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6.ボクサー冒険者ナミ

何とか…

試験試合から30分後、冒険者ギルドの治療室で回復魔法で治療してもらったマークスさんは先ほど弱りっぷりが嘘のように消え、ベットから起き上がって普通に動けるようになった。

魔法すげえな。なんか使う時キラキラしてたし。


「いやー、死ぬかと思ったよ。唯のパンチに見えたから『回避』は使わなかったんだけど、完全な誤算だったね」


そう言って恥ずかしそうにマークスさんは笑ったが『回避』云々ではなくあの試験、マークスさんは全く本気では無かった。

結局『暗器術』は使って無いっぽいし、『魔纏術』もナイフ投げの引き戻しと体に纏った防御にしか使っていない。

さらに、あのナイフ投げは『魔纏術』の弱点を見抜けるかどうかのテストだと思う。

ナイフ投げもパターンのように繰り返し同じ動きしかしていなかった。

意図的に使っていないスキルもあると思う。正直、いくつ駒落ちさせてんのかも分からねえ程だ。

…この人を本気にさせるのはどん位のレベルとスキルがいるのかね。

しかも、この人元Dランクな訳だろ?Aとか一体どういう領域何だろうな。つーか人なのかそいつ等。


元気になったマークスさんに連れられたのは、ギルド本館にある丁度空いた窓口の一つ。

そこでマークスさんに説明されたのは営業所で受けたものと大差ない。

聞きたいのは、マークスさんが言っていた『スキルカード』と『ダンジョン』についてだ。それで『スキル』を憶えることが出来るようになる、みたいな事を言ってたと思う。

という事で、マークスさんにお願いしたら快くOKしてくれた。ギルド職員の人の株価は今俺の中でうなぎ上りだ。是非このままストップ高まで行ってほしい。


「『ダンジョン』って言うのは大まかに2種類あるんだ。1つがダンジョンコアって魔物が居るタイプ。もう一つはダンジョンコアが無くて、ただ魔物が住み着いているだけのタイプだね」


「へぇー、具体的にはどう違うんすか?」


「えっとね、ダンジョンコアがいるタイプの大凡は、ダンジョンそのものを生き物のようにしているんだ。ダンジョンで死んだ一切はダンジョンに一旦吸収され、ダンジョンコアに力の源として還元される。ダンジョンコアは還元された力を使って魔物の召喚、罠の設置などの術を用いて、中に入り込む敵を殺しに来るんだ」


「何でわざわざ入りに行くんすか?別にダンジョンだけに魔物が出てくるって訳じゃなんいすよね?」


「コアのダンジョンには、冒険者をおびき寄せるために宝物をダンジョンに設置しているんだ。魔物の魔石も大きいことが多い。だから、基本的に冒険者がダンジョンに入るのは言ってしまえば自業自得とも言える。だが、危険を冒す代わりに得られる物もそれ相応にデカい!一発当てれば土地を買って、そこに家を建てられるくらいにね」


マークスさんがオーバーアクション気味にダンジョンを熱弁してくれる。

随分と危険そうなところだが、その分リターンもデカそうだ。レベルを上げて十分準備出来れば行ってみたくもある。


「ははぁ、成程。所謂宝探しって奴っすか」


「そうそう、そんな感じだね。で、『スキルカード』なんだけど、そのコア型のダンジョンの宝箱で良く出てくる代物で、それを使うと練習や修行抜きでスキルを覚えることが出来るんだ。スキルにも当たり外れ、流行があるから一概には言えないけど、結構なお金になるよ。ちなみに『読心』は…確か相場で200万くらいかな」


200万!?それって今俺の手持ちの2500倍?

今はとても買う事なんて出来ねえ。普通の宿にも止まることが出来ねえのに。

にしても、スキルは『スキルカード』で覚えるものだったのか。

どうも練習とかでも習得は出来るみたいだが、手早く覚えるなら『スキルカード』を使った方が良さそうだな。高いっつっても、ダンジョンに行けばタダで手に入るんだろ?運が良ければって注釈が付くんだろうが。

…結構いいな、ダンジョン。余裕が出来たら調べて行ってみるか。


「もう一つのダンジョンなんだけど、ダンジョンコアがいないタイプ。こっちはあまり旨みの無いダンジョンなんだ。というのも、コアがないから無限に魔物がわくわけでもないから狩りつくしたら終わりだし、宝物をため込んでいなければ実入りも少ない。正直あまりお勧めできない所だね。この辺で有名なのは、東の草原の地下、ゴブリン帝国ぐらいかな」


ご、ゴブリン帝国っすか…。大丈夫なのかそのダンジョン。

聞いてみた感じ、侵入経路がゴブリンに合わせたミニマムサイズな為身動きが出来ず、周りのゴブリン達からタコ殴りにされるらしい。自分の長所を理解した上で設計している辺り、頭の出来が良い奴が居るのかも知れねえな。

それで非コア型ダンジョン『ゴブリン帝国』は攻略が容易ではなく、ゴブリン自体の脅威度が低い事から今では放置されているんだと。それで良いんかね?


…ま、聞きたいことは聞けたかな。

マークスさんに礼を言うと、「忘れるところだったよ」と一枚のカードをくれた。これがモノホンのギルドカードって奴か。

見た目はプラスチックのような素材で出来たカードだが、この世界にプラスチックが有るとは思えないし、何か別の素材何だろうな。


カードには『G級 ミズシマ ナミ』と書かれていた。ギルドランクはS級からH級の9段階。H級は何年もクエストを受けずに、1日1点引かれるギルドポイントがマイナスになってしまった時用のランクらしい。

なので実質的にランクは8段階、その中でも最低ランクがG級って訳だ。

何にせよ、これで身分証ゲットだ。これで職質にあっても堂々と冒険者ですって言えるな。


このカードを2階の受付で見せれば簡易宿泊所を使えるらしい。荷物とかは全部自己責任だから気をつけろって言われたが、荷物なんて無いし、あってもアイテムボックスに突っ込むだけだしな。

トイレは共同、風呂は無し。おんぼろアパートのような設備構成だが、野宿よりは100倍マシだな。

街の中央に公共の入浴場が有るらしいんだが、当たり前だが有料だそうだ。畜生、今日は風呂抜き決定だな。

最後に色々親切にしてくれたマークスにもう一度礼を言って、俺は窓口から離れた。


窓からギルドの外を見ると、結構時間がたっていたようで夕方になっていた。

あっちの世界で昼飯(牛丼)を食べた切りで腹が減った。折角なので窓口のすぐ横にある酒場的な所で飯を食うとしよう。


酒場のおばちゃんに、手持ちの800レンで適当に腹にたまるモン頼んますと伝えたら、

パンと見た目ホワイトシチューっぽいスープ、あと薄く赤色の突いた水が出て来た。これで丁度800レンなんだが、適正価格なのか?


まぁ食ってみねえと分からねえな。まずはスープを一口。…んー、素材の味を生かす系?不味くないけど調味料不足だなこりゃ。俺だったら固形コンソメを追加で一つ入れて、とろみももう少し強くするかな。

パンはバケットをカットしたものを2切れ分。これは結構旨い。どうやら焼いて出してくれてるみたいで、バリパリとした食感もいいし、この水とよく合う。この水は多分水にワインを垂らした物だな。


そういや『異世界式ボクシング』でマークスさんを気絶させたからか、やたらとレベルが上がったな。

一応ステータスを見ておくか。「ステータス」と呟くと、A4サイズのパソコン画面が頭の中に出て来た。


Φ=====================================Φ

名前:ミズシマ ナミ


年齢/性別:17歳/男性

状態:健康

種族:人族


≪基本能力値≫

LV :16(+15)

HP :134(+124)

MP :82(+80)

攻撃力:94(+86)

防御力:46(+42)

行動力:65(+57)

特殊値:84(+78)


≪オリジナルスキル≫

異世界式ボクシングLV3(+2)

マップLV1

ヘルプ機能LV1


≪ノーマルスキル≫

アイテムボックスLV1


≪称号≫

異世界転移者

ボクサーLV2(+1)


スキルポイント:30

Φ=====================================Φ


おおー、かなり上がってるじゃん俺。たしか、マークスさんの攻撃力95だったと思うから、攻撃力だけで

言えばマークスさんと殆ど同じくらいか。スキルもちょっとだけ上昇している。これって最大いくつまで上がるんだ?

しかもスキルポイントって見たことない項目が有るんだが。『ヘルプ機能』で調べておくか。


▽スキルポイント…スキルレベルを上昇させることの出来るポイント。

       上昇させたいスキルの次レベルと同数のポイントが必要となる。


おおー、これが有ればスキルのレベルが上がるのか。折角だし、試しになんか上げてみるか。

そうだな。まずは『異世界式ボクシング』、次いで『ヘルプ機能』かな。。

『異世界式ボクシング』は今んところオレの持つ一番使うスキルだし、『ヘルプ機能』を上げれば情報面で優位に立てるかもしれねえしな。

えーと、LV2に上げるには2ポイント、LV3に上げるには3ポイントかかんのか。

じゃあ、『異世界式ボクシング』をLV5まで上げて9ポイント消費、『ヘルプ機能』は…同じくLV5まで上げてみるか。ポイントは14消費で合計24ポイント、残り6ポイントは面白そうなスキルを手に入れられたら使ってみっかな。

ええと、どうやって使うんかなこれ。スキルポイントをタッチ…違うみたいだな。

次に『異世界式ボクシング』をタッチ…お、スキルの右に逆三角形みたいなのが出て来た。それをタッチすると4~9の数字。ああ、これを押したらレベル上がるって事ね。

『5』を押してみると、特にアナウンスも無く普通にレベルが上がった。同じように『ヘルプ機能』もLV5に上げる。

OK,これで『異世界式ボクシング』はLV5、『ヘルプ機能』も同じくLV5だ。

『異世界式ボクシング』は後で試すとして、『ヘルプ機能』はどうなったんだ?試しに『ヘルプ機能』に『ヘルプ機能』。


▽ヘルプ機能…発声不要スキル。対象に視界に捉えながらこのスキルを発動すると

      『鑑定LV7』と同等の効果を得られる。


おおー、触る必要が無くなった。しかも『鑑定』のLVも上がっている。

試しにスープに『ヘルプ機能』を使ってみるかね。えーと、視界に捉えて『ヘルプ機能』発動っっと。


▽トパーサスープ(良)…カンパニック剣皇国トパーサ地方の郷土料理。

          『塩牛』の肉のみで味付けを行うのが特徴。


こういった食い物にも問題なく『ヘルプ機能』は使えるみたいだな。

使われている食材であろう『塩牛』や国の名前も気になるが、これ気になると止まらなくなる奴だ。

先に飯を片付けとこう。


そうしてステータスの確認をしながらちょっと早めの夕食を取っている時に、椅子に座るオレの肩に手をのせて来る奴がいた。

振り返ると、俺がギルドに入る時に俺を見てニヤニヤ笑っていた3馬鹿トリオだ。

恐らくリーダー格のガタイの良いハゲを先頭にして、俺を見下したような目つきで見てくる。酒に酔ってるのか少し目が座ってんぞこいつ。

ていうか此奴ら、まだギルドで飲んだくれて居たのかよ。さっさと酔い潰れて帰ればいいのによ。


「よお、ニイちゃん。お前、今日の昼に新しく来たヤツだろ。武器は何使ってんだ?俺には何も持ってないように見えんだけどよぉ、まさか素手ってわけじゃあ無えよなぁ?」


「アンタに関係あんのかよ」


「そりゃ、有るぜ?もし武器も無えような雑魚がこのギルドに蔓延るようになっちまうとギルド全体の格、つまり俺たちの格も下がっちまうってもんよ」


大仰な身振り手振りで周りに見せつけながら煽るハゲ。取り巻きが『ギャハハハハ』と大声で笑っているのが糞耳障りだ。

見た感じそんなに強そうに見えねえんだが、その自信はどっから来るんだよ。

周りの奴らもこいつらには協力はしねえが、ニヤニヤと何人かこちらを馬鹿にするように見てくる奴もいる。

つっても、ここで暴れるのは簡単だが今日はここで宿を取る事になってんだし、もめ事はなるべく避けてえ所だ。

ここはひとつ穏便に済ませて、もう今日は2階で寝ちまうか。

席を立って、ハゲににこやかに笑いかけながら横を通りすぎちまおう。


「や、俺のは格闘術つーか…ボクシングなんで。そんじゃ俺はこれで…」


「あ?なんだそりゃ。お前しか知らない技ってか?ギャハハハ、お笑い種だせこいつぁ。格闘術ごときでそんな大層なもんある訳ねえよ。身の程を弁えやがれってんッブフォオォオア!?」


あ、やべ。あまりのウザさに思わず殴り飛ばしちまった。椅子やテーブルは運良く巻き込まずに済んで良かった。弁償できる金がねえし。

あっちの世界じゃ即お縄になっちまうから易々とは買えねえ喧嘩だが、この世界だとどうもタガが外れがちな気がすんな。自重しねーとだわ。


「いやー、悪ぃな。別に喧嘩するつもりないんで。それじゃ」


「て、てめえ!フザけてんのか!殴って来たのはてめえの方じゃねえか!」


「ちょ、待ちやがれ!それで済ませるつもりかよコラ!」


取り巻き二人がなんか騒いでるが気にしない気にしない。

『ギルド施設内部で過度の暴力行為はギルドカード没収』になっちまうらしいし。…ワンパンくらいなら許されるよね?

喧騒を離れさっさと2階へ…と、思ったんだがなぁ。

何処からともなく飛んできた手斧がおれの目の前の床に突き刺さっている。振り返ると、鼻血をダラダラと流したハゲが鼻息も荒く、血走った眼をオレに向けて来ていた。ああ、完全にキレてんね、アレ。


「表出ろや糞ガキがぁ!」


そう恫喝するように叫ぶと、ハゲはドカドカと椅子を蹴飛ばしながらギルドから出て行ってしまった。外で喧嘩しようってか?


「なあアンタ。ギルドの外でだと喧嘩しても大丈夫なんすか?」


「え?…あ、ああ。ギルドの外に一歩でも出ると、ギルドはもう無関係になるからそりゃ何でも有りだが、兄ちゃん大丈夫なのか?」


「勿論っすよ」と笑って近くにいたおっさんの背中を叩くと何とも言えない顔をされた。

さて、喧嘩はなるべく買うまいと思っていたが、数分後にはもう買っちまってたんだがどういう不幸か。

とはいえ、ハゲはもうこちらを睨みながら外に出て行ってしまった。これで2階にとんずら扱いたら部屋にまで殴り込みかけてきそうだし…。


ふと、先ほど投げつけられた手斧を思い出し、歩く足を止めて目を少しだけつぶる。

この世界は切った張ったが許される世界だ。

決断は、早けりゃ早いほど良いわな。


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