「第十四-恋愛と法の神は、誰に微笑もうとしているのか?-」
裾野の二度目の恋愛の行方、執事長の異変の要因とは一体……?
主人にも言えなかった乞田執事長の秘密の代償とは?
※約7,500字です
※遅れてしまい、大変申し訳ございません。
2015年4月1日 午前(天気:曇り)
後鳥羽家 裁判所
裾野(後鳥羽 龍)
関東の中心部にある最高裁判所を模範とした厳かな外装と内装に、泣く子も黙るどころか、どんな適当な人間でも言葉を発せなくなるだろう。
そのうえ模範と言っても、1箇所だけ違う部分があるのだ。
――被告人や証人が立つ証言台自体が、絞首用死刑台になっているのだ。
要するに、被告人は有罪と宣言されたその瞬間、天井から降りてくる鉄製のしなやかな紐状のものに首を絞められ殺される。
また証人も嘘をつけば、同じように殺されるのだ。
このように、後鳥羽家の裁判所は”死”と隣り合わせの断罪になるのだ。
俺はこの裁判所で起きた奇妙な現象を思い出しながら証言台に立つと、
裁判長の席に月道が座っていた。
「裾野は目障りだから死刑」
月道は俺と目も合わさずに言うと、木槌をカンカンと乾いた音がよく響くように高いところから振り下ろした。
ハッキリ物を言いすぎる月道に、俺はため息をつきながら反論しようとしたのだが、
「異議あり!!」
と、舞台俳優さながらの声の通り具合、周囲を憚るような声で月道を指差すのは、如月龍也さんであった。
月道は長い睫毛を伏せ、後ろに結った髪を艶めかしい手つきで払いながら立ち上がると、
「誰?」
と、同性でもドキッとする艶やかな流し目で龍也さんを視界に捉えつつ、声色は氷の如く冷淡に言った。
「初めまして。俺は如月龍也だ。裾野とは昔からの友人でね。君は黒河月道くんかな?」
龍也さんは俺の隣に立つと、弁護士が証人に語り掛けるような優しさを含んだ声で言った。
グサリと刺さる月道の態度に対し、優しさと言うものを保てる人物は少ない。
勿論以前からであるが、龍也さんは尊敬せざるを得ない。
月道はその言葉を聞き、多少は氷が解けたのか、階段を下りて証言台の前まで歩いて来た。
やはり目の前に来ると、菅野と同い年とは思えぬ程の色気と冷酷さに圧倒される。
広い幅で高いヒールのブーツを履いていることもあり、長く女性らしさすら感じる細い脚、腰と胸板の薄さに色気を感じる上半身、モデルを彷彿とさせる顔の白さと小ささ。
それから薄くきゅっと結ばれた唇に、隅々まで手入れの行き届いた肌、目は普段は切れ長だが、女性になる時は大きい丸目に変貌する。
後れ毛が一本も無い唯一無二のポニーテールは、お尻の上あたりまで伸びており、裁判所の無機質な照明の下でも天使の輪が毛先まで届いている。
だがこの口から発せられる言葉に、慈悲も優しさすら感じられない。
……あくまでも普段は、だがな。
何より騅の話を聞いても、菅野の話を聞いても分かってもらえたと思うが、黒河月道という人物は一度も笑ったことが無いのだ。
「そうだけど。裾野の過去を聞く為に来たのは、そっちも一緒な訳?」
だから月道は警戒心が高く、威圧的になりがちなのだ。
だが龍也さんはそれを見抜いているのか、微笑みを崩さない。
「そうだね。あと、黒河は威圧を自分にも掛けているから、眉間に皺が寄っている。それでは仕事に差し支えないか?」
龍也さんはそう言うと、証言台の椅子に脚を組んで座る俺にも視線を遣った。
その目は共感を促すものであったが、たしかに月道は気を張り過ぎるせいか、イライラしやすいところもある。
そのせいで孤立を招いていることに気づかずとも、月道自身その事に気を使わないから、元相棒の佐藤永吉から一緒に居られないと言われたのかもしれない。
「敵の数より、味方の数を数えてみて欲しい」
俺は自分でそう言いつつも、これから話す過去の自分は味方の数を数えていたか、とも自問してみた。
自答するなら、幸いにも敵が少なかったから敵を数えていた。
……そのような気もする。
月道は俺の言葉に吹雪の如く冷たい表情を見せたが、何人か思い当たる人物は居たらしく、小さく頷いてみせた。
ここで菅野のように接すればまた吹雪に戻ってしまうので、俺はその反応を見て大きく頷いた。
「裾野、話してもらえるか?」
龍也さんは俺ら2人の空気感を察し、話を促してくれた。
2002年4月1日 4年次始業式(天気:晴れ)
片桐組 初等科体育館
裾野(後鳥羽 龍)
春休みという自由行動を3月20日以降与えられ、今日まで訓練に費やしたという殺し屋が多いだろう。
片桐組の授業カリキュラムは過酷な為、年末年始の休み以降はそこで自分を見つめ直すしかないのだ。
俺は佐藤順夜と共に始業式に臨む為体育館に入ると、まだ空席の目立つ会場の前方にあことしとゆーひょん、そして茂の姿もあり、俺らはそこを目指すことにした。
「おい、順夜」
俺は始業式で人が集まってくる中、素知らぬ顔でお尻を触る横も縦も幅広い佐藤を見上げ、辞めるように小声で制したのだが、佐藤は自分の顔に夢中で手の動きには気付いていないようだ。
……急に俺が名前で呼ぶようになったのは、一緒に春休み中に特訓し続けているうちに、強気で自信家な佐藤に惹かれてしまっていて、それから自然に互いを下の名前で呼ぶようになった。
「聖、痩せた?」
佐藤は手鏡から顔を覗かせ、後ろを振り返りながら歩く俺のことを熱っぽい目線で見て言った。
お尻で分かるのはいかがなものか。
俺はそう思いながらお尻を撫でる腕を掴み、力任せにグリッと捻りあげた。
「あいたたた……!」
佐藤は、それからも「ギブ! ギブ!」と、苦笑いを浮かべて言いながら、手鏡で俺の肩を何度も叩いた。
するとその声に気付いた同期組が椅子越しに振り向き、各々の笑い方で笑顔を浮かべながらこちらに手招きをした。
「佐藤と裾野は付き合っているのかしら?」
ゆーひょんは興味津々なのか、やたら距離の近い俺ら2人を見比べてはニコニコしている。
ほんの出来心からの一言であったことは明白であるのに、俺は表情に出さない様に笑顔を作ってしまっていた。
「いや、付き合っていない。話を逸らすようで悪いのだが、あことしとゆーひょんはどうなんだ?」
俺は逃避に取られないように繕いながら、2人の顔を見比べた。
それに対し2人は顔を見合わせ、それぞれに首を捻ってしまった。
「そういうのは無いわよ。あことしと一緒に居るのが楽しいだけだから、そうよね?」
「うん! すそのんのんと居るのも、しげちゃんも、佐藤も楽しいけど、ゆーひょんがなんだかんだ楽かも!」
そう話すあことしもゆーひょんも、波長が余程合うのか、本当に楽しそうに目を輝かせていた。
その後茂とも2,3言言葉を交わすと始業式が始まってしまい、新学期の説明がなされた。
4年次になると、英語、古文、漢文、英会話、道徳(上級生向け)が増える。
そのうえ体育という名の訓練授業が夜の部に増えてしまうため、1限60分が7コマ×5日間まで入ることになる。
その代わり土日は午前中までになるが、午後は昼寝してしまう隊員が多いのが現実であるのだ。
俺はカリキュラムの変更を聞きながら、7コマに増やすくらいなら土日を長くしてほしいな、と内心溜息をついていた。
それからは規則、処罰の再確認、成績についての再説明などが行われ、健康診断の時間になった。
4年次は人数も5人と少ない為、毎年一斉に行われる。
俺は同期組で体重や身長についてあれこれ言いながら、採血で悶絶するあことしを笑ったり、長座で10cmもいかないゆーひょんに同情してみたり、首の強度で最強を誇る佐藤を褒めたたえて遊んでいた。
「しげちゃんとすそのんのんは、ほぼ完ぺきだよね。えー何が苦手なんだよ~」
あことしは採血のせいか真っ青の表情のまま、俺に寄り掛かって腕をブンブン揺さぶってきた。
「俺はな……お前にあって俺に無いものが苦手だ」
俺がこっそり首を噛み後鳥羽の血を分けてやると、あことしは急に元気になってきたのか、1人で立てるまでに復活していた。
そうだった。後鳥羽の血についてだが、簡単に言うとどの血液型にも首を噛むと献血が出来る便利な能力のようなものだ。
「ん……? ん~元気になってきた。俺にあるものって、狙撃? それともギャンブル? あとは何かな~」
あことしは制服の裾を握りしめると、そのまま自分の腕を何度も擦った。
劣等感が強いのは、当時からあったのだろうか……?
「沢山ありすぎて、俺にもわからない」
俺は当てられる前に逃げるような事をしれっと言った。
答えを言うなれば、ギャンブルなのだがな。
あことしは俺からそれ以上の答えを得られないと悟ったのか、今度は視力検査を終えた茂の元に駆け寄り、
「じゃあ、しげちゃんは?」
と、詰め寄るように肩をバシバシ叩いていた。
だが茂は首をかしげ、「英会話は面倒ですね」と、俺同様に明言を避けているようだった。
その様子を遠目で見ていると、佐藤が手鏡を見ながら俺の隣に歩いてきた。
「聖は二重目だから、視力も良さそう」
佐藤は脈絡も何もないことを突然言い出し、俺は口をあんぐり開けて佐藤を見上げていた。
実を言えば俺は奥二重だから、俺よりも背が高い佐藤に二重と言われるということは……おそらく、くっきり二重になっていたのかもしれない。
「二重は関係ない気がするが、視力は1.5だ。そういう順夜も目が悪いイメージが無い」
俺は開けっぴろげになっている健康診断シートを覗き込みながら言った。
視力は両目1.0。悪い訳ではなさそうだ。
ここまで来ると気を使わないというよりも、自分に自信があるとしか思えない。
「あことしは、2.0らしい」
佐藤はまた前髪が手汗で張り付くくらい弄りながら、何とか二重を出現させようと瞼をぐいぐい手を使わずに動かした。
「……気にしているのか」
俺は佐藤に聞こえないように小声で言うと、腰を何回か叩いてやり、
「遺伝を無理矢理変えようとするのは、良くないと思うぞ」
と、五体満足に産んでくれた両親に感謝しながら微笑んで言うと、佐藤は手鏡を乱雑に懐にしまいこみ、
「二重は優性遺伝」
と、ビシッと俺の額にあるほくろを指で潰すように差して言った。
これは相当気にしている。
俺は二度と目の話はしないようにしようと胸中で誓い、片桐組の門の前まで一緒に向かった。
今日は健康診断の中間結果を持って帰らなければならないので、家に帰るのだ。
俺と佐藤は門まで特に会話はせずに行き、門の前に着くと佐藤は急に俺との距離を縮めてくると、俺の名を呼び、割れ物を触るように髪に触れた。
「……?」
俺は佐藤を見上げ、くすぐったいので頭を振ろうとすると、
「……」
佐藤は大分不機嫌そうな顔を一瞬浮かべたが、すぐにスッとした顔になり、俺の髪に指を通した。
おそらくゴミか何かが付いていたのか、それとも少し髪が乱れていたのだろうか。
俺は礼を言いつつも、何を期待していたのか、心臓がドクンと跳ねあがっていた。
だが俺はこの気持ちを二度も経験することが怖く、思わず佐藤のことを突き飛ばし、走り出していた。
――もう、「好き」という気持ちで、苦しみたくない。苦しめたくない。
佐藤が優しいかどうか、付き合っていいかどうか、そういうことよりも、またこの気持ちで誰かを傷つけてしまわないか。
――俺は……また……?
走りながら嫌な思い出ばかりが頭に思い浮かび、振り払おうと必死に頭を振って走っていた。
俺はそのまま乞田の所まで走り、健康診断中も、乞田と話しながら自室に向かう途中もやはり頭の片隅は常に佐藤が支配しており、自室に帰ってから早速乞田と橋本だけを残し、2人に一通り話してから訊いてみることにした。
「俺は……また人を傷つけるのかな」
俺は迫り出した窓を開けて窓枠から脚を投げ出し、腕を組む橋本に目を遣ると、
「それって、龍様次第じゃないんですか?」
と、徐に近づき、そっと手を差し出す橋本の白く繊細な肌、くっきりとした二重瞼が夕日に映え、俺は…………
誰にでもこの感情を持ってしまうのか、と初めて恋愛に対して恐怖を覚えてしまっていた。
だがそれを言う訳にもいかず、思い切って橋本に抱き着くと、
「うわ、何なんですか龍様、嫌だなぁ」
と、笑い皺が扇状に目元に寄った橋本らしい笑みを浮かべながら、必死に引き剥がしてきた。
「そうだよな。俺次第だよな……」
俺は佐藤よりも細く背の高い橋本を見上げてため息をついた。
そんなことは当時から分かっていた。
だが言われないと済まない程、俺自身追い込まれていたようだ。
それよりも、何かしら突っ込んできそうな乞田が無言を貫いていることに違和感を覚えた。
「乞田?」
俺は考え事をしているのか、先程から空を見つめる乞田の腰あたりをくすぐってみたのだが、乞田は身をよじって嫌がる素振りを見せるだけで、表情を見せない様に必死に顔を背けてきた。
この時のことはよく覚えているが、治りかけていた心を再び壊されたようで……それほどショックが大きかったのだ。
「乞田執事長……まさかあの噂のこと、気にしてるんですか?」
橋本は乞田の表情を見たらしく、目を細めて懐疑的な表情を浮かべている。
よって、噂とやらはそこまで信憑性の無いものなのだろうと推測出来る。
「…………」
乞田は黙ったまま部屋を出てしまい、橋本は肩をすくめて、「危ないんで連れ戻してきます」と、俺に一礼をして部屋を出て行った。
乞田が俺に何も言わず、礼もせずに俺の元を去ったのは、約10年間で一度たりとも無かった。
「……何かがおかしい」
俺は片桐組の制服から普段着の烏色の細身のパンツに、オフホワイトのVネックのニットに着替え、2人を探しに出た。
すると透理兄さんに見事に鉢合わせしてしまい、俺は挨拶もそこそこにして他を当たろうとしたのだが、兄さんは俺の押し隠した表情を見るなり、あからさまにクイと口角を上げ、早くから勝利宣告をする軍師さながらの表情を浮かべながら、1階へと続く大階段を下って行ったのだった。
――ここで透理兄さんと俺の対立が、水面下から浮上することとなったのだ。
思い出したくもないが、まさか次の日に俺の生死すら危ぶまれる”白黒”が付けられそうになったのだ。
語らなければならないだろう。
この後結局乞田を探す気力も無くなってしまい、布団に入ってしまった……ということまでは覚えている。
所謂”寝落ち”というものだろう。
ちょうど日を跨いだ頃、健康診断シートを提出するだけの日でお休みを頂いているので、もっとゆっくり休んでも良かったのだが、どうしても寝付けなかった。
俺は半ば使命感のようなものを感じつつ布団を退け、寝間着から普段着に着替え直すと、洗面所で身支度を整えてから部屋を出た。
「……ん?」
気配には敏感な方だから、最初は幽霊の類かと思ったのだが、それにしては人のぬくもりをかなり感じる。
それからも暗がりの中、足音を鳴らさないように足を滑らせて歩いていくが、人の気配は近づいてこない。
まさか、庭の方だとしたら……敵襲?
俺は護身用の槍を握る手に力を込め、足を滑らせながら階段を下り、玄関前まで走った。
「……」
おかしい。というよりも、あり得ないと言った方がいい。
玄関を中心と考えると、裁判所のある右の方角に気配を感じるのだ。
俺は数mm程度扉を開け、聞き耳を立ててみることにした。
「……しっ……こ………………来い!!」
誰の声だ?
俺は妙な胸騒ぎを覚え、更に扉をmm単位で開けてみた。
すると腹の前で手錠をされ、その先に繋がる鉄パイプ程の太さの鎖……目で追ってみると、ちらりと見えたのはミルクティー色の髪。
「……っ!?」
おそらく、この時見てはいけないものを……見てしまったのだ。
俺は冷や汗を背中に掻きながら、今度は手錠の方に視線を戻し、そこから上へと視線をもっていくと、執事服にこめかみ辺りの白い数本のアレンジヘア……まさか。
乞田が何をしたというのだ?
俺は問い詰めるべく扉を開けようとしたのだが、後ろから軽々と持ち上げられ、手袋もしていない大きな手で口を塞がれた。
「……んんっ!?」
完全に油断していた。
誰も起きている筈がないと高をくくっていたのだ。
だが若い男が付けていそうなこの安っぽい香り……嗅ぎ覚えがある。
「間に合った……」
そう小声で言って手を離したのは、やはり橋本であった。
執事寮から後鳥羽家玄関までかなりの距離があるが、全く息を切らしていない。
下手したらそこらへんの殺し屋よりも、スタミナ面で強いかもしれない。
「な、何で止めた?」
俺は持ち上げられたことで橋本の顔をいつもより近くで見られる嬉しさと、乞田を助けたい正義感で気持ちが完全にこんがらがっており、声も裏返ってしまっていた。
「今行ったら、執事長が有罪になっちゃうんです」
橋本はどちらかというと童顔なので、眉を下げて目尻も下げると子どもが浮かべる困った顔のようになる。
「……やはり、乞田と透理兄さんだったのか」
「はい。それに金髪じゃあ目立ちますし、俺だと背が高くて隠れきれる自信無いです。だから裁判で執事長が勝つと信じるしかないんですよ」
橋本は切なげな表情でそう言うと、俺の目をじっと見つめ始めたので、嫌な光景でも見せるのではないかと思い、すぐに目を逸らした。
だが橋本は目をパチクリさせるだけで、「俺には何にも見えなかったなー」と、つまらなさそうに革靴の埃を取るように絨毯を踏んだ。
「……うん」
俺は橋本の蝶ネクタイをグイと引っ張り、今の自分の不甲斐なさを恥じた。
昨日の時点で乞田の様子がおかしかったことに気付いていたのに、透理兄さんに勝ち誇ったような顔を浮かべられただけで諦めたのか。
そのせいで乞田は……。
何の罪かも分からない状態で裁判所に引っ張られるのか。
俺が後悔を心中に流し込んでいると、橋本が「あ、言い忘れていましたよ」と、いつも通りのヘラヘラとした笑顔を浮かべた。
「あの時逃げた乞田執事長を引き止めたんですけど、執事長はこう言い残して隠し通路から中庭に行ったんです。『俺が死ねば、家は安泰。弟たちが苦しむことも無い。普通の生活に戻れるんだ』って。それ聞いても俺は、何て言ったらわからなくてですね…………。その、どっちの家なんだろうって」
橋本は俺を片手で地面に下すと、折角整っている髪をわさわさと手で乱しながら言った。
……どっちの家か?
あの本に書いてあったことが本当なら、光明寺家か後鳥羽家になる。
もし偽物なら、他の家か後鳥羽家。
どちらにせよ、乞田は乞田家ではない……そもそも、存在すら知らない名家か、一般の家なのかも知らないが。
俺は気が付いたら図書館に向かって走り、着くや否や本を取ってもらい、1日貸出を申し出た。
それからいつ始まるかも分からない裁判の前に、乞田の項目を暗唱できる程に何度も読み返し、そうする度にどんどん空は明るくなっていった。
――カーンカーンカーンカーン……!
4度の鐘は裁判の鐘。
言いそびれていたが、後鳥羽家の家訓に書いてあった事項だ。
俺は胸を張って後鳥羽家の淀んだ空気を肺一杯に吸い込み、本を抱えたまま裁判所まで走った。
――絶対乞田を勝たせて、助け出さないと……!!
お疲れ様です。
執事長の乞田です。
投稿が遅れてしまい、大変申し訳ございません。
わたくしからも謝罪させていただきます。
裁判については、特筆することはございません。
次回の投稿にて龍様がお話になることが真実でございます。
それにしても、橋本は逞しくなりましたね……あ、そうですね、わたくしよりも9つ年上ですものね。
偉そうに言うべきこともございませんし、この辺で。
次回投稿日は、4月8日の土曜日でございます。
作者さんの最近のお悩みは、遅くまで起きていられるコツを知りたいそうです。
……放っておけば、よろしい気もしますが。
それでは体調にお気をつけて、本日もお過ごしください。
執事長 乞田光司




