こんな私でも守りたい
朝、目覚ましが鳴る前に起きてしまって支度をして朝ご飯を作る、とその前に学生さんだからお弁当を作らないと。ふりかけを混ぜたおにぎり2つとブロッコリーと卵の炒めもの、唐揚げにプチトマト。朝ご飯はパンにさせてもらおう。ホットドッグを作り一応オムレツも焼いておく。オレンジジュースがいいかな?それともコーヒー?
「おはよう。」
「おはようございます。よく眠れましたか?」
「うん久しぶりにぐっすり。」
彼女はもう支度をちゃんとして1階に降りてきた。
「そうですか良かった。さあ朝ご飯ですよ。飲み物はオレンジジュースですか?それともコーヒー?」
「じゃあオレンジジュース。」
「私も朝はオレンジジュースです。」
オレンジジュースをいれてカウンターの机に置く。サラダとホットドッグとオムレツがのった皿を彼女の前に置き向かいに座る。
「全部食べなくていいですよ。朝ってどれ位食べられるか分からなくて。」
「いただきます。」
「ええどうぞ。」
私もサラダを食べ始める。彼女はホットドッグを掴んで食べ始めた。フォークを掴んでオムレツも食べ始める。割とよく食べる女の子なのかもしれない。
「ごちそうさまでした。」
彼女はほとんど食べてくれて朝から気持ちがいい。
「はいこれお弁当です。よかったら持って行って下さい。」
「何から何までありがとう。」
「いいえ。次は本当にお客様として来てくださいね。あなたのお母様に嘘をついたままにしたくないので。」
「うん。分かった。また来るね。」
「はい、いってらっしゃい。」
彼女を送り出して、今日は多分お客様が来なさそうなので1階のお店を念入りに掃除し始める。その後2階の掃除をして洗濯をしながらアクセサリーをお店で作る。今日はリングとピアスを作成し途中で洗濯機が止まったので全て干した。今日は綺麗に晴れているのですぐに乾くだろう。気付けばもうお昼をまわっている。本当にお客様は来なかった。
夕方に役場の人が様子を見にきてくれてちょっとした世間話をして帰っていった。
さあそろそろ閉めようとしたところでものすごく良い笑顔で扉のところで松岡さんが立っていた。笑顔で中に入ってもらうけど、心中穏やかではなくすっかり忘れていたことを悟られぬように顔を作る。
「こんばんは。ちょっと早いけど大丈夫ですか?」
「はい大丈夫ですよ。松岡さん買い物行ってくださったんですね。」
「ええ、さっき仕事が終わってから行って来ました。」
「じゃあ作りましょうか。手を洗ってください。」
「はい。」
「じゃあ1番簡単にできるものを教えます。」
「はい。お願いします。」
松岡さんはどこから出したのかエプロンをしてい腕まくりをしている。
「じゃあ材料を全て同じ位の形大きさで切ります。3センチ位でお願いします。」
「はい。」
松岡さんはなかなか手際良く材料を切っていくこれならすぐに終わりそうだ。私はご飯を炊き始める。
「はい。では鍋にごま油をひいてお肉の色が半分程変わったら他の具材をいれて軽く炒めてください。そしたら具材が浸ってそこから3センチ程上位まで水を入れます。」
松岡さんは私から料理を習う必要ないと思うのだけど。私のこれだけの説明で手間取ることなく仕上げてしまう。
「はい。雪乃さん出来ました。」
「はい。ではだしを入れてください。」
「はい。入れました。」
「それでは具材に火が通り柔らかくなったので味噌を入れます。味噌は少しずつ溶かしていって自分の好きな濃さで入れるのをやめていただければ失敗しないと思います。」
「はい。分かりました。」
松岡さんは私から料理を習う必要ないな。
「すみません。それ程お料理が出来るなら私から習う必要ないと思いますよ。」
「えっそんなこと言わないでください。まだ初回じゃないですか!」
「でも十分ですよ。」
「おい!お前が別れろって言ったのか!」
「やめて勇気!この人は関係ない!」
怒号と一緒に入ってきたのは少しがらの悪そうな恰幅のいい男の子と涼さんだ。涼さんは口の端が切れて血が出ている。涼さんを殴って怪我をさせたのか。この男の子に抱く感情は怖いではなく怒りだ。
「はい。いらっしゃいませ。何かご用ですか。もう店は終わったのですが。」
「雪乃さん大丈夫ですか?」
松岡さんも特段この男の子が怖くないのか落ち着いて小声で私に聞く。私も小声で返す。
「隙をみて上手くあの彼女を庇う体制になっていただけますか?」
ほぼ無茶ぶりだが頷いてくれる。
「おい!お前が!」
「はい。なんですか。」
「だからお前のせいで涼が。」
「はあ?だからなに?」
「勇気!違う!」
「お前この野郎!」
「今から誰かに手をあげたら警察を呼びます!」
大声で言い放つ。そのすきに松岡さんは彼女の手をつかみこちらまで連れてきてくれた。男の子だけが店の入り口に立っている状態になった。
「おい!何してやがる!こっちにこい!」
男の子が私の肩を強く押すけど絶対に動かない。今は彼女を守らなくてはいけないのだ。絶対に引くわけにはいけない。
「駄目だよ君はここにいなさい。」
後ろを見られないので分からないが、多分彼女は私に迷惑をかけたくないと男の子のところへ戻ろうとしているのだろう。ナイス松岡さん!
「涼さんあなたを殴ったのはこの人ですか?」
「………。」
「ああそうだよ。俺は警察なんて怖くねえよ。てめえも殴ってやろうか。」
よし絶対に許さない。昔取った杵柄になるし後ろの2人にはびっくりさせてしまうがこの作戦でいこう。
「うるせえな。お前の半分位しかない女殴って調子にのってんじゃねえぞ。」
「なっなんだよ。」
少しだけ動揺している。それでいい。そこをつこう。
「ああ?なんだ声が聞こえねえな。しっかり話せよ。」
「おい!とにかく俺は涼と別れる気はねえよ。」
彼は少しずつ後ろに下がっていくので私は追いつめるように少しずつ近付く。
「殴っておいてそれはないでしょ。君はもし殴られて相手を好きでいられる?考えて。」
「それは。」
「自分の思い通りにいかないから殴る、涼さんの心が離れたから殴る。それって恋人として正しい?いいよ殴れば?私のこと。でももう涼さんには指一本触れさせない。」
私は男の子の前に立った。大人として子供は守らなければ涼さんも勿論彼も。
「お姉さん。勇気ごめんね。でももう私のこと離して。私もうあなたを好きじゃない。」
涼さんは私の横に立って毅然とした態度で彼にちゃんと伝えた。
「涼……。分かった。もう近付かない。じゃあ。」
彼はとぼとぼと店から出て行った。涼さんは床にぺたんと座り込んで泣いている。ほっとしたのと悲しいのだろう。
「お姉さん、ありがとう。明日説明しにくるから今日は帰るね。」
「えっ暗いですけど大丈夫ですか?」
「うんここの隣の隣の家なの。」
「ああ、あの水色の屋根の!」
「うんそうそれ。じゃあそっちのお兄さんもありがとうございました。」
「いいえ。おやすみなさい。」
彼女は軽い足取りで家に帰っていった。良かった家が近くて。
「松岡さんすみませんでした。一応ご飯を炊いたんですがお時間大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。」
「じゃあ夜ご飯食べていってください。豚汁いただいてみましょう。温めていただけますか?私卵焼き作りますね。」
「はい。」
松岡さんはその後何も言わなかった。食事の準備が出来て机に料理を並べた。卵焼きと漬物、豚汁にご飯。なんとシンプルな晩御飯だろう。
「いただきます。」
「いただきます。」
2人で食べ始める。
「美味しいです。豚汁作ったの初めてだったけど。美味しいです。我ながら上手くできました。」
「ええ、とても美味しいです。その…さっきのことなんですけど。正直、私もまだそんなに分かっていないんです。すみません。」
「いえいいんです。ただ料理教室は次もお願いしますよ。」
「ええ、次は何がいいですか?」
「じゃあもう少し手が込んだもの…。うーん。カレーとか?」
「良いですよ。じゃあ次は松岡さんが考えて買い物して来てください。」
「ええ分かりました。」
楽しい夕食の時間はあっと言う間に過ぎて行った。