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4.試験試合

また街に入るために長蛇の列に並びなおし、何とか門をくぐり街に入ることが出来た。

門番のおっちゃんは相変わらずのしかめっ面だったけどな。

ま、こうして入れりゃこっちのもんよ。後はギルド本館に行って、モノホンのギルドカードを貰わねぇとな。

なんか試験が有るらしいが、まぁ落ちた時の事を今考えたって無駄ってもんだ。


再び列に並び直した時に聞こえたのだが、この街は『マサヒラ』という名前らしい。

商人たちが多く入って行くのが見えたし、雰囲気も暗くない。そこそこ繁盛してそうな街だ。

なんていうか、ヴェネツィアとかあそこらへんのヨーロッパの街並みって感じだな。まぁ川が町中に流れているわけじゃねぇし、しかもちょっと古風すぎるかもしれない。

街角からダルタニアンとかがひょっこり出てきてきそうだ。


トナちゃんが言うには、門をくぐった後すぐに大通りに出るから、そこをまっすぐ行くと左手側に見えるデカい建物がギルド本館っつってたか。

辺りを眺めながら大通りを歩いて行くと色んな面白い奴らがいた。弓を背負った本物のように動くウサギ耳の姉ちゃんとか、木剣を振り回して遊んでいる角が生えた鬼みたいなガキとか、頭の禿げてるおっさんとかだ。おっさんは割と普通か。

そういう奴らが、大通りに並ぶ様々な店に出入りしている。

ギルド営業所の方だと、鎧やローブに隠れて見えづらかったが、冒険者っつーのもこんな風に多彩なのかね。

ま、難にせよ賑やかで良い街じゃねえか。こういう雰囲気は結構好みだ。


と、そんなことを考えている内に、聞いていたギルド会館と同じような建物が目に入った。

石造りの2階建てが目立つ中、その建物だけが3階建て。軒下にはカフェスペースみたいな所に鎧を着込んだ冒険者っぽい奴らがたむろしている。


早速入ろうと扉を開けようとすると、後頭部に視線を感じて振り返った。

今までカフェスペースで酒を飲みながら談笑してた3人組が、俺を身ながらニヤニヤと笑っている。

…ああ、これは多分アレだ。もう一度外に出たら喧嘩売られるパターンだな。あっちの世界でも何度かあったわこういうの。

俺ってそんなに喧嘩売られる程細くねえと思うんだけど、何なんだろうなこれ。顔付きがナヨってんのかな。

ともかく、ギルドに所属して一日でもめ事はあんまし良くないと思う。今日は出かけるのは控えたほうが良いかもだな。


扉を開き中に入ると、血の匂いが充満していた営業所と違って食いモンの匂いが充満していた。

営業所の様に入口横に受付、入り口より少し離れたところに窓口っぽい所がいくつかあって、そこでいろいろ対応して貰えるって方式は変わら無いみたいだな。

違いと言ったら、どうやら酒場かなんかと待合のスペースを一緒にしているみたいだが、これが中々商売上手なやり口だ。


席に座った以上は何か頼まないといけない気分になるし、この匂いの中何も食べないってのは拷問だ。

冒険者がギルドで稼いだ金をギルドで使う訳だから、ギルドにしてみれば冒険者は優秀なスタッフであり上お得意様でもある訳か。冒険者ギルドってのは中々金を持ってそうな組織だな。


「あのーすいません。ギルド会館に何か御用ですか?」


そんなギルドの金回りを考えていると、入口横の受付から少し困ったように話掛けられた。営業所に続いて2回目、懲りねえな俺も。

受付の人は、くすんだ金髪の人が良さそうなニイちゃんだった。

本を読んでいたらしく、その本のタイトルが「政敵の倒し方:初級編」と書かれている事以外は何処にでもいるニイちゃんだな。選挙に立候補する時には清き一票を入れてやろう。まだ俺未成年だけど。


「仮ギルドカード持ってきました。試験が有るって聞いて来たんすけど」


「ああ、新人さんだったのか!良く来たねぇ、歓迎するよ。仮ギルドカードを貰ってもいいかな?」


入れ物が無いのでそのまま右手に持っていた仮ギルドカードを渡す。

人が良さそうなニイちゃんは、仮ギルドカードを少し読んで「ミズシマ ナミ君」と呟くと小さく頷いて仮ギルドカードを、机の引き出しに直し込んだ。


「折角だから、試験官は僕がヤろうかな。僕の名前はマークス。元Dランク冒険者のギルド職員で、たまに試験官もやってるよ。よろしくね、ナミ君」


そういってニイちゃん…マークスさんが立ち上がると、オレに向かって手を差し出して来た。この世界にも握手って週間が有るみたいだな。握手に答えて手を握ると、その手のひらの皮が滅茶苦茶分厚くなっているのが分かる。

マーカスさん。かなり強いんじゃねえか?

・・・お。そういえば、折角触れているんだし『ヘルプ機能』を使ってみるか。といっても、唯の職員さんなんだしそんなに…


Φ=====================================Φ

名前:マークス・エルター


年齢/性別:27歳/男性

状態:健康

種族:人族


≪基本能力値≫

LV :28

HP :193

MP :60

攻撃力:95

防御力:102

行動力:95

特殊値:144



魔纏術LV7

暗器術LV5

追跡LV5

回避LV5

読心LV3

建築LV4

木細工LV5

耐性:味LV7

耐性:精神LV3


≪称号≫

冒険者LV5

ギルド職員LV3

Dランク冒険者

Φ=====================================Φ


くっそ強えじゃねえかこのニイちゃん!

つーかスキル有りすぎだろ。俺なんかノーマルスキルまだ1つだけだぞ。

そんなことを考えていると、マークスさんが苦笑いを浮かべているのに気が付いた。


「もしかして『鑑定』を使った?なら僕のスキルも分かったかもしれないけど、『読心』は心を読み取ることが出来るスキルなんだ。『読心』を使っている僕が言うのも何だけど、『鑑定』は使っているのがバレると面倒になる可能性もあるから気を着けて欲しい……さて、試験だったね。付いて来て」


そう言って、マークスさんは手で歩く様に促しながら、先導するように歩き始めた。

マークスさんの後ろに付きながら歩いて行く。心を読むことが出来るスキルか…中々に恐ろしいスキルだな。

どんな人がそういうスキルを持っているか分からない。『ヘルプ機能』を人に使うのは程ほどにした方が良いな。


「すんません、軽率でした。別に喧嘩売ってる訳じゃないんで」


「ああ、良いよ良いよ、僕も似たようなものだからさ。結構使っちゃうんだよね、『読心』。現役の冒険者だったころの癖が抜けないんだ」


「すごいスキルですよね、『読心』。どうやって覚えたんすか?」


「『読心』は憶えるのが中々大変だから、『スキルカード』で覚えるのが一般的だね。『ダンジョン』の宝箱からもあんまり出る方じゃないから、かなり高いみたいだけど」


え?え?

『スキルカード』とか『ダンジョン』とか何なんだ?初めて聞いたぞ。

…いやいや、それより今は試験に集中しよう。何すんのか全くわかんねぇけど。

良く分からなかった単語は後で聞けばいいや。

連れて来られた場所は、小さな運動場みてえな所だ。大体教室2コ分くらいか?ギルド会館の床は石畳だったが、ここだけは土を敷いてある。身体測定でもすんのかね。

そんなことを考えていると、俺の前に立ったマークスさんは人のよさそうな顔を引き締め、試験内容を話し始めた。


「えーでは試験の内容だけど、今から僕と戦って貰います。合格基準は僕に一度でもダメージを与える事が出来たら合格です。もし一度も当てられない場合は、戦闘内容から合否を決めます。ナミ君が気絶するか、諦めた場合その場で終了となります」


試験試合って事か。…筆記試験じゃなくて本当に良かった。


「…戦い方に指定ってあるっすか?」


「有りません。どんなスキルを使って貰っても結構です。ただ、魔法でLV5以上が使えたら無条件で合格なのでその時は申告して下さい。一度目の前で使ってもらって確認出来たら合格とします」


「いや、魔法なんて見たことも無いっす」


「え、魔法一回も見たこと無いの?っと、いかんいかん…えっと、武器についてですが、あそこのテーブルの上に模擬戦用の武器を置いてありますのでそれを使って下さい」


マークスさんが指さしたテーブルの上に、刃引きされたり重さを減らされたらしい武器が置いてある。

その中の一つに、革グローブが有ったので手に取る。…お誂え向きにオープンフィンガーか。悪くない。

やや大きかったが、付けてみた感じ特に問題なく使えそうだ。

マーカスさんはオレがグローブ以外の武器を取らないのを少し不思議がっていた。


「ナミ君、武器を選ばなきゃ」


「いや、大丈夫っす。俺一応ボクサー…あー、格闘家なんで」


「え!?か、格闘家?」


何故かマークスさんがオーバーリアクション気味にビックリしている。何だ?格闘家だとなんか試験に問題があるのか?


「ナミ君、知らないみたいだから言っておくけど、『格闘術』ってのは武器を扱う才能が無い人が使うスキルっていうのが冒険者の常識なんだ。だからあんまり、その、評判が良くなくて、馬鹿にされているスキルっていうか…」


は?何だそれ。格闘技馬鹿にされてんの?

…待てよ。さっきの外の連中、もしかしてオレが何の獲物も持っていないのを見てもしかしたら笑っていたんじゃねえか?そういえば、営業所でもさっき見えたギルド本館の中の奴らでエモノを身に着けてない奴は思い出せねえ。

無手だと…格闘家だと馬鹿にされるからか?

ふざけんな! ボクシングの名前を冠してる以上、『異世界式ボクシング』が弱い筈が無い。

…畜生、こいつぁ、世間に証明する必要があんのかもな。ボクシングが最強って所をよ。


「わ、悪いね。気分を悪くしたのなら謝るよ」


「や、マークスさんは一個も悪く無いっす。悪いのはこの世界のだらしねえ格闘家どもだ」


「…そうか。では、そろそろ試験を始めよう」


そうマークスさんが言うと、部屋の中央に少し離れてお互いに向かい合あう。

俺もマークスさんも防具らしい防具は付けていない。マークスさんもスピードを大切にするタイプかな。

オレが言えたことじゃないが、普通の布の服だけってのは如何なんだろうか。

マークスさんの獲物はナイフ、それを中腰で水平に構えている。さっき見たスキルの中に『暗器術』ってのがあった。

暗器ってのは隠し武器って奴だろ?

さっき武器を載せていたテーブル、全く同じナイフが3本あった。投げナイフ用かとも思ったんだが、

そのうちの一本をマーカスさんは迷いなく選んでいたのを考えると、あれは何か仕込みのあるナイフなのかもな。

…さっきどんなスキルでも使って良いって言ってたよな。格上に小手先は通じねえだろうし、ハナから全力でヤらせて貰う。


「『異世界式ボクシング』」


スキルをつぶやいた瞬間、マークスさんはいきなり手に持ったナイフを投擲して来た。

顔に向かって回転しながら向かってくるナイフをダッキングで躱す。マジか、ナイフで躊躇なく顔狙いかよ。容赦ねえな。


俺の手首には光るブレスレッド、拳の上には天使の輪が光を伴って現れた。よし、問題ねえ。

と腕を構えた瞬間、後頭部に『ガツン』と衝撃が走る。考えていたことが丸ごと吹っ飛んだ。

グラつく頭を振ると、いつの間にかマークスさんが俺から1mの所まで接近していた。

その手には何故か先ほど投げたナイフが握られている。俺の後方に取りに行ったような動きはしていない。


さっきの後頭部への一撃は多分、耐えられて2回くらいだ。威力はそうでもないが後頭部ってのがヤベぇ。

マークスさんは少し笑みを浮かべて、だが油断なくこちらを観察している。


そのマークスさんの周りを目を凝らして見てみると、殆ど透明と言っていいほど薄い靄のようなものが漂っている。…これがもしかして『魔纏術』か?

その纏っている靄は、意志があるかのように姿形を変えている。やはりマークスさんが操っているみたいだな。

何だか分からないが、あの靄に組み付かれるのはヤベい。エモノを持っている相手にクリンチで逃げるのは難しいし、一旦距離を取ろう。


ステップバック、サイドステップを織り交ぜ少しずつ後退する。ロープがねえなら大きく円を描きながら逃げるのもそう難しくねえ。

そんで、何度かナイフ投げを観察している内に、さっきなんで俺の後頭部に衝撃が走ったのか分かった。

あのナイフに靄を纏わせてそれをロープ替わりにして引き戻し、ナイフの柄を勢いをつけてオレの後頭部へぶつけたんだ。

あの靄は、透明で伸び縮みする腕のようなモンだ。リーチは最大7,8m程って所か。

何度かジャブを打ち込んでみたが、あの霞に上手く吸収されちまってダメージが通らない。質感はゴムっぽい感じだな。

…だがまあ、作戦は出来た。というか作らされたと言った方が良いか。


いくつかの攻防のあと、またマークスさんがナイフを投擲して来た。

その瞬間、ステップインと同時にダッキングでナイフをかわし、マークスさんの懐に勢いよく飛び込んだ。

その反応に、マークスさんは少し驚いた顔をしている。

あの『魔纏術』はあの靄を使った攻防一体、防具をつけていないのは『魔纏術』で疑似的な鎧を作れるからだろう。

だが、ナイフの引き戻しに靄を使う場合、体の靄が薄くなる。殆ど透明だから確認するのに時間がかかったが何度もナイフ投げを見せられている内に確信した。薄くなる所も決まってボディだ。

この距離と角度に逃げ道はねえ。この薄さでもダメージが入るかどうかわかんねえが、全力で右フックを打ち込む。

拳に何かぶつかった瞬間、『パアァァン!』と何か爆発するかのような音が響くと、マークスさんの体が一瞬空中に浮き上がり、そのまま4、5m程ぶっ飛んでしまった。

地面をゴロゴロと転がりようやく止まると、よろよろとマークスさんが立ちあがり、此方を見るとにっこりと笑った。


「ご、合格です。……ゲフッ」


マークスさんが絞り出すようにそういうと、吐血して再び土の地面に倒れこんた。

…やっぱ、『異世界式ボクシング』って半端ねえな。

つってる場合じゃ無え!治療してもらえる所に連れてかねえとヤバいだろこれ!


≪『マークス・エルダー』を気絶させました。経験値を13500獲得しました≫

≪ミズシマ ナミのレベルが15上昇しました。ステータスが上昇します≫

≪ミズシマ ナミのレベルアップに伴い、スキルポイントが30追加されます≫


いやだから、それどころじゃ無えんだって!

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