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「序曲-後鳥羽家の内部情報-」

後鳥羽家についての説明や予備知識等なので、セリフが比較的少ないです……。

時間設定は現在(2014年)で、今回に関しては後鳥羽家を歩き回りながら話す形になります。


※4,900字程度です。

※話者が今回から、裾野(後鳥羽龍)になります^^

2014年12月10日 朝(天気:曇り)

後鳥羽家 正門前

裾野(後鳥羽龍)



 この家に”罪”なんて存在しなければ。

こう思うのは、おそらく兄妹ら、執事ら、両親や父親の愛人を含めても俺だけだろう。

”強欲”、”不要な兄弟”、”狼狩り”、”裏切り者”、”怪力剣豪”……

俺が背負っている異名は数多あるが、ほぼ全てにおいて罪を示すものであることは、最早言うまでも無い。

今から話すことは、俺の22年の人生で得た情報や出会い、恋愛、悲痛、学習等である。



 俺は今、実家の正門前に立っている。

自身の背を数倍しても足りない程高く、幅広いそれは、威圧感だけでなく拒絶さえも感じうる。

 色はビロードのように滑らかな黒一色で、門の様式はバロック建築のヴェルサイユ宮殿の太陽の門を連想させるようなものだ。その上部には、雨龍と一本鷹の羽紋を組み合わせた後鳥羽家の家紋の下に、政府、裁判所、警察を表す記号が彫られた杯が均等に枝分かれし、辛うじてしがみついているかのように配置されている。

帰る度に思うのだが、どことなく家紋の龍が傲慢な顔に彫られているような気がしてならない。

「……父上様は自信家だからな。」

俺はそう呟きながら、指紋認証システムがある右端の方まで行き、結婚指輪を外してから薬指を翳し、門がマイペース過ぎる速度で、ひとりでに開くのを待った。

父上様曰く、左手の薬指はウソをつかないらしい。全く、何の根拠があるのだろう? 俺は結婚してから一度だけ、たった一度だけだが妻以外の人――しかも男と――寝たというのに。


 門をくぐれば自慢の庭園が広がる。

仏国のバロック建築のヴォール・ル・ヴィコント宮殿をモデルとしたその広大過ぎる庭は、全て専門の庭師と執事ら総勢100人の手作業によって常に整えられている。

これも父上様の拘りが故、何年かに一度は大工事がなされ、また違う庭に変わるのだ。

だから今度はどんな庭に大改造されるか、わかったものではない。

 そうして正面通路を歩いていれば、1人また1人と頭を下げてくる庭師や執事と目が合う。

「おかえりなさいませ、龍様。」

「お待ちしておりましたよ、龍様。」

……などと声を掛けてくる彼らは、毎日1mm以下でも伸びた雑草や植木を切っていて、本当に楽しいのだろうか?

俺は12月のピンと張り詰めた空気を肌に感じながら、膝下程の長さの黒いロングコートのポケットに手を入れて会釈をしつつ歩みを進めていく。まだ3分の1も歩いていない。

ちなみに外灯全てに監視カメラが仕掛けられており、もし不審人物が映り込めば、柔らかなオレンジ色に灯る筈のそれは、一気に白いフラッシュライトとなり、敵の目晦ましとなる。


 歩みを進めて数分。やっと半分を示す何十メートルに亘って広がる噴水池の前に辿り着いた。

噴水は朝と深夜は水音が騒音になるため停止しているが、そうでなくても豪快さが窺える。

 あぁ、説明しそびれるところだったが、ここにも仕掛けがなされている。

紅夜兄さんが「背水の陣」という言葉が好きということもあり、水際全てにナトロン噴出スイッチが仕込まれており、それを押さずとも紅夜兄さんの手元には、いつもワイヤレスのスイッチがある。

噴水付近で戦闘していた場合は、風下に行けば解決するが……おそらくあの人のことだ。

こんな仕掛け……

「知ってて当然だよ。」

と、でも言うんだろうな。俺は紅夜兄さんの物真似をし、無地のインディゴブルーのマフラーで口元を覆い、肩をすくめてくすりと笑った。


 さて、残り半分の道中で何を話そうか?

七つの大罪と原罪の話で良いか。

いつ騅や菅野が話してくれたかのような形になったのかは、俺が生まれてからと言えよう。

だが七つ揃えようと躍起になっていたのは、それよりも随分昔の話。

――父上様の若かりし頃の”物欲”が原因なのだ。

 それは”色欲”とも言え、”強欲”とも言え、”嫉妬”とも言えれば、”傲慢”とも言えたし、”怠惰”とも”憤怒”とも言えたであろう。”悪食”……これは少しニュアンスが違う。

 先に述べたように、父上様には愛人が2人居た、いや居るだな。

母上様とは子が出来ず腹の立っていた父上様が、その2人と遊び呆けた結果俺たちが居る。

そして2人から出来た子どもたちは、全く運命の異なる2つのグループに別れた。

後に話すが所謂、”24日組”と”25日組”のことだ。

 これは偶然なのか、将又仕組まれたものなのか?

それはキリスト教らしく、神のみぞ知るとでも言っておこうか。


 やっとのことで家屋の前に辿り着いた。相変わらずの徒歩8分。

こちらも勿論、先程述べた宮殿がモデルの家というよりも三階建ての城だ。

「ふぅ……」

俺は自身の刀に手をかけ息をつく。

菅野の話でも出てきていたが、紅夜兄さんが防衛を面倒がった結果ではあるものの、鋭利なナイフが数十本飛んでくる。

ナトロンが飛んでこないだけマシかもしれないが……これをほぼ毎回弾く俺を含めた兄弟たちは、正直呆れている。

はぁ……俺がドアノブを捻る間にもスイッチの解除音がカチャリと響き、今日も風を切って飛んでくるナイフに、ため息が止まりそうもない。


「おかえり、龍。」

実家では勿論全員本名呼びだ。そんなの普通と言われたら、心底困惑するだけなのだが……。

車椅子に行儀よく座っている紅夜兄さんのまったりした声が吹き抜けの玄関に響き、隣に控える新田という優秀な執事長が丁寧に礼をする。この執事長は、どこか自分の元執事長を思わせるからか、あまり得意ではない。

……会う度に”あの光景”を思い出させてくる辛辣な男としか、俺には思えないのだ。

「ただいま帰りました、紅夜兄さん。」

俺は弾いたナイフを回収し、兄さんには笑顔を向けつつ、新田にはぶっきらぼうに渡す。

「龍が居ないと、寂しいったらありゃしな~い。」

紅夜兄さんは俺よりも6つ上の28歳で、身長は俺の2cm下である186cm。そして”怠惰”。

だがこのくしゃっと笑う顔とまったりとした口調が好きで、兄弟の中では1番親交がある人物でもある。

「紅夜様は、数時間も前から貴方をお待ちしておりました。」

新田は俺をギラギラした目で睨みながら言う。別にアポを取った訳でも無いのに、この男はよく迷惑そうな顔をする。こういう顔もあまり好きではないが優秀なので、俺としては逆に感謝したいくらいだ。

「左様でございましたか……あの、紅夜兄さん。」

俺は新田執事長に対し、席を外すように目配せをしてみたのだが、彼は首を横に振った。

「貴方は殺し屋です。紅夜様に万が一のことがございましたら――」

「え~? 龍なら平気だよ~。」

そう言って車椅子を動かそうとする主人である兄さんの腕を掴んで、しかも声を荒げた。

「私新田は、ご主人様を心より御心配申し上げ――」

「新田くん。俺は今、何て言ったのかな。」

紅夜兄さんの顔つきは、目を細めた柔らかいものから一変し、深緑色の細い目でギロッと新田を睨み上げ、父上様似の有無を言わせない口調と重低音の声で新田の心を刺した。

この紅夜兄さんの豹変振りだけは何度見ても慣れないもので、不覚にも一緒にドキッとしてしまった。

「……っ!! も、申し訳ございません!!」

新田は瞬時に背走しながら頭を下げて言うと、他の世話執事も連れて執事室へと逃げ帰った。

その様子を微笑んで見守っていた紅夜兄さんは、俺に元に戻った口調でこう言った。

「久しぶりでしょ~? 昔話でもしながら、家を回らない~?」

俺はこくりと頷いた。はて俺が家に帰ったのなんて、何年振りか……。一応、菅野に会わせた後も1度帰ってはいる。

だがそれは――これも後に回すとしよう。

 俺としたことが、紅夜兄さんの容姿を説明しそびれていたな。

髪型は元から天パではあったが、それを活かし整えられた前髪に重さのある短髪で、髪色は黒髪に近いダークレッドチェリー。瞳は黒に近い深緑でかなり細いが、洞察力と先見性に溢れた目をしており、この人の前で不要と言われたことをすれば、カッとその眼を見開き相手を威嚇する。

 眉は割に細くて長く、形は弧を描いており、若干目と離れている。

 肌は色白で透き通っておりながら俺よりも白く、その佇まいから”竹刀を持った天使”と呼ばれる程に物腰柔らかい印象を与える。

 また鼻はそれなりに高く、唇は平均くらいの薄さで両端は気持ち上がっている。

 顔は小さいのだろうか……? 兄弟皆、いや1人を除いた全員がモデルのような顔の小ささで、紅夜兄さんが特別そうかと言われれば、断言は出来ない。

 ほくろは額の中心あたりに1つあり、眉毛のライン上にある俺と似ているという話で、幼い頃に仲良くなった記憶がある。

 服装はいつも寝間着。色やバリエーションは違えど、たいていはもこもこでボタンの無いモノトーンの服を好む。

だが公人として面前に出るときは、服装は勿論のことガラリと表情も変えていける御人。

……欠点は、追々で良いだろう。


 兄さんはボタンで呼んだ新田に車椅子を引き渡すと、ブルーフォックスの毛を使ったスリッパを履き、俺と並んで歩いてくれた。

「龍が皆と仲良くしようとするのは、なんでなの~?」

玄関口を真っすぐ数メートル歩くと見える、二手に分かれた階段を上ると数メートル四方の踊り場で、手すりに寄り掛かって読書に耽っている透里兄さんの姿が見えた。

「……そういう性分なんです。」

俺は呟くように言うと、くるりと透里兄さんに背を向けた。

この人は意地悪なのは勿論、俺に誰よりも”嫉妬”している。

すると紅夜兄さんは、あろうことかそのまま歩み出したのだ。しかし、話しかける前に俺の方を振り返り、手を振りながら、

「楽しんでね~。」

と、口パクで言ってくれたので、おそらく足止めをしてくれるのだろう。

俺は大きく頷き、階段を下りて1階の右廊下へと歩みを進めた。



後鳥羽家 1階右廊下

裾野



 後鳥羽家の敷地の半分は庭に当て、半分を家屋としていることに誰もが驚くだろう。

なので勿論、同じ家に執事寮とメイド寮があるのと、お仕置き部屋(拷問部屋)、遺体安置所、庭掃除・手入れ用の巨大なロッカールーム、何十部屋のゲストルーム、大浴場、御手洗は一般家庭のリビングくらいはあり、裏庭、食堂、その他個人部屋が3つ等と……案内しきれない程ある。

 それにこの家には執事が100人以上いる。

家の外で100人なのだから、もう200人以上居ることになる。

まず、俺ら主人の身の回りの世話をする執事がそれぞれ5人。その中の1人が執事長となる。

次に料理担当が10人。給仕は執事長の仕事でもある。

それと、部屋や廊下等の掃除担当が50人。

その他ネゴシエーター、救護、天災時の非常要員等が居る。

メイドの話があったが、彼女らは主人との恋愛が禁止されているため、来客・来賓時のみの人員。

だが清掃担当として男装しているメイドも、ちらほら見かける。

 それではお仕置き担当は居ないのか? それは父上様自ら下されるから、執事たちは何も知らない。


 右手に見えますのは、来客・来賓用のゲストルームです。

……プライベートジェットでCAさんにふざけてくれ、と頼んだ時にやってくれた文言をもじったものだが、いかがだろうか?

尚、この部屋は奥に行けば行くほど階級が上がる。

時折世界各国から国賓級の面々が見えることもあり、俺が居た頃は外交を任されていた。

反対に内政は紅夜兄さんが今はやっているが、弟である竜馬が手伝ってくれているらしい。


 ここまでの話を聞いて、違和感を感じはしなかっただろうか?

誰が医者で、誰が弁護士で……何て話が出てこないことや、収入源の話も。

まぁ……一般職に就いているのは、妹である利佳子ただ1人だが……彼女の職業は金持ち相手のコンサルタントだ。似たようなものと考えても良いかもしれない。

というのも、言いにくいが毎日大富豪を相手にしている俺ら後鳥羽家は、とてつもなく忙しいのだ。

だから裏切ったのではないのだが、これも今話すべきことではないだろう。

 それと収入源は政府や大富豪たちや、武器の取引だ。それ以外にもテレビ取材等があるが、前述した事柄に比べれば、取るに足らない収益だ。


 家訓等は話の途中で小出ししていけば良いだろう。

まずは口での教示よりも、実践内容から学ぶべしだろう。

人の振り見て我が振り直せ。

俺の過去はその1言に尽きるような、尽きないような。


 ”強欲”な”裏切り者”の過去の交響曲を、貪欲な知識欲を持ってお聴きください。

いかがでしょうか?

龍様の「序曲」、楽しんでいただけましたか?

基本的にまどろっこしい言い方や、言い淀みが多発致します。

それに説明がとにかく長くなるので、区切るように言いつけてはおります。

ですが、改行が少ない! 見づらい! と、思われた方は、すぐにお申し付けを。


裾野編は、前書きは作者本人が。後書きは私、龍様の執事長が担当致します。

以後お見知りおきを。


さて次回の投稿は来週ではなく、クリスマス・イブになります。

誠に残念ながら大事なプレゼンを控えており、その万全な準備の為でございます。

ご理解のほどをよろしくお願いいたします。


執事長 K


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