拠点作成
あっという間にオウルは森の入り口へと辿りつき、魔獣達に囲まれた女の子の前へと僕を下ろす。
取り囲んでいた魔獣達に森へ帰れと命じると、言われるがままに魔獣達は森の奥へと去って行った。
僕は魔境の主であって森の主ではない。
言葉は通じるが、あくまで中立の立場であって眷属ではない魔獣達は僕の配下と言うわけではない。
僕の命令を聞いてくれたのは近くにオウルと言う強者が居るからだと思う。
僕一人でここに来ていればどうなっていた事か……
女の子の様子を見ると酷く弱っているようだった。
魔獣達に攻撃されたわけではなく、元々弱り切っていたんだろう……
「ご――ごめんなさい。 僕は君を殴って逃げてしまった」
誠意を見せたかった僕は座り込んだ女の子より下から声を掛け、自然と土下座をするような体勢になり謝った。
「声――少し変わった? でも、良かった――ちゃんと生きて行こうと思っているのね。」
女の子の顔は微笑んでいるように見えた、けど何を言っているのだろう?
少し途切れ途切れの虚ろなしゃべり方で話すこの子が、何を察したのかは分からないし、僕を追って来た理由だって分からない。
「どう言う事?」
「私が出会った頃のあなたは――私の事も、自分の事も、物みたいに思っていたんじゃない――かな? 物なんだから死んじゃってもいいやって……そう思っているように感じたから。 私の方がきっとお姉さんだし、私みたいなのでも生きているんだよって――伝えたくて……」
「何を言っているの? そんな事の為に僕の事を追ってきたって……森は危険だって知ってるよね? ここに来るのは命を投げ捨てるような事と同じだと思うんだけど……」
今にも力付きそうな彼女を僕は理解出来ないでいる。
優しいとかじゃない。
僕を憐れむにしてもその行動も言葉もあまりに狂人めいているように感じた。
「ふふ――意地――はっちゃっただけ――気が付いた頃には……街に……戻る事も出来ない場所まで来ちゃった……だから、絶対最後まで生き抜くんだって……教えなきゃって……お姉さんだから……」
振り向くとオウルも目を丸くして意外に感じている様子だったけど、何を伝えたいのか分からないが首を横に振っている。
「私の事は……置いていっていいから……先に街へ戻って……少し休んだら私も……」
力なく呼吸を続ける彼女は何か言葉を吐き出そうと何度も大きく息を吸い込むように肩を上げるがそれが出来ずに溜まった息だけを吐き出す。
もう言葉を吐き出す力も残ってないんだ……
「待って! 僕は君を救いたいと思っている! だから言う通りにして!」
彼女の額に手を当て眷属化のスキルを使う。
少し間が空いたので不安に感じたけど、彼女が眷属になった事を感じる事が出来た。
眷属化に伴って彼女は呪術士の能力を得たみたいだ。
目覚めた能力はきっと僕が彼女に生きて貰いたいと願ったから――そして、彼女も生きたいと望んだからだと思う。
それでも彼女が今にも死にそうなのは変わらない。
僕が彼女を抱きかかえると呪術士の能力によって僕の生命力を吸い始めた。
それでも彼女は危険な状態だし、ちゃんと治療するまでは安心出来ない。
「オウル! 僕と彼女を拠点の場所まで運んで!」
来た時と同様にオウルは僕達を抱きかかえ、森の中央へ向けて空へ飛び立った。
しばらくして森の奥深くに辿り着き、降り立った場所は森の中でも少し開けた場所で、近くから川の潺が聞こえる。
しかし、今は辺りの事はどうでもいい。
拠点を作り彼女の体を治せる眷属を召喚しなきゃ……
拠点作成には魔境が貯め込んでいる力が必要だ。
この力の事を魔境ポイントとでも呼ぼうか。
この森は魔境化したばかりなのであまり魔境ポイントは溜まっていない。
それでも簡易的な拠点ならなんとか作れる。
色々設置したり形なんかも変えられるけど今はシンプルなものでいい。
入り口と四角い何もない部屋を作ると拠点として使えるようになり、更に医務室を設置した。
そして眷属の召喚を試みる。
眷属召喚も色々な要素を選べるようだったけど、医療に特化した眷属を思い浮かべるとそれに適した眷属の召喚を行う事が出来るようなので、そのまま実行に移す。
地面に魔法陣が浮かび上がり、淡い光の中から、植物の蔓や葉に包まれ、大きな花の中に緑色の裸体の女性が姿を現す。
「私アウラウネー。 生んで頂いた主様に感謝しますー。」
間延びした話し方をする眷属だな……種族はアウラウネか、おばあちゃんの教えてくれた話で英雄に討伐された魔獣だったけど、僕にとっては大切な眷属の一人だ。
「ああ、僕からも生まれて来てくれて感謝している。 さっそくだけど大至急この女の子の治療を頼む。 そして今からお前の名前はリストだ」
そう告げるとオウルの時と同様、リストが光に包まれ進化して出てくる。
僕が元人間だった事もあって進化すると人間に近づくのだろうか?
種族がアウラウネからドライアドへと変化している。
元の姿はかなり植物っぽかったけどドライアドに進化した姿は、肌も人間っぽくなっていて花で着飾った衣服を着ている。
「リストー名前ー嬉しいー! その子の治療ーかしこー!」
「かしこー!」はきっと畏まるの事かな? 話し方のせいで不安に思ってしまったけど医務室のベッドに寝かされた彼女をリストは笑みを浮かべながら丁寧に診察していく姿にほっとした。
リストは自らの能力でいくつかの管を生成し、彼女の色々な部分にそれを刺していく。
そして徐に医療器具の鋸の様な物を手に取り、悪くなっていた足を手早く切り落とした!
すぐにその足は魔法を使って、再生させているようだけど少し気分が悪くなってしまい部屋から出て来てしまった。
外の空気にでも当たってこよう……
外の空気は澄んでいてとても心地が良かった。
人間の時はこの寒い空気が生きていくのを邪魔してくるようにさえ思っていたけど……自分の変化が少し恐ろしいかもしれない。
些細な気持ちの変化で変わってしまう自分の感情や行動……それって僕が僕じゃなくなるみたいじゃないか……