表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/69

「第十二-静かな怒り、水面下の束縛(後編)-」

裾野さんの相棒に選ばれし佐藤。

後鳥羽家ではどのように過ごしているのか……?

片桐組の視点で言うなれば、水面下で動く裾野の動きパートともなります。


※約8,100字です。

※若干BL注意です。

2001年12月24日 月曜日 放課後(天気:晴れ)

片桐組 狼階 佐藤順夜の部屋

裾野(後鳥羽 龍)



 俺は昨日佐藤順夜にすべてを話し、相棒の申し入れをした。

その時の様子は特筆すべきようなハプニングも無かったが、方法は説明しておく。

相棒になるには、相手方に了承を得るのはもちろん、エース、総長の許可を得て初めて依頼を受けられる正式の相棒となる。

ちなみに武器が被っていることは当時は関係なく、24日当日に正式な許可を得、俺らは晴れて相棒関係となり、佐藤の部屋に土日のみ住むこととなった。

それとこの時期には佐藤との依頼が来る為、アシスタント業も辞めることにはなったが、2人とは連絡を取り続けている状況だ。


 状況説明はこのくらいにして、次に二つ返事で了承してくれた佐藤の部屋を紹介する。

元彼とは大きく違い結構整理整頓はなされているが、家具と床の隙間に必ず授業のプリントや返却されたテスト等が無造作に置いてあり、綺麗好きの俺としてはかなり気になる。

家具の配置は全寮統一、配置換えは禁止されているため、そこは前の部屋と同じだ。

入ってすぐの奥まったところに洗面所、左が御手洗、右がお風呂場。

少し行くと無地の白いシングルベッドが1台に、ダブルベッドが1台、間にはサイドテーブルと間接照明があり、そこに互いの武器を立てかけるペアが多い。

クローゼット系は、ベッドのある部屋の反対側の壁際に6つ引き出しのあるタイプが2棹ある。

 さて、日用品はどこで買っているのか気になるだろうが、各寮の食堂の隣に購買会があり、そこで片桐組オリジナルという名のメーカーPとZの製品が所狭しと並んでいる。

中には烏階開発のものもあるが、歯ブラシ以外はオススメできない。

「聖」

佐藤はダブルベッドに寝転がりながら、手鏡で自分の大きな顔を見てはうっとりしつつ言ってきた。

「どうした?」

俺は帰り支度を済ませながら横目で視界に入れて言うと、佐藤は150cm、体重50kgの巨体でベッドから軽やかに転がり起きると、140cmほどの俺の目の前に立ち、

「この俺から見ても、聖は……カッコイイ」

と、短く切りそろえ、若干浮かせた俺の前髪を油分の多い人差し指で巻き付けると、囁くように言ってきたので、俺は元彼の顔がすぐに浮かんだ上に先なる行為を想像してしまい、逃げるように身を引いた。

「カッコイイ? そう、ありがとう……」

俺は苦笑いを浮かべながら、そそくさとその場を後にした。

 何だか佐藤が……まさか、無理矢理にでも俺を襲ったりしないだろうが、憎き男の影が時折見えてしまうのだ。

だがそれでも、雄の部分は反応してしまうようで、佐藤と数十分居るだけで自信家の部分に惹かれてしまう自分が居る。

 昨日も相棒になって初の日曜依頼で、俺を完全にバックアップ扱いにしているところが逆に今までと違って、新鮮味を感じるのだ。

…………俺はまた、とんでもない男を好きになろうとしているのだろうか?



 そのようなことを考えながら、いつものグスト前に来ると乞田が丁寧に礼をした。

側には黒塗りのドールスロイスも控えており、後部座席には黒いカーテンが掛けられている。

「お待ち申し上げておりました、龍様」

乞田は外では勿論、ふざけまわったり奇抜なことを言ったりしない。

なので今だけは、そこらへんの執事と同じような口調を使う。

「うん。早く帰ろう」

だから俺は、早口で急くようにドアを押さえている乞田に言うのだ。

どうしてもそんな気分の悪い、耳をくすぐるような、身震いする口調を使われると、どうしても調子狂うのだ。

「かしこまりました」

乞田は少し崩した口調で言うと、丁寧にドアを閉めてからさっさと運転席に座った。

それから後部座席との間の小窓を開けると、ひょこと顔を覗かせ、

「いや~、毎度取ってつけたような敬語でごめんなさい。ご存知だとは思いますが、一応後鳥羽家の執事長ですから……格好付けですよ」

と、心からの笑顔を浮かべる乞田には、こちらが毎度癒されているようなものだ。

やはり20歳になっても乞田は乞田だ、とも思っている訳だが。

「わかっている。やっぱり、大変そうだよ」

俺は後部座席で姿勢よく座って呟くと、乞田は「とんでもございませんよ!」と、ギリギリまで身を乗り出して言い、続けて切羽詰まってこう言った。

「龍様の為でしたら何でも致しますし、私の評価は龍様の評価になる時もございます。ですから、どうか乞田のことはお気になさらず」

俺は乞田の忠誠心に感動して頷きつつ、自分ならこんなにハッキリ主人に言えるかどうかも考えた。

ん……やはり押し隠してまでも、主人には伸び伸び育つように言うのだろうか。

そう考えると、つくづく天性で素直な性格は羨ましい。

「……」

俺は車が動き出した気配を感じ、決して上手いとは言えない運転の中、授業の復習と座っていてもできる特訓の復習をやって時間を潰した。


 数分後……

「まもなく、後鳥羽家前~、後鳥羽家前~」

と、何かの真似をして言う乞田の独特な声に笑いつつ、道具を鞄にしまい込んだ。

今なら分かるのだが、どうやら電車の車掌の真似だったようだ。

 車のエンジン音が止み程なくして後部座席の扉が開くと、俺の荷物を全て持ち上げた乞田とガレージ天井の窓越しに冬の紫がかった空が見えた。

……また日が短くなったな。

俺はそう思いながら車から降り、部屋まで帰ろうと歩き出すと乞田に呼び止められた。

「返り血も無いようですし、もしお時間があるなら、図書館で読み物でもいかがですか?」

そう言う乞田には複雑な気持ちが混在しており、声色からも感情がイマイチ読み取れなかった。

これはかなり珍しい……。

乞田に何かあったのか、それとも俺から感じ取ったものがあるのか?


 そのまま図書館に行くと、乞田は5mもあろうかという書棚に向かって、

「上から5段目、右から3番目、取ってもらえますか?」

と、半ば叫ぶように言った。

乞田の声が反響するや否や本が独り手……いや、機械のようなもので裏から本が押し出され、途中でお盆のようなものに受け止められ、そのまま乞田の手に渡った。

乞田は、両手で持たなければならない程大きい古ぼけた藍色の表紙を見ては頷いているが、

「…………」

俺は状況が呑み込めず、しばらく無言で乞田の顔を見上げることしか出来なかった。

そうしていると読みふけっていた乞田と目が合い、乞田はハッと顔をあげて本を閉じてしまった。

「これはですね、後鳥羽家のことや歴史のことが書かれている本です。歴代のご当主、ご兄弟、仕えた執事の名前まで全部書いてあります。……これを見ていると、いつか改訂されて龍様と私の名前も載るのだろう、と、誇らしげな気持ちになります。えっと、次の改訂は5年後ですね。私乞田、今から楽しみですよ! なんちゃら代目当主後鳥羽龍様、執事長乞田光司! あ、あの……気が早いですか?」

乞田は本を胸に抱き、目を輝かせて本棚を見上げて語っている。

そのうえ図書館は照明が暗めに設定されているため、輝く目が心の照明のようで……綺麗というよりも、神秘的だった。

その姿は本当に…………思い出すだけで涙が出てくる光景だ。

今は後鳥羽から逃げ、時折しか帰らなくなり、おそらく継ぐ頃には白髪で腰も曲がっているだろうに。

それ以前に、24日生まれだと言うのに。

どうしてこの男は、ここまで俺に期待を寄せるのだろう?

 俺は幼いながらに感じ取ったものがあったのか、

「早くないよ。いつかなれるといいね」

と、目を輝かせる乞田を見上げ、微笑みを浮かべて言った。

すると乞田は一瞬目を丸くしたがすぐに優しい笑顔になり、

「ありがとうございます。当主様は博識でこそ、成り立つものですからね……乞田と本と一緒にもっと世界の勉強をしましょう!」

と、俺の手を取り、手の届く書棚から無作為に本を選び、夕飯の時間まで片桐組の話をしながら勉強をした。

 その時に教わったのが、図書館の書棚の裏にいる司書の存在であった。

誰も会ったことのない人物で、いつの間にかここに居て、いつでも本を出してくれる。

声は無く、人なのかさえも知らない。

 俺はその存在に物凄く惹かれ、数か月後にとんでもない事実を知ることになる。


 夕飯の時間になったので食堂に向かうと、兄さんたちが既に着席していた。

その席には、初めて見る顔があった。

だが俺はまだ出来上がっていない料理を手伝いたくなり、乞田の制止を振り切って厨房に入った。

 後鳥羽家では主人が厨房に入ることはまずない為、料理人たちは全員固まってしまいそれぞれに緊張の色を出していた。

文句を言われるのではないか、解雇通告があるのではないか、そういう気持ちでビクビクしてしまうのだ。

だが俺は一礼をして厨房に入り、一際帽子の長い料理長の左隣につくと、

「一緒に料理を作ってほしい」

と、金髪を三つ編みおさげ風にした60代前後の大男に向かって言った。

もちろん上から言うのではなく、そちらのやり方でやりたい意思表示をして。

こればかりは仕方ないのかもしれないが、俺の言葉を聞くなり他の料理人たちは慌てふためいてしまい、出来た料理を次々に運び出した。

「いいでしょう。坂本、小さい台を持ってこい! それでですね、メニューは御主人様方それぞれのハンバーグでございます。龍様にはご自分の分と、執事長の乞田さんの分をお作り願います」

料理長は渋いゆったりとしたハスキーヴォイスで言うと、材料と第二調理場を貸してくれた。

それから親指を立て、ニッと笑い皺を刻む姿に俺も同じことをし、

「ありがとうございます」

と、深々と礼をした。

 持ってきてもらった台に乗り、程なくして自分の分を作り終えると、乞田の分に取り掛かった。 

「乞田のメニュー……ガーリックソースが好きなんだ」

俺は独り言を漏らし、違うフライパンで作り上げると同時に料理長も最後の1人まで出来たようで、豪快に水を出して片づけを始めていた。

だから俺も片づけをしようと腕をまくり直したのだが、

「龍様、片づけは教育も兼ねてこっちでやりますから、ご自分のと乞田さんの分を」

と、水を一旦止めて言うと、帽子を外して礼をしてくれた。

「うん、ありがとう」

俺はワゴンを借りて厨房を出ると、膝をついて席につかずに控える乞田の側にワゴンを止めた。

「先に座ってていいのに」

俺が乞田の分を置きながら言うと、自分の分を置こうとした俺に近づき、

「流石の私でも、他の執事長の前で出来ませんよ」

と、耳打ちしてくれた。

そう言えばそうであった。

兄さんたちの執事長は先に食べたのか、飲み物を持って控えていたり、食器やナプキンを持っている執事長もいる。

「ごめん、乞田」

俺は席につき手を合わせて言うと、乞田はふるふると首を横に振り、座って一緒に食べ始めた。

「……」

ふと食べながら乞田を盗み見ると、本当に美味しそうに目を細めて食べていて、頬がカーッと熱くなってしまった。

もちろん味には自信があった。自信があった。だけどそんな反応を全員の目の届く場所でするとは、そんな想定はしていない。

この感覚、元彼の時にもあった…………まさか。

「……」

だが俺は過去に読んだ書物がどうしても引っかかり、乞田には何も言い出せずにいた。

その書物は、『執事やメイドとの恋愛禁止』と書かれた家訓の詳細についてのものだ。

もし恋愛が見つかれば、執事やメイドは主人をたぶらかした罪として異端審問に掛けられる。

 どうしよう、どうしよう?

考える度に心臓の鼓動が速くなり、音も煩くなっていく。

俺は色々考えすぎてしまい、どんどん飛躍していく思考回路を止めるために、ハンバーグを次々に切っては口にした。

だけど味は全くと言っていいほど覚えておらず、美味しかったという記憶しかない。

 まぁハイスピードで食べていたため早く食べ終わり、誤魔化すように兄さんたちの空皿までワゴンに乗せて運び、その場を引き継いでもらった。

それから戻ると、乞田はニッと笑ってしゃがむと面と向かって、

「美味しいハンバーグを、ありがとうございました!」

と、肩をポンポンと叩きながら言ったのだ。

――ドクン。

その言葉に俺の心臓が一際大きく音を立てた。

それから顔、耳まで血液が上っていく感覚がして、どうしていいか分からず、乞田の腕を振り払って逃げてしまった。

 コートを置いてきたから、かなり寒い。

俺は中庭に逃げ込みくすんだ冬の空を見上げつつ、低い草木を避けて中央にある椅子によじ登って体育座りをしてみた。

「…………好きなんだ。でも……駄目なんだよ……」

俺はそう呟いてはみたものの、兄弟や執事たちとはいえ、公衆の面前で耳まで真っ赤にして逃げてきたのだ。

賢い”嫉妬”の透理兄さんが気づいて、”傲慢”の智輝兄さんと龍之介兄さんに報告でもするのだろう。

……なんてことは、当時考えもしなかったことだがな。

 そうして後悔に溺れていると、中庭に続く扉がギィと音を当てて開き、控えめに俺を呼ぶ乞田の声が聞こえた。

「私……何か至らぬことをしましたか?」

乞田は俺にゆっくり近づくと、眉を下げて目線を泳がせて言った。

おそらくだが、その場で美味しかったと告げたことが、何か俺の癪に障ったとでも考えていたのだろう。

「違う、けど……」

俺が口ごもって言い、膝を抱え直そうとすると、乞田は急に血相を変えて俺に向かって手を伸ばし、

「駄目です! すぐに降りてください!」

と、早口すぎて吃りつつも、必死に訴えてくるので、俺は乞田の手を借りずに徐に降りた。

「……」

俺は怒られると思い、乞田を不安げな目で見上げると、顔は怒ったままであったが、わしゃわしゃと頭を撫でた。

「ここから転落してお亡くなりになった方が過去にいらっしゃいますから、もう御止めください」

不機嫌さが滲み出ている声色で言われ、博識の乞田らしさを感じ俺は何度も反省の色を見せつつ頷いた。

過去に亡くなった人が居るなら、どうして椅子を置いてあるのか。

俺は疑問で仕方なかったが、兄さんたち曰く空に近づいた気がするそうで、撤去反対多数で残しているそうだ。

乞田はふぅと息をつくと膝をつき、

「どうしてお逃げになったのですか?」

と、俺を怪訝そうな顔で見上げて言った。

言えるわけがない。

だが誰も居ない今なら…………。

一言、やめろと言ってもらえたら……。

俺はそう決心し、

「乞田のことが好きなんだ。心臓がギュッてなるぐらい……。苦しい、くらい」

と、語尾は冬の夜に消えていくくらい細々としていたが、乞田の揺らぐ目を見て言えた。

これで断ってくれたら、俺は乞田とまた何も考えずに楽しく過ごせる。

そう思っていたのだが、意外にも乞田は俺の左胸に温かい骨ばった手を当て、

「お気持ち、ありがとうございます。たしかに、かなりドキドキされているようですね。はぁ……そうですね、龍様がお望みなら、私は受け入れます。恋愛禁止なのは、異性間だけですし……」

と、不安の色を隠せずカタカタと震えてしまう俺の身体をキツく抱きしめてくれた。

俺はこの時初めて、乞田の忠誠心が危ない方向に向いていることを知ったのだ。

これを殺し屋を生業とする俺の殉職で考えれば、乞田も後を追って死ぬかもしれない。

 それは違う。

どこかで一線を引かないと……人を殺せと命令したら、きっと乞田は躊躇なく殺してしまうだろう。

死ねと言ったら、首を斬ってでも死んでしまうだろう。

そんなの本で読んだ奴隷と一緒だ。

乞田は俺の執事であって、奴隷とは違う。

俺はそう思うと腹が立ってしまい、抑えが利かなくなった俺は乞田を引き剥がし、震える手で乞田の頬を殴った。

乞田は顔を背け頬をさすりこちらを向くと、涙を浮かべてはいるが、何故殴られたのか分かっていないようだった。

「そうではない……! それじゃあ奴隷になってしまう! 違うよ……乞田!!」

俺は無理矢理にでも食い散らかした元教官の顔が浮かび、自分がそうなりかけていたことも否定するように首を横に振って泣き叫んだ。

「……申し訳ございません」

乞田は俺の訴えの真意が分かったのか、目を伏せて肩を落とし、蚊の鳴くような声で言った。

「もういいよ。俺も変なこと言ったから、ごめんなさい」

俺は涙をハンカチで拭くと、裏返して乞田の涙を拭いた。

「ありがとうございます。龍様、1つだけいいですか?」

乞田は泣きはらした赤い瞳で俺を見上げると、鼻を豪快に啜った上に何かが喉に痞えたのか、苦しそうに咳き込んだ。

「うん」

「話が180度変わるのですが、赤い眼に黒髪お似合いじゃないです……。もういっそのこと、金髪にしちゃったらどうですか?」

乞田は先程とはうって変わってあっけらかんとした口調で言うと、懐から金髪に染める道具をチラつかせた。

こいつ……元からそのつもりで居たのだな。

だが俺の告白のせいで、色々狂ったのだろう。

「あ、あぁ? 別にいいのだけど……乞田は俺の目の事、知っているの?」

「はい。当主様とおじじ様から聞きましたよ。それに金髪したら、逆に厳つくていいじゃないですか」

乞田は俺の髪を染める気満々なのか、廊下でさえ俺の背中を押しながら言っている。

「そうか?」

俺は背中にかかる乞田の熱い息に心中で身もだえしながら、控えめに聞き返してみたが、当の本人は聞く耳も持っていないようで、染める手順を確認し始めている。


 こうして俺の人生初金髪日と誕生日を迎えたのであった。


 これでは締まらないから、もう一言だけ付け加えるが……

誕生日プレゼントには、後鳥羽家外交を任されていたこともあってか、大量のブランド品の服飾品、化粧品、香水が贈られてきた。

もちろん、乞田からも貰ったはいいのだが。

「9歳ですから、白菜ですね!」



現在に戻る……

後鳥羽家 図書館

裾野(後鳥羽 龍)



 一通り話し終え、橋本が出してくれた緑茶に口を付ける。

Dogさんは欠伸を交えつつも飽きずに聞いてくれ、そのうえ自分のセリフの時はしっかり参戦してくださった。

それを聞いていて思ったのだが、だいぶ俺の中にも記憶違いがあったようで、本当に助かった。

「Dogさん、ありがとうございました」

素直に礼を伝えると、Dogさんはショットガンを股から外して立ち上がると、ストラップを使って肩に斜めにかけた。

「いいぜ。お前の過去が聞けて得した気分だしな。……後鳥羽龍さんよ」

Dogさんは半身で振り返って流し目でそう言うと、手で銃の形を作って人差し指を唇に軽く当てて息を吹きかけ、歩き去って行った。

「こちらこそ、記憶違いの訂正……それにAB型の話も、ありがとうございました。ね、後醍醐傑さん」

俺はそのポーズに色気を感じつつも、やはり可愛げのある菅野の方が好きだな、と心中で呟いて顔を綻ろばせた。


「……龍」

声からすると颯雅(そうが)らしき男の人の呼びかけに、目を閉じお茶を口に含みながら頷き、俺のちょうど右隣に湯呑を差し出した。

「颯雅、お茶飲むか?」

移動したか。俺は左隣に出し再度訊ねてみると、湯呑が手から離れてお茶を啜る音が聞こえたため、颯雅で合っているだろう。

俺は黒みがかった緑色の視界の中、オレンジ髪の男をとらえた。

「ありがとな」

颯雅は俺に空になった湯呑を返し、ニカッと笑った。

やはりこいつには笑顔が似合う。

俺はそう思いながらも、こんな時間に何故来たかを訊ねた。

「お前の顔が見たくなっただけだ。最近会ってなかっただろ?」

そう言われると、少し照れる。

まぁそれもあるかもしれないが、何かと察しの良い颯雅のことだから、傑さんと会うことも知っていた可能性はあるがな。

「そうだな。そう言えば、銃を持った隻眼の歩くAV男優と会ってないか?」

俺は藤堂エース命名のあだ名で本名を隠すと、颯雅はぶっと吹きだしつつ頷いた。

「あー、たしかにオーラあるよな。ほくろのせいか、色気3割増しに見えるし」

颯雅の言う通りで、傑さんの隻眼の目尻の真下には濃ゆいほくろが1つある。

その位置や濃さが絶妙なのか、ただでさえ多い色気が3割増しなのだ。

モテない筈が無い由縁にもなる訳だ。

 颯雅とは傑さんの話や、近況報告をしあって笑い飛ばしながら帰った。



 さて、今日の夕飯はハンバーグにしようか。

乞田が喜んで食べてくれていた俺特製、いや光明寺さん特製ハンバーグ。

あぁ腕が鳴るな!

ふふ、今度こそ挽き肉は買い忘れないぞ。

執事長の乞田です。


本当に申し訳ないことを致しました。

投稿が1日遅れたのは勿論のこと、私の忠誠心が危ない方に行っていたなんて、自覚しておりませんでした。


投稿間隔についてですが、土曜日に予定が入ることが多くなってしまったため、次回投稿日は11日(土)、これはあくまで予定ですが、次々回を4月初旬とさせていただくかもしれないです。

ご迷惑をお掛け致しますが、ご了承願います。


これからも番外編の応援をよろしくお願いいたします。


執事長 乞田光司

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ