森にいたのは
休みの日は森に出かけるようになった。森は真っ暗なのだが、10分も進むと開けたところがあってそこに大きな木が堂々とたっているのだ。そこに腰をかけてお昼を食べるのが休日の日課になった。頬をなでる優しい風や緩やかに流れる時間の中で座ってサンドイッチを食べると幸せだ。都会に残してきた全てがどうでもよく感じる。でも今日は憂鬱な事が1つ両親から手紙が来ている。
知花ちゃんから来たの中は見てないわ。一応送るわね。
そして知花の手紙だ。今の時代に手紙ってと思ったけど、スマホ買い換えて連絡先も全て変えたんだった。
雪乃へ
明夫さんを解放してくれてありがとう。明夫さんはいつも雪乃の話をしてたわ。家事もしないし、料理は下手だし最悪って。結婚したそうにするけど何も言わない暗さに嫌気がさすって。私も明夫さんも仕事をクビになったけど、全然構わないわあなたにはなかった愛があるから。それじゃあさようなら。
「ねえ、木さんちょっと話を聞いてくれない?」
勿論、返事はない。だけど私も止められない。
「私、ずっと我慢してたの。結婚式で知花と明夫に逃げられても泣かずにただ身を任せてた。明夫を愛していたのに。私、何が悪かったの?私が何をしたの?」
涙が止まらない。今まで泣かなかったのにこんな手紙で。小学生から仲良しだと思っていたのに。
「私、明夫と結婚したかった。料理が下手なんて嘘どうして言ったの?知花の前でいつも私の悪口を言っていたの?もう終わりにしたい。」
「ねえ大丈夫?」
そこにいたのは大学生位の男の子だった。
「ねえ大丈夫?君、泣いているようだけど。」
黒い髪が少しだけ目にかかって面倒くさそうに髪をかきあげ、整った顔を近付けてくる。なんだか恥ずかしくなって顔をそむける。
「大丈夫です。」
「ああ、すまない近づきすぎたね。でも泣いているじゃないか。話を聞こうか?」
「でも。」
「大丈夫、僕は口がかたいからね。」
なんだか古風な話し方の優しそうな男の子にすっかり全て話してしまった。また思い出して泣いてしまう。それでも恥を捨てて全てを話した。なんだか彼には話せてしまう。
「そうか、雪乃さん。君は傷付き疲れ果てこの村へ来たんだね。ゆっくり癒やされるといい。ここをもう少し進んだ小屋に住んでいるんだ。君のカフェに行くよ。ああそうだ。おいで30秒の抱擁は30%ストレスを緩和させるらしい。だから抱き締めてあげよう。」
謎の男の子に手を引かれ立ち上がりそのまま抱き寄せられた。涙も止まり心が温かくなるのを感じてお礼を言った。
「ありがとう。」
「はは、どういたしまして。またハーブティーを持って行くよ。この森で取れるんだ。じゃあ。」
そのまま森の奥に進んでいく背中を眺めていた。途中で立ち止まり私の方へ向くと少し声を張り上げて、
「僕の名前は琥珀だ。呼び捨てでいい。僕も次からは君を名前で呼ぼう。じゃあまたね雪乃。」
「はい、琥珀!」
琥珀。彼の名前は琥珀。彼はいい人だ。見ず知らずの私の話を最後まで聞いてくれて、励ますとかじゃなくてただ抱き締めてくれた。今日はきっとゆっくり眠れる。笑顔で家へと帰った。