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「17歳-何だかんだ言うたけど、君がいればそれでええねん。これからもよろしく頼むわ!-」

最終話です。


菅野は騅を助け出したい。裾野は菅野を大事にしたい。

人は皆、誰かを何かを大事にしたいんです。


※5,600字程度です。

2013年10月31日……

裾野&菅野の部屋

菅野



 騅はどうなるんかな……?

もう2度と会えないんかな?

俺はそればっか考えてて、勉強は勿論体育の時もぼーっとしててん。

 騅はどこで何をしてはるのかを、淳に訊いても、裾野に訊いても、鳩村はんに訊いても答えは一緒で、「片桐の烏が……」言うててん。


 あとな、裾野によると、黒河はあの後めっちゃ厳しい拷問を受けて昏睡状態になったらしくて、もう何日も生死を彷徨っているらしいねん。

じゃあ今はどうなのかを訊くと、片桐組が邪魔すんねんて。通信妨害もガンガンされるって、鳩村はんが困ってはったなぁ。

 そこで、中立姿勢の名家出身の弓削子さんが取り合ったんやけど、いくら中立名家でも敵組織に属している人には教えられへんねんて……ここまで伝え聞いた話しか無くて、俺はめっちゃ悔しいねん。

 俺も誰が何かとか全然わかってへんけど、もう黙って待つしか無いと思ってたんや。

せやけど裾野が目を輝かせながら、俺の両肩にポンと手を置いてん。

これはキタで! 騅の居場所がわかったんやろ!? ほんで警察から助けられるんやろ!?

「黒河月道が目覚めた!! 明日行こうと思うんだが……そこでだ、菅野。苦手なのは知っているが……」

裾野は長い睫毛(まつげ)を伏せて、俺の腰に手を回してきてん。

多分やけど、弓削子さんがたまにモノマネするのってこういう表情やねんな。

あー……よく廊下ですれ違う時に、「裾野のマネ!」言うてやってくんねん。

「俺がけーちゃ……いや、紅里刑事に電話で相談している間、黒河月道を待ち伏せして問い詰めてくれるか?」

「ええけど? 思い切り吹っかけてええやんな?」

俺がガッツポーズにドヤ顔で言うと、裾野は大げさに溜息をついてん。

だってええやん! めっちゃ嫌いやし。

「おいおい、あいつの性格を考えてくれ。……そうだな。明日は私服で出かけるらしいから、お前ならファッションの話で繋げられる。最終的に軍服の話から、騅の話に持ち込んでほしい。」

裾野は俺を真っ直ぐに見つめて言ってん。

気のせい……やと思うんやけど、最近裾野の手つきが余所余所しくなってるような……まぁええか!

アホにはわからん、わからん!

「わかった!」

「任せた。」

裾野は腰に回していた手を戻して、痛いくらいに両肩をボンッと叩いてん。

あのイキイキとした裾野の顔、一生忘れられへんわ。



翌日・正午

片桐組正門前

菅野



 片桐組正門の話は要らんと思うけど、その脇に外れた塀と茂み事情は話しておくで!

門から塀沿いに右にほんの数十歩外れると、めっちゃ死角の茂みがあんねん。

茂み言うても、公園みたいにスッカスカとちゃうで。

監視カメラもあらへんし、ボッサモッサの茂みやから、絶好のポイントやねんけど、それは向こうもわかってるから、たまに見回りがくんねん。

せやけど、その休憩時間は藍竜組だけには漏れてんねん。それが今の時間帯や。


 裾野は俺とは大分離れた茂みで電話してはる。俺はすぐに取っつけるように1番手前の茂みや。

……しゃがんでいると足が疲れんねんけど、あぐら掻いたら汚れるし、立ってたらバレるし……もう早う来んかい!!

 そう思ってたら、誰かの足音!

…………黒河やないな。あれは片桐組の一般部隊や。3人でお出かけしてたんかな?

「黒河エーススナイパーが目覚めて本当によかったな!」

「あぁ! あの方は本当に美しい!!」

「昨日な、キャバクラに黒河エースと似た人が居たんだけど、流石に違うよな~?」

「バカ言え!! もっと美しいだろうが!」


 ……うーん……つまらんわ~。あー、もう10分経ったー……しんどいー……やなくて、見回りの休憩終了まであと20分やから、早いとこ聞き出さんと、見回りに通報されてまう。


――カツ、カツ、カツ……

…………ん!? ん~……女性モノのブーツの音っぽいんやけど、この時期に履くんやな。

俺はとりあえず少しだけ顔を出すと、そこには黒髪セミロング、黒縁メガネのぽっちゃりした背のそんな高くない女の人が歩いててん。

黒河月道は、たしか……168cmやったかな? 俺より10cm低いだけやから、絶対ちゃうな。まず性別がちゃう。

ちょっと待ってや? あの人が片桐組に特例で入った女の人なんかな?

裾野が言うには情報屋らしいで。

 ……あ。

後ろに居るの……多分黒河とちゃう?

焦げ茶のヒールのたっかい編みこみブーツに、インディゴブルーのボタンフライタイプのジーンズ、しかもヒゲのアタリやん。俺やとハチノスになりやすいからズルいわ!

……あとは、臙脂色(えんじいろ)のVネックっぽいニット……? 今後ろ向いたから、よう見えへんけど。

その上に薄茶色のストライプのジャケットかぁ……ま、悪ないけど、オシャレでも無いな。

 そんなこと言うてる場合とちゃうやん!

突撃! 隣人のファッションチェックや!!

「黒河月道やんな?」

俺はハロウィンを意識したファッション……半分狼男と吸血鬼の仮装やから、ここに来るまででもう何枚か写真を撮られていたくらいやけど、黒河は冷たい目線を向けるだけやってん。

「モデルになればいいのに。」

黒河は俺を睨み上げながら、女の人に「先行けば?」言うて顎でしゃくってん。

「そういうお前も中々ええセンスしてるやん。ヒゲのアタリなんてどう作ったん?」

俺がジーンズを見ながら言うと、黒河は眉間にグッと皺をよせてん。

「何それ?」

「ジーンズの色落ちの仕方や。ポケットのあたりが白くなってるやん。」

「ふぅん。で、何の用?」

黒河は矢代さんみたいな目つきで睨んできてん。こいつ、ほんまに男なんかな?

声の低さも。めっちゃ声の低い女の人とも取れるし、スラッとした脚してはるし、髪も結んでいてもお尻くらいまであるから……益々怪しいわ。

「片桐組の軍服の時より、細く見えるで。」

「急に何? そういう趣味、無いんだけど。」

黒河は腕を組んで、若干背伸びして言うてん。多分ヒールの高さは8cmやから、俺のほうが高いのが嫌なんかな?

それよりも、何でこんなに寄せ付けへんのやろ? ほんま嫌いやわ。

「知ってるで。俺にも無いし~。」

あーもう……何言うたらええんや……。こいつの為に頑張るのも嫌やし。

「じゃあ何?」

「せやから……その、な? 騅の居場所は――」

まで言いかけたんやけど、黒河の背後に回り込む裾野が目に入って思わず口が開いたままになってん。

ほんで、裾野は黒河の首に片腕を回して、もう片方はお尻に……せ、説明もしたない!!

「久しぶり。」

裾野はタバコを咥えながら言うて、首に回した方の腕で火を付けてん。

「……最低。」

黒河は流し目で言うてん。ほっぺがほんのり赤いんは……気にせんとこ。

いや、気になるやん。敵同士の筈やぞ!?

「え……なんで黒河と裾野は――」

言いかけたところで、黒河から強烈な蹴りが飛んできて、俺はバックステップで避けてん。

あれをまともに食らったら、何日かトイレに行けへんかったかも。

「危ないやんか!!」

俺がビシッと黒河を指差して言うと、顔を更に赤くしながら、

「当たり前でしょ。」

言うて、裾野のことをまた振り払おうとしててん。

「そうだ、月道。…………」

「……!!」

「…………」

「…………だろ?」

「…………最低。」

……ヒソヒソ話してるー……ズルいけど、仕方ないかぁ。


 数分して黒河のことを解放した裾野によると、騅は死刑囚がいるところに居るんやて。

それと後醍醐傑が必死になってるらしいのと、騅が後醍醐家を追い出されたこと、”BLACK”とかいうめっちゃ変なバトルロワイヤルに藍竜組も参加することが決まったらしいこと、騅を殺す為のものらしいこと、後醍醐が助け出すのは恐らく3月らしいこと……って、あの数分でこんだけ聞き出せた裾野って、やっぱりスゴイ奴やんな!!



2014年3月……

ヴェーノシィンガレ前

菅野



 裾野の車やなくてレンタカーを借りてアパートの前に行くと、ちょうど後醍醐傑が敷居をまたぐとこやってん。

裾野はタバコに火を付けながら、後醍醐傑のことを睨んでてん。

後部座席に乗っている鳩村はんも、首をかしげながら見ててん。

「ねぇ、裾野くん?」

「ん? どうした鳩村?」

裾野が煙を吐き出しながら言うと、鳩村はんは少しだけ顔をしかめてん。

「情報って……どうやっ……たの……?」

鳩村はんは、裾野のことをバックミラーから覗き込んで言うてん。

裾野はフフッと笑いながらタバコを口から離すと、首だけ振り返って唇に人差し指を当ててウィンクしてん。

そしたら鳩村はんは、めっちゃ顔を赤くして俯いてん。

たしかにこれは俺でも……って、なるかアホ!!

「……今。」

「あぁ。」

「え?」

俺が裾野の方を心の中でツッコんでいる時に、現場では動きがあったらしい……。

まぁ見かねた裾野が説明してくれたんやけど、騅と後醍醐傑が会って部屋の中に入ったんやて。

「あいつによれば、今夜には動くらしい。」

裾野はメールを確認しながら言うててん。多分、黒河のことやろうな……。

「そうなんや。じゃ、このまま夜まで居るんやろ?」

俺がそう言うと裾野も鳩村はんも、しかめっ面してん。

それじゃあ騅は助けられへんやん!

帰ってまた行ってなんて、効率悪いんとちゃうん!?

「勿論帰る。」

「あっ……からすさんも……情報、知った……みたい。それで、黒河くんを……出すって……。」

鳩村はんはスマフォをイジリながら言うてん。その顔は……鬼みたいやってん。

「はぁ!? そしたら、あいつ――んんっ!?」

後醍醐とグルやん!! 俺が助けに行く!! という言葉は裾野の手のひらで塞がれてん。

ほんで首を横に振る裾野。なんでや? どうして鳩村はんにも内緒なん……?

「……悪い。もう喋らないでくれ。」

裾野の顔が……ぼやけてくる……。俺、何だか……眠く……

「すその……?」

声が……ぼやぼやしてる…………瞼めっちゃ重い。気抜いたら……もう…………

「!?」

鳩村はんは、豆鉄砲を食らったみたいな顔…………で…………


 それから俺は、助手席のシートを倒されたところまでは覚えてるんやけど、気付いたら部屋のベッドに寝かされててん。

うっすら目を開けると、裾野が俺をギリッとした目つきで睨んでてん。

反射的にガバッと飛び上がると、裾野に片腕で胸を押さえつけられてベッドに戻されてん。

「うっ……! 何すんねん!?」

俺は近くに置いてある槍を掴もうとしたんやけど、その手もねじり上げられてん。

「おい、どこに行くつもりだ?」

裾野の目はどこか冷たくて、心の奥から凍っていく感覚がしてん。

「くっ……う……もちろん、騅を助けに行くに決まってるやろ!!」

裾野の力は”怪力”と呼ばれるだけあるで……ほんまに痛い。腕の色も変わってきてるし、もう骨が砕けそう……。それに全然解けへん! いつもなら少しは動けるのに。それでも、表情が歪んでも助けたかってん。


 ――たった2回しか会ってへんけど、仲良くなれそうで、情報もあって助けられそうなのに、それを放っておく方がおかしいねん!!

「バカ言え!! 黒河月道も傑も居るんだぞ!? 勝てるとでも思っているのか!?」

裾野は目をギラつかせながら言うてん。ほんまに心配してくれてるんやろうけど、こん時は……ただの邪魔にしか見えへんかってん。

「そんなんわからん!! でも俺は助けたいっ……せやから……離してや!!」

俺が怒鳴ると、裾野はあっさりねじり上げていた手を離してん。

ほんで裾野を軽く突き飛ばしてすぐに槍を取って、そのすぐ近くにあるバイクの鍵も取ると、一気に駆け出し……なんでや!? なんで……腕を掴んでるん!?

そこで俺が睨みあげると、裾野は歯をギィと食いしばって刀を抜いてん。

「!?」

俺が目を見開くと、裾野は俺の顎下ギリギリに先を向けてん。

肩を上下させて息をする俺に対して、じっと俺の様子を伺う裾野。

こいつ、何をする気なん……?

「……助けに行くなら殺す。」

「なんでや、裾野!? 何でそこまで言うん!? 俺らがこうしている時も騅は……!! 騅は――」

嫌な温かさが全身に伝わる……それは言う必要もあらへんけど、裾野が左腕につけた切り傷からや。

「二面性を持つ人間がどれだけ危ないか……。どれだけ殺し屋として不安定か……。どれだけ精神的に壊れやすいか!! お前は何もわかっていない!! 騅は危険すぎる!!!!」

「やかましや!! そんなん、今考えることやない!!」

「今だろうが!!!!」

裾野の次の一手が来る……そうや! ”力の利用”やん!!

俺はその勢いを借りて腕を引っ張って、思い切りタックルしてん。

まぁ効果は薄かったけど腕は解けたし、あとは走るのみや!!



 普段は走ったら”射殺”の廊下と階段。

今日はしゃあない!! 走らんと、裾野に殺される!!

途中で裾野は何度も俺の名前を叫んでは、俺の血で染まった剣をチラつかせてん。

 それでも俺は夢中で走ってバイクに乗り込んでん。

ほんで藍竜組を出る時に思い切り斬撃を飛ばしてきたんやけど、明後日の方向に飛ばしてて正直笑ったわ。



 ここからは騅が言ってくれた通りなんやけど、車を見つけて迫った時に野次馬が多くて驚いたわ。

人前で戦うなんてありえへんし、負けて首が飛ぶかもしれへん時にやぞ!?

まぁ警察が動いてへんだけ良かったとか言うとく?

 それとな、向かい側の路肩に裾野の車が止まってたような気がすんねんけど、これも気のせいなんかな~?

たまたま一緒なら、それはそれでええんやけどな……うーん。

 正直騅が元気な姿で居った時、めっちゃ嬉しかってん!!

黒髪やったけど。

それでも、ちゃーんとわかったで!!

黒髪やったけど。

……もうええか。



現在に戻る……



 あーもう日記も終わり。背表紙にはその日の日付が入ってる。

2014年6月12日。

後醍醐傑の誕生日なのが嫌やけど、この日助けに行かんかったら騅は今頃……。


 今の騅があるんは俺のおかげ!! とか言わへんけど、ほんま生きててよかった。

それは勿論今もやけどな! だって、騅とは難しいことは抜きで仲良くできる最高の相棒やから!!


2014/11/20 藍竜組”稼ぎ頭”兼裾野と騅の相棒及び龍勢淳の彼氏の”藍竜の虎”菅野こと、関原竜斗。

「あっ、最終話じゃん。読了っと!」

いや、ちょっと待ってください。

【菅野の過去】が太字で章設定されていることと、【連載中】のままということは……?


 たった今入ったからすさんの情報によると、11/23(水)に【菅野編IFシナリオ】が投稿されるそうです!

ハッピーエンド2種類、バッドエンド2種類。

話は分けるので、読みたい方から読む形にする予定です^^ノノ

ちなみに、ハッピーもバッドもBL注意☆


お楽しみに!

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