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「IF-Another Love Story-」

もっと素敵なことをしよう。

そんなハッピーエンド2です^^


今回の条件は、人間オークション会場で兄弟と別れた後が分岐点です。

所謂、菅野(関原竜斗)が殺し屋にならないルートでございます!

裾野(後鳥羽龍)は殺し屋のままですので、どうやって出会うのかにも注目です。



※約10,900字程度です。

※菅野(関原竜斗)視点、裾野(後鳥羽龍)視点どちらもあります。

※微BL注意

※菅野(関原竜斗)の笑顔はプライスレス。

2005年8月29日

繁華街 路地裏

菅野



 白猫を追って路地裏に入った俺は、トンネルでパッと足を止めてん。

危ないわ、電話してる人が居った……。

しかも、いつの間にか白猫も居らんし、どこに行ったんやろう?

そう思ってキョロキョロしていると、銭湯仲間のテレビでしか見たことが無い、とある芸能プロダクションの社長とその部下っぽい人たちが通りすがってん。

ほんで俺を見つけると、「あ!」と声をあげてん。

「ほら言ったろ~? 意外なところに逸材は居る!」

社長はそう言いながら小走りで俺のところに来ると、俺の目線まで屈んで頭をポンポンと撫でてん。

「あの……」

「君は迷子かな?」

社長の優しいまなざしに、俺は思わずこくんと頷いてん。すると部下たちは「この歳でこんなスタイルの良い子がいるんだな……」言いながら、俺の全身をジロジロ見ててん。

「もしかしたらテレビで見たことがあるかもしれないけど、おじちゃんは君をモデルや俳優さんとして輝かせたいんだ。」

社長の眩しい笑顔に、俺はうっとりしててん。だって、テレビの中の人になれるんやろう?

そんな嬉しい話を、偶々テレビで見た本物の社長さんからされるなんて……!

俺は社長に調べてもらった電話番号で、オトンに電話して事務所所属の許可を得てん。

そん時のオトンの声、めっちゃ震えてて嬉しそうやったで!

「竜斗、テレビに出るんやな! 出るんやなぁ!」言うて。今頃仲間に自慢してるんちゃうん?


 ……という訳で、俺は某有名芸能プロダクションに所属することになってん。

仕事はこうや。小学生雑誌のモデル、子役、小学生向けの洋服メーカーの宣伝ポスター、CM……

事務所が買ってくれたマンションでお手伝いさんと暮らしているから、早く自立したくてやれることは何でもやってん。

 ほんでデビューして1年経ってみたら、ファンレターは10万通を超えてん!!

もちろん……ええことばかりやないで?

俺は貧乏なことを隠してテレビに出ているし、アホなこともオソダチも態度に出ているみたいで、お叱りも受けるで? しかも……あの時のイジメの記憶が余程強かったんか、批判の手紙を見る度にイジメの光景がフラッシュバックしてん。

「……」

俺は大きすぎて寂しい部屋で1人、そんな手紙を読んでてんけど、読んでいるとどんどん涙があふれてきてん。

オトンに電話したい……でも、でも……毎日嬉しそうに感想を言うてくれるオトンに、悲しませるようなこと言えへんし、大好きな白猫のぬいぐるみを沢山送ってくれはるファンの期待にも応えたい。

せやから俺は…………1人で抱え込んで我慢して、テレビの前では絶対に楽しもうと決めてん。

うーん、俳優仲間もモデル仲間もたくさん居るけど、そういう相談はせえへんねんな。

いつも体型維持やファッション、流行りの話ばかりで……皆表面の付き合いしかせえへんし、プライベートで遊ぼう言うと、絶対断られんねん。……多分、オソダチが悪いから嫌なんかなぁ……もうわからへんよ~!!


 更に1年後。

給料もかなり貯まってきたし、何度か関西に帰るようになったんやけど、オトンはいっつも嬉しそうに俺のドラマのことを語ってくれたり、暮らしは問題無いか訊いてくれはるんや。

それと……ドラマのことでは、女優さんとのハグやキスシーンもあるやんか?

しゃあないやん? でもオトンは、どんな唇やったか、とかハグした感じとか訊いてきたりすんねん。

俺はな、ただ仕事でやっているだけやのに……銭湯仲間に会ってもそれを訊かれるし、やっぱり俳優って色々難しいわぁ~。

 あとな貧乏人が大金を持つとロクなことにならんってオトンから教えられたから、絶対に貯金するようにしてんけど、お金が貯まってもその度にイジメの光景が浮かんで、「どうせ一文無しになる」とか「貧乏人のクセに」とか……ファンレターの中にもそういうのがあるし、ほんまツライ…………。

せやけど、頑張らなあかんな!

……みんなのために。テレビでは笑って、笑って、アホして楽しませなあかん!


 せやけど、4年経って人気も絶頂の頃にマネージャーから「これやって」言われた仕事の内容に疑問を持ってん。

「セクシービデオって何や? いつも仕事受けるとき、俺に許可取ってたやん。」

俺が事務所のソファにドカッと座って、呼び出したマネージャーをテーブルを挟んだ向かい側に座らせてん。

「申し訳ございません。どうしても、と押し切られまして……」

マネージャーは俺と似てるんか、めっちゃ明るい金髪でツンツンにしてるんやけど、仕事は真面目やってん。せやから……疑うのも辛いんやけどな。

「誰からや?」

俺が身を乗り出すと、マネージャーは「うぅ……」言いながらも、

「名前はおっしゃっていませんでしたが、お金はいくらでも出すからって……」

「……あーもう、面倒やな! とりあえず、セクシービデオの意味を教えて欲しいねん。」

「あ、はい。簡単に言いますと、ほぼベッドシーンでドラマのようにシーツで隠さずに、アレもソレもカメラに映るような……い、所謂、あれですよ! 大人向けビデオってやつです……。」

マネージャーは顔を真っ赤にして、最後の方はもう顔を覆っていたんやけど、大人向けビデオって……ドラマでも喘ぐの嫌やのに、全面的にってことやんな? お金は要らんし、ここは断るのが良さそうやんな!

「嫌や。絶対断るで。」

「……それが。」

「それが、何や?」

「一方的に契約書を押し付けられて、無理矢理サインまで……」

「はぁ!? じゃあ……やらなあかんってこと?」

「……申し訳ございません!! 撮影日は追って連絡するとだけ……。」

マネージャーを責めても何も出てこうへんやろうし、俺は頭をガシガシ掻き乱すことしか出来へんかってん。



 更に1年後。そのころ、裾野は…………


 藍竜組相棒待機組に配属されてから、早10年が経っている。

良い相棒も見つからず、紹介された人材もしっくり来なくて放浪していた俺であったが、そんな暇な俺の元に藍竜総長からとんでもない仕事が舞い込んで来た。


その内容は――

――関原竜斗(かんばら りゅうと)を殺せ。


 ここ何年かで急激に売れているモデルでもあり俳優でもある関原は、バカではあるがアホでは無いと思っていたところであった上に、ここ最近無理をしているような印象を受けていた。

それに依頼主曰く、無傷の殺害と遺体は引き渡せということだから、恐らく熱狂的なファンの基地外行動だろう。

そのようなファンもロクにあしらえない男だ。一般論でいけば、見掛け倒しの男だろう。

……そう思っていたのだが。


 ドラマや出演番組を観れば観る程、彼の演技や佇まい、意外な趣味や体つきに気が付けば惚れ込んでいた。

こんなことは以前所属していた片桐組では無かったこと。まさかターゲットに惚れるだなんて、な。

 重罪とも言われるターゲットへの恋愛は、片桐組では公開処刑だった筈だが、藍竜組では強制脱退のみだ。

それならいいか。ちょうど相棒も見つからないで持て余していた俺には、都合が良いかもしれないとも思ってしまってもいたことでもあるし、もういいだろう。

 その夜。

また彼が出ているドラマを観ていたのだが、今回が最終回のようで、とある女優に殺害予告が出ており、主演の彼があらゆる人物の協力を得て海外逃亡をし、幸せに暮らすといった内容だった。だが深夜ドラマとだけあってかなり濃厚すぎるラブシーンに、柄でもないが初回から嫉妬をしてしまっていた。

 なんせ俺はバイセクシャルである。女性も好きだが、男の方がどちらかというと好きだ。

それに関原の夜の声があまりにウブで、どうにかしてやりたいとも思っているのだ、このどうしようもなく欲しがりな俺が。


 あぁ……知れば知るほど殺したくない。殺すにはもったいなさすぎる。

どうすればいい? どうすれば穏便に関原を殺さずに偽装できる?

…………ん? この設定を使えば、いきなりこいつを攫ってもそう思われるのではないか?

はぁ……子どもでも思いつくようなことだが、ドラマに乗っかったアホの犯行と思われれば、尚更俺の仕業だと疑われることも無いだろう。

それでいいか。

とりあえず、あいつに片桐組の動向でも訊いておこう。


 俺は携帯電話を取り出し、慣れた手つきで番号を打って耳に当てる。

…………1コール、2コール、3コール……

『はい、黒河月道。誰?』

月道は一度抱いた男だ。こいつに関しては変装の天才で、女装をした月道は本当に女性にしか見えない。

『俺だ。』

月道のありとあらゆる弱みを握っている俺からすれば、こいつの扱いは楽なものだが、俺の声を聴くなり、月道は大きくため息をついた。

『何?』

『大洪水は起きそうか?』

月道は隠語が通じる便利な相手だ。最悪盗聴されていても問題は無い。

ちなみに”大洪水”は、関原を殺せといった有名人を殺す案件を指す。

『片桐は無いよ。そっちはあるわけ?』

『ハーフだな。』

『あっそ。それだけなら切らせて。シャワーを浴びたいんだけど。』

『少しは成長したか?』

『切るよ。』

『悪い、悪い。月道は関原竜斗についてどう思う?』

月道の下半身はほぼ女性……だな。脚の細さといい長さといい、下腹もその下もそれほど出ていない。

『別に?』

あぁそうだ、月道は他人に興味がない。余程好きにならない限りは、な。

『そうか。ありがとう。』

『何? 明日死ぬつもり?』

月道は俺が秘密を持っていることを厄介に思っているせいか、こうやって感謝をすると死ぬかどうか必ず訊いてくる。

『俺は寿命まで死なないし、嬉しそうに言うな。』

『あっそ。じゃ切るから。』

シャワーカーテンを閉める音が聞こえる。本当にシャワーを浴びる前だったらしいな。

ん? ということは、まさか裸で電話をかけていたのか?

『待ってくれ、月道。』

シャワーの音が近くで聞こえるが、恐らく袋か何かに入れて電話しているのだろう。

『何?』

『変装するなら、何がオススメだ?』

キュッと蛇口を締める音がしたかと思えば、今度はわしゃわしゃとシャンプーか何かを泡立てている音が聞こえる。これだけで十分、いや……何でもない。

『裾野はそこまで目立った顔してないから、メガネ、ウィッグあたり。』

悪気無く言っているようだが、相変わらず一言多い。メガネは一応あるし、ウィッグも紳士に変装する用のがある。

『わかった、ありがとう。』

俺は冷静を装って電話を切る。また抱きたいような気もするが……二度と出来ないことも知っている。

 とにかく片桐の邪魔が入らないことが確認できただけ良い。

関原を絶対に攫う。何なら変装するか? いや、それこそバカじゃないか?

……たまにはいいか。


 そんな時に同僚の鳩村に買っておいてもらった週刊誌をパラパラ見ていると、とあるページで脳天から足先まで真っ二つになりそうなくらいの衝撃を受けた。

〈関原竜斗、ついにセクシー男優デビューか!?〉

……こんな見出しに、女性ファンはどう思うのだろうか?

俺は少なくとも、いや、物凄く嫉妬するが。

内容を読んでみると、どうやら金持ち連中に話を持ち掛けられて契約したらしく、貧乏人が金欲しさに某組の権力に下ったという皮肉まで書かれている。テレビで観る関原は、少なくとも金欲しさに働いているとは思えない。むしろ、その逆のような気もするのだが……。

――まぁ真相は本人に訊くとしてだ。


 逃亡先は……ドラマと同じ英国で良しとするか。

昔世話になった知り合いにでも連絡して、どこか確保してもらおうか。

……こういう時に家柄が役に立つのだろうが、ドラマのように無計画な逃亡も悪くない……いや、現実を見ろ。

 俺はそう自分にツッコミを入れながら、藍竜組の軍服と刀の整備を始めた。


 翌日夜。

攫うなら夜が相場だ。昼では関原の放つオーラで、周りの人間の目が自動的に向いてしまう。

惜しまれつつも依頼完了報告後に藍竜組を抜けることを伝え、退路を断った俺が向かうのは関原の住んでいる高級マンションだ。

車も用意したし、殺される証拠となる依頼文書も用意した。

あとは鳩村が作ってくれたパスポートと、A型なら誰もが出来るテトリス収納を施したスーツケース。

…………正直、部屋に入った瞬間襲い掛からないかが心配だが、冷静に構えればそんなことはしないだろう。

もう大人なのだから。

大好きなタバコもやめて、あらゆるセフレとの関係も断ち切った。

そうでもしないと、攫われる側もロマンを感じな……何を言っているんだ、全く。


 もう関原の部屋の前だ、引き返せない。

お手伝いの人も帰り、寝静まったであろう午前0時。

俺が1人の男の人生を変えることになる。

緊張はするが、不思議と満足感がこみあげている。

…………慣れないピッキングをし、開錠音が鳴った直後に扉を慎重に開ける。

玄関で靴を揃えて脱ぎ、お手伝いが帰宅済みであることを確認しつつ、厚い手袋をはめる。

そして一歩、一歩と暗い廊下を進んでいく。

左手は刀に掛け、右手で壁や家具を触って彼の寝息に近づいていく……

 ようやく寝息が1番近くに聞こえる部屋の前に辿り着くと、思い切りドアノブをぐるりと回し、鍵を壊す。これこそが”怪力”の正しい使い方だ。

その音に驚いたのか、中ではガタンという音が聞こえる。

――当たり、か。

俺はそう思いながらドアを乱暴に開け、暗い部屋の中で関原を気配で探した。

――ベッドの下、か?

そう思い、目を開けるや否や真っ先に向かったベッド付近には警察に電話する間際の画面のスマフォが転がっており、それこそが本人が近くに居る大きな証拠でもあった。

「関原竜斗だな?」

俺が囁くような声で話しかけると、ベッドの下にいた関原は観念したのか、のそのそと出てきてスマフォをベッドの上に置いた。

「……誰や?」

関原は余程怖かったのか、声が震えている。……暗順応をすると、やはり関原の顔の整い具合に驚く。

「お前を殺す筈だった殺し屋だ。」

俺が肩をすくめてため息混じりに言うと、関原は肩をビクッと震わせた。

「何で? 殺さへんの?」

関原は混乱しているのか、立ち上がろうとしてシーツを踏み、足を滑らせて腕をブンブン回しているので、理性が保てるギリギリの行動――そう、10cmくらい低い彼を胸に抱いたのだ。

「殺せないだけだ。という訳で、お前を攫いに来た。」

耳元でそう囁くと、関原は激しく抵抗したが、所詮は素人の抵抗だ。痛くも痒くもない。

「は、離してや!」

関原は俺の胸をポコポコペチペチ叩いてくるが、この状況なのに可愛さを感じた俺は、つい彼の頭を撫でてしまっていた。

どこか泣きそうな、不思議そうな顔で俺を見上げて行動を伺う関原の髪は、ふわふわで触り心地が良かった。それに香りも自然な香りで、好感が持てた。

更に目が慣れた俺は、関原の恰好に目を移したのだが、紺のバスローブのようなものを着ていて、しかも一連の騒ぎで(はだ)け、浅黒い筋肉質の肌が…………マズイ。早いところ関原に逃亡の準備をさせないと。

「関原。お前のドラマのようで悪いが、一緒に海外逃亡をする。」

「はぁ!?」

関原はただでさえ大きい目を見開き、俺を睨みあげる。

「このままお前を放っておけば、お前は熱狂的なファンに殺される。……今まで放っていたんだろう?」

俺が彼から離れて部屋を歩き回ると、慌てて後ろから走ってきて、

「せやけど、せやけど! なんでそこまでするん? 殺し屋なんやろう? 殺せへんなら、俺の事なんて……どうでもええんとちゃうの?」

と言い、部屋を物色しようとする俺の腕を掴んだ。

関原の意外な行動に、思わず笑みが漏れる。

殺し屋のイメージは案外悪くないようだ。

「お前が好きだからだ。」

「……え?」

「最初は殺すつもりだった。だが、お前のことを知れば知るほど好きになっている自分が居た。それだけだ。」

俺は目を丸くする関原の腕を退け、とあるタンスのドロワーを開けようとすると、思い切り噛みつかれた。

「いっ……!」

「し、下着くらい自分で選ぶから!」

そう言って顔を赤くする関原。俺はデリカシーの無い人間を演じすぎたかもしれない。

「……乗ってくれるのか?」

俺は一応確認で訊く。関原は一生懸命下着を選びながら、何度も頷いた。

――こいつ、もしかしてファンのこと意外にも苦しんでいたのか?

やつれた横顔を見てふと思いついた彼の印象ではあるが、口に出すのは野暮だ。

誰にだって触れられたくないことはある。

――それにしても、流石にモデルもやっているとだけあって……腰のラインが…………駄目だ、自制心が利かなくなる。

「手伝おうか?」

ぶつかるフリをして腰に触れて言うと、関原はビクッと身体を震わせながらも、「スーツケース、そこにあるで」と、下着のタンスの隣にある背の高いクローゼットを指差した。

 そう言えば、関原はセクシー系に転向するらしいという週刊誌の記事を読んだが、これを本人にぶつけるのは逃亡してからにしよう。ドラマであれだけウブな声なのだから、出来れば思い直してほしいところだが。

「下着以外は終わらせたぞ。」

俺が関原にそう呼びかけると、「うーん、どないしよ~?」と言いながら、二択で迷っているようだった。別にどちらも持っていけば良い気がするが。

「うん。」

関原は結局どちらも持っていくようで、合計で8枚も詰め込まされた。

下着に拘る辺り……噂は本当のような気もしてきたな。

 俺はふとファンがくれたであろうぬいぐるみの山に目が行き、それを本人に尋ねると、

「あれまで持って行ってたら、スーツケースが何個あっても足らんで!」

と、屈託のない笑顔で言い返された。俺の関西人のイメージとは少し違うが、固定概念で縛っている自分も良くないだろう。

 それにしても、なぜここまで俺の登場を拒まないのか……。

普通殺し屋が来たら、どんな甘いことを言われようとも警察に電話するか、大声で助けを求めたっていい筈だ。

何故こんなに受け入れる? これではまるで、俺を待っていたかのようではないか。

関原の着替えを半目で見ながら、俺はそんな思案を巡らせていた。


 ようやく積み込みも終わり車に乗り込む頃には、午前3時を回っていた。

顔が目立つので、関原には後部座席に座ってもらい、エンジンを吹かせて真っ先に空港に向かった。

ここから空港までは、そう遠くない。

同意ありの誘拐も案外悪くないし、何より関原本人が初めての海外らしく、今から楽しんでいる。

 空港に着くと、俺が確保しておいたプライベートジェット――と言ってもそんな立派な代物ではないが――が待っていて、中に入ると普通の旅客機くらいはある広さなのに、乗客は2人だけだった。

 すると関原は何を思ったのか、突然腰を低くして俺の腕をぎゅっと掴んだ。

「俺のドラマ通りなら、ここでエンジントラブルとか起きるんとちゃうん?」

関原の言う通りだ。ドラマではトラブルで1時間遅延し、危うくバレそうになるという演出がある。

まさかそこまで再現するつもりが無い上に、生憎いつもよりも慎重にやってくれとエンジニアに頼んでいる始末だ。

「安心しろ。それよりも、席はどこがいい?」

入口で立ち止まっていたことに自分自身でも驚いたが、関原は1番高くスッポリ包み込まれるような赤紫色の当主専用の椅子に座ると、ニッと歯を見せて笑った。

「……」

父上様に言ったら殺されそうだが、ろくに世間を知らない男のことだ。俺の実家のことは話す必要は無いだろう。

かと言って、あまり遠くに座るのも何か心配なので、隣の同じ仕様の紫色の当主婦人専用席に腰を下ろした。

「関原。」

俺が名を呼ぶと、関原は左足を上にして脚を組んでこちらに首だけで振り向いた。

そうされると、モデルの一面が見えてきて想像力をかき立てられる。

「1つ訊きたいのだが、どうして素直に、むしろ楽しんで付いて来たんだ?」

関原を見下ろして訊くと、関原は「せやなぁ……」と頬をさすりながら、口を開いてくれた。

「週刊誌って読んでる?」

「あぁ。お前の記事も載っていたな。」

「うん……。あれな、俺は自分から頼んだんとちゃうねん。マネージャーのところにお金持ちの誰かさんが押しかけてきて、無理矢理契約してきたんやで? マネージャーに訊いたんやけど、セクシー男優ってずっと撮られなあかんのやろ?」

関原は今にも泣きそうな顔で俺のことを見上げている。目尻を見る限り、関原は1人でやったこともないような童貞だ。想像出来ないことも含めて、怖さや不安を感じているのだろう。

「そうなるな。」

俺は適当に相槌を打ったが、セクシー男優の仕事内容に関しては本当に無知だ。

いや世話になったことが無いとも言えないが、ここ最近は関原のドラマのベッドシーンにお世話になっていた、なんてことは本人には口が裂けても言えない。

「そんなん嫌や。せやから、正直……殺す気が無いんやったら、このまま付いて行ってもええかなって……。」

関原はバツが悪そうに視線を忙しなく逸らしている。

その様子から察すると、仕事を無断で放り投げてきたのだろう。それにしても、そんな顔まで見せられると無性に頭を撫でたくなるのだが、ここはぐっと堪えることにする。

「そうか。……ありがとう。」

俺は殺さなくてもいいことと、好きな人と2人きりで逃げられたことへの心からの礼を口にしたのだが、関原はキョトンとしている。

叶うなら今ここで抱き寄せて――って、何を考えているんだ、俺は……。

「そうだ、空港に着いてからのことなのだが――」

それから2人は少し打ち合わせをし、俺はメガネにウィッグの紳士変装をし、爆睡しつつも英国の空港に着陸した。



英国 ロースヒー空港

菅野



 空港に着いたらすぐに、殺し屋にグイグイ腕を引かれて人ゴミを掻き分けて行ってん。

多分やけど、こいつ何度もここに来たことあるんとちゃうん?

そんくらいサクサク手続きを済ませてくれてん。

せやけど、最後の難関って殺し屋が言うてた入国審査に差し掛かると、小声で「打ち合わせ通りで」とだけ言われてん。

 打ち合わせでは、殺し屋が先に行って何か言うて俺の方を見るらしいねん。

そこで俺は殺し屋のところまで行って、ニコニコしていればいいって……ほんま何すんねんやろ?

俺は先頭で何か話している殺し屋の方を見ていたんやけど、しばらくすると打ち合わせ通りにこっち見てん。すぐに駆け寄ると、殺し屋がまた英語で何か話しててん。

うーん……俺は聞き取れへんから何言うてるかわからんけど、入国審査官の厳つい男の人が目を輝かせてはるから、良いことを言ったのはわかるで?

 そのままパスポートだけ見せて通ると、殺し屋は「ふぅ」と息をついてん。

「何言ったん?」

俺がパスポートをカバンにしまいながら言うと、殺し屋は淡々とこう言ってん。

「この人は俳優です。この先世界で大いに活躍する人材です。もしかしたら、次に彼に会う時には大勢のSPに囲まれているかもしれませんよ。……だったか。」

せやけど、殺し屋はどこか嬉しそうなオーラを放っていて、全然知らん俺の将来を話して何が嬉しいんか、俺にはようわからんかってん。

――そう言えば、「好き」言うてた……から? 嫌やわ~、俺は演技でしか言うたこと無いで?

「ふぅん。」

俺がわざとらしく腕を組んで偉そうに大股で歩いてみせると、殺し屋はフフッと笑って肩を叩きながら、「それぐらいにしとけ」言うてん。

たしかに、英国人の視線が痛かったわ。



数時間後…… 冬

英国 とあるコテージ

菅野



 季節書いてへんかったわ! 今は冬やで~。

今日は12月24日やな。

ここは殺し屋が知り合いから借りたらしいねんけど、海外にも知り合いが居るってほんますごいわ!

しかも料理も作れるし、英語も話せるんやて!

……そう言えば、名前訊いてへんかったわ。俺、ずっと殺し屋呼ばわりやん。

「名前何て言うん?」

手入れも綺麗にしてある庭に下りて2人で歩いているときに訊くと、殺し屋はレンガ造りの煙突つきの2階建てのコテージを見上げながら、戸惑っているような何とも言えへん表情で黙っててん。

ほんでゆっくり英国の綺麗な空気を吸い込むと、

「後鳥羽龍だ。」

言うてたんやけど、その顔は何やろう……全部終わったみたいな顔しててん。

ん……? 後鳥羽ってもしかして、俺を買ったあの後鳥羽なんかな……?

「……俺のことを買った家?」

俺の疑う目も全然気にせんと、後鳥羽は真っすぐに俺の目を見てん。

「あぁそうだ。だが俺に所有権は無いし、何せお前とここで暮らそうと思っているから……奴隷にしようとしたりはしない。」

後鳥羽はそう言うと、やわらかく微笑んで俺の頭をふわふわと撫でてん。

せやけどすぐにその手を引っ込めて、「何をやっているんだ、俺は……」とか何とか呟いててん。

「一緒に暮らすん……?」

俺が素朴な疑問をぶつけると、後鳥羽は顔をカーッと赤くしながら頷いてん。

「ええよ。」

俺は何よりも救ってくれた後鳥羽に感謝してん。


 すると後鳥羽は、俺の腕を優しく引いて家の中にあるお嬢様ベッドみたいなところに腰かけてん。

「明日からでも、いつからでも構わないのだが……芸能活動の拠点をここに変えてくれないか?」

後鳥羽は俺の太ももに手を置くと、困ったような顔で言ってん。

それは勿論嬉しいんやけど、事務所もマネージャーもどないしたら……?

「……マネージャーは俺がやる。事務所は知り合いに交渉してもらった結果、海外移住の許可も出せたそうだが、どうだ?」

そんな俺の疑問が顔から溢れ出てたんか、すんなり答えてくれた後鳥羽。

それならもう、ええんとちゃうかな?

「ええで。ほんまありがとう。」

俺が握手を求めると、後鳥羽は両手でギュッと握ってくれてん。

言い方悪いかもしれへんけど、ファンの人みたいやわ。笑顔といい、態度といい……もうめっちゃ嬉しいで!

「あぁ! それと互いを下の名前で呼び合わないか? 英国人に限らず、海外の人は大方下の名前で呼んでくるからな。」

後鳥羽はそう言いながらも、照れ臭いんか耳まで真っ赤になってはる。

ほんまに好きなんやな。

「わかったで、龍!」

俺がイメージする海外の人っぽいテンションで言うと、龍は思い切り吹き出してん。

「ははっ! そんな感じだ……竜斗。」

龍は小声で照れながらも俺の名前を呼んでくれて、年上そうやけど仲良くなれる気がしてん。

「龍マネージャー!」

「竜斗。」

俺らはその後も、コテージで海外で働くイメージを膨らませてはしゃいでいたり、満天の星空を見て感動したりしてん。

もちろん、龍の料理は最高やで!

何作っても美味しいとか、ずるすぎるやろ!


 ほんでまた1年も経つと、英語は出来へんけど龍の通訳のおかげで、すっかり英国のリビングを温かくする存在になってん。

それに龍の性癖の話も聞いて、俺は龍を受け入れることにしてん。って、付き合ってる訳やないで!

男同士なんて気持ち悪いっていう考えは持ってたんやけど、龍の話を聞いていたら申し訳なくなってん。

 せやから仕事から一緒にコテージに帰ると、まずぎゅーっと抱き合うねん。

こうするとめっちゃ疲れ取れるし、龍に甘えられるから結構落ち着くんやわ~。

まぁその時に背中、腰やお尻も触られるんやけど、そりゃ最初は嫌やったで? でも今はもう慣れたわ。

だって龍がほんまに嬉しそうにしてはるから、俺は別にええねん。

龍は俺を救ってくれた恩人やし、龍にとって俺は大好きな人なんやから。


――Thank you! Ryo!

ま、これが俺の英語レベルの限界やけど、これからもよろしく頼むわ!


IF-Another Love Story-

”テレビの中の〈殺し屋〉”


いかがでしょうか!?

ほっこり、まったり……そういうゆるいBLも良いですね^q^

さて来週(12/10(土))からは、章がまた変わりまして【裾野編】(全30話予定)が始まります!!


語り手が菅野とは違い物凄く賢くなる上に、ルビも少なくなりますが悪しからず。

裾野は気配りが出来るので、説明的な文章になる危険性もございますが、説明しすぎないように言いつけておきます……。


それでは来週の投稿を、お楽しみに♪


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