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三話目 言葉のお勉強『何これ?』

さっきから下降しっぱなしの俺の気持ちを紛らわすため、俺の得意技、トリプルアクセル(半回転)を華麗に決めながら小屋に近づいていくと、彼女はこちらを軽く笑いながら中に入るよう促してくれた。どうやら俺の美技に見惚れたらしいな。


そしていざ小屋の中に入る時、靴を脱いで入ろうとして鼻で笑われちまった。そりゃここは日本じゃないしよく考えたらそりゃそうだよな。でもむかついたから小突いてやったら向こうもサンダルを脱ぐ振りをしてくれた。良い奴だな。


小屋の中は少し下の方へ穴が掘られており、見た目より少し高さはあるといった感じだが、それでも狭い。床には筵のようなものが張ってあり、座り心地はまあ悪くは無かった。家具らしいものは隅に平たい石や植物の茎で編んだらしい布が転がっている程度でかなりすっからかんに見える。

それと奥の壁にはレンガと泥でできた簡素な暖炉が小屋からはみ出るようにして備えつけられているようで、火を起こせばここで暖をとることもできそうだ。


あとそうだ、変な虫に刺された跡を見せるんだったな。


「あのー、これ。…何か分かる?」

Yシャツの袖をまくって腕の刺された部分を見せてみた。さあどうなる?


「…?…ばーる たふしゃるずぃぁ ぱらねる?」


何か聞いてきたな。気付いてないのか?刺された部分を指さしてみる。


「…あー、ばぉーる。ふぃく あーしぇ」

多分通じたっぽいな。立ち上がって小屋の外に出てったが、すぐに小壺を片手に戻ってきた。


腕を見せるよう促してきた後、壺の中に指を突っ込み、ほんのり黄みがかった半透明な液体を指につけて刺された箇所に塗りつけてきた。軟膏か何かだろうが、その液体は妙にベトッとしている。匂いを嗅ぐと独特の甘い香りがした。…もしかしてこれ、蜂蜜か?だとすると結構貴重そうなものじゃないだろうか。…いいのか?


「あ、ありがとうございます」


「んー、えっず らもるす」

…お互いに何言ってんのか分かってないっぽい感じだった。


液体を塗り終え、袖にくっつかないようにする為か何かの植物の葉を腕に貼り付け茎でできた紐で軽く縛って固定すると、彼女は液体の残ってる指を咥えながら壺を片付けに行った。食べ物に関してはばっちい奴め。


「…」


「…」


その後戻ってきたが、互いに言葉が分からないせいで何を喋ってもまともな会話になっていない。これは何か考える必要がありそうだ。様子を見るに、向こうも何か考えているようだな。何か良い案はないものか。


「…せーじす。」

色々考えていると、向こうが何か言ってきた。見ると手に何か持っており、すぐにこちらに見せてきた。


…これは…なんだ?


植物の茎でできたような…繊維的な?それで、糸くずみたいなくしゃくしゃの…一見すると何か物を作り損ねた時にできるゴミのような…ゴミか?


「…何これ?」

思わずこう口にしてしまった。すると次の瞬間、こいつが待ち構えていたかのようにこう言った。


「なにこれ?」


「…は?」

一瞬なにを言ってるのか意味が分からなかったが、だんだんと理解できた。


「なにこれ?…なにこれ?」

見ると、こいつは俺の服を指してこう言ってきた。成る程、そういうことか。


「服。服。これは服。」


「ふく?ふく?…や、ふく。」

単純にこう思った。頭良いなこいつ。


「なにこれ?」

今度は靴を指してきた。それらを真っ先に聞いてくるってことは、俺が着てる学校の制服やら靴やらが珍しいのだろうか。


「靴。これは靴。」


「くず?」

なんか暴言吐かれたみたいな言い間違えだな。若干傷付きそうになったが優しく訂正してやろう。


「靴。くつ。これはくつ。くーつー。」


「くーずー?」

こいつ、頭良いのかポンコツなのかよく分からねえな。


「えっと、違う…ぬー、くつ。く、つ。」


「く、つゅ?…やー、くつゅー」


…もうこれで正解でいいか。



他にも色々聞いてくるのかと思ったが、今度は向こうの方がこう言ってきた。


「なにこれ? とーりぁ ろーむ?」


…ん?…あー、成る程な。多分、こいつが言いたいのは『とーりぁ ろーむ?』が日本語における『なにこれ?』って意味ですよってことだろう。今度は俺が使えってか。凄くありがとうございます。


「よし、じゃあ…とーりあ ろーむ?」

さっきのこいつと同じように、着ているマントを指してみた。どうなる?


「とーりぁ くれーとぅ!」


くれーとぅ!マントは『くれーとぅ』か。これまでの流れから『とーりぁ』は『これは』で大体間違いなさそうだな。じゃあ、その内側の服は?


「とーりあ ろーむ?」

マントを捲って中の服を指してみた。やってみてから気付いたが、もしかしたら失礼なことだったかもしれない。因みにマントの中の服は少し汚れた白色の…古代のギリシャ辺りでよく見るやつ…なんだっけ、キトン?だったかに酷似している。


「…?とーりぁ くれーとぅ。」


あら?どっちも『くれーとぅ』?そんなはずは…?


「…!あーっ、えぐなうぃ。とーりぁ るめーどぅ、とーりぁ くしぇとぅ!」


慌ててるな。どうやらマントの方が『るめーどぅ』キトンぽいのが『くしぇとぅ』と訂正しているらしい。となると、『くれーとぅ』は服全般って感じの意味か?


「とーりあ ろーむ?」

次はサンダルを指してみる。


「とーりぁ ぐりしゅ!」


サンダルは『ぐりしゅ』ね。この調子で行けば色々分かりそうだな!なら向こうも乗り気みたいだし、目に映る物片っ端から聞いていくとするか!

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