表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

五話目 食中毒と衣服と『あらふぁばぃとぅ』

今これを見ている皆に質問がある。俺は今、何をしてると思う?


…そうだな!今俺は『とんでもない腹痛に見まわれながら草むらで野糞をしている』だな!


あの後普通に朝に起きたんだが、どうやら食あたりにかかったらしい。原因は言うまでもなく昨日の食事のせいだろう。何か腐ったものでも入っていたのだろうか。腹痛だけでなく吐き気も尋常ではない。


すぐさまあいつに体調不良を訴えてトイレは何処かと身振り手振りで訴えると、向こうも理解したのか手を引っ張ってトイレ(『かとぅぱす』というらしい)と思しき場所まで連れてってくれた。問題はそのトイレが草むらの地面に軽く穴を掘っただけ(しかも即席)の糞みたいな代物ってことだ。糞だけにな。


兎に角そんなプライバシーのへったくれもないような大自然便所で苦痛(色んな意味で)に耐えている間、あいつが水を汲んできて湧かそうとしているのが見えた。お湯を用意してくれるってことだろうか。そういや暖炉の火は殆ど消えかけてはいたものの未だに健在だったな。俺が寝ている間長いこと火を見張っていたのかもしれない。


何だか体中の水分を出しきってしまっているかのような感覚に襲われている。倦怠感も凄い。…そういえば、尻を拭く紙…にあたる物ってなんだ?…手の届く範囲には雑草しかないんだが。…大丈夫かこれ?



…結局、何とか雑草で乗り切ったが依然として気持ち悪い。出したものは土をかけて埋めてやった。向こうに戻ると丁度お湯が沸いたらしい。熱しているのとは別の小さな容器に移してもらってやっと喉を潤すことができた。まだ気分は晴れないが、ひとまず落ち着いた。


と、ここであいつが昨日出入りしていたのとは別の方の『くらっぷ』から薄茶色の布のような物を持ってきた。


「せーじー?めらぷるすぃぁ へうぇる?とーりぁ かにぇふ。めーく でぃばー。」

見るとそれは衣服だった。『かにぇふ』って言ったのか?

それで、このタイミングで着がえろって?…別に良いけど、もう少し人を労って欲しい。


見たところ、『かにぇふ』は『くしぇとぅ』と全体的に似ているものの少し構造が違うようで、『くしぇとぅ』は右側面に切れ目があり体に巻いた後、首周りを折り畳んで右肩でピンを留めるのに対し、『かにぇふ』は切れ目がなく短い袖が付いており、下から被るようにするだけで着ることができる。腰に『はりぇんす』という紐を巻くのは共通らしい。


渋々元着ていた制服を脱ぎ、渡された服を着ようと思ったら、下着も脱ぐようにと思しきことを言われた。まじかよ。仕返しに空元気を使ってストリップみたいに脱いでやったが全く反応されなかった。悲しい。


渡された服を着てみると、確かに随分と動きづらかった制服とは違い構造も単純かつ軽くて過ごしやすそうではある。ただ格好としては何だか丈が膝下のワンピースみたいな感じで少し気持ち悪い。材質も少しゴワゴワしてるような気がする。


その後靴(と靴下)も同様に脱がされ、向こうが身につけているのと同じ『ぐりしゅ』を渡された。履き方が分からずまごついていると向こうが結んでくれた。なんか介護されてるみたいだ。


俺の元々着ていた服類はどうするのかと思って見てみると、やたらと不思議そうに眺めた後、こちらに「これ向こうにしまっていい?」みたいなボディランゲージをして『くらっぷ』の中に持っていってしまった。まあ、最悪戻ってこなくても別にいいんだが。


その後、俺が体調回復の為に小屋の中で横になってだらだらしていると、エコークが俺にメモ帳とペンを持って渡してきた。そういや制服のポケットに入りっぱなしだったな。受け取ろうとすると、メモ帳を開いてこっちに見せながら、「とーりぁ ろーむ?」と聞いてきた。それの名前なら昨日教えた筈…もしかして文字のことか?


「とーる、とーる ぱひぇかぷす。」

(…『とーる』?もしかして『とーりぁ』の原形ってところか?となると意味は『これ』?『ぱひぇかぷす』は分からん)

様子を見るに、どうやらそうらしい。確かにこいつは日本語の文字なんて見たことなさそうだ。


「とーりぁ 日本語。にほんご。」


「にほんご?…えっず くでぃす。」

分からないようだな。


ペンで順にあ、い、う、え、おと書いてみると、かなり食いついてきた。日本語に興味があるのか?


「これが、あ、い、う、え、お。あーいーうーえーおー。」


「あーいーうーえーおー?…や、れふとぅ。」

よしよし、興味あるみたいだな。じゃあ軽く五十音順でも書いてやろう。


「…せー、きゅー!きゅー からとぅむ える!」

何か言ってるな。どうやら『し』を指さしているようだが…知っているのに似てる文字があったのか?


「きゅー、とーりぁ きゅー!」

地面に『し』っぽい文字を書いて見せてきた。これが『きゅー』という文字らしい。成る程確かに似ているかもしれない。


俺の知ってる言語で『きゅー』と言えば、数字の『9』かアルファベットの『Q』程度のものだな。試しにメモ帳の端に二つ書いてみた。


「…とぅー!…くぉー?」


まさかの二つとも反応。9が『とぅー』で、Qが『くぉー』なのか?後者だけ自身なさげだったが。


今度はアルファベットを書いてみる。日本語を知らないのはまあ予想通りだったが、これならもしかしたら知っているかもしれない。


「…んー!?…ぷれーす…とーりぁ あらふぁばぃとぅ?」

…えっ、あらふぁばぃとぅ?今『あらふぁばぃとぅ』って言ったのか!?


…これは思わぬ発見だ。どうやら『アルファベット』の文字は『あらふぁばぃとぅ』と呼ぶらしい。どう考えてもアルファベットが訛ったような言い方だ。


「順に、えー、びー、しー、でぃー、いー…?」

心の中で軽く興奮しながら読み方を聞いてみる。


「ぬー。…あー、べー、ちぇー、でー、えー、ふー、げー、はー、いー、よー、かー、るー、まー、なー、おー、ぺー、くぉー、れー、すー、たー、うー、うぃー、…?きー?、やー、ぜー。」


やっぱり!英語の発音ではないがアルファベットの音に殆ど一致している。W?は読めなかったらしいがこいつ、やはりラテン文字自体は知っているっぽいな。


「でぃん、らふさらーしゅ…ぱひぇっく れーしぇ。」


ペンを取られた。何やら書いてくれるらしい。


「…らふさりぁ…あー、ぶー、くー、どぅー、えー、ふー、ぐー、はー、いー、ゆー、きゅー、るー、むー、ぬー、んー、おー、ぷー、れー、ずー、とぅー、うー、うぃー、やー、すー。」


見てみると、何やら文字のようだ。書きながら言っている発音は先程のアルファベットのものと似ているのだが、書かれている文字が全然違う。さっき『し』に似ていると言っていた『きゅー』の文字も見える。並び的には『K』にあたるのか?


うーむ、見れば見るほど変な文字だ。曲線が多くて全体的にくねくねしている。基本的にはこっちが常用されている文字ってことだろうか。でもこんな文字は見たこと無いぞ?

アルファベットが分かると知った時は案外ここが何処か分かるか見当が付くかと思ったんだが、結局謎は深まるばかりになってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ