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25話 突然の告白

 道着に着替えて、道場へ向かう。道場に着くと既に由香、天音、秀樹の3人は道場で基礎練習を初めていた。刀祢は静かにその姿を見守る。3人共、基礎訓練をする姿は様になっている。



「こんばんわ」


「「「こんばんわ」」」



 3人から元気の良い声が返ってくる。刀祢は木刀を構えて、1人1人へ組手を相手をしていく。3人共、打ち込みの筋が良くなっている。打ち込む時に木刀のブレがない。


 良い打ち込みができるようになってきたと内心で刀祢は嬉しく思う。まだまだ教えることも多いが、基礎訓練が完全であれば、この3人なら稽古を楽しんでくれるだろうと思う。



「少し休憩にしましょう」



 3人に声をかけて、道場の隅に全員で座る。刀祢の隣は天音の定位置となっている。3人共、水筒を持参していて、天音は紙コップで水筒に入っている麦茶を刀祢に分けてくれた。


 麦茶を一気に飲むと、喉が潤って、火照った体に染み渡っていく。


 天音は気遣いのできるお姉さんだ。少しホワッとした雰囲気をもっていて、人を和ませる空気を醸し出している。落ち着いた黒い瞳、きれいな二重、少し低い鼻、ポッテリとした唇が大人びていて魅力的である。


 天音がこの道場に入門したキッカケは、朝の通勤電車で、毎日のように痴漢に遭うことで困っていたことだった。


 気が小さかった天音は痴漢に遭っても大きな声を出せずにいた。しかし、道場に通うようになって今では痴漢に遭っても、大きな声で叫べるようになったという。


 刀祢から見ても天音は、後数年もすれば妖艶な美女に変化すると思う。これからも天音は多くの男性達の視線を集め、多くの男性達から声をかけられることだろう。美女も大変だ。


 道場で天音に会っても緊張しないが、道場の外で天音と会えば、刀祢は必ず緊張してしまうだろう。


 天音は微笑んで麦茶を紙コップに注いでくれる。



「刀祢くんは、付き合っている女の子はいるの? 好きな女の子は?」


「好きな女の子も、付き合っている女の子もいません。俺はモテないですから」



 刀祢は笑って髪を指で軽く掻く。


 刀祢は自分が常に険しい顔をして、不機嫌な顔付きをしていることを知っている。そんな自分のことを好きになってくれる女子がいるとは思えない。



「男性は見た目も大事ですが、それよりも大事なのは中身です」


「俺には何も誇れる所はないですから」



 今まで両親に褒められたこともない。兄貴達からも褒められたことはない。褒められたことがあるとすれば、剣技のことだけだ。自分はつくづく剣技しか取り柄のない男だと刀祢は思う。



「刀祢くんは男性として誇れる部分が沢山あります。自分で自覚がないだけです」



 天音の真剣な眼差しを受けて、刀祢は冗談として受け流せなかった。



「褒めてくれてありがとうございます」


「道場が終わってから、私に少し時間をください」



 天音が突然、刀祢にお願いをしてくる。何か相談事でもあるのだろうか。



「わかりました。道場で待っています」



 刀祢は軽い気持ちで、天音のお願いを聞き入れた。



 道場に剣道部の練習を終えた心寧と直哉が入ってきた。2人が刀祢の元まで歩いてくる。



「刀祢、学校で話していたとおり、今日は私にも稽古をつけてね」



 元気よく心寧が言う。



「今は基本的なことしか教えていない。心寧は基本はできているから、教えることなんてないぞ」


「そうだぞ、心寧。刀祢は門下生を預かってるんだ。心寧と稽古をしている所を見られると、刀祢が館長に怒られる。ここは大人しく刀祢の言う通りにしよう」



 直哉は心寧の肩を優しく叩く。心寧は少し、ショゲていたが、小さく頷くと、直哉と一緒に自分達の定位置へと歩いていった。



「心寧さんと刀祢くんは仲良いですね」



 天音が微笑みながら聞いてくる。



「心寧とは小学校3年生からの付き合いですからね。大事な友達です」



 心寧がこの道場に来たのが小学校3年生。それからの付き合いだから幼馴染に近いかもしれない。



「すごく仲良く見えます」


「そんなことないですよ。顔を見合わせれば口喧嘩ばかりの時期もありましたし」



 心寧とは小学生の間は仲が良かったが、中学へ入学した頃から言い合いを始めるようになった。


 心寧は剣斗兄貴のことを信じていたので、ことごとく意見が合わなかった。剣斗兄貴を信じる心寧のことを刀祢は苦手だった。そのうち、心寧と口喧嘩していることが普通の状態になっていく。


 中学生のある日、心寧が3日ほど風邪をひき、熱をだして学校を休んだことがあった。寂しさを刀祢は感じた。


 風邪から復帰した心寧と口喧嘩をしている時、妙な安心感と安堵を感じたことを、今でも思い出すことができる。刀祢は心寧と口喧嘩している時、そのことを楽しんでいた。


 それから心寧と口喧嘩するのが楽しくなった。心寧と口喧嘩していないと妙に元気が出ない。それからは、刀祢から心寧に口喧嘩をふっかけるようになっていった。


 刀祢は考える気もなく、心寧との口喧嘩の日々を思い出していた。








 道場が終わりになり、先に直哉と心寧には帰ってもらう。


 天音が更衣室で着替えて来て、薄いベージュ色のツーピースのスーツを着て道場へ入ってくる。まるで別人のような大人の女性だ。刀祢の体が自然と緊張する。


 天音は真剣な顔付きで刀祢の前に立って会釈する。



「刀祢くんのことが好きです! 付き合ってください!」



 刀祢は天音の意表を突く告白に、一瞬、誰に言ってるのだろうと思う。しかし、道場には、今は刀祢と天音しかいない。自分が告白されている事実を理解して、内心で大いに焦るが、顔に出さないようにする。


 天音は答えを待っている。刀祢は考えるが、答えが出ない。しかし、心の奥にモヤモヤした気持ちがある。こんな状態で、真剣に告白してくれている天音に応じるのは失礼だと思った。



「ごめんなさい―――」


「理由を聞いてもいいですか? やっぱり誰か好きな人でもいるんですか?」


「好きな人はいない。天音さんに応えようとした時、モヤモヤした気持ちがあって、スッキリした気持ちになれなかった。こんな気持ちで天音さんに応えるのは、天音さんに失礼だと思う。だから、ごめんなさい」



 天音は優しく微笑む。



「やっぱり、ダメだったかー!」



 刀祢は黙ったまま、何も答えずに立っていた。謝ると失礼だと思った。



「刀祢くん、早く自分の気持ちに気づいたほうがいいわよ」



 天音はそう言い残して道場から去っていった。



(自分の気持ち―――)

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