幸せの絶頂
今日、私こと雪乃は高校から付き合って、10年目になる明夫と結婚する。ウェディングプランナーで小学校からの親友の知花に相談に乗ってもらいながら、結婚式と披露宴を計画して遂にその日がきた。明夫も嬉しそうに微笑んでくれる。ヴァージンロードを歩き、お父さんが少し涙ぐみながら私を明夫に託す。明夫は恭しく手を取り神父様の前に連れて行ってくれる。幸せすぎて気を失いかけながらしゃんと立つ。この時をずっと待っていた。明夫と結婚する事だけを夢に見ていた。大学を卒業する辺りから好きで仕方なくなってそこから5年待ち続けた。でも明夫に捨てられたくなくて結婚というワードを出さなかった。そして半年前にプロポーズされて籍を入れた。結婚を機に仕事を辞めて、これからはアクセサリー販売で明夫を支えるつもりだ。
「私、神田雪乃は神聖なる婚姻の契約のもとに佐藤明夫を夫とすることを誓います。」
「私、佐藤明夫は「ちょっと待って!!」」
讃美歌がピタリと止まり皆の視線が声の方へ向かう。そこにいたのは知花だった。知花がウェディングプランナーをしている場所を選んだので、知花の同僚だろう人も視線を向けている。
「明夫さん、私あなたが忘れられない。お願い結婚はしないで!私と結婚しましょう!」
知花は何を言っているんだろう。今着ているドレスをたくさん試着した中から選んでくれたのも知花、ブーケのお花や頭の飾りのお花を作ってくれたのも知花、ここまで準備を必死にしてくれた知花がそれを壊そうとしている。
「ああ、知花さん。やめるよ君と結婚しよう。」
そうして2人は出て行ってしまった。2人とも1度も目が合わなかった。置いてきぼりの私はマイクを掴んだ。
「今日はこんなことになってしまってすみません。ご祝儀はいただいているのでせめてお食事は召し上がっていただいて、引き出物もお持ち帰りください。幸い2人の名前が入ったものはありません。大変申し訳ありませんでした。」
私は深く深くお辞儀をした。冷静でいないと壊れそうだ。皆、口々に何かを言っている。えー、何?神田さん可哀想。佐藤はクビだな。高橋知花は懲戒処分にします。両親が支えてくれる。ふらふらしそうなのを堪えて笑顔で返す。
「お父さん、お母さん私着替えてくる。それで帰ろう?」
「雪ちゃんごめんなさい。家の明夫が…。」
明夫の両親が話しかけてくるので笑顔で話す。
「ううん。おばさんとおじさんが謝る事じゃないです。また近い内に話し合いに行きます。」
「ええ。」
明夫の両親はそそくさと出て行ってしまった。着替えが終わるとちょうど食事が終わったタイミングで、来てくださった人たちが帰るところだったので、両親と3人で全員に頭を下げ続けた。皆、優しく声をかけてくれる。皆が帰って誰もいなくなるとお父さんが叫んだ。
「あいつ!うちの雪乃を!10年も一緒にいたのに!殴ってやる!殺してやる!」
「お父さんありがとう。もういいよ帰ろう。」
お父さんは拳を握り締めながら強く叫んだ。
それから3日後手紙が届いた。明夫と知花から三百万の小切手と共に明夫は記入済みの離婚届も同封されていて、便箋にはただ一言これで別れてくれと書いてあった。仕方なく離婚届を記入しその足で役所に出しに行った。その後明夫の実家へ出かけた。明夫の両親に届を出した事を伝えると重い封筒を渡された。中には札束が入っていた。
「雪乃ちゃん本当ごめんなさい。あんなのでもうちの息子なのだから縁を切ることは出来なかった。中には百万入っています。せめてこれだけは受け取ってください。」
と土下座をされた。封筒を受け取りその場を後にした。家に戻ると、結婚式場から手紙が来ていた。高橋知花は懲戒処分にしたことお詫び金として二十万同封しますとのこと。披露宴等の費用は全てあちらの2人に請求することが書かれている。
なんだか手もとにはお金ばかりが入ってくる。まず退職金の八十万、ご祝儀の二百万、慰謝料の三百万、明夫の両親からの百万、結婚式場のお詫び金の二十万の計七百万これで人生をやり直そう。
明夫の家に住むつもりだったので、荷造りしたままだったのをほどかず実家を出ることにした。