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大河の街 カチェスタ

 さて、今夜はアトラスもミランダも宿に滞在して、魔法の訓練と文字の読み書きをミランダが教えている。

 

 僕は本体に移り、拠点へ戻ると、ギムロスが魔法の素養を調べるアイテムを作ってくれていた。

 拠点に居るメンバーの素養を調べると、オウルが風、リストが風と水、ギムロスが炎と地、アリアドネが闇、炎、風、水、地、無の属性に素養があった。


 念の為に僕も試したけど、結果は変わらず闇と無だった。


 アリアドネの話によると、僕の無の素養は魔境の主の力で魔獣を召喚したりするスキルの事ではないかと言う事と、セリルの無は魔眼関係であるのではないかと伝えられた。


 アリアドネの場合は支配領域内の会話を聞いたり、知識を送ったりする能力と種族的な能力の事だと教えて貰った。


 今日の出来事の報告などを済ませると、魔境ポイントもそれほど溜まってなかった事もあって、僕も文字の読み書きは覚えた方がいいと言う結論から現在ホムンクルスに戻ってミランダから文字の勉強をしている。


 文字の読み書きはそれほど難しくないらしく、とりあえず自分の名前は書く事が出来る様になり、雑貨屋なんかの消耗品といくつかの数字を覚える事が出来た。


 ついでに冒険者のよく使う消耗品の知識も得たので、知らない冒険者に話しかけられても答える事が出来るし、変な勘繰(かんぐ)りを掛けられる事もないだろう。


 朝一番で宿屋の店主に見送られ、次の街へと向かう。

 目指すのは大河の街カチェスタだ。


 この街は交易が盛んで、人も多く冒険者や亜人も多いみたいだ。

 人間社会で見られる亜人種はエルフ、ドワーフ、獣人、小人族が居るらしいんだけど、どうしても人間の街では他種族は馴染めない者もいて、治安の悪い場所での生活をして、場合によれば悪事に手を染める者も多くいるらしい。


 そのせいで更に亜人種は肩身が狭くなると言う悪循環に陥り、(いわ)れのない非難を受ける事もあるのだとか。

 アトラスは一本角の獣人と言う事になっているので、気を付けた方がいいな。


 道中何事もなく、と言っても魔獣やゴブリンに襲われる事もあったけど、こちらの戦力が圧倒して、逃げる者は追わずにやり過ごした。


 日が沈み、夜通し歩き続けてようやくチェスタの街が見えた。

 大河にそって作られた街は遠目からでも商人達が行き交う道がいくつも通っているのが見え、至る所で人々が賑わっているのを確認する事が出来る。


 街の入り口まで来ると人の列が出来ていて、ここで商人達から荷物によって税を納める必要があるようだけど、僕達は大した荷物もないのでお金を取られる事もないだろう。


 「貴様は亜人だな? この街では亜人は荷物と同じ扱いだ。 税を払って貰うぞ」


 「確かに私は亜人だ。 しかしアブリ―の街ではそのような税があるとは聞かなかったが?」


 「亜人の癖に生意気だな。 俺に逆らったら亜人なんて即処刑だぞ! 処刑!」


 なんだこの兵は? 凄く不快だぞ! でもここで騒ぎになっても困るしアトラスも助けたい。

 

 「待ってくれ。 そいつは俺の仲間なんだ。 これで通してくれないか?」


 アブリ―で稼いだお金の一部を渡すとこの不快な兵士はニヤリと笑って「通れ」とアトラスを通してくれた。

 兵士はミランダの体を怪しんで触りまくっていたけど、当然何も出なかったので通して貰えたようだ。


 「そこの女! 止まれ! お前も亜人なんじゃないのか? 仮面を取れ」


 今度はセリルがあの兵士に絡まれている。

 本当に嫌な奴だな! でも魔眼を見せるのは避けたいけど、やむを得ないか……


 その時、先に通ったミランダが音もなく兵士に近づき、何をしたのか急に兵士が倒れた。

 商人の列が少しざわついたので、他の場所から嗅ぎつけた兵が駆け寄ってくる。


 「急に倒れられたので、少し見ていました。 水分の補給が必要なようですね。 日陰でしばらく休息を取った方が良いかと思います」


 「そうか、また(ろく)でもない事をしたのかと思ったが、感謝する!」


 あの嫌な奴は他の兵士が連れて行ってくれて僕達も問題なくここを通る事が出来た。

 駆け寄って来た兵士の言い方から、あいつだけ得に嫌な奴だったわけだ、運が悪かったな。


 街の中へ入るとミランダがさっきの男から僕の渡したお金を取り戻していてくれたようで、無言でそのお金を僕に握らせてくれた。


 アブリ―の街同様、まずは宿を取る。

 いくつか宿を回って、とんでもなく高い料金だった為、最初は吹っ掛けられているのかと疑ったけど、それがこの街の相場みたいだ。


 冒険者も多いと言う事は、仕事の報酬もそれだけの価値を得られると言う事だと思うし、物価が高くてもそれほど困らないか。

 ヴァジールの街ではもっと高い可能性もあるし、ここで一度お金もある程度溜めなければならないかもしれないな。


 僕とセリルは冒険者ギルドに行き、簡単な仕事を探す。

 提示されている報酬はやっぱりアブリ―の街とは比較にならない程高額で、難易度的にはそう違わないと思われる。


 さらに魔獣の骨や牙、皮なんかの買い取りなども盛んな様で、討伐依頼を探してみる。

 討伐依頼は魔獣の素材も手に入るし、人気もあるようなので僕達に受けられるものは夜盗の殲滅依頼くらいだった。


 夜盗は人間だし、さすがに人間の遺体を売る事は出来ないから、植物採集の護衛の依頼を引き受ける。

 ギルドの役員から聞いた話によれば、依頼人はカチェスタの薬師(くすし)で、自分の目で素材を選ぶ事に(こだわ)りを持っている人物らしい。


 街の出入りが自由になるギルド発行の手形を受け取り、さっそく薬師(くすし)の元を訪ねる。


 この場にいないアトラスとミランダは情報収集の為、別行動をしていて、日が沈む夕暮れに宿で落ち合う予定だ。


 薬師のいる店の中へ入ると白髪頭の店主が挨拶をしてきた。


 「ギルドの手形を持っているな。 依頼を引き受けてくれて来たのか?」


 「そうだ。 護衛依頼と聞いている。 魔獣でも出るのか?」 


 「そうか、薬草は川沿いにある。 魔獣は滅多におらんが、出ない事もない。 大型の獣じゃがワニが川に住んでおるでの、そいつが出たら追い払って欲しいんじゃ。 今から出たら日が沈む前には戻ってこれる。 さっそく向かおう」


 大型の獣が出るのか、ふと気が付いたけど魔獣と獣の違いってなんだろう?

 後でアトラス達にでも聞いてみるか。


 薬師(くすし)のおじいちゃんは、長年連れ添って来たと言う鞄を着けたロバに乗って僕達を先導する。

 川沿いを上流に向かい(さかのぼ)っていくと確かに大型の獣を見かける事があった。


 ワニは大きなトカゲのような見た目をしていて、鋭い牙を持っている。

 (あご)の力は魔獣にも劣らないと言う事で戦闘になったら噛まれないように立ち回らないといけない。


 「さて、この辺りにお目当ての薬草がある。 川の近くにいるワニを追い払って貰えるかの?」


 川沿いで日向ぼっこしているワニは小さいのもいるけど、十匹くらいいるんじゃないのか?

 それに川の中にまでいるとなると、駆け出しの冒険者が受けていい依頼とは思えない。

 報酬がいいから文句は言えないけど、やるだけやってみるか。


 「俺は前衛に出る、セリルは魔法で援護を頼む」

 

 セリルは「任せて!」と元気な返事して前衛で剣を振る僕に当たらないよう、石をぶつける魔法で援護をしてくれている。

 この魔法は≪ストーンバレット≫と言うらしい、剣で叩きつけたワニは血を流すけど大半は一撃では仕留めきれずに川の中へ逃げていく。


 僕達が奮闘(ふんとう)している最中(さなか)薬師(くすし)のおじいちゃんは「ハッハー! ええぞええぞ! やれやれー」っと大興奮で声援を送りながら目的の薬草を採収し終えたようだ。


 「すごいのう。 お前さん等まだ駆け出しじゃろう。 普通は追い払うだけでいいから道具で釣って何処かへやるか、音を立てて追い払うもんじゃぞ」


 そうだったのか……

 仕留めたと思ったワニも隙を見て川に逃げて行ったようだし、無益な殺生をしたわけではないけど戦闘を避けられるならそうした方が良かったな。


 「それほど経験があるわけじゃないからな。 次からはそうさせて貰う」


 街へ戻り薬師(くすし)のおじいちゃんを店まで送り届けると、日が沈み掛かっていて、報酬をギルドから受け取って宿に戻る。

 

 すでにアトラスとミランダも戻って来ており、二人の集めた情報の報告を受ける。



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