【第5話 ダンジョン踏破】
【第5話 ダンジョン踏破】
「えーこちら、現場のグランエルです。突然現れたダンジョンに突入した我々は最深部と思われる扉を発見しました。謎の数字『135』。これを解くことなく扉に入った訳ですが………」
「遊んでないで仕事しろ!」
「ふっざけんな!どう考えても悪化してるだろ!」
なぜ俺が遊び、仕事を放棄したかと言えば雑魚ラッシュが原因だ。
誰だって『135』なんて書いてあったら雑魚を135体倒せば終わると考える。
けど、このゲームは違ったんだ。
「なんで職業持ち135体なんだよ!おかしいだろ!」
そう、特定の敵を指定された数倒すことがクリア条件だ。
ここで誰でも思うであろう疑問に答えよう。
Q.職業持ちじゃない雑魚ゴブリンは?
A.無限湧きでカウントに無関係だよ^^
βテスト時代よりも悪化したとしか言えないこの雑魚ラッシュに文句を言いつつも、戦闘を再開する。
仕事をさぼり、遊んでいたけども、実はMP回復の為の休憩だ。
怒られたのは現場の実況ごっごであって休憩していた事ではない………はず!
「フィン!」
「雑魚はポリゴンが消えてから約5秒後にポップ!最大数は30!」
「職業持ちの方は?」
「同条件で最大数15!」
10分近く戦っていた為、フィンが敵の増える条件と最大数の把握に成功。
とは言っても、無限湧き疑惑が出た瞬間に指示を出していたから出来たことだけどね。
「死んでポリゴンが消えたら………聞け!雑魚は足を攻撃し、動けなくしろ!殺さずに1か所に集めて回復させて生かせ!そうすれば増えない!」
すぐさま全員に指示を出す。
今回のアライアンスのリーダーはアレンだけど、こういった状況では俺が適任だ。
「アレンとフィンは職業持ち相手に時間稼ぎ!サファイアとエドガーで雑魚処理をしろ!」
「「了解!」」
「サファイア!あっちの角にゴブリンを投げて集めるからあまり削るなよ!」
「任せて!」
エドガーがサファイアに方針を伝えると武器をしまい、無手になる。
そのままゴブリンに近付き投げ始める。
あれ柔道の技術とかじゃなくて完璧に筋力に任せた適当投げだな。
「ルビーとトトは雑魚を拘束しろ!」
「そういった魔法無いです」
「どうやって?」
「………ルビーは職業持ちへの攻撃、トトは氷でゴブリンを地面にくっ付けろ。殺すなよ?」
「すみません……」
「やってみる」
理想通りにいかない部分が発生。
これだからやれることが自由なゲームでの作戦指揮は好きになれない。
「シンは安定するまで固まってる雑魚ゴブリンの相手をしろ!被弾してピンチになるくらいなら殺していい!安全第一だ!」
「了解です!………凄いっすね」
「あいつプロゲーマーだからな?」
「え?そうなんですか!?」
「アレン仕事しろや!」
「ありゃりゃ…怒られちゃった。後で詳しく教えてやるよ」
「はい!」
自分の思い通りにいかない部分があるから余計にイライラする。
あれが出来れば、これがあれば、別の……本業の分野との違いが苛立たしい。
「大丈夫ですか?」
若干声色が変わったことに気付いたのか椿が近寄ってくる。
椿は最初の全員に伝えた方針で役割に気付き、何も言わなくても仕事をしていた。
やはり、中身がおっさんなのを除けば完璧な聖女だ。
「問題ない。爆弾が欲しいなって思ってるだけだ」
「………この状況ならかなりのKILL数取れそうですね。世界観が違い過ぎることを除けば」
「自重しなきゃね。………っと、アレン達の回復はポーション使うからそこまで気にしなくていいぞ」
「分かりました。ゴブリンメインで動きますね」
それからしばらくして漸く戦場が安定した。
エドガーが適当に投げたゴブリンが死んだり、後衛に近付こうとしたゴブリンをシンが殺したり、トトが制御に失敗してまとめて殺したりと、そこそこの時間がかかった。
それでも、敵味方合わせて50近くいたのが20近くになったのは大きい。
心理的にも、戦術的な意味でも大きい。
「ゴブリンの氷山、ヒールサークルを添えて………ってか?」
「食べるの?」
「食べな……え?食べれるの?」
「βテストで食べた人いるよ?」
「どうなったの?」
「毒になって死んだ。その後称号で【悪食】を手に入れて、何を食べてもENを回復出来るようになったらしい………食べれるのと美味しいのは別問題だよ?」
「妥当だね……」
現在、俺とトトは食事休憩中だ。
扉の数字を見て油断した為、空腹度が危なくなったのが原因。
雑魚を倒した数を含めると余裕で300超えるからね……。
「そういえばフィンは大丈夫なの?」
「VITが高いとスタミナが高い……高い?多い、スタミナは多いだね。ENの減少速度も若干遅くなるらしい。どれくらい差があるのかはまだ検証中だったかな?」
「へー……グランやばくない?」
「普通にやばいよ?」
「大丈夫なの?」
「まぁ……うん。装備やPS、あとはPTメンバーで補ってるし、割とどうにかなる。生き残ってアイテムを拾うのが役割だからね、変なことしなければLUK特化でも何とかなるんだよ」
「生き残るのが仕事か……他の特化勢ってもっとやばくない?」
「ん?どうだろ?最悪装備で誤魔化せるし、出来ることと出来ない事がはっきりしてる分、動きまで特化するんだよ」
「あー……ステータスに合わせてってことか。どの特化勢が一番大変なの?やっぱりMIN?」
「LUK勢。人間扱いされずに連れ回される」
「……………」
「ダンジョンに連れて行かれ死んだら怒られる。新しい敵が見付かったらレアドロップを回収する為の周回に付き合わされる。モンスターだけじゃなくて採取関係も同じ。βテストの後半はLUK100勢を拘束する部隊とダンジョン捜索部隊に分かれてたレベル」
自分で言っていて悲しくなる。
ロープで縛られてダンジョンまで連行とかは普通だと思えるレベルで色々された。
少しだけ……本当に少しだけ辛い思い出だ。
「辛いな………」
「その代わり中身女の女キャラにちやほやされるし胸とか多少揉んでも怒られないからさ、役得はあったよ」
「俺の同情を返せ」
ひどい扱いをずっと受けていたら誰だって逃げる。
だから、他のプレイヤーはあの手この手で誘惑し、逃げないように拘束する。
意外と美味しい思いを出来るから絶滅はしないんだよな。
「因みにだけどさ」
「うん」
「サファイアのおっぱい、揉んだよ」
「何してんの?」
「手伝うお礼にどう?って言われたから遠慮なくがっつりと……」
「マジで何してんの?」
「個人的にルビーの方を揉みたかった」
「何言ってるの?」
「羨ましい?」
「殺したくなる程度には」
「はっはっはっ、推奨レベル80超えの場所に50レベルで連行されて生き残れればこれくらいの役得はあるぞ」
「そんなPS無いからなぁ……」
俺だってそこまでPSは無い。
それでも、生き残るのに特化したスキルに立ち回りをして、今の地位?を手に入れた。
ヘイト管理と範囲攻撃の見極め、安全地帯の把握など、死ぬ気で頑張れば出来るように誰だってなる。
「さて……そろそろ戦場に戻るか」
「早いね」
「3分で戻ってくるけどな」
「VIT上げろ」
「スタミナ切れを理由に休めなくなるから絶対に嫌だ」
「切実ですね」
「まぁな。じゃ、雑魚は頼んだ」
「あいあい、いってら~」
食事休憩を終え、戦場に戻る。
ちらりと扉を見れば数字は『67』になっている。
これだけの時間と労力を掛けてまだ半分なのかと気が滅入る。
「ダンジョンの最後は死力を尽くした戦いが待っているべき……だったかな?」
このゲームの運営の言葉だ。
数々の罠を抜け、強敵を退けた後にこそ、栄光があるべきらしい。
だからって雑魚ラッシュの強化はやめてほしい。
「ご飯食べ終わったよ~」
「ちょっと安全第一でやりすぎた。そろそろ仕掛けたい」
「ポップ場所の確認も終わっている。出待ちでの狩りは可能だ」
「まっかせてよ~。僕が後ろから陣形壊してあげる」
「陣形じゃなくて敵を倒せよ」
「火力不足です」
「真顔で返事をするな。早く行け」
「行ってきま~す」
前衛組に合流すると、アレンとフィンから指示を伝えられる。
食事中も見てたけど、特に危ない場面無かったし安全第一なのがよく分かる。
「【隠蔽】」
そっとスキルを発動し、敵が固まっている場所に突っ込む。
認識出来ないとは言え、俺に触れられたら解除されるからやや慎重にだ。
まぁ、この程度の相手に後れを取ることは無いけどな。
最低限の知識を持つゴブリンは、こちらの前衛と後衛に分かれた陣形をなんとなく理解し、真似をしている。
だから、後ろに回り込めば俺の低いステータスでも余裕を持って戦える敵しかいない。
「ゴッ…」
魔法を唱えようとしていたゴブリンの喉を掻っ切り、黙らせる。
無視しても死ぬだろうが、他のゴブリンに向かって投げる。
これでゴブリンの後衛部隊は混乱するだろう。
「ギャッ!」
「ゴギャギャ!」
前衛を含め多くのゴブリンがこっちを見る。
誰がどう見ても分かる明確な隙が出来た。
「総指揮官が存在せず、中途半端な知恵を持つ集団程制御し易い物は無い」
小さく呟きながらそっと距離を取る。
多くのゴブリンが俺を襲う為に近付いてくる。
俺達は長時間戦闘の為に安全第一で戦っている。
だから、数が多いゴブリン相手に殲滅するのに時間が掛かっている。
それを自分達の実力と勘違いし、戦線を崩すとどうなるか、答えは簡単だ。
「はっはぁ!隙有りだぁ!」
「AI自体はやっぱり進歩してないですね。【風】ストーム」
エドガーが前衛組をふっ飛ばし、纏まった集団を作る。
そこにルビーの魔法が炸裂し、一気に数が減る。
時間がかかったけど、これで全ての準備が整った。
「ギャッ……」
「g………」
ポップする場所もポップする間隔も全て把握している以上、出待ちするのは簡単だ。
出てきた瞬間から狩り始める。
こちらを認識すると同時に死ぬゴブリン達。
見てて少し楽しい。
「これで後は時間の問題かな?」
「ですね……ここまで多くなければもっと大胆に動けたのですが………」
「βプレイヤーはあの雑魚ラッシュを知ってるからね、異常なまでに警戒するのは当然でしょ」
「あれは……流石の私も苦情を出しました………」
「参加してたプレイヤーで出してない人っているのか?」
βテスト時代最大の悲劇と言われているダンジョンでの雑魚ラッシュ事件。
推奨レベルは80、推奨人数は50人以上とかなり大規模なダンジョンが発見された。
誰もが難易度に相応しいレアアイテムが出ると信じ、最終的には100人ちょっとの集団でダンジョンに挑んだ。
その結果、最大の悲劇と呼ばれる事件が発生した。
当時は分からなかったけど、推奨レベル以上のプレイヤーが多ければ多いほど雑魚ラッシュの量が増える仕様だった。
しかも増加量が半端なく高く設定されていた。
1人当たり300匹前後倒す必要があったと言えばその地獄っぷりが伝わると思う。
「戦闘中にGMコールしてる人もたくさんいましたね」
「戦闘中だからゆっくりと説明する余裕がないから運営も正確に把握出来なくて対応に遅れるって言うね」
「VRじゃなければ戦闘中でもいけたんでしょうけど……」
「たらればにしかならないけどね。まぁ、あの事件があったからかなり緩和されたらしいけどね」
「この数で緩和されたなんてほとんどの人は信じないと思いますよ?」
「前と違って終わりが見えてるってのは大きいと思うよ?ダンジョンで手に入れたアイテムの半分を捨てれば脱出出来る訳だし、悪くは無いかな?口が裂けても良いとは言えないけど」
「ふふっ……ですね」
可愛らしい笑みだ。
これで中身がおっさんじゃなければ……。
どこかに可愛い女の子がいないかな?
特に問題も起きず、無事に扉の数字が0になった。
その瞬間、氷の山に埋もれていた雑魚ゴブリン達は消え、戦闘終了のアナウンスとアイテム、経験値が表示される。
俺はそれを見て、いつも通り目を逸らしたくなった。
「……………ねぇ、グラン」
「どうした?」
「これバグ?」
「いや?雑魚ラッシュなら普通」
「………数おかしいでしょ」
初めて雑魚ラッシュを経験したトトとシンは驚いている。
当然だろう、ほぼ全てのドロップ品が3桁あるんだから。
今まで1桁が普通だったのにいきなり3桁ドロップは誰だって驚く。
それと同時に、自分達がどれだけの数を倒したのか再認識する。
★congratulation――――
《ゴブリンの魔石×346》
《粗末な鉄剣×46》
《粗末な鉄槍×12》
《粗末な木杖×18》
《粗末な弓×4》
《ひび割れた木盾×23》
《武器強化石×449》
《経験値 348623pt》
――――――――――――
はっはっはっ、俺のレアドロップ率は100%だ。
これでしばらくは武器強化に困らないな。
泣きたい。
「とりあえず街に戻って休憩しよう」
「前半の雑魚狩りが無ければまだいけた」
「あれな……まだ足りないのかな?とか言ってずっと狩ってたからな」
「完全な徒労。新顔にトラウマを植え付けることになりましたねって感じ」
アレンと一緒に遠い目をしつつ、長期戦の感想を言う。
うんうん、こうやって辛い戦いを終えれば友情が芽生えるよね……って言う訳無いだろ。
運営に速攻で苦情送るに決まってるだろ。
「掲示板……」
「飯食ってる時に簡易報告したから取り合えず大丈夫。街に戻ったら正式な報告書けばいいでしょ」
「助かる。それじゃ、移動するぞー」
アレンを先頭に、脱出用の魔方陣に乗って出ていく。
ダンジョンの入り口前に転送され、ようやく日の目を見ることが出来た。
巣穴のダンジョンは空気はあるけど、ずっと薄暗かったからね、辛かったよ。
戦闘になんの影響は無くても、暗いとそれだけで不安になるから嫌いだ。
その後、何の問題も無く無事に街に戻ることが出来た。
全員適正レベル以上あるし、ノンアクティブの敵が多いからね。
当然と言えば当然だ。
軽い休憩を兼ねて喫茶店に入り、それぞれ自由に飲み物を頼む。
新顔2人の感想を聞いたり、掲示板に書き込んだり、色々とやったら今日はログアウトかな?
最初に少ないって期待した分、余計にずっしりときたよ……。




