祈ってます!」
「足が腐ってモゲモゲしているんでしょう? はっは! 死は平等に訪れるんだ。 きっと彼女も死に救われている。 どうですか? 死を尊きものだと、愛する気持ちになりましたか?」
「なるわけがないでしょう……」
「いい答えだ! それでこそ我が主が愛した女性だ! それでは俺はこれにて。 更なる悲劇をー!」
マヌエルはニコリと笑みを私に向けて消えて行った。
更なる悲劇……嫌な予感がする。
私にとっての悲劇――ランドルフが危ない?
私は夜も明けぬうちにこの街を立ち、ヴァジール帝国へ引き返すように臣下に告げる。
馬車を出来る限り止める事なく、急ぐように指示を出す。
私は星に願う様に、我が子の無事を祈った。




