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「第二十九-ツクられたモノ(本編)-」

1話前の子の本編です。

戦闘シーン中心、というよりも戦闘シーンです。

喧嘩する程何とやら。


現在パート後編では、どうして……と、言いたくなるようなお話になっています。


※約4,500字です

※見にくいと思い、改行を多めにしております。

2005年10月某日 放課後(天気:晴れ)

藍竜組 グラウンド

裾野(後鳥羽 龍)



 俺と菅野、龍也さんと押さえつけられている淳は1人の女性と睨み合っていた。

というのも俺と菅野、それから……依頼を受けた張本人であり、この時は付き合って間もなかった弓削子(ゆみこ)と、後醍醐詠飛(ごだいご えいひ)さんを傷つけ、その彼女である多村麗華さんを殺した事件の詳細が淳と龍也さんの耳に入った。

そのうえ人が殺された時や、大切な人が傷つけられた時に暴走状態となる妖刀を構える淳は、唯一謝罪もせず歪んだ笑みを浮かべ腕を組む弓削子を目で殺せそうなほど睨みあげている。


 俺は話し合いでの解決を持ち掛けたが、弓削子が効く耳すら持たずプイと顔を背けた。

その妖刀を構えつつ、後悔や憎悪の念が大きくなってしまうと制御が出来なってしまうため頭を抱え込んでしまい、顔をバッと上げたときには極限まで目が見開かれていた。

「あ゛あ゛あ゛ああ゛ああ゛あ゛あ゛あああ゛あ゛……」

そう言葉にならない何かを叫ぶと、自分の意思で制御出来なくなってきたのか、小刻みに震える右手を押さえようとする左手も震え、歯がカチカチと鳴る音すら聞こえてくる。

彼女なりに抑えようと葛藤しているのだろう、左手は力んで白くなり右手はみるみるうちに赤くなっていった。

こうして淳の能力の暴走が始まってしまい、謝罪や釈明の場の足場さえ無くなってしまった。


 だが龍也さんだけは淳が再び意識を取り戻すと信じ、

「落ち着け! 目を覚ませ!」

と、肩を強めに叩いている。

「暴走なんて醜いことするのね。そうでもしないと私に勝てない?」

弓削子は鼻で笑い、押さえつけられていることをいいことに挑発を続けている。

「弓削子、もうやめないか!!」

と、夕日すら味方に付ける美しい恋人に向かって叫ぶと、弓削子は頬をぐにゃりと吊り上げ、

「あら? まさかこの暴走女の味方をするの?」

と、どう付き合ったかすら思い出せなくなる程の声の低さで言い、あろうことかナイフを俺に向ける。

「……」

俺は恋人の(よしみ)もあるので即答出来ず唇を噛み俯きそうになったが、菅野がそっと俺の腕を握り、こちらを振り向かせてくれたことにより我に返った。

「今だけはこちら側だ」

俺のこの一言が効いたのか、弓削子は肩をすくめ、

「そう、仕方ないわね。……存分に暴れてみなさいよ」

と、龍也さんに目で放すように言ったが、秋ごろであるのに汗が滲む首を横に振り、

「断る!!」

と、汗を飛ばすほどの心の叫びを聞いた弓削子は、興味無さそうに前髪を払うと、

「ふ~ん」

と、1番短いナイフを1本、淳にギリギリ当たるかもしれない場所に投げたのだ。

すると龍也さんは弓削子の挑発的な攻撃を自らの肩で受け、すぐにナイフを抜いてその場に投げ捨てた。


 その様子を横目で見ていた淳はカッと目を見開き、残されていた筈の僅かな理性すら飛んでしまい、龍也さんの腕を振り払った淳は一気に地面を蹴り、数m先に居る弓削子の首筋目掛けて妖刀を振り下ろす。

弓削子は猛撃をひらりと躱すとナイフを巧みに扱い、秋ごろの動きやすいカーディガンの裾から脇ほどまで引き裂いた。

次いで追撃を加えようとすると淳はバク転をして避け、リーチの長さを活かして脇腹に突きをしたが、弓削子は反射的にナイフの刃先に当てた。

 だが淳の猛攻はまだ終わらない。

何とそのままナイフの刃先を圧で折り、そのまま脇腹に剣先が到達しようとしたとき、弓削子は素早く身を翻し、反対側の手に握られたナイフで対抗した。

とはいっても、軽く受け流すように滑らせるだけである。

「暴走した姿を見るのは初めてだが、大したものだ……」

弓削子の強さは付き合う前から知っているが、藍竜組では上位い食い込む彼女を押していること自体、驚かざるを得ない。

すると龍也さんは握りこぶしを作って白くなるほど握りながら、

「俺も淳もこんな姿……見せたくねーんだよ……」

と、悔しそうな表情を見せて下を向く。


 そうして間が出来、呼吸音だけがグラウンドに響く。

間合いを確かめる弓削子は新しいナイフをジャケットのポケットから出し、くるっと1回転させた。

「やるわね」

そう愉悦の笑みを浮かべる弓削子はどこか嬉しそうで、壊れたナイフも混ぜてジャグリングをし始めた。

それを踏み込まずにじっと見つめる淳は、このまま突っ込めば相手の土俵に入ることを察しているのか、隙を見ようとせずに全体を見渡している。

「貴方の運はどうかしら。”必死遊戯(お決まりの遊び)”」

弓削子がそう言うと、ジャグリングのナイフが次々に増えていき、増える度に適当な方向に投げている筈なのにナイフは弧を描いて淳の方へと向かって行く。

なんと一波目には爆弾まで仕込んであり、淳の近くで爆発したせいで土埃が立ち込めてしまい、こちらからは避けたかどうかも見えない。

「え……大丈夫なんかな……?」

菅野は落ち着かない様子で服の裾を引っ張ったり戻したりし、槍を持つ手には手汗すら見える。

「大丈夫だ。信じろ」

俺は菅野の肩をポンポンと叩いて安心させてやると、戦況に視線を戻した。


「あら、どうやら最悪みたいね……ざーんねん」

弓削子は肩を落とすフリをしニヤリと微笑んだが、土埃の隙間から妖刀の前に力なく倒れていくナイフが見え隠れしている。

それが弓削子にも見えたのだろう。土埃が晴れていく度に表情が恐怖のそれへと変わっていく。

「お前は殺す。それだけだ……」

淳は地の声とは思えないほどの中低音で言い、逆に刀でナイフを動かしていき、弓削子の”お決まりの遊戯”をやりだしたのだ。

「嘘……」

弓削子の泣きそうな表情を読み取った俺は、その場で抜刀し斬撃を飛ばして上半分のナイフを撃ち落とし、下半分を龍也さんが傷を負いながらも弓削子の前に立って弾き、

「淳、頼む! 戻ってきてくれ! このままだとお前が後悔するんだぞ!!」

と、義兄としてではなく1人の人間として叫んだ。

その様子を見た俺はもう白黒が付いただろうと判断し、

「はぁ……もう負けを認めなさい」

と、弓削子の肩をポンと叩き、菅野もほっとした表情を浮かべていたが、淳の中では終わっていなかったようで、まだ尚弓削子に妖刀の切っ先を向ける。

「いいだろう」

俺は下唇近くを軽く拭い、じっとその目に淀む感情を読み取った。

 脚を肩幅程に開き槍の形に剣先をなぞって斬撃を飛ばしてみれば、100本の槍の形をした斬撃が飛ぶ。

どういうメカニズムか訊かれると困るのだが、斬撃を飛ばすこと自体念を使うのでその延長だと考えられる。

だがそれは俊足により数本は避けられ、何本かは脇腹を掠めたり致命傷とはならずともダメージは与えられたようだ。

このときを思い出しながらよく反省してはいるのだが……手加減は難しい。

 そして最後の一槍が脚に入りそうになったとき、命を賭して槍で弾いたのは菅野。

「もうええやろ!」

突然動いたこともあり、ぜぇぜぇと肩で息をする若い殺し屋は淳の方を振り返り、

「お願いや……もうやめよう?」

と、肩を揺すって諭そうとする菅野を淳は見向きもせずに、保健室へと向かおうとする弓削子の後を追いはじめた。

弓削子は気配を感じて逃げ出したが、すぐに何倍ものスピードで突撃しようとしているので俺は首をぐるりと回し、

「そうか、そうか」

と、副総長に教わった忍術で瞬間移動もどきを披露すると、見事に弓削子の目の前まで移動することが出来た。

成功確率は当時なら30%だから奇跡としか言えない。

「退け」

だがまだ弓削子を追い回そうとする淳。


 ……暴走というものは、なかなか恐ろしいものだ。

強さを手に入れられるとはいえ、代償が大きすぎる。

俺はそう思いながら、ふぅと息をついた。

「恋人を殺そうとするとは良い度胸だな……やはり許せない」

と、今度は銃の形にし周りに斬撃を飛ばして命を吹き込むと、菅野は淳の前から動かずに震える手で槍を構えた。

……今考えれば、今も俺にだけは槍を構えられないな。

「俺と淳の戦いだ、退け」

と、無数の散弾銃の銃口を菅野に向けて言えば、淳は暴走の影響か片手で横に突き飛ばした。

血を吐きながら地面を転がる菅野を見た俺の頭に浮かんだのは、”相棒契約書”のこと。

その刹那、火花を吹く銃撃という肩書の斬撃。

「相棒に手出しするな!!」

斬撃は塊となり淳目掛けて飛んでいったとき、突き飛ばされた筈の菅野が逆に淳を押し、震えた体のまま斬撃を弾こうとしたのだ。

だが経験が違う。

菅野は俺の重い斬撃を受け止めきれず、顔を真っ赤にし泣き出しそうな顔をしたとき、龍也さんが菅野を優しく押し出し、刀で全て弾いてしまった。


「大丈夫か、竜斗!」

龍也さんは肩を時々擦りながら苦しそうに言うと、淳は意識が戻り始めたのか、刀が手から滑り落ちていく。

そしてグラウンドの土を舞い上げ自身もゆっくりと倒れていくと、龍也さんは左肩で淳を抱きとめた。

暴走を終えた淳の身体に圧し掛かる反動のせいか、冷や汗で髪が張り付いてしまい、身体も思うように動かせないようだ。

「大丈夫か……淳」

龍也さんが顔を覗き込んで言うと、

「ごめんなさい……制御出来へんかった……」

と、涙声で言うので、龍也さんはやんわりと首を横に振り、

「いや、お前は頑張った方だと思う。実はお前の暴走が始まって気が逸れたから治まったが、俺も暴走寸前だったんだ」

と、アイロニカルに言うと、淳はイタズラ笑顔を浮かべ、

「お兄ちゃんやったら誰にも止められへんかったな~」

と、まだ動きづらいせいか引きつった笑顔になりつつも、龍也さんに支えられながら立った。


 ようやく物理的な戦いは幕を閉じた訳だが、まだ俺には納得のいっていない事柄がある。

「淳、罪のない人が殺されるのが納得いかないか?」

と、弓削子のような歪んだ笑みを浮かべて言うと、淳は黒目を僅かに動かして俺を見据えると、

「うん……」

と、一粒の涙が顎から零れ落ちると同時に頷いた。

「そうか、そうか。だがな、淳が罪のない人だと思う人物が、誰かにとって罪のある存在ならどうする? そう思う人物を殺して平面にするのか?」

「…………」

「分かりやすく言おうか。菅野は俺にとって邪魔な人物だとしよう。そうしたらどっちを取る?」

そう問いかけると、

「そうやなくて――」

と、すぐに言いかけたので続けて、

「菅野が総長直々に俺を殺せと命令したら?」

と、試しに訊いてみれば、

「価値観とか考え方を否定したいんとちゃうねん……。もしそういう命令が来たんなら、素直に断るわ」

と、何とも言えない答えが返ってくる。断ればどうなるか、と訊くのは野暮であるからやめたが。

 これは片桐組時代にも何十人と訊いてきた質問だが、一般の殺し屋なら、「総長の命令は断れない」であるとか、「お世話になった人を裏切るくらいなら、相棒を斬る」という選択をする人物が多い。

だが現在の菅野もそうだが、殺し屋の経験が深くなればなるほど……相棒との仲が深ければ深いほど、回避する思考に移り、一時的にでも誤魔化すことや、いっそのこと2人で刺し違える人物もいる。


 それでは俺はどうか、か……。

現在の俺なら一緒に知らない異国の地に逃げる。だが生憎当時の俺は……刺し違える派だ。

「それは有り得ない。総長の目を誤魔化すことは出来ない……。そうして非業の死を遂げるくらいなら、菅野と刺し違える」

と、自分の胸に拳を突き立てて言えば、淳はギリッと眉を潜め、

「もっと自分の命を大事にしいや! そっちこそ有り得へんわ!」

と、拳を強く握って叫んだ。

「ふっ。自分の命など……相棒の出来た今なら二の次だ!!」

と、唾を飛ばしながら叫んだ。


 その威圧と突風が重なり2人の身体をすり抜けていくと、淳は徐々に身体の調子が戻ったのか、仏の表情に変わっていった。

それから掠り傷とは言え、怪我をしている菅野の元に心配そうに駆け寄り、

「そうかもしれへんな。まだまだやし……な?」

と、菅野に疲労と憂いの混じった笑顔を向ける淳に、菅野はポッと赤くなった顔を両手で覆った。

「そうだな。怒鳴ったりしてすまなかった……」

と、頭を下げてから声を張ると、淳もこちらこそ、と頭を下げてから言った。

「良かったな」

と、こうして停戦状態となった俺らを、ほっとした表情で見ている龍也さんが淳の肩に手を置いて呟くと、淳は はにかんで菅野の元に駆け寄った。


――久方振りに言いあったな。

いつ以来だろう……。

菅野相手に言いあうのは、本当に些細なことであるが、こうして衝突したのは……大神元教官事件のときの茂以来か?

ああいう存在が居ないとこうも爆発しやすくなるものなのか。



現在に戻る……

(菅野視点)



 花火も終わってわらわらしてる人混みの中歩いている筈なんやけど、途中から裾野の声が聞こえなくなってん。

そないな訳ないやん?

さっきまで一緒に居たのになぁ?

そう思てキョロキョロしてるんやけど、淳と湊さんも考え込んでいる様子やねん。

もしかしたら気付いたけど、取り戻せへんかった~とかかな?

「なぁ」

俺が2人に話しかけると、2人も首を捻ってん。

「一瞬見えたんやけど……湊はどうやった?」

淳が言い終える前に湊さんは首をゆっくり横に振って、そんで嫌な予感を感じたんか苦虫を噛み潰したような顔になってん!

「まさか……さっきの言葉もそうだろうが、裾野は”BLACK”のことで……?」

湊さんは自問するように言って、淳もふんふんって頷いているんやけど、俺だけ取り残されててん。

めっちゃ悲しいから、

「俺はもうってやつ?」

って、話に割り込んでみたら、湊さんはこっち向いて頷いてくれてん。よかったわ~。

「俺の予想だけど、裾野は過去の話をして……菅野の結婚式に出たら、もう戻ってこないかもしれない。チャンスがあるとすれば、結婚式……だけかもしれない」

湊さんは寂しそうに俺と淳の顔を交互に見て言うと、意を決したんかごくりと生唾を呑んで、

「2人次第で裾野の運命が変わるかもしれない……すまない、それだけしか分からない」

と、悔しそうに言うとこやと、結構マズイ状況やんな?

 えーどないしよ……ん?

落ち着かんくて浴衣をまさぐっていたら、なんやろ……ぴっちり畳まれたメモ用紙が見つかってん。

震える手で開いてみたらそこにはな、


『トラウマ 天国 菅野』

って、相変わらずの綺麗な字で書いてあってん。

……んー、さーっぱり分からへん。

せやから淳と湊さんに見てもらったんやけど、

「ヒントか……」

って、消えそな声で言うて、それから何十分も無言の時間が続いてん。

せやけどな、別れる直前に湊さんが閃いた顔をしてん。

「まさか…………」

その一言に2人でムンクの叫びみたいな顔をしたわ。

……なぁ、裾野……なんでや……?

どうして……いつも置いていくん?



(裾野視点)



「空に消えてった、打ち上げ花火……」

俺はとある夜の闇の中動きづらい腕を動かし、浴衣をまさぐった。

ライターと煙草……。

菅野と一緒に居る時は不思議と吸いたくならないのが、未だに自分でも怖いくらいだ。

……ほんのり明るくなった部屋の窓らしきところに昇る満月が蒼くなり、近くにあるワスレナグサに目を遣ると、俺は天使に連れていかれるように意識を手放した。

次回投稿日は来週の土日(7/22,23)のどちらかになります。


本日は作者の私が書かせていただきました。

それでは良い一週間を!

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