ヴァジールの街
新たな装備を身に着けた僕達はヴァジールへ向けて旅立つ。
カチェスタの街から大河を越えて、西へ真っ直ぐ行けば辿り着く。
商人の馬車で四日掛かるらしいけど、僕達ならもっと早く辿り着く事が出来るだろう。
大きな橋の途中には門があり、兵士が立っている。
こっちでも税を徴収する為に門を作っているんだろうけど、僕等は来た時同様に何も持ってないのであっさりと通された。
やっぱりここに来た時に出会った兵士が、特別嫌な奴だっただけだと思い出して、少し嫌な気分になったけど、ここからは走ってヴァジールを目指す。
走り始めると、僕に合わせてアトラスとミランダが並走してくれたけど、セリルは僕よりも走るのが遅い。
全速力で走っているわけじゃないけど、追いつけないみたいだ。
セリルは元々足が悪かったし、今まであまり走る機会も少なかったからだと思う。
そう思っていると、急に速度を増したセリルに追い抜かされて、誰が一番早く次の街へ辿り着けるか勝負する事になった。
ヴァジールの街までは、商人が行きかうので、道ははっきりしているし迷う事はない。
危険な魔獣も人間達の通る道には近寄らないし、それなら逸れても僕達なら大丈夫だろう。
僕は魔族の特性である魔力による身体能力向上を使い、全速力で道を走り抜ける。
アトラスとミランダは僕より少し後ろから着いて来てくれる。
速度を急激に増した僕は、セリルを追い抜かすと、セリルも負けじと更に速度を上げてくる。
っと言うかセリルは空を飛んで、また僕を追い抜いて行った。
僕を追い越し、姿が見えなくなるまで飛んで行ったセリルは「怖い怖い怖い怖い」と叫んでいた気がしたけど、大丈夫なのか?
ずっと走り続け、日が沈んで来たけど、セリルの姿は見えない。
夜はさすがに魔獣も出るし、出来れば集まって行動をしたい所だけど……
仕方なくそのまま全速力で走り続け、小高い丘を登るとすでにセリルが待っていて、そこからはヴァジールの街が見える。
セリルは自信満々な笑みを浮かべて、お姉さんぶってきたから頭をポンポンと撫でて見ると、負けじとセリルも僕の頭を撫でて来たので、気にしないでおこうと思う。
ベクトル操作によってセリルはずっと落下している状態を維持して、空を飛んでいたらしく、飛んでいるうちに制御にも慣れて来たから、戦闘の時も使えなくはないみたいだけど、まだ改善が必要で、長距離の移動なんかは得意になったらしい。
これからは先にセリルに飛んで行って貰って、≪ゲート≫で目的地まで送って貰うのも悪くないかもしれない。
日が昇るのを待ち、ヴァジールの街へ向かうと、ここでも門と兵士が立っていて、商人は税を取られるようだ。
僕達には関係ないので、そのまま街の中へと向かう。
街の中は綺麗に道が補装されていて、歩きやすい。
宿はあると便利なので、安くて広めの部屋の宿を取る事にした。
ミランダは街を回って情報を集め、アトラスは採収系の依頼を受けて街の周囲を見回ってくれるみたいで、僕とセリルは地下水路に溜まったスライムの駆除の仕事を引き受けた。
地下水路は石壁に覆われ、苔が生えたりもしていたけど、結構綺麗だった。
道は暗い、しかし、森に居た時にも思ったけど、暗くても視界は良好。
魔族の隠れた特性だろうか?
セリルも問題なく見えているようなので、スライムが溜まっている場所を探し、進んで行く。
曲がり角も沢山あったけど、道に迷っても≪ゲート≫があるので問題ない。
奥の方へどんどん進むと、小さなグリーンスライムが其処等中に居たので潰しながらさらに奥へ進むと……
「大きなスライムだな……」
「しかもいっぱい居るね……」
巨大なグリーンスライムが三十匹程居た……
大きさは人間の大人くらいあり、このサイズだと剣での攻撃は恐らく通らないだろう。
セリルの≪ストーンバレット≫もスライムには効果は薄い。
しかし、僕にはジャレイフとの特訓で身に着けた、剣技がある!
「セリル、俺の新しい剣技を見せてやる!」
精神を集中させ、両手に握った剣に闘気を宿す。
闘気は剣に宿り、剣気と化し、握った者の覇気によって技と化す!
≪虚空破斬≫実態を持たない者や、スライムの様な液状で不定形の敵にダメージを与える為にジャレイフが生み出した技だ!
実戦で使うのは初めてだったけど、三匹倒す事が出来たので、このままこの技で押し切れば問題なく全部倒せるだろう。
「今度は私の番ね!」
セリルは地の魔法で小さな丸い玉を五つ作り、杖でそれを叩くと、キーンと甲高い音が鳴り響く。
キーンと鳴っていた音が急に止まり、セリルはその玉をスライム達に打ち込む。
あんな小さな玉じゃ、このサイズのスライムにはなんの効果もだろうと思っていると、セリルが指をパチンと鳴らし、「弾けて!」の声と共に、パアーーン!と言う大きな音と共に、スライム達が弾け飛んだ……
唖然としてしまったけど、セリルが「どんどんいくよー!」と息巻いていたので、僕も負ける訳にはいかないと、剣を握り直し、どんどん二人で巨大なスライムを狩っていく。
僕もセリルも、発動するまでに少し時間が掛かるので、時間は掛かってしまったけど、スライムは動きも遅くて難なく殲滅する事が出来た。
セリルの使った魔法は、地の魔法とベクトル操作によって編み出した魔法で、≪レゾナンスエクスプロージョン≫と言うらしい。
途中、指を鳴らすのを何度か失敗していたので、指を鳴らすのはあまり関係がないようだ。
しばらく別の道も探索して、大方駆除出来たので、二人でギルドに報告をして報酬を受け取った。
宿に帰るとアトラスとミランダはまだ帰って来ていなかったので、二人で時間潰しも兼ねて散歩に出かける。
ヴァジール帝国の首都なだけあって、道も広いし、ギルドも大きかった。
宿の近くには色々なお店もあるし、マジックアイテムの専門店もあったので、面白そうだし入って見る。
アイテムの並んだ棚の横には、使用方法や効果の書かれている本が置かれている。
僕とセリルはそれを取って見てみると、なかなか面白い。
どれも高いけど持っていたら便利な物ばかりで、欲しくなってくる。
魔力を込めると、物理的なシールドを張るものや、特定の魔獣を寄せ付けない効果のアイテム、ここには置いていないけど、≪ゲート≫と同じように、記録した場所に移動する事が出来るアイテムも記載されていた。
多額のお金を払ってまで欲しいとは思わないけど、一つだけ手に入れたい物があった。
マジックレンズと言うアイテムで、魔力を込めて使うと、一定の量まで持ち物やアイテムなどを収納し、出し入れが出来ると言うマジックアイテムだ。
在庫もないし、かなり高価なので、まず僕達が買う事なんて、無いだろうと思うけど。
店から出て、宿の周りを一周してから帰ると、アトラスとミランダも戻って来ていた。
ミランダから、最近ヴァジールの街では皇后の話で持ち切りと言う事で、詳しく聞いて見ると、皇后が旅にでて戻って来ないと言う。
居場所は分かっているのだけど、ヴァジール帝国には戻らず、旅を続けているそうだ。
なぜそうなったのかは、色々な噂があって真意は分からないらしい。
他にはヴァジールの街では貴族街、商業街、工房街、歓楽街、住宅街、暗黒街があり、暗黒街は特別治安が悪く、闇取引など盛んに行われていると言う事から暗黒街とされている。
アトラスからは、この近くにもダンジョンがあり、そこは国が管理していて、入場する時に税を取られると教えてくれた。
ダンジョンか、それならカチェスタの街では第四階層まで行けなかったし、僕のダンジョンの参考の為にも攻略に励みたいと思う。
アトラスとミランダが大方情報を集めたら、四人で行こうと思う。
話も纏まったし、本体に戻って、報告と、そろそろ魔境ポイントも溜まっていると思うし、拠点の改装も行おう。




