~コボルドの若き頭目リック視点~ 蹂躙
あー! 朝一番の風は気持ちがいいな。
この平原には良い風が吹く。
「リックー! 朝ごはん出来たわよ! 昨日狩った馬の肉と骨よ! 骨も噛み砕けるくらいカリカリにしたから!」
こいつは俺の妻のウルル。
器量が良くていい女だ!
「分かった。 今行く!」
この村は俺が守って来た!
ここまで村を大きくしたのはコボルドの中でもきっと俺が初めてだろう!
しかし、百を超えたのはいいが、食糧不足が不安だな。
まだ、大丈夫だが、このままでは仲間を飢えさせてしまうかもしれない。
だが大丈夫だ!
番いになった奴等には悪いが、子供を作る事を禁止にした。
それにまだ増えるようなら、優秀な奴が率いて村を分断すればいい。
腹も膨れた!
今日の狩は水辺を狙うかあそこには群れでやってくる獣が多い。
俺達で周りを方位すれば全員分の食糧が手に入るはずだ!
カンカンカンカン!
警鐘だと!?
すぐに俺は表に出て、状況の把握を急ぐ!
人間か! 人間が数人こっちへ向かって走って来る!
「すぐに陣形を整えろ! 防御陣形だ! 敵は何人か伝えろ!」
「頭目! 敵は三人……いや後方で魔法を使うやつが一人居る!」
「四人だと? まずいな、間違いなく手練れだ! 女、子供は逆方向へ走れ! 纏まっている時間はない! バラバラでも走れ!」
人間の里に近づきすぎたか! あいつ等は厄介だ! 以前強者揃いの集落があったが、人間に滅ぼされた。
「残った奴等は皆戦士だ! 死に物狂いで逃げる時間を稼げ! 前には出るな! 固く守って時間稼ぎをしろ!」
俺も急いで前衛で武器を構えた奴等と並ぶ!
「リック、お前逃げろ! 逃げた奴等の所へ行け!」
「馬鹿野郎! 俺はここの頭目だ! 敵を目の前に逃げだす頭目が居るか!」
「お前はまだ若い! それに逃げた奴等にはお前みたいな奴が必要だろ! 逃げろ!! それに……ここに残った奴等は皆死ぬ。 人間が攻めて来る時ってのはな、そういう時なんだ。 逃げてくれ」
「……分かった。 だが! 生きる事は諦めるな! お前達の事を俺は待っているからな!」
俺が振り返り、走り出した瞬間に後ろから仲間の悲鳴が聞こえる。
「振り……帰るなぁ!」
俺は走り出す! 仲間を置いて! 立ち止まっては行けない!
声が遠のく……仲間達が離れて行く……
走る力が抜けて僅かに振り向いた……
人間の女が俺を追っていた……
なんだこの女は! 女の通って来た道には仲間達が倒れている。
そして、この女は音も無く俺に近づき……
「あなたは殺さない。 主に敗走する者を殺すなと命じられたから。 でも……少しだけ楽しませて貰うわ」
この女は耳元でそう囁いて俺の耳の奥に何かを忍ばせた!
くそ! やられたのか!? 俺は振り返り走り出す!
生き延びてやる! 生き延びてやる! 生き延びてやる!!
そして俺は先に逃げた村の女、子供に追いついた。
「あいつ等に助けられた! これからお前達の面倒を見るように頼まれたんだ……」
狩りにいかなきゃ食料がない。
だが、あんな目にあって誰が狩りに行くだろうか……
「俺一人で狩りに行く。 お前達は休んでろ」
休んでろと言ったのにまだ若い奴が何人か着いて来た。
こいつ等はきっといい戦士に育つ!
水辺に向かう途中、負けを悟って敗走した奴等とすれ違い、仲間の待機している場所を教えるが、こいつ等も狩りを手伝うと言う。
さすが俺の村の戦士達だ!
この屈強な精神があればやり直せる!
逃げの見た仲間は元の半分って所か……
人間の手練れ相手によく生き残った方だ!
水辺で水を飲む獲物を遠くから囲み、全員で近づいて殴り倒す。
上手くいった! 馬を三頭仕留められた!
これで生き残った奴等を食わして行けるぞ!
その時、水の中に何かが落ちた音がした。
いや、気のせいか……
仕留めた獲物を担いで村の仲間の所まで辿り着く。
早速獲物を捌いて、焼いて行く!
捌いたのは俺の妻のウルルだ!
こんな時でもしっかりした、良い妻だと思う!
「お前達! 聞け! 俺達は生き延びた! 今はそれを喜び腹を満たせ! それが俺達に出来る死んでいった奴等の弔いになる!」
涙する者もいたが、それでも口の中に肉を無理やりいれて食べさせた!
全員に強く生きろと言い聞かせ、寒い夜を迎える。
「リック!! 様子がおかしいわ!」
疲れていた者から順に眠りに着いたと思ったが……
くそ! 何人か死んでる!
一体何が起きた!
そしてまたバタっと仲間が倒れた!
すぐに様子を見るとすでに死んでいる。
抱きかかえたそいつの耳から何かが零れ落ちた。
水か?
その水は勢いよく俺の耳に入って来た!
こいつは!!
耳の奥で誰かが囁く……
「楽しめたわ」
そして俺の耳から落ちた水は地面に染み込み、何処かへ消えた。
生きている仲間は俺とウルルを合わせても、十にも満たない……
あいつだ! あの人間の女だ!! 強くなってやるぞ……あいつだけは俺の人生を掛けて絶対に殺す!




