魔獣との出会い
寒い――もう夜か――
体中が冷たい。
じっとしていたせいかな?
震える事も出来ないくらいに身体が固まっている。
一日ずっと地面に頭を付けても今日の分の食べ物を買うのが精一杯かな……
これじゃあどうしていいのか分からないよ。
もうあんな事をするのは嫌だ。
ずっとあんな風に見られたら――僕は人じゃないみたいじゃないか……
歩きはじめると視界がぼうっとしてユラユラして……
グシャリと地面に体を打ち付けた。
体の感覚が麻痺しているのだろうか?
痛みなんて感じない。
もう僕は駄目なのかな?
おばあちゃん、僕生きなきゃ駄目なの?
空腹でお腹がゴロゴロ鳴っているけど目を閉じてこのまま眠ろうと思った。
しかし、妙な音が聞こえて来る――お腹の音とは別の……
ズルズルと何かを引きずるような音だ。
何かいるのか?
音の方へ視線を向けると、目を閉じた小さな女の子がゆっくりと僕の方へ近づき、僕に躓いて倒れ込んで来た。
「ごめんなさい……」
オロオロと困ったような仕草でそう呟いた女の子の姿をよく見るとつい……
北叟笑んでしまった。
両目が閉じたままで顔中に痣があった。
そして左足は腐ってるのか異臭を放ち、足首から先がまともな形をしていない。
ハハ、僕よりも不幸な奴がいる。
胸の奥で何か明るい音が弾けたみたいだ。
心なしか視界もさっきより明るく感じる。
「ねえ、君はどうして生きているの? 死ぬの手伝って上げようか?」
嬉々として僕はそう言い放った。
だってこれじゃあ――
見るからに僕よりも不幸なんだ、とっくに生きるのなんて諦めているに違いない。
こんな奴でも殺して食べちゃえばもうしばらくは生き長らえられるかもしれない。
それで駄目なら……
死んじゃえばいいんだ……
「死にたくない!」
ドキッとした。
女の子が突然大きな声で上げたせいで驚いた僕は、体中に震えが走ったような感覚に襲われ、ヒイと声を上げ仰け反ってしまった。
僕の胸がドクドクと音を立てながら全身が熱くなってくるのを感じる。
衝動的に力いっぱい顔を殴りつけ突き飛ばし、なりふり構わず街の外まで走って逃げた。
怯えているのか僕は?
あんなのにも僕は怖がって逃げて出してしまうのか……
情けなさを吹き飛ばすように、ただひたすら走り続けた。
もうどうにでもなればいい。
街の人間も危険で入らない森の奥へとひたすら走り続けた。
魔獣でもなんでも出てくればいい。
そして僕を食べたいなら食べればいいさ。
満月の明かりのお陰で木にぶつからないで走れる。
ほんの少し前までは立ち上がるのも大変だったのに――こんなにも走れるんだ……
森の奥へ奥へと突き進むとだんだん体の感覚がおかしくなってくる。
ふわふわ浮いたような感覚になり、頭が重たくてそのまま地面へ突っ込んでしまった。
地面に寝そべると胸がバクバクして張り裂けそうだ。
息をするのも――苦しい――口を塞ぐ事も億劫で、涎を垂らしながら肩を精一杯上下に振らして息をする。
なんとか呼吸を続けると、耳の奥がキーンっと鳴り響き、頭がグラグラして全身がジンジンと胸の音に合わせて鳴り響く。
少し落ち着きを取り戻してその場でぐったりする。
まだ荒い息を吐き出しながら体を起こし辺りを見渡すと目の前に魔獣がいた。