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【第29話 頭の皿は禿の証拠】

今回は2話更新です。

【第29話 頭の皿は禿の証拠】



ギシッ    ギシッ


科学が発達した現代、木造の家に住むのは金持ちの道楽とすら言われる。

それほどまでに科学は発展した。

安価で使いやすく、それでいて安全基準を完璧に満たした素材。

それを使って家を作るのが現代の普通だ。


ギシッ    ギシッ


それなのに、今は木造の古い廊下を歩いている。

歩く度に、木の軋む音が響く。

自分の呼吸音と床の軋む音、それら以外は一切音がしない。


ガタッ


自分以外は誰もいないはずのこの場所で、物音がする。

はっきり言えば異常だ。


『ケケケケケケケケケケ』


全身が緑色の化け物が現れた。

口は黄色く、頭は白い皿のようになっている。

あぁ、と小さく声が漏れる。


「河童か」


『ケケケケケケケケケケ』


不気味な笑い声をあげながら、少しずつこちらに近寄ってくる。

本来であればここで悲鳴をあげるのが正しい反応なのだろう。

けど、俺には悲鳴をあげることができない。


なぜなら―――


「アレン……やっぱり禿げてたのか」


『禿げてねぇ!………あ』


なぜなら河童の正体が分かるからだ。

歩き方、呼吸の癖、目付き、その他色々な物を一瞬で読み取り、味方かどうか判断する。

完全に見た目が違っても一瞬で判断しなければ誤射で仲間を殺すことになる。

VRSでプロになるってのはただ銃を撃つだけじゃなれないんだよ。


『なんで分かったんだ?』


「VRSプロの基準。超一流を馬鹿にするなよ?」


『忘れてた……1番ダメな奴が主人公やってるじゃねぇか』



現在参加中のイベント、【ドキッ!ポロリさせるよ恐怖の館】。

とあるホラー映画とのコラボであり、その舞台となった場所で探索・脱出するのが目的だ。

物語の登場人物達が持っていた・使ったアイテムが関連する場所にある為、それを探索で見付ける。

脱出時に持っていたアイテムの数や取得難易度、取得に掛かった時間や手間などでポイントが加算される。

そしていつも通りポイントと景品を交換だ。


驚かす側は至ってシンプル。

主人公側を驚かせて時間を稼ぐだけ。

自分が稼いだ時間に比例してポイントが増加する。

手段は問わない、とにかく自分の行動で主人公側が足止めされればポイントが手に入る。

だから、今もアレンはポイントが入っている。


余談だけど、八百長でポイントを稼ぐ事は可能だ。

ただ、そこまでして欲しい景品があるのかって言われたら……うん、って感じ。

今回のイベントはお友達と楽しんでね系だからね、景品は物凄くしょぼい。



「映画も原作の小説も読んだけどさ、河童なんて居ないよね?」


『あ?ああ。そこら辺は結構自由っぽくてさ、ぬり壁とかろくろっ首とかも選べるぞ』


「女の子が人面犬になって無理矢理胸を触られても抵抗出来ないってマジ!?」


『この一瞬でそこまでいくとかマジ!?』


「やっべスレに書き込まなきゃ……」


『流石変態しかいない性癖暴露スレの住人……意味が分からん』


動けない、又は抵抗出来ない女性をぐへへへへするのは一般的な性癖だろ?

なんでそこに到らないのかが理解出来ない。


「ムッツリか…」


『違う!お前らがオープン過ぎるだけだ!』


「はぁ……自分に嘘を付いて生きてて楽しい?ここはリアルじゃないんだから解放しろよ」


『いや…それは……』


「はぁ……無いわ―。正体ばれるし自分に嘘付くし禿げてるし、お前もうダメだわ。帰れ帰れ!」


『くっそ………一言だけ言わせろ!』


「禿!」


『禿げてねぇ!これは皿だ!』


「あ、はい。そっすね」


『くそがぁ………』


怒りながらもすごすごと退散していく。

ふっ……完全勝利だな。






アレンを見送りつつ、目的地であるトイレへと向かう。

ギシギシ軋む床を楽しみつつ、周囲への警戒は怠らない。

トイレへ向かう理由は、映画で1人トイレで死んだからだ。

多分だけど、死ぬ直前に持ってた携帯電話がキーアイテムとして置いてあ―――


「っらぁ!」


自分を信じ、半歩下がりつつも拳を突き出す。

イベント中のため、現実と同じくらいの身体能力に落ちているけど、俺自身の聴覚や直感は落ちていない。


だから、障子から出てきた手を殴る事に成功する。


「当たり判定有るんだ…」


『痛いです……』


障子を開け、出てきたのは………シン……かな?

俺が癖を覚えてなくて今回一緒に参加してるのはシンくらいだからシンであってるはず。


「シンか」


『はい……一応、見た目が違うのですが……』


「しゃべり方や歩き方で誰かはある程度分かる。唯一覚えるほど一緒にいなかったのはシンだけだ」


『なるほど………勉強になります』


何を学んだんだろう。

正直に言うと、彼の事はよく分からない。


「ところで……障子からいっぱい手が出るやつ?」


『はい……準備時間中にこのギミック見付けたんで面白そうだなと………』


「なんて名前なの?」


『…………………………すみません』


映画でも手がいっぱい出るシーンはあった。

突然大量に出てくるからな、かなり驚いたよ。

驚いたと同時に、この現象の名前は何か地味に気になった。

が、映画を見終わる頃には忘れてた。

それを今思い出したけど……ダメだった。

またあとで思い出したら調べよう。


「まぁ、分かったら教えてくれ。これ以上ポイントあげる訳にもいかないしじゃあな」


『はい。またあとで』


しっかりと頭を下げるシン。

うんうん、アレンと違って良い子だ。






そのまま縁側を進み、無事にトイレに到着。

後ろを振り返ると既にシンは見えず、何等かのシステムで移動したのだろう。

幽霊や妖怪役がずっとその場で待機してるってシュールだからな。


いつも通り周囲の警戒をしつつ、トイレの扉を開ける。

特に仕掛けは無い……うん、誰もいないしトラップも無い。

面白くないな……運営も何かしらの仕掛けを用意ししておけよな。


予想通り、トイレには携帯電話があった。

やっぱりと思うと同時に、映画を見てない人だと少し分かり難いんじゃとも思った。

まぁ、コラボで興味を持たせるって意味じゃ正解か。


次は台所に向かう。

映画本編では唯一の自殺者が死んだ場所だ。

幽霊や不可思議現象に心が折れて……か、理解出来なくもない。

普通の人があんな状況に巻き込まれて冷静に居られる訳が無いからな。

そう考えると主人公って異常だな。

最初から最後まで冷静に対処するとかどんな人生を送ってたんだろう。


『1枚……2枚……3枚………』


台所に近付くと何やら声が聞こえる。

女性の声で、物凄く悲しそうに何かを数えている。

皿を数える幽霊は知ってるけど、それは中庭的な場所だった気がする。

まぁ、河童が廊下を歩いている家だし、問題無いのか?


『6枚……7枚……8………8…………あぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああああ足りないいいいいいいいい』


発狂してる。

嘘偽りの無いガチな発狂だ。

中身は誰だ?

このレベルの演技出来るとか尊敬するんだけど。


『ああああああグランエル!ちょうどいい所に!』


行きたくない。

誰か分かったから余計に行きたくない。


『プレミアム焼酎が当たる抽選があるの!その応募に1枚足りないのよ……お願い!私の為にお願い!』


やっぱりサファイアか。

プレミアム焼酎……抽選………百年のやつか。

地味に俺も応募したからなぁ……。


「確かに俺は応募用コードを持ってる」


『ほんと!?ありがとう』


「現在6枚だね」


『ありがとう!』


「俺あと2枚で応募出来るんだよ」


『ありがとう!』


「聞いてる?」


『ありがとう!』


今までで一番怖いね。

血走った目で胸倉を掴み、キスが出来る程の距離で望みの言葉を言わせる。

そこらの怪奇現象程度じゃ勝てない程の狂気だよ。


「何口応募したの?」


『5口よ。これが6口目だけど……資金源が………』


「………俺も人の事言えないけどさ、馬鹿だろ」


『お酒を買ってお酒が当たるなんて最高でしょ?だから……』


「で、ルビーに怒られたのか」


『えぇ……カードを没収されたわ………』


βテスト時代でも同じ事があったね。

あの時は確か……別のお酒だったかな?

じゃあ、あの時と同じ対応をしようか。


「1枚でいいの?」


『ありがとう!』


「3時間ね」


『…………………このアバターよね?』


「うん」


『………………………了解』


ふへへへへへへ。

これでサファイアの身体を3時間自由に出来るぜ。

まぁ、アバター体だし、現実の身体じゃないから気軽に貸せるしね。


「んじゃ、これが終わったら1回落ちて送るわ」


『ありがとう!探索の邪魔にならないように引っ込むわ!』


その言葉と共にすぐにいなくなるサファイア。

良くも悪くも欲望に忠実だ。


「俺も人の事言えないか……」


軽い独り言を言いつつ、辺りを探索する。

すぐに目当ての包丁が見付かった。

包丁で自殺か……VRの中で何度か経験があるけど痛いんだよね。

現実でやる気は起こらないな。






残るアイテムは2つ……だと思う。

登場人物が4人で、1人1つだと予想しているからだ。

まぁ、主人公だけ2つ有る可能性もあるけどね。


次に向かうは人形部屋。

本来は別の名前と用途があるんだろうけど、映画の中では人形がたくさんあるだけだったから人形部屋だ。

多分、ここが本命の場所。

ヒロインが死にかけた場所であり、主人公が初めて幽霊に勝った場所。

ここから脱出に向けて本格的な行動を始めたから、絶対に何かある。


そして、現状見付けていない人物が3人。

トト、ルビー、エドガーだ。

フィンは安定のホラーが無理だと逃げ、椿も可愛い女の子を装い逃げた。

中身おっさんが怖いのは苦手ですって媚びてるのはちょっと面白かったね。


サファイアは今後邪魔をしてこない。

早く応募したいって邪な考えがあるから絶対にない。

アレンは……河童以外になれるなら再度の登場があるかもしれない。

シンは………………分からん。

うん、こいつらは特に気にしなくて良いな。


そんな事を考えていると、無事に人形部屋に辿りついた。

映画を見て思ったけど、この家は絶対に屋敷レベルの大きさだ。

個人が有していていいのか?


部屋に入る為に襖を開け……開け………開かない!

とりあえず蹴ってみたけど、開かない。

何でだ?

何かしらのフラグを回収してないとか?


映画を思い出す……が、何も情報が出てこない。

いや、入る場所が違うとか?

映画本編では今入ろうとした場所から入っていない。

一応確認の為に反対側まで移動する。


開いた。

凄い普通に開いた。

あっさり開いたから逆に驚いた。






と、同時に大量の人形がこちらを向いていたのにも驚いた。

これは……3桁あると言われても信じる程の大小様々な人形がこちらを見ている。

いや、見ていると言う表現は正しいのか?

人形に意思など無い。

1つしか無い出入り口に誰かが向けただけのはずだ。

それなのに、人が見ていると錯覚するほどの圧力を感じる。


「これは流石の俺でも驚くね」


『くすくすくすくす』


「演技の練習した方が良い程の下手な笑い方だね」


『…………………………』


部屋の中央には1m程の日本人形と見間違う人物がいた。

他の人形と違って呼吸をしていたからすぐに中身が居ることに気付けたけど……普通に可愛いな。

座敷童子……でいいのかな?

これは持って帰りたい。


「その反応で誰かすぐに分かる」


『面白くありません』


「そう言われても困るんだけど……」


『もう少し怖がるとか……色々あるじゃないですか!』


ルビーが腕をぶんぶん振りまわしながら怒る。

小さい子供の癇癪みたいで、とても可愛い。

お持ち帰りしたい。


「座敷童子でいいの?」


『はい。他のはちょっと可愛くなかったので……』


「お持ち帰りしていいの?」


『はい?』


「セクハラしていい?」


『ダメです』


「俺から逃げれると?」


『通報しますよ?』


「…………例え負けると分かっていても、男には立ち上がらなければいけない時がある」


『今じゃないです』


どうすればいい……。

この物凄く可愛い女の子と遊びたい。

この欲望を開放するには……何も思い付か………あ。


「サファイアの財布」


『ご迷惑をお掛けして申し訳ありません』


見事な土下座だ。

あの姉を制御する妹だからな……色々苦労してるんだろう。

うんうん、その気持ちは分かるよ。

けど、遠慮はしない。


「くんかくんかペロペロ」


『………ペロペロはダメです』


「後ろから抱き締める」


『……………服の中に手を入れなければ』


「いただきまーす」


『今ですか!?』


探索なんて後からだ!

今はこの可愛い女の子とぐへへへへへへ。





作者の頭がおかしいってマジ!?

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