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”火車”Ⅺ

 私は公園のベンチに座って待っていた。

 膝の上に猫を抱いて。

 もう日が落ちている。

 春の夜風は、震えるほどはないがやはり、肌寒い。

 それでも彼を待つこといした。

 もう帰る場所がないんだから。

 どうしたらよいかわからない。

 そんな気持ちで、シェミィニャを探していた時、彼に出会った。

 ……完凪 紡、か…。

 両親の不自然な死。

 その理由を、確かめると言ってくれた。

 彼も、昔、自分と同じような境遇になったらしい。

 それも、ずっと幼い頃。、

 ……強い人だな。

 あれは、決意のある眼差しだった。

 この町を離れる前に、彼の決意に身を任せてみたくなった。

 それぐらいの時間はあると思う。

 膝の上でシェミィニャが欠伸をした。

「向こうの家じゃ飼ってあげられないと思う。…ごめんね」

 父の実家に一度行ったことがある。

 正しく言えば”呼び出された”らしい。

 幼い時で、感覚でしか覚えていないが、あまりいい印象がない。

 大きな家で、人は多いが、不気味な場所だった。

 会話のようなものがなく、皆が殺気立つ薄暗い場所。

 父も嫌っていて、以降一度も行ったことがない。

 まるで、

 ……獣の檻みたいだった。

 その家の主、すなわち、自分の祖父にあたる人に言われた言葉が今でも記憶に焼き付いている。

 憎悪と怒りのこもった、その言葉を。


“――逃げられると思うな――”


 あれは、どういう意味だったのだろうか。

 怖くてたまらない。

 子供のころから、あの声から逃げるように住む場所を変えてきたように感じる。

 あそこは、自分が生きていける場所には思えない。

 それでも… 

「私、頑張ってみるから…」

 ただただ自分を奮い立たせようとして、声を漏らす。

 その最中、空気にほのかに熱が混じるのを感じた

「!?」

 慌ててその場から立ち上がる。

 どこか、不快な熱。

 いや、わかってる。

 振り返ったところに、いつの間にか1台の車がいた。

 排気音もなく、突然に現れたそれは、呼吸をするかのように揺らめく炎に包まれていた。

 血色に染まったライトが、こちらを見ている。

 覚えている。

 あの夜、自分と両親の乗る車に喰らいついてきた、あの”燃える車”の正体。

「・・・ケルベロ、ス…――!?」

 覚えている…?

 どうして?

 こんな怪物、知っているはずがない。

 でも…、

「…ッ!」

 頭が、痛む。

 何かを、思い出しそうになる。


 ――お前は、――だ


 なに? こんなの、知らない…。


 ――成功だ。これで、我らは――


 やめて。

 思い出したくない。

 頭の痛みが警告している。


「――新谷さんッ!!」


 別の声に、ハッとなるのと、自分の身体が浮くのは同時。

 組み付くように宙に浮いた身体は、地面をこする。

 痛かったが、でも、

「完凪 君…?」

 一緒に傍らに倒れている人を見て、驚くのが先だった。

「約束を、守りにきた…!」

 そういって、彼は立ち上がって見せた。



 僕は、内心安堵した。

 新谷さんが襲われる前に、手を伸ばすことができた。


 ”――“火車”は、意思を持って人を襲い始めた。わかるだろう? 奴は町を彷徨っている。食い残し(・・・・)を探している。”


 喰い残しとは、新谷さんのことだ。

 この公園にいることを信じて、霊辺とともに急いできた。

 そして、”火車”が新谷さんに喰らいつく寸前で、彼女を抱えて、その場を蹴って逃れた。

 僕との約束を信じてここで待ってくれてなければ、間に合わなかったかもしれない。

「…ありがとう」

 紡は、彼女を背に隠すように立ち、静かに、礼を言った。

 見据えるのは、炎に包まれた異形。

 それは、再び僕達を襲おうと頭を向ける。

 すると、

「――こっち見なぁ、”火車”…!」

 “火車”が真横から飛んできた強烈な飛び蹴りを受け、数メートル地を滑った。

 霊辺が、反動を利用して宙で1回転し着地する。

「時間を稼いでやるから、そいつを逃がせよ。紡」

 そういって、霊辺は“火車”に喜々として挑みかかっていく。

 勝てないって言ってた割には、楽しそうに見えるな。

「完凪さん。あれは…」

 新谷さんは、恐怖を感じていても取り乱している様子はなかった。

 強い人だ。

「あれが探してた人だよ。なんとかなると思う」

「あの人が、助けてくれるんですか…?」

 その問いには、首を横に振るしかなかった。

 霊辺に、あの炎の怪物を倒すことはできない。

 でも、

「なんとかしなくちゃいけない。そうしないと、何も終わらない」

「戦うん、ですか…? あの怪物と?」

 僕はうなずくが、正直怖い。

 あれは、僕にとって喪失を与える圧倒的な暴力だ。

 怖くないはずがないんだ。

「大丈夫だから…」

 彼女に、そして、自分に言い聞かせるように声を絞った。

 覚悟を決めて来たのだ。

 決着をつける覚悟を。

「――そろそろ限界だぞ」

 僕達の傍らに霊辺が着地した。

 視ると、霊辺の右腕と背中が焦げた爪痕で抉れている。

「霊辺…!?」

「構わねぇよ。それより――」

 人間離れした長身に、鋭く並ぶ歯をニヤつかせた霊辺は、僕の隣に立つと同じく“火車”へ視線を向けた。

「いよいよ手が付けられなくなってきたなぁ」

 炎の車は、変貌していた。

 全体が炎に包まれ、さらに肥大している。

 車の面影を足先の炎の渦にのみ残し、巨大な炎の獅子へと姿を変えていたのだ。

 もう“掃除屋”じゃない。

 無差別に殺戮し、死者を作り出す“凶獣”が燃え盛る牙を見せる。

「放っていた場合、町の人間全員喰ってまた膨れる。止まらなくなるなぁ」

 霊辺が笑うが、僕にそんな余裕は持てそうにない。

「――最終確認だ。紡、覚悟は?」

「できた」

「よし」

 その言葉が合図だ。

 鼓動は増していく。

 だが、

「やる…!」

「いくぜ」

 僕の声に応じて、霊辺は両の手を合わせた。

 そこから引き伸ばされるように噴き出したのは、純白と漆黒の流体。

 形容しようのない、強靭な“力”。

 それは混ざり合うことなく、渦を巻き、螺旋を描きながら圧縮されていく。

「“力”を奪え、喰らえ、“心”で結え。四心、柱の戒めよ――」

 霊辺がつぶやき、言葉を紡いでいく。

 背に衝撃が来た。

 圧縮された“力”が、――僕に打ち込まれたのだ。


「――業火の鋼、織りなせ、血よ灰塵へ――」


 僕の身体が、内側から吹き上がった白黒の炎に包まれる。

 拒絶しあうようで、しかし共存する2つの力が僕の中で渦巻いている。

 人の心と魔の力。

 とけあいながら、それは1つの“力”の結晶として姿を構築する。

 炎が、四肢の先端から剥がれるように散っていく。

 炎の中から現れた僕の身体は、漆黒の基礎に純白混ざり合った装甲によって覆われていた。


魔装殻へクセル・アルゥマデュラ…!」


 血塗られた炎を喰らう、殲滅の炎が噴きあがる。

“鎧の魔法使い”が生み出したという最高傑作。

 それは、ここに姿を現した。

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