【第2話 合流と公開】
【第2話 合流と公開】
全プレイヤーが最初にログインする街、アジン。
なんでもロシア語の数字を日本語読みそのままらしい。
なんでロシア語なのかは知らない。
プレイヤーからは地味に発音し難いと言われている。
アジンの街の噴水広場に到着。
復活ポイントを設定していない場合と、街間の転移装置を使わない転移を使った場合はここに現れる。
本サービス開始してすぐのため、かなりの人で溢れている。
とは言っても、βテストに参加していたプレイヤーは既に街の外に向かって移動したり、それぞれの生産施設に移動したりと活動している。
ここにいるのは待ち合わせか本サービス開始組だろう。
ちなみに、β組はチュートリアルを飛ばすことが可能だ。
飛ばした場合は、経験値とクリアアイテムを貰うことが出来る。
その結果、最初から10レベルスタートで多少のお金を持った状態になる。
そして現在の俺のステータスがこちら。
【名前】グランエル
【種族】人間
【職業】盗賊
【性別】男
【レベル】10
【ステータス】
HP:280
MP:280
EN:100%
ATK:35
DEF:28
STR:27
VIT:0
DEX:63
AGI:90
INT:0
MIN:27
LUK:100
残ポイント:0pt
【スキル】
短剣:Lv2
盗む:Lv1
隠蔽:Lv5
体術:Lv5
残ポイント:0pt
我ながらひどいステータスだ。
スキルが真面目な為、辛うじてPS次第かな……と言えるが、それだけだ。
俺と同じLUK特化勢はどれくらい生き残っているのだろうか……。
β版をプレイしていた友達と合流し、掲示板を漁りつつもう1人の友人を待つ。
一応全員が揃ってからステータスはお披露目と言うことで、最後の1人がどんなビルドをするのか楽しみだ。
それ以上に俺のステータスを知った時の反応が楽しみだ。
しばらくして、最後の1人が現れる。
チュートリアルを丁寧にやっていたのか、他の人たちよりも結構遅かった。
「おっす」
「遅かったな」
「色々と確認していたからね……君達、バランス悪くない?」
指摘通り、俺達のバランスはかなり悪い。
俺の身長は150cmに設定されている為、かなり小さい。
それに対し、横に居る友達は最大身長である200cm。
大人と子供、巨人と小人だ。
「自己紹介も兼ねてそこの部分を説明しよう。そのあと、ゲームの説明をして今後の予定決め。それくらいの時間掛ければ最初のフィールドも落ち着くだろ」
「異議なし。誰から?」
「俺から」
そう言って、他のメンバーとやや離れ、全体像が見えるようにする。
「名前はいつも通りグランエル。種族は人間で職業は盗賊。斥候をメインにする予定だ。この身体が小さい理由はクリティカル特化の戦法を使う為、周りにばれにくい小さい身体が必要だったから。細かいステータスやスキルは最後に全員に同時公開でよろしく」
優雅とは程遠いお辞儀をした後、装備のお披露目をする。
初期装備の茶色い革の鎧に腰に提げた短剣、くすんだ緑色の布のズボンだ。
斥候だから目立たないようにと全体的に地味な色で固めてある。
「クリティカル特化か。かっこいいな」
「ふっふっふっ………何も知らないとこうも面白い反応を返してくれて嬉しいよ」
「?どういう意味?」
「あとでステータスを見れば分かる」
「クリティカル特化……実態を知ると悲しくなるな。次は俺だ」
俺が元の位置に戻るのと入れ替わるように200cmの巨体が移動する。
筋肉ムキムキで赤い短髪、短いながらも存在感のある赤い髭が特徴だ。
「俺の名前もいつも通りフィンだ。種族はドワーフで職業は戦士。タンクをメインにする予定だ。β時代の検証で同じステータス、同じ武器や防具でも体格でATKやDEFに差が出ることが分かっている。その為、こうやって大きくて筋肉ムキムキのキャラエディをした訳だ。まぁ、その分遅いんだけどな」
軽い溜息をついた後、装備のお披露目をする。
とは言っても、身の丈ほどある大きな盾に腰に提げた長剣以外は俺とほぼ同じだ。
若干色が違うくらいしか初期装備に差は無い。
「え?体格でも差が出来るの?」
「出来るぞ?俺は小さい分スタミナが無いけど早く動ける」
「まぁお前は………中肉中背、可もなく不可もなくって感じだな。多分だけど隠しステータスはプラマイ0だろ」
「なんか微妙に損した気分だな……」
そう言いつつ、場所を交代する。
身長はフィンよりも小さく、俺よりも大きい。
多分だけど170cmくらいだろう。
現実と同じ大きさだと、身体を現実と同じ感覚で動かせるってメリットがあるから一概に否定出来ない。
「最後だな。名前はトト、いつもと一緒だ。種族はエルフで職業は魔法使い。現状だと俺がメインアタッカーになるのかな?見た目は……エルフの魔法使いっぽい感じを目指してやや細めの優男っぽい感じにした。色はグランと被って、髪型はフィンと被るって言うかなり悲しい結果になったけどな」
本人は被ったと言っているが、特に被った気はしない。
俺はやや青味が掛かった銀髪で、トトは完全な銀色、同じ銀髪でもちゃんと見れば違いが分かる。
「フィンと髪型が被ったって言うけどさ、こいつは髭が目立つから同じって気付き難いでしょ」
「それが唯一の救いかな?」
「色が違うから受ける印象も違うだろ。……それよりもステータスだ」
「ふっふっふっ」
「さっきも言ってたけど器用特化とかじゃないの?何をそんな笑ってるの?」
「仕様を知らないとそういう反応になるよな……せーので見せるぞ、いいな?」
「おーけー」
「「「せーのっ」」」
【名前】フィン
【種族】ドワーフ
【職業】戦士
【性別】男
【レベル】10
【ステータス】
HP:390
MP:190
EN:100%
ATK:127
DEF:156
STR:77
VIT:100
DEX:36
AGI:10
INT:18
MIN:36
LUK:10
【スキル】
長剣:Lv5
体術:Lv5
大盾術:Lv4
【名前】トト
【種族】エルフ
【職業】魔法使い
【性別】男
【レベル】10
【ステータス】
HP:190
MP:370
EN:100%
ATK:106
DEF:39
STR:18
VIT:18
DEX:42
AGI:72
INT:129
MIN:18
LUK:10
【スキル】
氷魔法:Lv3
雷魔法:Lv3
闇魔法:Lv3
魔法操作:Lv1
「誰から突っ込む?」
「グランだろ。トトに説明する必要がある」
「それもそうだな。じゃあ、お前らのステータスはちょっと消すかどけるかしておいて」
改めて、全員に見易いように俺のステータスを公開する。
「まず、他の2人と比べてHPとMPは中間だ。真逆とは言え、2人とも補正が入ってるからな、ここは問題ないな?」
「うん」
フィンはしっかりと確認した後、軽く笑っている。
トトは何かがおかしいことに気付きつつもしっかりと説明を聞いている。
「で、ATKとDEFだ。ATKは理論上出せる最大攻撃力が表示され、DEFは理論上での平均防御力が表示される」
「理論上?」
「理論上。どんなに頑張ってもここに表示されている以上の攻撃力は出せないんだよ。逆に言えばこれより小さい、つまりは手加減は可能ってこと。DEFに関して言えば、盾や鎧の部分と何も装備していない顔面が同じ防御力なのはおかしいだろ?だから全体を平均した数値になる。あくまで理論上だけどね」
「なるほどね。低くない?」
「ATKは関係するSTRとINTにほぼ振ってないから、DEFはVITが0でMINにほぼ振ってないからだね」
「低火力低耐久のゴミってこと?」
ひどい言われようだ。
補助特化だったり、サポート専用キャラとか別の言い方があるだろ。
「クリティカル特化って言ったよな?このゲームの確率は一部を除き0%で固定なんだよ」
「え?は?」
「クリティカル率やレアドロップ率は0%で固定。デバフ率や装備破損確率は100%で固定」
「クソゲー?………あ、ここでLUKが出てくるのか」
「正解。LUKが10ならレア泥率は10%、デバフ率は90%になる。俺のLUKは100だから、確定クリティカルの確定レア泥になる」
「やばくない?え?バランス壊れてない?」
「クリティカルはダメージが3倍になる。が、ATKが低すぎる為そもそもダメージを与えれないんだよ」
トトが良い感じに騙されてるところにフィンがネタばらしをする。
もう少し踊ってて欲しかったんだけどな……。
「………つまり?」
「弱点や柔らかい部分に攻撃しないとダメージを与えれないから大変。てか、DPSがかなり下がる」
「βテストの時に全身鎧の敵がいたけど、そいつ相手に何も出来ない置物になってたな」
さっきまでのわくわくキラキラした顔がトトから消える。
自分も同じようにステ振りするか考えた瞬間に落とされたからな、気持ちは分かる。
「更に追い打ちを掛けると、初期ステを全てLUKに振った分ステータスが全体的に低い。レア泥狙いで行きたくても貧弱過ぎて戦えないって言うね」
「うわぁ………足手纏いじゃん」
「そうでもないぞ?確定クリティカルだから、弱点に弱点属性武器で攻撃出来るPSがあればそこそこの活躍は出来る。βテスト時代に一応戦果を出してたぞ」
「え?βの時からそれやってたの?」
「うん。てか、レア泥率100%だからさ、上位陣には一定の需要があるんだよ。俺は回避にかなり振ってるから自衛も出来るし、アイテム係ならやれる。役割に空きがあれば呼ばれることもあるんだよ」
「6人で10%前後を延々と狙うか5人で確定ドロップを6回やるか。どちらがいいかって話だ」
「あー……それ好みが分かれるな」
他にも、レア泥が納品アイテムの場合なんかはよく声が掛かる。
LUKが70とか80の場合と違い、確定で落とすから出ていないなんて嘘をついて誤魔化すことも出来ない。
100まで振ってるプレイヤーは需要があるのだ。
「んで、スキルは最低限戦えるようにと短剣。他は生き残ること優先で体術と隠蔽だね」
「説明ください」
「短剣は武器スキルが使用可能になる。盗むは自身のレベル×盗むのレベルの相手までならアイテムを確率で盗める。隠蔽は……ステータスや物、自身の気配なんかを隠せるようになる。戦闘で使えば狙われ難くなるってことだ。最後の体術は身体を動かすこと全般に使われるスキルで近接職必須と言われてる」
「必須レベルなの?」
「体捌きや回避運動など体術を持ってるとスムーズに行えるようになる。高レベルになれば漫画みたいな動きも可能になるぞ」
合間合間にフィンが補足してくれるから楽だな。
流石頼れるメイン盾だ。
「最終的なまとめに入ると、戦闘よりも採取やレア泥などの収集メイン、調達屋になるかな?需要はあるけど攻略には呼ばれない、そんなのが俺だ」
さわやかな笑顔を意識しつつ、軽く手を挙げる。
フィンの軽い溜息とトトの苦笑いが返ってきた……ちょっと悲しい。
「あー…俺は個性の無い平均的なタンクだ。説明いらないだろ」
俺がステータスを消しつつ、次の説明を促すと拒否された。
「大盾についての説明は必要だろ」
「あぁ……大盾はドワーフの固有スキルに近い物だ。エルフと一部の獣人は取得不可で、人間は戦士の上位職業である騎士にならないと取れない」
「固有スキルなんてあるのか」
「人間以外にはあるぞ。人間は種族補正を自由に設定できる代わりに固有スキルが存在しない。エルフなら確か精霊術だったはず」
これが人間を選んだ場合のデメリットだ。
種族補正を自由に設定できるということは、いらないステータスを捨てて欲しいステータスのみを伸ばすことが可能になる。
ステータスが高くてもかなり強いスキルは取れない。
今後強力なスキルが登場すると話は変わるけど、β時代ではバランスが取れていたシステムだ。
「へー………探すか」
「人間の俺は無関係だからな、頑張れ」
「おうよ。最後は俺のステータスか……」
トトのステータスが再度公開される。
これの説明は難しいと言うかめんどくさいと言うか……。
「どっちが説明する?」
「めんどくさいから頼んでいい?」
「あいよ」
俺とフィンの会話をキョトンとした顔で聞いているトト。
これは完全なミスでやり直し案件なんだよな。
「まず、ステータスは特に問題ない。INTメインに回避用のAGIと命中用のDEXに振り分ける、無難な割り振りだ。一言で言えばスキルに問題がある。まず氷・雷・闇魔法を取得した理由を述べよ」
「個人的にデバフを考えた結果かな?何か問題あるの?」
「デバフメインか……一応それなら許せるのか?微妙じゃない?」
「序盤はきついけどまぁ、許せるな」
「説明はよ。意味が分からん」
「まず氷、物質を作る関係で物理ダメージに判定される。だから、レイスやゴーストなどの非物質タイプの敵には攻撃が当たらない。また、物理判定な為、カウンタースキルでタンクが跳ね返してくる。この弱点は土も一緒だけどね。その為、火力はやや高いけど汎用性が低い事、PVPで不利になる事から氷と土は不人気」
「マジか。氷で足止めとかは?」
「物理なのでSTRで突破可能です」
どれくらい差が必要かは詳しく分かってないけど、β時代に力でゴリ押しが可能と判定された。
窒息死や装備に付着させてスピードを殺したりは出来るけど、そんなことしてる暇があるなら攻撃しろって言われてる。
「次に雷、これが3種類の中で1番の問題。雷はほぼ全て範囲攻撃になるので味方が死にます」
「………マジ?」
「マジ。対策はあるけどお前はそれをしてないからマジでやばい。使ったら……フィンは耐えるかもしれないけど俺は確定で死ぬ」
「マジか………封印安定?」
「安定。最後の闇は火力技が10だっけ?それくらいいくまで出ないからサポート専用とまで言われてるんだよ。だから、実質攻撃に使えるのは氷のみ」
「3種類取って1種類しか使えないとか………ミスった感半端ないな」
軽く落ち込んでいるようだけど、ここからが本番だ。
「最後に、魔法操作だ。ぶっちゃけこれだけで殺意が沸くレベル」
「え?そんなにやばいの?これ地雷スキルとか?」
「逆なんですよ……。必須スキルの1つで、これが高レベル無いと地雷とまで言われる。魔法操作は文字通り魔法を自由に操作できるようになる。これが高ければ高いほど、自由に操作可能で、範囲魔法を集束させて高火力単体魔法に変えたり、単体魔法を拡散させたりと応用がかなり出来るんだよ」
「テンプレには魔法操作を5まで上げて他の魔法を2か3まで取るって書かれてる」
「で、さっき言った雷魔法の対策がこれ。味方を避けて敵のみに当てる芸当が出来るようになる」
「やっべぇ……」
「更に追い打ちを掛けますと、単体魔法が強い火、水、風、土の何れかに特化してる場合は取らなくてもいいと言われています」
「どれも持ってません!ごめんなさい!」
トトが頭を下げて謝る。
「謝る必要はないぞ。ぶっちゃけ俺も許されないレベルだからな」
「そう言えばそうじゃん。謝って損した、謝って」
一瞬で切り返してくる。
絶対に許さないからなお前。
「嫌です。ちゃんと調べなかったのは君です」
「それもそうだね。とりあえず………しばらくは氷のみ使用?」
「雷ぶっぱからの俺が前衛に移動も可能だな」
「範囲外に最初いればいいだけだからね。運用次第じゃ俺もお前も問題ないし」
「そこまで焦らなくてもいいのかよ。焦って損した」
「一応なんとかなるけど知っててもらわなきゃ困るから大袈裟に話しただけだよ。あぁ、システム関係も軽く説明する必要があるのか。説明するからメニュー開け」
全員でメニューを開く。
この設定がこのゲームにおいて生死の境を決めると言っても過言ではない。
成人指定のゲームでの設定と言えば何となくは分かると思うけどな…。
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