真実は誰かを傷付ける
あれからたまに陽炎に会いに行くようになった。ご飯をたくさん持って森に入ると5分程で出てきてくれたり1時間近く待つ時もある。
「もう1時間待ちましたよ!」
「すまないな。鬼にも仕事があるのだ。それが長引いた。というかお前が勝手に待っているんだろう。」
「あっバレちゃいました?」
「お前なぁ。」
呆れるだけで、こんな軽口を叩いても許してくれるのだから本当に人は襲わなさそうだ。そしてたまにお土産をくれる。不思議な鉱物とか。綺麗なお花とか。
「お前も案外、暇だな。いつも会いにくる。」
「えー。カフェもアクセサリー作りも大変ですよ!」
「そうだな仕事は大変だ。我もいつも揉める輩が居て結局押し付けられるのだ。」
「陽炎は優しいもんね。」
「優しくないが面倒事はいつも我だ。」
「ふふ。じゃあご飯たくさん食べてくださいね!」
「ああいつもありがとう。」
昨日楽しかったな。
「最近、あまり話さないね?」
今日は悠輔とデートの日だ。まだ桜はギリギリ咲いているので家でのデートだけど。
「急にどうしたの?今も話してるでしょう?」
「だって仕事の疲れた事とか言わなくなった。」
「それは悠輔が言わないから。お互い様じゃない?」
「それは。」
「でしょう。」
この頃、悠輔は何かと突っかかってくる。いつも来ても不機嫌で帰る間際に謝って帰るのだ。
「なんかこの頃ごめん。帰るよ。愛してる。」
「ううん。私も。じゃあおやすみ。」
この頃悠輔とうまくいっていない。何も話してくれないからと何も話さなかったけどその決定が仇となっている気がする。
「なんだか疲れちゃったな。お風呂入って寝よう。」
お風呂に入って考える。悠輔の事。陽炎の事。消えてなくなりたいと思ってここへ来たのに。
「鬼って結局どんな者だっけ?調べてみよう。」
明日は土曜日で何も予定は無いから図書館に行こう。
駄目だ調べきれない。朝から図書館に行って資料を探してはノートにまとめているけど文献が多すぎてまとめる事すら困難だ。なんとなく分かったし帰ろう。
お昼を食べて洗濯をして掃除をする。カフェのし込みをして夕方になったので少し休憩する。今日も陽炎のところへ行こう。ご飯を作り始める。
「陽炎ちょっと嫌な事を聞いてもいい?」
「急に改まってなんだ?」
「陽炎はどうして鬼になったの?」
「…………。」
「ごめん嫌だったよね。黙るね。」
「………。もう何10年いや100年位前かもしれない。まだ人間だった頃、ある女を愛した。その女の為に貴族のふりをして近付いた。」
「さとさん。私はあなたを愛しています。一緒になりましょう。」
「ごめんなさい。私は他の男性と結婚します。」
「あの日誓った約束は嘘だったんですか?」
「違います。でも。」
「私はあなたの瞳に入る為に自分を殺し全てを捨てました。」
「父が決めた男性と結婚します。」
「だったら何故?何故振り向いてしまったんです?最初からこっちを見なければ。」
「愛しています。でもあなたとは結婚できません。」
「俺はもう分からないんだ。君に会う前の俺が分からない。何が好きで何が嫌いだったか。もう覚えていない。君を失うなんて。もう前の俺なんて残っていないのに。」
「じゃあさようなら、愛しい人。」
「ああ。ああ。分からない。どうすればいいのか。どう生きていたのか。もう分からない。」
「それで気付いたら鬼になっていた。鬼の出来損ないに近いらしい。あの女への憎しみか。相手の男への恨みか。それは分からないがこうなっていた。女々しい男なんだ。雪乃、泣くな。今はもうなんとも思っていない。」
私は涙を流していた。この気持ちはなんだろう。悲しくて切なくて愛おしい。私は陽炎に近付きそっと抱きしめた。陽炎はとても冷たくて余計に涙が出た。ああなんて悲しい人だろう。私にできることなんてない。最初から1つもない。
「陽炎あなたを温めてあげたい。私も違う人に温めてもらったから。」
「なら温めてくれ寝屋で。」
「分かった。温めてあげる。」
「冗談であろう?無理をせずとも良い。」
「ううん。そんな事でいいなら。連れていって。」
「ならば共に。」
お姫様抱っこをされ、一瞬煙に包まれ目を開けると木でできた小屋にいた。ツリーハウスのようで少し高い場所にある部屋にはベッドもあってそっと寝かされる。
陽炎はとても優しかった。私を壊さないように扱った。私も陽炎も話さなかったが、陽炎がぼそっと呟いた事が引っかかった。確かに言ったのだ。
「まだ俺も触った事がないのに。」
と。




