「12歳-身長は178cmで、-」
中学1年生の菅野と高校1年の裾野。
思春期で多感な時期のこの2人の変化が、ここで少しずつ見えてくる。
※4,800字程度です。
※全話共通で思い出しながら話しております……
2007年4月某日
藍竜組付属中学校・高校 体育館
菅野
東京ドーム10個分って、どないなもん?
俺はアホやから知らんけど、藍竜組付属中高の体育館の広さってそのくらいあるらしいで。
ちなみにほぼほぼ見た目一緒の中高の場所は、組から出て狛犬の前を右にちょいと行って真っすぐ行って左にある建物2つや。
まぁそんなに離れてへんってこと。あとは、特に言うこともないくらい特徴の無い学校やで。
ほんで中学生になった俺は、地毛の茶髪から1つ明るくして、前髪も裾野が買ってきた「G」が目印のワックスで上向きに固めてみたで。制服は普通すぎるからシャツのボタンも上から2つは開けてるし、学ランも前開きにしてるし、シャツインなんかせんよ? そうでもせんと、むっちゃダサいねん。
制服の着方なんかで朝から裾野と揉めたことも話しとくか? ええか、面倒やし。
今は新入生総勢80人の中学の入学式が終わったところで、これからぶっ続けで早速配られた体育着に着替えて、健康診断とスポーツテストらしいで。ほんまやってられへんわ。
せやけど俺の性格のおかげかすぐに友達が出来て、一緒にまわることになったんや。
男女合わせて10人なんやけど、裾野曰く普通やないらしいねん……どう思う?
まぁどうでもええけど、まずは面倒な健康診断からパパッと終わらせたんや。
これは女子の意見でな。下着の問題が何とかって……俺ら男にはようわからん話やったし、正直苦手な話やから聞いてるフリしてたで。
ちなみに視力はいつも通り2あるし、身長体重に問題は無いし、心電図、スリーサイズ、足回りと腕回り、聴力、採血、心音、腸、肺活量、柔軟性、首の強度、カウンセリング……とりあえず、全然問題無かったで。
言うてもアホで健康なのが取り柄やし。裾野のおかげで筋肉もめっちゃついたし、頭は……まぁええわ。
次に恐怖のスポーツテストって皆が言うんやけど、どうしてなんかな~?
まぁそれは同じくらいの大きさのグラウンドに行ったら、皆が言っていたことがよ~くわかったで。
学年ごとにやる順番が分かれている言うても、高校生と合同でやるんやもの。人の量が半端やない。
「だから言ったろ~?」
と言うのは、俺の隣に座っていた1番明るい茶髪の国村。本人曰くヤリ……今でも恥ずかしくて言えへん。
「せやな。これは酷いで。」
いろんな髪、身長、オーラを持つ人たちが所狭しと歩く様子……今日1日で終わるのか不安なんやけどな。
「てかさぁ~、中高分ければいいじゃ~ん。」
高低差の激しい声でキンキン言う金髪盛り髪の矢代さん。また自己申告やけど、ビッ……らしいで。
俺もよう意味は知らんけど、悪い意味らしいで。
「そういえば、菅野の相棒って誰? 誰? どこ?」
白金髪のノッポの野原は、きょろきょろ同学年の中から指を差し始めているんやけど、ちゃうねんな……残念ながら。
すると周りにいた9人も一緒に探し出して、結構言いにくくなったんやけど、このままやとほんまに今日でスポーツテストが終わらんから、思い切って言い出してみたんや。
「俺の相棒は、4つ上の裾野や。」
それを聞いた瞬間の凍り付いた皆の顔に、俺が逆に凍り付いたで。
ほんで口々に、「あの怪力の?」「元相棒を見殺しにしたとか言われてる?」「噂によると、女に興味がないらしいぜ……」「あの79人はあの人のせいらしい」と言い出したから、俺はゴクリと唾をのんで10人に聞いてみたんや。
――裾野の過去を。
「う~ん。噂が混じってもいいならってか、噂だけで言うけど、とにかくあの人はヤバイ奴だ。見かけは優しいけど、怒った時は死ぬかと思うよな?」
「あれか~……。あれは俺らが小学生だった頃、6年生だった頃の裾野さんに最強説が流れてて、怒らそうと思ってカバンと外履きを盗んだんだっけか? そうしたら……あ~ごめん、俺怖すぎて無理!」
「じゃあ俺が言うぜ、国村! そしたらまず、体育館に呼ばれるじゃんか。怖いから物陰から覗いたんだよ。そしたらもう後ろに居て、『お前らか』って耳元で言われて振り向いたら居なくてさぁ! いつの間にか返そうと思ってたカバンと外履きも無くて、また耳元で『返しに来てくれて、ありがとう』って……低い声でな!?」
「そうそう! 二度とやらないと決めたよな!」
そう頷き合う当時イタズラをしかけた3人の話はオーラを見る限り本当みたいやし、俺は同時にこの組に入った時のあの夜を思い出していたんや……たしかに、いつの間にか背後に回られてた。
4年後には俺も出来るようになってるとこの時は思いこんでいたんやけど、それにしてもどうして……?
「男目線はようわかったで。女子はなんか無いん?」
と、女子に話を振ると、全員「アレヤバかった」と口々に言い出した。
「あ~……あの人めっちゃ料理上手で、6学年全員にバレンタインチョコを毎年あげてたよね?」
「それそれ! ウチらが1年の時にはあったやつ! しかも手渡ししてくんの。まぁ勘違いしてる女子も多かったよね~。」
「ね~。ウチもその1人~いぇ~い。しかも今でも好きなんだけど。アハハッ。」
「ヤバッ、何それ! てか、あの人本命いたの?」
「それな~。コクった友だちが言ってたんだけど、好きなタイプは足が速くて、教えるのが楽しいくらいアホな人で、あとなんだっけな~……色黒が好きって言ってたかな。あとは忘れたけど。あ、友達めっちゃ色白、ウケない!?」
と、笑いあう女子たち。男子もチョコの話題のときは結構頷いてたなぁ。これも本当の話ってことやんな?
よし、めっちゃ情報入ったで。
せやけど、裾野が色黒好きって言うのを聞いた時、俺はそんなに驚かなかったんや。
今なら理由をひっくるめてわかるけど、その時は俺に買ってきた服の色のチョイスでな。
だって、どう見ても色黒用の色やってん。黄色、白、赤……他にも色白が着たらあかんような色の組み合わせになってたし。
とか考えてた時に10人の顔が凍り付いているのが見えて、皆は口パクで「ヤバイ」を連呼してるし、何かボールでも飛んでくるのかと思いきや、耳に生暖かい風が来ただけやってん。
なんやその微妙な反応? 俺実は耳に息吹きかけられるの全然平気やねん、すごいやろ?
「裾野やな?」
俺が振り向くと、ぷにっと頬に刺さる長い人差し指。イラッときた俺がすぐにエルボーを食らわしたときにはもう空気しか居なくて、今度は真正面に鳩村はんと一緒に立ってたんや。
ほんま……どうなってるん?
「楽しかった?」
裾野は少し焼けた首を短い爪で抓りながら笑顔で言う。
せやけど、その後ろには小さいけどあの時の赤黒いオーラが居った。
「……何の用や?」
「俺の過去を嗅ぎまわってるって鳩村が教えてくれたから止めに入った。どういうことかな?」
裾野は首だけ動かして10人の顔ぶれを見渡して言う。その声と表情は、苛立ったお父さんそのものや。
残念ながら2人のせいで皆の表情は見えへんけど、相当怖い思いをしてると思うで。
「ええやんか……別に。」
と、口ごもって言うと裾野はギロッと目を吊り上げ、舌打ちをしてん。
それだけで10人は「ひぃぃっ……」と声をあげる始末や。まぁそう言うてる俺もビビッてたで。
そこで救いの目を鳩村はんに向けたら、わなわなしとってん……。やっぱり銀もやしや。
「はぁ……これ以上嗅ぎまわるなら、お前を追い出す。だから、二度と俺の過去を嗅ぎまわるな。まだお前を”本当の相棒”と認めていないからな!」
裾野はそう言い捨てると、俺の左頬をぎゅっと長い親指の爪で抓って大股で歩き去ってん。
そしたら鳩村はんは、わなわなしながらも俺に画面を見せてくれたんや。
『裾野くんの過去を本人の口以外から聞こうとするのは、本当にもうやめてあげて。僕からは詳しいことは言えないけど、裾野くんは元相棒に……一度心を殺されたんだ。』
俺が読み終えて鳩村はんの方を見ると、銀もやしは目を泳がせながら口パクで「ごめんね」言うて立ち去ったんやけど、この時の俺は”心が殺された”の本当の意味がわからなくて、スポーツテスト中もずっとそれが心に引っかかったままやってん。
それからすぐに50m走を走ったんやけど、その時にはご親切に「新入生の初走りです! イケメンいます!」言う女子のアナウンスのせいで、全校生徒の注目の中走ることになって辛かったで。
ほんで皆と別れて部屋に戻ったんやけど、裾野はどこか不機嫌そうで料理中もずっと無言やってん。
いたたまれなくなった俺は、どうやって裾野に謝ろうか、そもそも勝手に向こうが不機嫌になっただけとちゃうか、他にも色々言い訳も含めて考えていたんやけど、結局無言のまま時間だけが残酷に過ぎて、肉じゃがの味も美味しい味噌汁の味もよう覚えてへんかった。
「ごちそうさま。」
「今日もありがとう、ごちそうさま。」
それぞれに口を開く、食事に感謝した後がチャンスやと思て、俺はぐっと拳に力を入れて生唾を飲みこんでガタッと立ち上がった。
話しかけるだけでこんなにも緊張したのは、この当時は初めてやったな。
初対面の人なんか全然緊張せえへんし。
「裾野……俺、あんな?」
俺が重い口を開くと、裾野は食器を重ねつつも俺に視線を遣る。
「……」
ほんで食器を持ったまま、黙って俺を冷ややかな目で見下ろしている。
この時の身長差は、俺が149cmで裾野が171cmやから22cm。しかも体格差もある。
はっきり言うで、めっちゃ怖かってん。
「裾野の過去を探ったのは、ただ知りたかっただけやねん……それでもあかんの?」
今にも恐怖から泣き出しそうだった俺を見下ろす目が、少しだけ揺らいだ気が、気だけしてん。
「二度と探るなと言ったよね?」
裾野は威圧的な目で俺を睨んでいる。もうそれだけやってのに、心臓はバクバクで肺も酸素を求めて焦っている。
「じゃあ……”本当の相棒”に……俺は…………いつ……なれるん?」
俺の涙が目を超えて頬にまで流れ出ている程、裾野の睨みは恐ろしいものがあってん。声もどんどん思い通りに出せなくなってきていたんや。
せやけど裾野は、目を伏せて長い溜息をついただけやった。
この時の俺は、てっきり追い出されるか、殴られるとばかり思ってたんやけどな。
「俺がお前のことを心から信じたとき、かな。」
そう言う裾野の声は穏やかで優しくて、安心しきった俺は緊張が緩んで椅子にぺたと座って小さな子どもみたいに大号泣しながら、「ごめんなさい」って何度も繰り返していたらしいで……あんまり記憶に無いんやけど……これはほんま?
その翌日からは一応元通りにはなったんやけど、あの日を境に徐々に裾野の態度は、優しいオトンから厳しいオトンに変わっていった気がするで。
相変わらずこの時の俺は、自分で服を買うことも日用品を買うのも禁止されてるしな……友達はみんな自分で購買会で買ってはるって言うのに酷ない?
そうは思いながらも、今日友達になった奴らが言うには、心からの信頼=強さらしいから、前よりも訓練をストイックにやるようになったんやけどな。
現在に戻る……
藍竜組 裾野、菅野&騅の部屋
菅野
「裾野さんは今でも最強説です!」
騅はぐっと拳を胸の前で握って目を輝かせて言うんやけど、それは否定せざるを得ないヤツやな。
「それは無いが、友達まで驚かせたのは悪かった。」
裾野は後頭部を搔きながら、俺に横目で視線を送る。本当はビビらすつもりやったんやろ?
「あ~あ、ここからは騅に話してほしいくらい語彙が足りないんやけど。ちなみに俺の初陣なんやけど、どや?」
「え!? それは駄目ですよ。当時の心情は、菅野さんにしかわかりませんし……ね! 裾野さん!」
「あぁ、騅の言う通りだ。」
「じゃあ仕方ないやん。俺が頑張って説明したる。耳かっほじって聞けや!」
「いや菅野、耳かっぽじってだろ……」
裾野に突っ込まれて、顔が真っ赤になっている俺を微笑ましく見つめてくるリヴェテと騅。
この親子、いつか耳にもの言わせたる! ん? 目だっけ? まぁええか。
騅の初殺人はかなり狂った感じやったけど、そう考えると俺は真逆かもしれへん。
逆に全く勇気が持てなかったタイプの人間やってん。
それが災いして起こる……因縁の出来事とは……?
心からの信頼は強さ、という言葉を胸に訓練に勤しむ菅野に舞い込んだ初仕事。
彼は無事に仕事を終えることが出来るのか、それとも……?
明後日更新予定です。




