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10話 朝からのお弁当

 刀祢の朝は早い。太陽が昇った頃に起きて、顔を洗ったのに、道着に着替え自分が納得するまで木刀を振る。そして朝食をガッツリと食べて登校する。


 両親は相変わらず、刀祢を放任しているのが、いつも食事だけはキッチリと作っておいてくれる。朝食と夕食をガッツリ食べるのが刀祢のスタイルだ。


 少し早くに家を出て、ロードレーサーに乗って学校へ向かう。いつも刀祢が登校している時間では、教室内の生徒はほとんどいない。


 しかし、今日だけは、なぜか心寧と莉奈が教室にいた。刀祢が自分の席に座ると顔を赤くした心寧が、後ろ手で何かを隠して、刀祢の席へ歩いてくる。


 心寧の様子がおかしい。なにかモジモジしていて、普通の女の子のようだ。見ていて調子が狂う。いつものように口喧嘩をしているほうがマシだ。



「俺に何かようか?」


「あのさ、これ作ってきたんだけど。刀祢が食べてくれないかな?」



 心寧は後ろ手で隠していた荷物を見せる。弁当袋だ。心寧の弁当の味付けは微妙だ。刀祢の中で少し警戒心が湧く。



「莉奈の家に泊って、莉奈と一緒に作ったお弁当だから、味は大丈夫。あげるから食べてよ」


「なぜ俺にくれる? 心寧、お前の企みは何だ?」


「失礼なこと言わないでよ。莉奈と話し合って、いつも昼食のない刀祢のために作ってきたんじゃないの」


「わかった、ありがたくもらう」



 弁当袋をもらって机の上に置く。最近では常から昼食は食べない。それに体が慣れてしまっている。今日も朝からガッツリと朝食をたべてきたが、また腹が少し空いている。ありがたくいただこう。


 刀祢は弁当袋から弁当を取り出し、フタを取って中身をみる。色々なおかずが入っていて、美味しそうだった。箸を握って弁当を食べ始める。


 それまで呆然として見ていた心寧が口を開く。



「なぜ、朝から弁当を食べてるのよ。私は昼食用に作ってきたのよ。早弁したら意味ないじゃない」


「美味いものは早めに食べたほうがいい。この弁当、本当に美味しいな。本当に心寧が作ったのか?莉奈がつくったんじゃないのか?」


「失礼なことを言わないでよ。全部、私の手作りよ」


「そうか。心寧も莉奈が一緒にいれば、美味しい弁当が作れるんだな」



 段々と口調が元の心寧に戻ってきた。刀祢としてはホッとする。大人しい心寧なんて調子が狂う。怒っている心寧のほうが安心する。



「もう、せっかく刀祢のためにお弁当を作ってきたのに。次からお弁当を作ってあげないから!」


「だから美味しいって言ってるだろ。そこまで怒らなくていいだろう」



 心寧は頬を膨らませて、刀祢の元から去って行って、莉奈の席で、何やら莉奈と話している。莉奈が席を立って、刀祢の席までゆっくりと歩いてくる。



「刀祢くん、おはよう。今日は朝から美味しそうなお弁当を食べてるのね」


「ああ、心寧にもらった。莉奈の家でお弁当をつくったって聞いた。莉奈もありがとうな」


「なぜ朝からお弁当を食べてるの?それはお昼用だったはずよ」


「心寧からもそう聞いたんだが、我慢できなくて早弁にした」



 莉奈はおっとりした感じでにっこりと微笑む。



「せっかく昼食用にお弁当を作ってきた心寧の真心をはどうするの。どうして心寧相手だと悪戯するの? もう少し優しくしてあげたら」


「少し、やり過ぎた。俺が悪かった」


「私に謝るのは筋違いよ。刀祢くん」



 どうしても心寧を見ていると悪戯したくなるのだから仕方がない。しかし、そのことを莉奈に知られると怒られる。刀祢は莉奈の説教が一番苦手だ。



「わかったら、心寧に謝ってあげてね。心寧、悲しんでるわよ」


「きちんと美味しいと伝えたぞ」


「それではダメ! きちんと心寧に謝ること! 悪戯した刀祢君が悪いわ!」


「わかったよ」



 刀祢は箸を置いて、両手を上げて降参のポーズを取る。それを見て、莉奈はにっこりと微笑むと自分の席へと戻っていった。少し怖かった。


 弁当を早々と完食して、弁当袋に入れ、席を立って、心寧の席へ向かう。心寧は振り向いて刀祢の顔を見るが、何も言わずに顔を背けた。



「ああ、心寧! せっかくの弁当を早弁して悪かった。腹が空いてたんだ!」


「―――――」



 心寧からの返事はない。顔を横に向けたままだ。



「この弁当、最高に美味しかった。また気が向いた時に作ってくれ」


「本当?」


「ああ、本当に美味かった」


 心寧が振り返って、刀祢から弁当袋を受け取ると、嬉しそうに微笑んでいる。



「お弁当を作ってあげる代わりに条件があるわ。時々でいいから私達の剣道部へ来て。そして私達に稽古をつけてほしいの」



 道場でバイトを始める刀祢には剣道部に顔をだす時間はない。父の大輝は時間のある時と言っていたが、道場でバイトをすると日払いでバイト代が入る。


 バイト代が入れば、金欠生活からもさよならできる。刀祢にとっては重大問題である。バイトを優先したい。



「これからは剣斗兄貴がいないから、道場でバイトすることになったんだ。だから時間が空いてない」


「無理にとは言わないわ。時々でいいの。少しの時間でいい。この間の刀祢の剣技を見てわかったわ。刀祢は私よりも強い。だから少しだけお願いよ」



 バイトをすれば弁当がなくなる。弁当を取ればバイト代がなくなる。刀祢は悩ましい問題に頭を抱える。



「少しだけなら付き合ってもいい。バイトに行くまでの間だぞ。ほんの少しの時間だからな」



 心寧はにっこりと満足そうに笑った。なぜ、今頃になって心寧は剣道部の稽古なんて刀祢に言ってくるのだろう。


 刀祢には心寧が誘う意味がわからなかった。

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