桜の満開の下
「目が覚めましたか?今はまだ夜中の二時です。あんな事を言った後にいきなり倒れるように眠ってしまって。びっくりしましたよ。一瞬、救急車を呼ぶか悩みました。あなたお酒全然だめなんでしょう。もう飲んじゃいけませんよ。」
起きた時に人がいるのもびっくりしたけど何より松岡さんにこんな辛そうな顔をさせてしまった事に自己嫌悪をしていた。
「ごめんなさい。一緒にお酒を楽しみたかったんです。でもあんなに弱くなってるとは思わなかったんです。もうちょっと強かったんです。」
松岡さんのシャツの袖を掴みながら話す。なんだかとんでもない初デートにしてしまった。
「もういいですよ。顔を上げてください。許しますから。」
「だって、初デートだったのに。もっといい風に見られたかった。可愛いとかしっかりしてるとか。なんだかあなたの事を好きになっただけです。」
「俺を好きに?」
「あっ。」
また恥ずかしい事を言ってしまった。
「雪乃さん上を向いてください。」
素直に上を向いた。優しく松岡さんの親指が私の唇をなぞってそのまま口付けをされた。
「はーしちゃった。雪乃が可愛いからさ。初めて好きって言ってくれた。ありがとう。じゃあ帰るよ。俺の家もちょっと行った所だから。」
「そうなんですね。危なくないですか?泊まって行きます?」
「流石に帰るよありがとう。」
そして悠輔さんは帰ってしまった。何か絶対にお礼をしようと誓った。
目が覚めるといつもより1時間も遅く、なんだか頭もガンガンしている。ゆっくりと起き上がったものの、なんだか体が重く動きも遅くなってしまう。支度ができたところで頭が急に冴える。カフェの入り口がどんどんと強く叩かれているのだ。恐怖心を抑えて入り口を開けるとそこにいたのは琥珀だった。やっぱりと思った瞬間にこじ開けられ押し入られる。
「雪乃!あいつだけはだめだよ。あいつは!」
「何?なんの話?」
「前にここにいた男さ。僕は見えるんだよ。あいつは。あれは鬼だ。」
「はあ?」
「鬼なんだよ!だからだめだ!僕にしろよ。」
肩を強く掴まれる。どんと突き飛ばし言い放つ。
「やめて!警察を呼ぶわよ!」
「うっ。でも。でもあいつは鬼だ!」
「何を言ってるの?おかしくなったの?」
「分かった。じゃあそろそろ桜が咲くよなぁ。花見に誘ってみろよ。絶対に断るぞ。鬼はな満開の桜の下では人の形を保っていられないんだ。ちょうどいい裏の森は桜が満開になるんだ。もう1カ月もない位で咲く。そこで確かめな。」
そう言い捨てて琥珀は出ていった。鬼だとか。確かめろとか。訳の分からない事を。でも花見はしたいな。
「無理ですね。花見は。」
いつものように仕事終わりでカフェに寄ってくれた悠輔さんに聞いたらこれだ。
「なぜですか?」
「アレルギーが酷いからです。だから春は死に物狂いで生きます。森なんて入ったらもう。」
「そうですか。それは仕方ないですね。」
残念だ。ここに来て初めての桜を一緒に見たかったな。
「違う事をしましょう。お雛様作りとか!」
「ええ、そうですね。」
少しだけほんの少しだけ琥珀の言う通りになった事が気にかかった。




