「10歳-竜斗-」
裾野と菅野は藍竜組に行き、どのように今のようなコンビとなったのか……?
そのきっかけと一夜が今明かされる……!
※思い出しながら、今の話も含めつつで書いております。
※7,500字程度です。
2005年8月29日……
藍竜組前
菅野
「あいりゅうぐみ」前についた俺らは、正門前で立ち止まったんや。
というよりも、俺が立ち止まったんやけどな。
「……想像してたのとちゃうな」
俺が想像してたんのは、ドーン……って雰囲気のめっちゃ強そうな感じのする建物や!
何やろ……お城とか?
そんなん想像してたんやけど、漫画に出てきそうな、絵に描きやすそうな学校の外観と一緒て。
俺は正直言って落ち込んだで。
せやけど、裾野はニコッとほほ笑んだんや。
「そうだろう? そこが良いと思ったんだ。殺し屋組織の装いが無い」
たしかに言われてみればそうなんやけど。
そうは言っても、この時の俺は10歳。
映画の殺し屋らしいカッコイイのを勿論期待しとったから、膨れ顔で裾野のことを睨み上げたんやけど、裾野は苦笑いを浮かべながら「10歳ならそうなるか」と、小さくため息をついてん。
ほんで中に入ってもやっぱり学校の下駄箱の感じ。
もうめっちゃ家に帰りたなったで。
学校に住むとか嫌やし。
「総長室は複雑な場所にあるから、しっかり付いて来てね」
裾野は俺の腕をぎゅっと掴んで意味ありげな笑顔で言うと、電光石火で駆け抜けて…………ほんで着いた。
あんな、これ以上説明も出来へんねん。ほんまこれやもの。
声も出せなかったで。
総長室前の扉は、黒いオーラが渦巻いている感じがしたで。
う~ん、そのオーラのせいでよう扉の模様とドアノブが見えんかったんやけど、裾野は何も気にせんとノックを3回して扉を開いたんや。
中に入ると、窓の無い閉鎖的な空間が目の前にあったんや。
広さはそれなりにあると思うで。中学校の教室くらいは……あるんとちゃう?
俺らのいる手前から説明すると、左右に観葉植物。少し歩くと会議テーブルにひじ掛け付きの椅子が6脚。どっちもキャスター無しやで。色は……黒やったかなぁ。あ~……今は茶色なんやけど、この時のは覚えてへんな。ほんでその向かい側のコの字型の黒い衝立前に副総長の机があるで。藍竜組は副総長=秘書やから、そういう机と衝立の置き方なんや~って裾野が言ってたで。
そんでな、その先に行くと総長の机があるで。《藍竜組三代目総長 藍竜》って書かれた藍色のネームプレートもあるし、最近出たばっかの銀のノートパソコンもあるで。他は難しそうな書類が詰まった机の上に置ける収納ケースとか、龍の形のペン立てと槍の形のペン立てが2つずつあったなぁ。
この日は副総長が居なかったから、総長机前まではそのまま行けたで。
ほんで初めて藍竜総長を見たときは、直感で「勝てへん」と思ったで。
やんわりとしたオーラがバンバン出てるんやけど、その奥に深い色のオーラが見える、そんな感じかな?
背は成長してなければ180はあって、体格が良い感じやな。あとは、当時の俺も相当焼いてたんやけど、それよりも黒かったで。髪も真っ黒。
そんな見た目のお人なんやけど、残念なことに床で寝るようなズボラなんやねん。
ちなみに初対面は、キラキラ目のピンクのアイマスク付きの寝顔やで。
俺はそのギャップに戸惑って、裾野のシャツの裾をぐいぐい引いてたで。
どないしたらええの~? って心境やったのは覚えてる。
「竜斗」
「なんや?」
「確認なんだが……お父さんに1人分の新幹線のチケットを貰ったんだよね?」
「うん……せやけど、急にどないしたん?」
「お金に困っていた筈のお父さんが」
「……せやで?」
「関西から関東までいくらかかると思ってる?」
「知らんで? せやけど、高いんやろ?」
「うん。家計が火の車だったのなら、絶対に買えないような値段だよ」
「裾野……多分、オカンが送ってくれたんとちゃうかな?」
それでも裾野は俺を疑いの目で見ていてん。
でも何をどう疑っているのか、そのときはわからんかった。
せやけど、総長が起き上がろうとする時にはもう疑いの表情は居なくなっていて、そこには総長を支える部下の顔が代わりに居たんや。
「藍竜さん、総長の面前ですみませんでした」
「……? ごめん、何のこと?」
総長は寝ぼけた声で言うと、アイマスクをバッと取って机に放り投げてん。
「いえ、聞こえていなかったのなら大丈夫です」
「ふぅん。……誰?」
このとき、まさか俺の方を見ているとは思わんくて、しばらく目をパチクリさせてしもうたのはあまり言いたない。
まぁ裾野が肩をバシバシ叩いてくれはったから、気づいたんやけどな。
「関原竜斗やで」
「申し訳ございません、総長。彼が総長にご報告した竜斗です。敬語が使えないので――」
「その前に裾野」
総長はそう言葉を切ると、机の下から全く同じ2本の槍を取り出し、俺と裾野に手渡したんや。
ほんで顎をしゃくって、
「外で戦ってきて。それで竜斗が裾野に1つでもかすり傷を付けられたら、組への加入を認める。しかし、今日1日で出来なければ出て行ってもらう」
総長のこの言葉に、俺は呆然と立ちつくしたんや。
裾野がどんだけ強いかはこのとき知らんかった。せやけど、助けてくれはった時に見せた赤いオーラに、ファミレスで見せたあのビリッとした空気。
それを相手に、反則で優勝した槍で戦う。
俺に勝ち目はあるんかな?
その時は絶望の淵に立たされた気分やってん。
「わかりました。……竜斗。年下でも手加減はしないよ?」
「……うん」
俺は色々考えこんでも結局頷いてん。
これでも一応歴史には残らんけど、槍術の優勝者なんやから。
裾野と総長と一緒に校庭に出ると、真っ暗な校庭には誰も居らんかった。
灯りも少ししかあらへんから、互いの顔がやっと見えるくらいやった。
総長は一際明るい校長先生が話すときに立つ高台に上って、じっと俺らを見つめていてん。
開始のタイミングは適当。時間は夜が明けるまで。
時計を見遣れば、もう20時。
俺は唾をゴクンと飲み込んで、裾野との間合いを半歩詰めた。
せやけど裾野は動かん。
それなら、ともう半歩詰める。
――同じ結果。
……わからん。どうしたら裾野が仕掛けてくれはるのか。
俺は流れてくる汗を無視して、裾野を睨んだ。
――それでも動かへん。
話しかけようにも唇をぎゅっと真一文字に結んでいた俺には、到底そないなことは出来へんかったし、裾野は無表情で俺の様子をうかがうだけや。
――ここは俺が仕掛けるしかあらへんの?
頭の中で関西にいる師匠に話しかけてみる。
師匠なら何て答えるんやろう……?
裾野の腕は中学生にしてはかなり太い印象があったし、体つきも俺より全然強そうや。
あ~あ、俺お得意の力任せの槍術は、多分通用せえへん。
せやけど頭は悪いし……。ここは師匠に習った技を温存して戦おう。
俺はそないなことを考えて、地面を蹴った。
――筈やった。
でも俺の目の前には暗闇だけ。
目の前に居た筈の裾野は……?
「遅い!」
近くで聞こえた声の方を向くと、正面で回し蹴りをする裾野がスローモーションに見えて……
「グボッ……!!」
俺の身体は勢いよく地面を引きずり、背中が鉄棒に当たってん。
このとき、ほんまに手加減無しで来るんや。そう思った記憶があったで。
「はぁ……はぁ……」
呼吸を整えていると、いつの間にか目の前に裾野が居て、くの字で動けなくなっている俺の顎を矛先で上げると、冷たくも赤い眼で、
「可哀想に」
と、睨みつつも憐れんだ声で言いやがった……。
裾野がわざと言うたことに火が付いた俺は、師匠の厳つい髭面を思い出しながら、裾野の槍を掴んだんや。
――絶対に謝らせるまで離さへん!!
その強い気持ちがあったからこそ、唇から血が出ても平気な顔して裾野の槍にしがみつけたんや。
裾野は掴まれた時こそは困った顔をしとったけど、ずっと離さへん俺の表情を見て眼の色を黒に戻してん。
ほんで槍ごと片手で持ち上げられて宙づりになった俺は、捨て身の覚悟で体を揺すって裾野に体当たりをしてん。
これが上手くいかんかったら、俺は今頃路頭に迷ってたところやったんやけど、イチかバチかで賭けて勝ったんや。
裾野の腹に乗った俺は、どこでもええから傷をつけなあかんことを忘れてて、慌ててきょろきょろしとったら、裾野はしんどそうに歯を食いしばって腰をクネクネさせたり、俺のことをギリッと睨んできたんやけど、ここでおかしいと思わへんかった?
――槍で刺されてもおかしなかったやんか?
ここに関してはほんまに奇跡で、腕を上手く押さえ込んで居てん!
ほんで槍が使えへん裾野は、必死やった訳や。
せやから俺は、一番目立たへん顎の下に小さい切り傷を付けたんや。
「……勝ったん……やんな?」
「うん」
「ほんまに手加減全然せえへんかったやん……」
「それは、総長の前でそう言ったからね」
と、だるそうに起き上がる裾野に手を伸ばすと、笑顔で手を握ってくれたんや。
今だから言うんやけど、裾野の笑顔ってほんま心臓に悪いねん。
ほんで総長に報告に行くときに時計塔を見上げたら、1時間も経っていたことに驚いたで。
せやけど、やんわりとしたオーラのままで待っていてくれた総長の姿に、何か感じるものがあったで。
「関原竜斗、ようこそ藍竜組へ。……あ、関原竜斗って本名?」
総長がまじまじと俺の顔を見ながら言うから、ほんまに笑いそうになったで。
裾野も同じこと聞いてたし……。
「せやで」
「う~ん……あのね、この業界では本名で活動してはイケない規則になっているんだ。例えば、君が本名のまま活動をしたとしよう。我が藍竜組以外にも最大のライバルである片桐組、そしてその他約10組くらいの殺し屋組織がある。それで君のことをよく思わないライバルたちが調べ上げて、お父さんのいる関西まで情報が洩れてしまったらどうする? お父さんは、お母さんと弟さんと住んでほしいんだよね? 殺し屋なんて物騒なことをやっていると知ったら?」
総長に優しい口調で諭された時は、まだぼんやりとしか”殺し屋”という仕事を考えていなかったから、俺は軽く「嫌やろうな」とだけ返したんや。
そしたら裾野は大きなため息をついてん。
「竜斗の父上は悲しむだろうな」
「うん、裾野の考えがよく聞く答えだよ。まぁそういう訳で、コードネームを考えてほしいんだ。」
総長は裾野に目配せをすると、裾野は額と眉間の間にあるほくろを面倒そうに掻きながらも、さっきとは全然ちゃうオトンみたいな目で見下してきてん。
「コードネームというのは、俺で言う裾野だ」
そこで言葉を切ると、ふぅと息をつく裾野。今思えば疲れてたんやろな。
このときは面倒なのかな~と思てたんやけど。
せやけど俺は、何て名前にしよう?
○○レンジャーのレッドが好きやったから、レッドとかええなぁ。
赤が大好きやから、赤は入れたいなぁ……そんなことを思いつつも、何となく自分の名前は入れたくて。
さんざん悩んだ結果は、
「菅野」
「かんのって、くさかんむりの「菅」に野原の「野」?」
「せやで」
「理由が聞きたいな」
総長にそう促されると、黙ってしまうねん。
自分の名字の「かん」と命の恩人の裾野の「野」を取ったなんて……恥ずかしくて言えへんかった。
「言いたくないなら良いのではないでしょうか?」
「……あぁ。それと裾野には話がある。菅野を部屋に案内したら、またこの部屋に来てくれ」
「はい。……行こうか」
そう言って裾野は俺の手を引いて、総長室を出た。
廊下は非常灯だけやったから、緑のぼんやりとした光だけが頼りやってん。
もう22時を過ぎていそうな感じやったで。
それと、めっちゃ怖かってん!
夜の学校は怖いやん……ほんま。せやけど、それ以上に怖かったで。
「俺らの部屋は4階の角部屋。着いたら先にお風呂入っててくれるか?」
裾野は足音すら反響する階段で低めのトーンでわざと言うから尚更怖くて、俺は無言で何度も頷いていたで。
――ガチャ。
裾野と別れて部屋に入ってすぐに電気を付けると、白い天井と床、左に青いパーテーション、右に観葉植物と本がキッチリ並んだ床から壁までの本棚、ほんで目の前には黒いカーテンがすぐ目に入ったんやけど、俺の開口一番は「風呂どこ?」やってん。
とりあえず奥の青いパーテーションをかき分けると、台所、冷蔵庫、レンジその他諸々完備のダイニングルーム。
更に手前にかき分けると、2台のベッドとテレビ1台。録画も可能やで。あと、姿見もある。
ほんで最後のひとかきわけで目の前にドーンと現れた真っ白なドアの真ん中に画鋲が刺さってて、四角形の茶色い枠の白いメッセージボードがかかってたんやけど、そこには「風呂、御手洗、身支度」の裾野の直筆の文字があってん。
俺はため息をつきながらもその部屋に入ってみたんや。
そしたら、床にもどこにも埃一つ無いピッカピカの白い洗濯機、向かい側に曇りガラス入りのドア……多分風呂やろ? ほんでその奥に青基調の鏡付きの洗面所、更に奥にあるのがトイレや。
「綺麗……」
当時の俺にはありえへん世界やったから、嬉しなって虹色順に並んだバスタオルで遊んでいたんやけど、ふと鏡に映った自分の顔と服を見た瞬間、凍りついたんや。
さっき地面を引きずった時についた擦り傷とグラウンドの土だらけの顔。服は”商品”用の灰色で無地の半袖シャツにベージュの半ズボン。ほんで何か赤黒いものが太ももに見えたから、そっとめくってみたんやけど……
「何……これ……?」
そこには”商品”の”烙印”が押されていたんや。
今でもいつされたかはハッキリとは知らんねんけどな。
当時の俺には大きなショックで、自然と涙がボロボロと零れて胸に抱きかかえていたバスタオルを濡らしていったんや。
そのときに思い出したのは、裾野が言ってたこと。
「着いたら先にお風呂入っててくれるか?」
……俺は気の進まないまま、服を脱いで近くにあった白い籠に入れたんやけど、そこでもたくさんの擦り傷に胸の下にある消えない火傷の痕。
「はぁ……」
俺は仕方なく風呂のドアを開けたんやけど、そこに広がる綺麗な茶色基調の風呂場よりも俺は浴槽を見た瞬間に心臓が跳ね上がってん。
お湯を沸かしてないから勿論空やねんけど、だんだんあの時の記憶が脳も身体も支配して鎖で縛ってきて……ゆっくりと意識を失ってん。
俺は天使に揺さぶられている夢でも見ているんやろうか?
ずーっと遠くの方で誰かが呼んでいて、でもどんどん近づいてきてん。
「――の!! ――んの!! 菅野!!」
俺の聞こえている限りの3回目で目をカッと覚ましたんやけど、裾野は汗だくで眉を下げていたんや。
その様子からして多分3回どころやないくらい呼んでくれていたと思うで。
「すそ……の……?」
「うん、裾野。はぁ……本当に良かった」
「ごめん……なさい」
そう俺が謝ると、「いいよ。よかった……」と言いながらぎゅっと抱きしめてくれてん。
あの司会者の抱き方とはちゃう、包む感じの抱き方やったな。
それでも腕がとにかく筋肉隆々やったから、少し痛かったんやけど。
「菅野」
「……なんや?」
この半歩遅れた返事が直るのは少し後やねんけど、やっぱりコードネームって違和感があったんや。
「頭でも打ったのか?」
裾野は俺の顔や頭をまじまじ見ながら聞いてきてくれはるけど、そうやない。せやけど、こんなこと言えへんし……。
「……」
「どうした? 何かあったのか?」
裾野の鋭い追求に怖なった俺は肩も震えだして、それでも言えへんかってん。
「……」
ほんで俺が堪えきれずに泣き出すと、裾野は黙って背中をさすりながら、
「もしかして、カナヅチ?」
と聞いてきたのが何でだかわからんけどカッとなる導火線になって、耳元で「ちゃう!!」と叫んでしまったんやけど、裾野は苦笑いを浮かべるだけやった。
「先に体洗ってていいよ。お湯、入れておくから」
そう言って、裾野は2つの蛇口を捻って温度調節をし始めたんや。
今思えば、何てことない会話やし裾野は何も悪ないで?
でもこのときの俺は、浴槽みたいなところに投げ入れられた俺には……耐えられへんかった。
せやけど、そんな俺の気配を感じてか、裾野はすぐに振り向いてじっと俺のことを見つめた。
「菅野。まだ俺に隠していることがあるな?」
「……」
図星や。せやけど気づかれたない俺はギロと裾野を睨みあげてん。
「いいよ、言わなくて。今日はもう遅いし、シャワーだけにしよう」
裾野は一通り体と髪を洗い終えて、さっさと出ようとしたんやけど、なぜか俺はそれを引き止めたんや。
「……」
「ん?」
「……嫌や」
その言葉を聞いた裾野は、ほっと胸をなでおろして「嫌われてはいないのか」とボソッと呟いてたな。
ちゃーんと聞こえとったで。
ほんで俺らは一緒に出たんやけど、そこで事件発生や。
俺の着替えの服が無い、というな。
裾野はそれでも気を回して、「ぶかぶかだけど着やすいから」と渡してくれたのが、今では雑巾代わりになってる、上が白の無地の半袖、下が黒の金色のライン入りの長ズボンのジャージや。
「ありがとう」
何も考えずに着ようとした俺の手を止めている裾野の顔が真っ赤なんは、今ならわかることや。
そりゃそないなこと言うの緊張するやんな~。
「下着も……使えばいいよ」
色と形は裾野の為にも言わんといてあげるけど、大分ぶかぶかやったな。
それでも嬉しかったで。
ほんで髪を乾かし終えたときに、裾野は掛け布団で頭をスッポリ隠して寝てはるから、そういう寝方なんやな~って思ってたんやけど?
あんま言うと怒られそうやから、この辺にしとくで。
現在に戻る……
裾野、騅&菅野の部屋
菅野
まぁ裾野の背後には赤いオーラがメラメラや。
後半からどんどん出てきてたんのは知ってたんやけど、話し出すと止まらへんのが俺の長所やから。
「裾野さん、意外とかわいらしい一面もあるんですね!」
せやけど、騅に言われている時にはひょいっと隠すのなぁ。
「……あぁ、まぁ」
「せやろ~? ほんまあの時は何でなんかな~としか思わへんかったで~」
「あぁそうかよ」
珍しくぶっきらぼうに言ってそっぽを向く裾野にバレんようにクスクス笑うてたで。
「あら如何にも男子トークって感じね。それから裾野さんとはこのまま?」
と、かわいらしく小首と尻尾をかしげるリヴェテさん。
「あ~それがちゃうねんなぁ……」
「あぁ、そうだな。それに、そろそろ俺が横槍を入れる番も来そうだな」
裾野は「う~ん」と言いながら胸の前で指を組んで、ぐ~っと背中を伸ばした。
本人には間違っても言えへんけど、年か?
「そん時は頼むで」
「あぁ」
「この会話、相棒らしくて羨ましいです……!」
「そうね。菅野くんが辛い時は支えてあげてる感じも伝わるし」
リヴェテさんと騅がそう言うてくれるのは、今なら素直に喜べるし、裾野とも笑いあえる。
せやけど、そうなるまで……俺らは一本道なんかとちゃう茨の道を進まざるをえなかったんや。
今は仲良さそうに話している裾野と菅野。
しかし、それまでにどれだけの苦労があったか。
その一部が来週の土曜日に判明します^^