プロローグ
「僕は何の為に生まれて来たんだ……」
村を追い出された少年は呟く。
彼の名前はディル。
小さな村で生まれるが、母親は彼を生んですぐに死んでしまい、その事で父親も弱り、流行り病に侵され、息子であるディルを恨みながら自らの家に火を付け自殺した。
残されたディルは祖母に預けられるが、呪われた子供として村の人間からは忌み嫌われ、祖母の死と共に少年は街へ旅立つ。
少年の呪いとは、その見た目にあった。
銀色の瞳と髪。
古い物語にある呪われた王と同じ特徴を持って生まれた……ただそれだけだった。
母親の死の原因も物心がついていないとは言え、彼が殺したのだと村の人々は言う。
人気者だった彼の母親セーラは、村で一番の美人で笑顔を絶やさない人物であり、そんなセーラを娶ったのは若者達の間で優しくて頼れる男として慕われていた狩人のエリック。
両親の人気がそのままディルへの恨みへと変わり、その恨みは村の子供達にも伝染し、幼いながらもディルはこの村には自分の居場所はないのだと悟っていた。
祖母はそれでも大切にディルを育てていたが、高齢だった為に長くは持たなかった。
まだ六歳であったディルだが、元々この村を出て行くつもりであった為、その準備は祖母と相談し整っていた。
「僕、村を出て行くよ。」
村の青年にそう告げたディルは直後に殴り倒される。
殺されると思ったが、それっきりだった。
ディルは痛めた体でヨロヨロと村の外へ向かうと石を投げつけられた。
傷ついた体の痛みを無視してディルは村から逃げるように走っていく。
祖母の用意してくれていた保存食を口にしながら一晩中歩き続け、ようやくディルは街へと辿り着く。
門には兵が立っていたが、怪訝そうな表情を浮かべただけでそのまま通された。
街に着いたはいいがまだ六歳の彼には生きて行くためにするべき事など分からない。
しばらく街を徘徊し、祖母に教えられた通りに物乞いをする。
保存食も尽きてしまったがそのおかげで三日間は、なんとか食いつなぐ事の出来たディルは、空を見上げ、瞼を閉じると頬を大粒の涙が流れ落ちていた。
声を殺し咽び泣く彼は力なく傾き、そのまま地面に倒れ、意識を手放した。