「12歳-好きな色は赤、-」
恐ろしい裾野さんに初仕事でド緊張な菅野。
果たして上手くいくのだろうか……?
ここで新たな出会いが……。
※5,600字程度です。
※思い出しながら話します。
2007年5月中旬
藍竜組付属中学校1年C組
菅野
俺は苦手な下ネタの飛び交う10人と一緒に居ったんやけど、いい加減聞いていらへんくなってこの時には離脱していたんや。
ほんでしばらくフラフラしとったら、同じクラスの活発そうな男女5人組に今度は捕まって一緒に居る感じになったで。
せやけどそいつらは全然汚い言葉を言わへんし、むしろスポーツの話題で盛り上がれるめっちゃええ奴らやってん。せやから……俺が槍術をやっていたことを言うと、目を輝かせていたんやで。
――間違っても優勝したことは言えへんかったけど。
その中に……あ~これはまた今度! 終わり終わり!
成績は勿論、ほぼビリやで。せやけど体育はダントツ1位やし、しかも学年で1位やで!
あとは家庭科の裁縫だけは1位やったな。いつもオトンと自分の服を縫ったり、直したりしてたからかもしれへんけどな。せやな、料理に関しては聞かへん方がええで。
今は放課後で、机を囲んで6人で部活までの時間潰しって感じやな。
俺は裾野に言いつけられたせいで入ってへんけど、5人はそれぞれ陸上、テニス、水泳、柔道、バトミントンをやってるんやで。ほんま羨ましいわ~。
話題の中心がここ最近スポーツよりも、相棒の裾野のことの方が多いのは何でやろう……?
「菅野の相棒が裾野さんって聞いたけど、それって本当?」
テニス部の田後は部活の割に白くて細い男子や。だってテニス部って黒いイメージ強ない?
「せやけど、何で裾野のことを聞くん?」
俺が5人の顔を見回すと、全員うつむいてしまう。一体何が俺の周りで起こってるん……?
そこで5人のオーラを見てみたんやけど、不安の色が色濃く出てきて1人で怖なった思い出もあるで。
そしたら5人は一斉に時間を見て、ほっと一息ついたんや。
「いや、何でもないよ! ほら皆、部活の時間だよ!」
テニス部の田後は笑顔で言うと、4人も救われたような顔で俺に手を振る。
その時やった。教室のドアがゆっくり開いて、見覚えのある小男が心配そうに入ってきたんや。
「菅野……くん。」
そのか細い声を聞くや否や、5人はそそくさと出て行ってしまってん。
「鳩村はん、どないしたん? あ、メールで送るわ。」
と、俺が携帯片手に鳩村はんに近づくと、銀もやしは胸の前で手を振ってきてん。
「いいよ……。」
鳩村はんがそう言うと、事前に打ってきたのか画面を見せてくれはった。
『今までに無いのだけど、菅野くんには仕事をしてもらうことになったんだ。もちろん、裾野くんも一緒だよ。そこで急なのだけど、今から部屋に戻って欲しいんだ。』
俺が読み終えると、鳩村はんは去り際にボソッと「メール何件送っても気づかないんだもの……」言うてて、めっちゃ苦笑いしてしまってん。早速見たら10件同じ内容のが来てたで……ほんまごめんな。
数分後……
藍竜組 裾野&菅野の部屋
菅野
俺が部屋に戻ると裾野はもう仕事着に着替えていたんやけど、俺はまだ仕事着を貰ってへんかった。
皆と違って俺はまだ殺し屋としては1年目やし、制服授与の実技試験があるんやけど、それもまだ調整中になっとるし、ほんま異例なんやな思ったで。
「裾野、俺制服持ってへんで?」
ベッドの上で胡坐をかいて刀の具合を見ている裾野に話しかけると、
「うん。俺が買った服でいいから。」
なんて素っ気ないこと言うから、「……学校で噂が流れてるらしいやんか」と呟くと、裾野は剣を鞘に入れて無表情で俺の頭をくしゃっと撫でてん。ほんま好きやな……。
「何の噂?」
裾野は目深に被っているせいかいつもより眼の光がキツい。鳩村はんが傍にいるんやから絶対知ってる筈やのに、この言い方なんやな……。きっと適当なことを言うたらあの5人に何かが……。
俺はそう思うと黙ってしまってん。
すると裾野はフッと鼻で笑って、新品の槍を差し出したんや。
「お前の武器。重さ5kgの比較的扱いやすい槍だ。持ってみて。」
そう促されて持ってみれば、鍛錬のせいか5kgは重く感じなかったんや。
競技用が2kgやから、そこまで変わらんのかもしれへんけど。
色は赤。長さも俺の身長に合わせて、なるべく短いものにしているみたいやな。
俺は模造紙を入れる筒に入れながら、
「……ありがとう。」
と、見上げて言うと裾野はすぐに視線を逸らしてん。どないしたんかな?
「ん? うん。菅野、時間が無いから早く着替えて。」
「うん。」
俺がすぐにその場で着替え始めると、裾野は俺にそっと背を向けたんや。
何でなんやろ……? 同性でも気を使わなあかんの?
「着替え終わったで。」
って言うたけど、俺は少しキレ気味やったから、実は下だけしか着替えてない状態で言うてみたんや。そしたら、何も知らん裾野はバッと振り向いて、
「そうか、行こう。……は?……上は? 流石に風邪、引くよ……?」
俺の状態を見た後は、帽子で表情を隠していたからようわからんかったけど、多分サプライズ成功やな。
「はいはい。」
俺はしたり顔で裾野の方を横目で見るだけにしてやったで。
今なら後ろからほっぺをぐいっとしてやりたいんやけどな。
しっかり着替え終えた後は、裾野の車で移動することになったんやけど、車の免許は騅に聞いた限り18歳らしいやんか。でもこの業界では15で取れるんやで。ちなみにバイクもそのくらいやったかな。
駐車場は校庭の反対側にあるんやで。狛犬とかある方と逆ってことや。
裾野の車は青と白の丸いロゴの車が大好きやねんけど、この時乗ってたのが青のZ4やったっけかな。
「乗って。2人乗りだから一択だけどね。」
そう笑顔で言うて乗り込む裾野。両隣は誰がどう見ても安そうな車が止まっているだけに、裾野のは高く見えるんや……。これに勝手に乗ってぶつけたらキレられそうやな。
「これなんぼしたん?」
俺が助手席に座って中間にあるレバーに手をかけて言うと、裾野は息をのんでその手をバッと払いのけて、
「870万だったかな。あとこのレバーには触らないでほしい。車が壊れるから。」
と、若干焦って言うからほんまに危ないところやったんやな、と思いながらも自分は手慣れたように操るから、自分以外は嫌なんやろうなとしか思ってへんかったで。
ちなみに今でも俺にはわからんことや。
ゆっくり発進すると、裾野は今日の仕事についてやっと話してくれたんやで。やっと。
「今日の仕事はいたって単純。俺の知り合いからの仕事で、警察で殺すのは面倒だから任せたと言われた。対象は10人だけど、全員前科者で年齢は平均20歳。職業は全員暴力団構成員。社会の敵だから殺りやすいだろう?」
運転に集中しているせいか全く目を合わさへん裾野やけど、殺し屋の知り合いが警察ってなんやろ……。
俺は無言でうつむいていてん。だっていくら社会の敵言うても……人は人。それは丁度今日の道徳で習ったばかりやってん。
習う前ならよかった気がする……そういう問題とちゃうな。
せやけど、仕事せんかったら俺は追い出されるんやろ?
ただでさえ裾野には過去を勝手に探って怒られたばかりやし……。
すると頭にポンと手を置いて、
「菅野?」
と、裾野が心配そうに顔を覗き込んでるから、きょろきょろ周りを見渡すと景色も動かへんし、車もエンジンが切れてるし、いつの間に着いてたんやな。よく不良が居そうな古い倉庫前に。
「大丈夫や! 行こ行こ。」
と、そそくさと車を出ようとする俺の腕を掴んで、
「俺がまず9人を倒す。それまでに菅野はボスの居るところまで物陰を使いながら走って、背後に回れたら俺が殺し終える前にボスを殺して。あくまでも2人居ると思われないように。本当なら裏口があればいいのだけど、残念ながら無いから。じゃ、頼んだよ。」
というと、裾野は掴んでいた手を離し、先に入って行ってん。
色々突っ込みどころ満載やのに、先に行きやがって……と、思いつつも裾野に習った隠密術で気配を消して物陰に隠れつつ、移動していったんや。
たしか、”アサシン”って言うてたな。
その過程で見えるのは、涼しい顔で一斉に斬りかかる9人を下している裾野の姿。
前科者の9人はどう見ても裾野よりも年上で、ガタイもええのに……裾野が強すぎるんや。
ほんで俺が背後に回った時が丁度殺し終えた時で、裾野の制服も顔も返り血で真っ赤に染まってたんや。
それでも涼しすぎる顔を保つ裾野が、この時めっちゃ怖かってん俺も心臓が止まりそうやったで。
「ほう……。”お前1人”でこいつらを下すとはな……。」
ボスは背後の物陰に隠れる俺には気づいてへんみたいで、裾野にどんどん近づいている。
裾野は物陰から覗く俺に口パクで「行け」言うてるんやけど、俺は足がすくんで動けへんかった。
昨日の道徳で背後から殺すのは卑劣と教わって、今日は社会の敵言うても人は人と習ったんや……こんなん卑劣やんか……。
そうして俺が心の中で葛藤している時に、裾野はズバッと首を斬り落としたんや。
首が落ちる時、噴き出す血越しに見えた裾野の表情は、また……涼しい顔やってん。
俺は思わず目を逸らしたし、声を押し殺しても止めどなく溢れる涙を抑えきれへんかった。
――近づく足音。俺に落ちる影。返り血だらけのぼんやりとした顔。
俺は怒られると思ってたんやけど、裾野は剣を地面にそっと置いて膝を折ると、俺をキツく抱きしめたんや。
「初めてでここまで出来たんだ。今日の自分を褒めてあげて。」
耳元で優しく囁く裾野に、泣き虫な俺の目と鼻は決壊してしまったんやけど、それでも裾野はずっと背中をさすってくれた。
部屋に戻った後も裾野は俺の体調を考えて、鰹節からとっただしで作ったお茶漬けを作ってくれたんや。しかも鮭をほぐした身と三つ葉。真ん中には小梅がちょこんと乗ってたで。
「大分やつれているな。だけど初めてやって、相手のボスを騙せるなんて大したものだよ。」
裾野は俺と同じお茶漬けを食べながら、心臓に悪い笑顔で言うんやけど、あと何年経てばそんなに余裕で言えるようになるんやろうか。実際何か月やったことは言わんとく?
「……うん。」
俺は食が進まなかったんやけど、今まで食べてきたお茶漬けは何やったの、と疑いたくなる程おいしいお茶漬けに一口惚れをしてたんやで、ほんまは。
せやけど人を殺すことにどれだけの勇気がいるのか、この時初めて身をもって知ったで。
だってまだこの時、手の震えも膝の震えも止まってへんかったから……。
「菅野。次からはもっと人数の少ない時に一緒に来るように言うね。10人は……多かったね。」
裾野は右手は報告書にペンを走らせながら、左手でお茶漬けを食べていてん。
え!? 両利き!?って思ったんやけど、よく考えたらいつも食べる時だけ左やったな。
「……う、うん。裾野、これおいしいで。」
俺が力なく言うと、裾野はガバッと顔をあげて目を見開いてん。
何か怖いから思わず後ろに少しのけぞったんやけど、裾野はその後すぐにパッと満面の笑みを浮かべて、
「よかった。それ、1番大好きだったコック兼執事に教わった思い出の1品なんだ。」
と言う名家ご出身の後鳥羽龍様の笑顔は誠にお美しく……とか気の利いたことを言えればええんやけど、そないなこと言えへんから、
「そうなんや。今めっちゃいい笑顔しとったで。」
って、こっちもいい笑顔で返したで。
……やっぱり関東の敬語はしばらく使えへんかな。
でもこの時の笑顔は心臓に悪くない笑顔やったから、多分いい笑顔やと思うで。知らんけど。
「……」
せやけど裾野は顔を真っ赤にしてうつむくだけやねん。
これって普通の会話とちゃうの?
でもその疑問はしばらく解決することは無かったで。
それから1か月が経っても、2か月経っても、いくら場数を踏んでも俺の勇気軍は突撃することは無かったんや。いわゆる、ヘタレってやつなんかな……? かれこれ9回は殺せないまま裾野に頼っていたんや。
そこで鳩村はんにメールで聞いたら、『相場は5回です』やて。大きくオーバーやんか。
そのせいかどんどん裾野のイライラ度が溜まっていくのを日に日に感じていた頃やってん。
まぁ料理はいつも通りおいしいものが出てくるんやけど、5回を超した頃から俺に対して笑顔を見せへんようになったし、目も合わせてくれへんの。そこまでせんでもと思いたなるで。
そしてついに10回目の仕事が舞い込んだんや。
相手は1人。
それに向こうは俺1人だけやと思ってる状態で、裾野がサポートに回るらしいねん。
そいつの名前は、後醍醐傑。騅の元兄貴やな。
”隻眼の仕事人”っつー異名があるねんな、こいつ。
ほんで裾野に意味を聞いたら、隻眼って片目のことやって。初耳やわ。
あと銃を使うらしいねんけど、リロードは0秒と言われる程早くて、身体能力は俺よりも上って……勝ち目あるんかな?
わかってることは、猫と女が好きなことと殺風景を好むこと?
嫌いなものは、トマトとくしゃみをイジられること……は? くしゃみをイジるやつなんか居るの?
それこそ初耳やで。
まぁ騅の話を知ってる人はわかると思うんやけど、あの時以外にこいつと2度も戦うことになるんよ。
その初回がこれや。こいつとは本当に相性が悪いねん。
裾野も十分に準備をしておけ言うてたけど、この時の俺はまた手と膝が震えっぱなしやったで。
現在に戻る……
裾野、菅野&騅の部屋
菅野
「もういい加減問いただすか。俺の心臓に悪い笑顔って、どういう意味だ?」
裾野は眉を吊り上げて足を組みなおして言うんやけど、そんな怒ることでもないやんか。
「ん~……なんやろな~?」
と、俺が口笛を吹き始めると、騅とリヴェテは顔を見合わせて微笑んでいたんや。
まさか気づいとるの?
「僕の予想は――」
「あかんあかん! これは本人に気づいてもらわへんとあかんの。」
「あら微笑ましいわね。」
ふふっと笑うリヴェテに、裾野は前髪を押さえて首をひねって考え始めたんや。
こんなに長く居てもわからんもんやなぁ。
まぁ逆に俺が気づいてへんこともあるんやろうけどな。
とか色々考えながら、悩む裾野を見守っているんやけど。
因縁の相手である後醍醐傑との対決!!
初戦はいかがなものだったのか……?
勝利、敗北、それとも……?
この結果は土曜日に明らかになる!