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ゴブリンの洞窟

 洞窟の中は異臭が立ち込めていてジメジメして気持ちが悪い。

 僕でもそう思うのだから嗅覚のすぐれたアトラスはどうだろうと思って見ると、なんともなさそうに平然としていた。


 道が入り組み棘々しい岩肌の洞窟は結構奥まで続いており、アトラスの指示する方向に多くのゴブリン達がいるようなので迷わずに巣の拠点となる場所を目指す。


 「その先に数匹、ゴブリンが居る」


 僕にアトラスが注意を(うなが)し、角を曲がると十数匹のゴブリンが居た。


 「任せて!」っと意気揚々とゴブリン達を血祭に上げて行く。

 逃げようとしたゴブリンもセリルの石をぶつける魔法で倒して、その後にきっちり止めを刺していく。

 

 僕達は強い! 思わずどうだ!っと振り返りアトラス達に自信に満たされるがままの表情を向けると、不意にアトラスが僕の事を優しく抱き締めて来た。

 

 なぜか優しく頭の後ろを撫でられて、子供をあやす様にポンポンと背中を叩かれると、自分の胸の鼓動に気が付いた。

 肩も少し揺れて息が上がってるのを感じる……僕はいつのまにこんなにも息が上がっていたんだろう?


 「始めての実践で昂揚(こうよう)してしまうのは仕方がない。 しかし、あなたは魔境の主です。 このような雑魚を殺し、血の喜びを楽しむような真似をしてはいけません。 自分の行動を(かえり)みて(りっ)する事です。 ここからは私が前衛を(つと)めましょう。 ミランダ、後ろは任せるよ」


 「了解した。 ディル様の事が大好きなのね」


 「当然だ。 君も……いや、何でもないと言う事にしておこう」


 ああ、確かに僕は気分が高ぶっていた。

 その事で(とが)められた事で急に(むな)しい気持ちが込み上げてきてしまったけど、自分の行動を(かえり)みるか……


 「ディル様。 アトラスの言い分に捕捉を加えると、ゴブリン達にも家族や兄弟がいます。 ですが、私達にも目的があって彼等の討伐に(おもむ)いております。 彼等を殲滅した後に我々の得られるもの。 そして、彼等が今どういう状況でどんな立場にいるのか。 それをお考えになられるとアトラスの言い分の理解も早まるかと思われます」


 ゴブリンにも家族がいる……もし僕の拠点に敵が攻めて来て、どうしようもない戦力の相手が目の前に立っていたら? そんな事考えると攻撃出来ないじゃないか。


 でも僕達にも目的がある。

 ゴブリンの討伐は近隣の街や村の安全の為になり、僕達はそれを()け負って金銭を得る。

 自分達の利の為に彼等を皆殺しにするんだ。


 それならやっぱり止めればいいと思ったけど、主としてどう振る舞えばいいのか……

 

 「アトラス。 情けは無用だ。 ゴブリンは見つけしだい殺せ! だが、慈悲を持って殺せ! 必要以上に甚振(いたぶ)る事はするな。 僕――いや、俺の眷属としてゴブリン達を殲滅しろ!」


 アトラスは一言「承りました」と言って次々にゴブリン達をメイスで殴り殺していく。

 僕の後ろからミランダが肩を抱き、「上出来です」と声を掛けてきたけど、僕はまだゴブリン達の命を軽く見ているのかもしれない。


 今回の教訓は命を軽んじてはいけない。

 そして、遂行(すいこう)を決めると言うのであれば決して目的を見失わず、主として眷属達にそれを完遂するように命じ、自分の決意が揺るがない事を伝える。


 今の僕に考えられる事はこれくらいだけど、いつの日か必ず主として立派な姿を眷属の皆に見せたいな。


 洞窟の最深部までゴブリンを叩き潰し、殲滅させたとアトラスが報告してきたので「ありがとう。 良くやってくれた」とアトラスに礼を言って、来た道を引き返し、アブリ―の街へと帰って来た。


 ギルドから報酬を受け取り、宿の主人に明日旅立つと言うと「そうかい、それならサービスすっから食堂へ来い」と連れられて四人でテーブルに着くと、沢山料理を運んで来てくれた。


 セリルは「頂きます!」っと元気よく口いっぱいに肉料理を頬張っているけど……

 アトラスが「ディル。 しっかり食べるんだ、残したら宿屋の主人に怒られてしまうよ」と言って来たので、僕も肉料理を頬張(ほおば)って見る。


 やはり食事はいいものだと、満足感を得られるけど僕達に食事は必要がない。

 これは命を軽んじているのではないか?


 「ディル、セリルを見て。 食事を楽しむのは悪くない。 これも(かて)として英気(えいき)を養うのよ」


 都合のいい解釈だとも思ったけど、これも僕達の目的の為、人の生活に紛れ込む為だと思えば無駄な事ではない。

 

 何より食事には僕に満足感を(もたら)す効果がある。

 満たされれば物事を冷静に見つめる事も出来るし、気分が良くなればそれが活力(かつりょく)にもなる。


 僕にとって食事は必要だ。

 それなら食事を(たしな)む事もやぶさかではないのだと判断して、セリルに負けじと沢山料理を手に取って口に入れた。

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