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 あっという間に桜の咲く頃になってますます松岡さんを知っていった。一度だけデートに遅れてきて理由を言わず、ただ謝られていると親子がやってきて子供を探してくれてありがとうとだけ言って、公園の方へ行ってしまった事があった。その時も言い訳をせずただ笑っただけだった。そういう人のようだ。好きだとか可愛いとかは言ってくれるのに、遅れた言い訳とかどうして疲れているのかを教えてはくれない。負の感情を分け合おうとはしない人のようだ。それから同じように私も負の感情を言わなくなった。


「雪乃、ほら買って来たよ。」


「ああ、ありがとう悠輔さん。」


「違うでしょう。悠輔。」


「あっありがとう悠輔。」


「うん。」


 ペットボトルのジュースを外の自販機まで買ってきてくれて今から私の部屋で映画を見るのだけど、桜が咲き始めて外のデートはなくなって家でのデートばかりになってしまった。


「さあ映画を見よう。」


 映画は難しく途中で寝てしまったようだった。終盤で起きてしまいなんとなく続きを見ていると悠輔は真面目に見ていて少しだけ涙ぐんでいる。また今度ゆっくり一人で見ようかなと考えているとインターホンが鳴ったので見に行く。もう夜だというのに。


「俺が行こうか?」


「ううん、私途中で寝ちゃったから。悠輔は最後まで見てて。」


 カフェの入り口に行くとそこにいたのは信じられない人物だった。


「雪乃、久しぶりだな。」


「明夫、どうしてここに?」


「婚約者じゃないか知ってるに決まってる。」


「あなたとはもう終わったでしょう。」


「ああ知花とは別れたよ。あわなかったよ性格が。やっぱり雪乃が1番!」


「いや私とあなたの未来が終わったの。あなたわかっているの?結婚式に一人残される気持ちを。」


「だから、分かってるって。謝ってるだろう。」


「許されるわけがないでしょう。馬鹿なの?もうここには来ないで。あなたと話すことはもうない。最後だって話してくれなかったくせに。」


「雪乃!俺あれから会社でいじめられて辞めて、知花もくびになって何もかも失った時あいつとは分かり合えなくなって。そこでやっぱりお前だって。」


「私は絶対に無理。」


「じゃあ最後に一緒に花見をしようぜ。調べてきたんだこの奥は森で夜は誰も近付かない。」


 入り口の光に何か反射したと思った途端、腕を引っ張られ首元に冷たい何かを押し付けられた。嘘でしょ私は穏やかに生活がしたいだけなのに。助けを呼ぶ間もなく口を手で塞がれ森に連れて行かれる。うちから森は本当に近い静かな事が気にいっていたけど今はそれを恨んだ。満開の桜の下へ来てしまった。


「雪乃知っているか昔の人は桜は血を吸ってこの色になったと思っていたらしいぞ。だから俺と雪乃の血を吸ったこの桜は綺麗になるだろうな。」


 にたにたと笑いながら言う明夫にさあーっと血の気が引くのを感じた。こんな恐ろしい事をする人だなんて。


「お願いやめて。」


 耳に入る私の声は震えている。ああこんなところで死ぬのか。やっと幸せになれそうだったのにもう未来が閉ざされてしまう。


「離せ。その娘を離せ。」


 地の底から湧き上がる地響きのような声と2mを越える身長の何かがそこに立っていた。


「なっ!なんだ!」


 明夫の私を掴む手が強くなる。明夫の問いかけには答えず、


「その娘を離せ!」


 ビリビリと怒りが伝わる。頭に2本三角の角がついている憤怒の化身。桜の散る中、立っているあの物体はなんと美しいのだろう。彫刻のような肉体に整った顔立ち。下半身はズボンのようなものを着ている。この人が私が調べていた鬼だ。自分の状況も忘れてただ惹かれ魅了されていた。


「離さねば、痛い目を見ることになるぞ。」


 明夫を睨む姿もとても絵になる。彼は何故あんなにも怒っているのだろう。明夫は雲の切れ間に出た月明かりで全貌が見えたのだろう私を鬼の方へ突き飛ばし逃げていった。どんと私があたっても体はびくともせず抱きとめた。


「娘、無事か?」


「はい。ありがとうございます。」


「じゃあ行く。もう森に近付くな。」


「待って!待ってください!また会えますか?」


「会わん。」


「じゃあ毎日森に入ります!会えるまで!」


「馬鹿な娘だ。夜ならこの辺りにおる。」


「じゃあ明日来ます!」


「勝手にしろ。」


 鬼は森の奥の暗闇に消えていった。カフェに戻ると悠輔は居なくて仕方なくコーヒーを淹れて待っていると5分もしない内に戻ってきた。


「雪乃がなかなか戻ってこないから見に行ったらいないし、一応この辺りを見まわって戻ったら帰ってきてるし何があったの?」


 悠輔に言うべきか悩んで彼だっていつも何も話さないと考え、


「ごめん。外の空気を吸いに行ってたの。」


 と嘘をついた。悠輔はほんの少しだけ表情を曇らせ、そうとだけ言って私の手を強く握った。


「じゃあ俺帰るよ。明日仕事だし。」


「うん。今日はごめんね。また土曜日に。」


「おやすみ。」


 悠輔は帰る間際、頬にキスをしてくれて出ていった。

 私は明日、鬼に会えることだけを考えていた。



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