「終曲-虎の門出、龍の謀略(過去、現在後編)-」
過去編では騅救出作戦の真相が明らかになります。
裾野さんは悪者ではない?
現在パートでは、裾野さんと菅野の別れと……新妻・淳の表情から続編に繋がっていく……。
※更新が遅れてしまい、申し訳ございません。
※約3,500字です
2013年3月某日 夕方(天気:雨)
藍竜組 総長室
裾野(後鳥羽 龍)
俺は騅の一件で総長に呼び出されていた。
もちろん、数日前に判明した片桐組の秘蔵っ子の黒河月道が騅を撃つから、邪魔をするなという警告なのだろう。
生憎騅はどの組にも属さない無所属状態であったこともあり、俺と菅野の友人程度ではどうにもならなかったに違いない。
しばらく総長の机の前で拳を作って考えこんでいると、総長は雨が窓を叩く音に掻き消されそうな程そっと息を吸い、
「包囲網は時に人を大胆にさせるものだ……」
と、それでも芯の通った声で呟き、ペン立てに立ててある槍形のペンを1本取り俺の目玉すれすれに突き立てた。
俺の瞳はペンの芯を追うのに精一杯となり、反撃しなければと考える程身体が硬直していった。
すると総長はスッと座り直し、ペンを元に戻すと、
「菅野の意志がそこまで固いなら、殺す道か生かす道を裾野が選べ」
と、雨音が音の無い背景と化した総長室の机周辺にしか聞こえないであろう声で言った。
「……はい」
俺は菅野にも騅にも言える2つの道の選択を、この時に迫られていた。
結論はご存知の通りだが、菅野も騅も生かす道を選んで騅が藍竜組に入っている。
菅野も本当のところは知らないが、日記を見る限り自分のおかげで助けられたと思っている可能性も高い。
はぁ……全く。
騅も菅野に助けられたと感動しているあたり、俺はこの話においては完全に悪役になっているよな。
だが本当はそうではない。
2013年6月12日……(騅救出当日)
現場付近ビル屋上
裾野(後鳥羽 龍)
俺は菅野がバイクで走り去った後、すぐに裏道を駆使して現場に赴き、月道が居ると事前に情報を貰ったビルの屋上に来ていた。
屋上への扉を開ける時は、細心の注意を払って開けたが、やはり天才と呼ばれる月道の耳は誤魔化せず、銃剣を出した状態のドラグノフを構えられてしまった。
「……裾野だ」
だが俺はここは強気にいき、何としても騅を撃たせない為に一歩ずつ月道に近づくと、月道は降りしきる雨も気にせずに眉を潜めた。
「何?」
月道は濡れた前髪を払い、匍匐姿勢で銃を構えた。
「早速借りを使わせてもらうが、騅を撃つな」
と、背中に向かって言い馬乗りになると、月道は首だけ振り返って睨みつけ、
「もう撃ったけど」
と、車がガードレールにぶつかる音と同時に言い放たれ、馬乗り姿勢のまま身体だけ起こして様子を見ると、騅が乗っていない方の先導車が事故を起こし、野次馬が寄ってきている。
それにしても、いきなり標的を変えられるとは……やはり天才なのではないか?
……ん?
「いいから退いて」
月道は体を捻って俺からの脱出を試みるが、俺は左側から走って来る1台のバイクに目を見張っていた。
それに気づいた月道は、スナイパーのスコープを覗いて溜息をつくと、
「送って」
と、銃をケースにしまいながら、淡々とした口調で言う。
だが菅野がヘルメットを脱ぎ、槍を構える威勢の良い虎の姿に感動してしまい、
「あぁ……分かっている」
と、月道に生返事程の気持ちで返した筈の言葉尻が震えていた。
「……ねぇ」
月道は俺の腕を掴み、軽く揺すった。
それに釣られて目線を落として見れば、月道は軽蔑と氷は含んでいるものの心配している表情であった。
「すまない」
俺は月道の髪を撫でようと手を伸ばすと、見事にパチンという音と共に弾かれた。
「それ、嫌い」
月道はケースの持ち手についた雨を指で掬うと、俺の額に擦り付けた。
「悪かった」
俺は短く言葉を切ると、走り去る菅野と騅の姿を見送り、
「今度はあの2人の覚悟を訊く。まぁ……俺はまた悪役だな」
と、ニヒルな笑みを浮かべると、月道は興味無さそうに唸った。
「そう言えば、車で来ていないのか?」
と、ビルの入り口まで来たところで言うと、月道は何も言わずに俺の車の助手席に座った。
たしか月道はコンパクトカーに乗っている筈だが、どうしたのだろうか?
「烏で送ってもらった」
と、思案を巡らせている最中に言われ、何となく納得してしまった俺はふんふんと頷いた。
「……ありがとう」
月道は俺がアクセルから足を離し、ギアを変えているとボソッと呟いた。
……月道はこう見えてもお礼は言えるからな。
「あぁ」
と、信号待ちをしながら、妖艶さを感じる組んでいる脚に目線を這わせると、
「最低」
と、脚を組み替えて冷たく言い放った。
それから片桐組前で月道を下し、藍竜組に戻ってみたもののまだ2人は帰っておらず、俺はほっと胸をなでおろして部屋に戻った。
その後の話は菅野と騅が話してくれたから省略しよう。
……お分かりいただけただろうが、俺は影で動くことを好んで自分の好きな人や、愛している人……の為なら無理をしてしまう質だ。
全く厄介だが、ここまでの過去も全てそうであったことから、これからも何かと迷惑をかけるだろうが……よろしく頼む。
現在に戻る……
俺と菅野は多種多様な花が咲き誇る裏庭のベンチに座り、菅野は俺が席から立つと困惑した表情を浮かべた。
「これからは……2人でやってほしい。俺は修行に出る」
と、切り出し、藍竜総長にはもう許可を貰ったことも話すと、菅野は黙って頷いた。
「裾野が決めたんなら……別にええけど、仙人みたいになって帰ってきたら殺すで?」
と、正面から抱き着く菅野は、ワックスが付かないように顔を背けて俺を見上げて言った。
「もちろんだ」
俺は髪を撫でずに肩を撫でて言うと、菅野は安堵と共に落胆の顔をし、
「裾野……指輪の意味教えてもらってもええかな?」
と、タキシードのポケットから指輪を取り出し、掌の上で転がした。
小箱は目立つから置いてきたのだろうが、ジャケットのポケットが何だか膨らんでいる気がする。
「あぁ……そのままの意味だ」
俺は指輪の中心にあるペリドットを指差し、脚を組み替えた。
「ふぅん」
と、菅野は得意げに口をとがらしているが、これは全く分かっていないという意味だ。
「ほんなら俺も渡したい物ええかな?」
菅野は俺が察したのを知っているからか、特に指輪の意味について突っ込むこともなく、ジャケットから2つの小箱を取り出した。
1つはブレスレットだろうが、もう1つは細長い。筆だろうか?
「これとこれなんやけど……」
と、箱の中身を推察している途中で箱を開けられてしまい、若干落胆はしたものの、ブレスレットは当てられたので満足だ。
もう1つは万年筆、か。
ブレスレットはマラカイトで出来たもので、鮮やかな濃い緑色の不透明石なので透けなくて良い。
万年筆は龍と鷹が刻まれたシックな赤色のもので、おそらく、いや絶対に揃いのものだ。
「万年筆は、ここ。ブレスレットはここに。女々しいかもしれへんけど、ずっととっといてや?」
と、ブレスレットを右手首に、万年筆は胸ポケットに差し、二の腕あたりをポンポンと叩く菅野。
「あぁ。菅野もその指輪は、左手小指に付けるんだぞ」
と、早速手を取って指輪を入れてやると、心底嬉しそうにじわっと微笑んだ。
「ありがとう」
菅野は何度も太陽の光に指輪を翳しながらくるくると回っていたが、俺はふとカメラマンに頼んでいた物のことを思い出し、内ポケットから2枚の写真を出し、
「菅野、万年筆は揃いのものだろう? サインをしてくれないか?」
と、互いに満面の笑みで写った写真の片方を渡しながら言うと、菅野は驚愕の表情で内ポケットから、虎と白猫が彫られた万年筆を恐る恐る出し、
「流石やな~……サインならええけど……」
と、驚きが過ぎて言葉が逆に棒読みになっていたが、固まった表情のままサインを書く菅野はかなり微笑ましかった。
俺も勿論サインを書いてやり、写真を交換すると……
「じゃあな」
と、仕事に行くときの顔で口づけをしようとしながら言い、
「行ってらっしゃい」
と、微笑みながら手を振り、後ずさる菅野。
全てがいつも通りだった。
だが1つ違ったのは、菅野の側にはニチニチソウとムラサキツユクサが、2人の間にはペチュニア、そして俺の側にはトリトマが咲いていたことだった。
(菅野視点)
裾野から貰た指輪、おしゃれやな~。
たしか1,000万やっけ? 俺が何年働いたら買えるんやろ~?
なんて考えながら会場に戻っていたら、出席者ほぼ全員とスタッフにこんなこと訊かれてん。
「裾野さんはどちらに?」
みたいなことをな。
たしかにな、めっちゃ存在感あるから消えたら驚くやろうけど……まぁええわ。
俺は流石に仙人みたいになって来るんやて~なんて言えへんから、すれ違った人たちにこう言うねん。
「予定が入ったから抜けたで」
って、めっちゃええ笑顔でな!
せやけど新婦の淳の方を見たら、この先雨が降るんか、俄かに晴れ渡るんか、予測のつかない空見てるみたいな曖昧な表情で、俺を見つめててん。
お疲れ様でした、乞田です。
Twitterのアンケートに答えてくださった皆様、ご協力ありがとうございました。
結果は発表致しましたが、「借りキャラ中心のお話」を、この先のおまけ4話で書くことになりました!!
ストーリー原案は作者ではなく、借りキャラを貸してくださった友人様となります!
龍也様、淳様、颯雅様、湊様の秘密や、葛藤などが明らかになっていきつつも、それぞれの個性に重きを置いた作品になります。
借りキャラストーリー1話更新は、8月19日(土)か8月20日(日)となります。
どうぞ、お楽しみに!!
そして良い一週間をお過ごしくださいませ。
執事長 乞田光司




