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七話目 町でおっさんとお食事

最初に俺らが来た道と同様に、人が一人通るので精一杯な道を通っていると、近くに川が流れているのが見えた。こいつはここで水を汲んでたのか。川の淀んでいる場所には魚が数匹見える。こいつは釣りとかするのだろうか?


そのうち川は見えなくなり、また暫く歩き続けていると、急に視界が明るくなった。どうやら森を抜けたらしい。目の前に道が横切っている。俺らが来たような小さい道なんかではなく、自動車があれば通れるような幅で、かつきちんと人によって踏み固められたような道だった。


エコークが道に沿って進んでいくのに付いていくと、前の方からすれ違うようにして人に遭遇した。この世界に来て記念すべき二人目の人間だった。


その人は茶髪を短く刈り込んだ男性で、荷物を積んだ小さな馬(ポニー程の大きさだが足は結構太かった)を連れていた。服装は俺らと同様に『るめーどぅ』を着用している。


その男性はこちらに話しかけてくることもなくただ通り過ぎていっただけだったが、何やらエコークをちらちら見ていた。確かに初見ならこんな変な色の髪をした奴がいたら注目しそうにはなるが。…やっぱりこの世界においてもこいつの髪は普通でないのか?それとも髪以外に何か注目する所でもあったのだろうか。


そうして歩いていると道も開けてきて、だんだん人通りも多くなってきた。やはりその人達も『るめーどぅ』だったり『かにぇふ』だったりを着用している。この世界ではかなり普及している代物なのだろうか。中には小さな馬車に乗っている人も見えた。


馬車の事を何と呼ぶのか聞きたかったので、「そーらりぁ ろーむ?」と聞いてみたのだが、何を指しているのか分からなかったようで『りずぃんな』だとか『しぇるとぅむ』、『かーらっどぅ』といったよく分からない返答をされた。こうなると馬車どころかどれが何を表す単語なのか全く分からなくなる。


そのうち建物等が見えるようになり、周りの風景も本格的に町といったところになってきた。道も石造りの整備されたようなものになり、道の真ん中には水路(排水路だろうか?)と思しき溝が走っている。人通りもより一層多くなり、今までいた所に比べかなりの賑わいを感じる。建物の材質は殆どが木造の柱とレンガ、漆喰でできており、それ以外の建築様式はあまり見当たらない。


先程、エコークのような髪色をした者は珍しいのだろうかと思っていたのだが、実は見渡すとかなり少ない割合ではあるがちょこちょこ目立つ髪がいる。この町に入って今まで確認できた者でも青、緑、白っぽい色が見えた。


よく見ると、それらの髪色の人物は共通点があり、どれもこれも年若い女性ということだ。この世界における若い女性の間で流行のファッションなのだろうか。でもそんな色に髪を染色するような技術がこの町にあるとは思えない。(かつら)の説もあるかと一瞬考えたが、そもそも一日寝食を共にしていたこいつは完全に地毛だった。間近で見てたし間違いない。ジゲジゲ女だ。


それらの明らかに目立つ髪色の奴らの陰に埋もれてはいるが、他の人々も黒髪から茶髪、金髪まで随分と多種多様な人がいるように見える。ただ、割合としては黒っぽい茶髪の人が一番多いように見えるな。


エコークの様子を見ると、歩きながら何かキョロキョロ見まわしているようだ。探しものだろうか?…まさか迷ったなんてことはないだろうな。俺自身はこいつに付いていくしかできないしそういうのはやめてくれよほんとに。


「せーっ、せーじす!」

どうやら建物を探していたらしい。お目当ての所を見つけられたようで俺を呼んで手招きしている。一見するとそこら辺にある建物と何ら変わりない気がするが…何やら看板と思しき粘土板が立て掛けてある。何やら書いてあるらしいが全く読めない。ここに来る前にエコークが書いていたアルファベットじゃない方の文字かと思ったが、それでもなかった。あっちは全体的に曲線的でくねくねした文体だったのに対しこちらは全体的に直線的でカクカクしている。何らかの条件によって文字の使い分けでもするのだろうか?


「とーりぁ くぇーすふ、あどぅぉむ。」


ここは『くぇーすふ』というのか。兎に角後ろに付いて中に入ってみると、ここがどこだかすぐに分かった。食堂だ。店のカウンター(?)を隔てて奥の方には調理人と思しき人が何人かせっせと働いている。客も結構いるらしく、中々繁盛しているように見えるな。…あぁ、美味しそうな匂いがする。今朝はもうまともな食事はできないと思ってたがこいつ、わざわざ外食に連れてってくれるなんてめっちゃ良い奴だな。虫食う癖にな。


「でー、にゅーびんす。ゆがでぃむとぅ?」

従業員と思しき男性がこちらに話しかけてきた。注文を聞いているのか?


「ばりぇふ、びしゃく えしょーけ。がしゅす りかー。」

当然俺は話せないので受け答えは全部こいつがすることになる。そしてもしこれが注文だとすると、注文の内容はこいつの独断ということになる。本人には悪いが少しばかり不安である。


それと、『りかー』の時にジェスチャーで親指と人差し指を立てているのが見えた。まさかこれが銃で『ばきゅーん!』だなんて意味じゃあるまいし、状況的に考えると数字だろうか?丁度2人だし、指を二本立てて『~を二人前ー。』みたいな感じで。…ありそう。


「りかー?のぃれすぃぁ でぃくて?」


「やー、でぃくて。」


「ん、ふぃく あーしぇ がぬふ ぃっく。」


そういや、ここの世界のネイティブの会話は初めて聞くんだな。こうして聞くとこいつ、俺に対しては結構ゆっくり話してくれてたらしい。俺の優れたリスニング能力(英検3級)を持ってしても少し聞き取るのに苦労した。


注文が終わったようで向こうのテーブルに座って待っていると、隣の方から野太い声のおっさんが話しかけてきた。


「せー、のーねっとぅ えこーく!」


「おーっ、まるふす? のーねっとぅ!けりゅーあ ぐらずとぅ。」


「へっへっ、だくべんとぅ!ゲハハハハ!」

どうやらエコークの知り合いらしい。見るからに少女とおっさんという、どういう関係だよと言いたくなる構図ではあるが、割とフレンドリーな関係っぽそう。


「でぃっとぅ、のぃれす…たふてぃぁ ろーむ?」


「せーじ。たふてぃぁ せーじ!」

おっさんに俺のことを紹介してくれているのか?


「せーじ?や、えーぎぁ まるふす!いぇぬすな くぇーりゅ!」


「え?あ、あっどうも…」

このおっさんは『マルフス』というのか。言い終わると一方的に握手をしてきた。随分とフレンドリーな奴だ。


エコークとマルフスが暫く話している(俺は蚊帳の外)と、先程頼んだと思われるものが運ばれてきた。


見ると、豆類や肉類が少量入ったスープと、分厚いピザ生地のようなものだった。…なんだ、随分と豪勢じゃないか!町中では食べ方の作法はあるのかと周りを見てみたが、どうやらあまり気にしなくても良いらしい。構わず食べ始めていた。


味に付いては昨日の原始人みたいな食事がゴミに感じる程美味しかった。文明万歳。ただ、元いた世界の食事と比べるとどうしても薄味っぽさは否めない感じがするが、まあそれ位は仕方ないとしておく。


ふとエコークの方を見てみると、やっぱり食事中は何も言わないし、表情すら浮かべていなかった。それこそ会話してる時等はころころ表情が変わって結構面白いのに、何故か食事中は本当に無表情というか無感情。決して不味いとか気分が悪いといった風ではないように見えるが…やっぱりこいつ、味覚が狂っているんだろうか?

次回からオリジナル言語の部分(台詞等)をひらがな表記からローマ字置換の表記に変更したいと思います。

(単にローマ字に置き換えただけなので実際にこの世界で用いられている(という設定の)文字とは表記は異なります。)


「とーりぁ ろーむ?」→「TŌLIA RŌM?」

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