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「16歳-親孝行……(?)をしてみたり、-」

裾野の意味深発言が飛び出す回。

2人は同じ経験をしているのです……。


※約4,100字です。短め。

※思い出しながらです。

2012年6月17日 夜……

菅野&裾野の部屋

菅野



 裾野のせいでニュースを観るのが日課になってん。

しかも裾野のベッドに腰かけて観るのが定番やねん。あんな、めっちゃテレビ見やすい位置やねん。

めっちゃ真面目みたいでええやろ? 友達にも1人も居らんねん、ニュースが日課やなんて。

ほんで、どうでもええ事後報告ニュースばっかやってんねんけど、気になるニュースになってん。

〈2012年度ミスター殺し屋が発表されました!! 今年”も”文句なしの後醍醐傑さんです!! 本当におめでたいニュースでございます~!! ……おっと、今速報が入りました。後鳥羽家元当主であられ、現後見人であられました後鳥羽茂蔵さん、御年90歳が先ほどお亡くなりになられました。葬儀は身内のみで行うとして……〉

――ブチッ。

 裾野はエプロンのヒモを解きながら、テーブルに置いてあったリモコンで消してん。

その顔は……ほんまに寂しそうやってん。

「……」

裾野はそのまま俺に倒れるように抱きついてきてん。

しばらく受け止めてたんやけど、体格差もあって俺らはそのままベッドに倒れてん。

正直全体重かけられてるから重いし、首に自由になったエプロンが巻き付いてきて、少し息しづらかったけど、あの時みたいに押し返さへんかってん。

だって……肩、震えてる……?

「裾野、泣いてるん?」

俺が心配して裾野の背中をさすると、シーツでくぐもってはいたんやけど、鼻をすすったり嗚咽混じりの声で「うん」って言ってん。

「……」

しばらくそのままで居ると、裾野は上半身を起こして俺を見下ろしてん。

あの時みたいなオーラやなくて、これは……後悔?

それに電気が付いてるから逆光なんやけど、涙の跡が光って見えてん。

「菅野……。お前にそろそろ話さないと……」

裾野は俺の前髪なんだかおでこなんか微妙なところに軽く触れるぐらいの口づけをしてん。

もう、慣れたんやけど……まぁええわ。

ほんで俺も起き上がろうとすると、裾野に手で制されてん。

「空気を読め」

「何がやねん」

「はぁ……とにかく」

裾野は長い溜息を吐くと、俺の目をじぃっと見つめてきてん。

……困るというか、裾野の意図を感じるのが難しいねんけど……俺だけなんかな?

「……?」

俺が首をひねると、裾野はわしゃわしゃと髪の毛を撫でつけて、

「そうやって静かに聞いて欲しい。」

言うて嬉しそうにしてん。しゃあないから頷くと、裾野は口を開いてん。


「ずっと黙っていたが、お前の父上様とご祖父様とは何度か会っていた。他でもないが、お前のことを本当に信頼していいか、そうでないか。あとはお前の写真をこっそり撮って携帯で送ったり、1回だけスタジオでモデルさながらに撮ったのも、御二方のリクエストでポスターにして手渡ししたんだ」

裾野は申し訳なさそうに言うてるけど、もうわかるで……こいつ、10円ずつ盗んでたのも知ってたんやろうな。

言葉をそこで切ったから、終わりなんやろな思ってたら、裾野は急にパッと満面の笑みになって、

「そしたらな、菅野? 物凄く嬉しそうにいつもお礼をおっしゃって……。あぁもちろん、殺し屋になったことには大変衝撃を受けていらっしゃったが、生きているならそれでいいと……。あぁ……お前が本当に羨ましい……!」

そんなことまで言うて……俺を泣かす気なんか?

って、もう裾野の顔が見えへんから泣いてるんやろうけど……ほんま泣き虫やんな、俺。

「裾野っ……うぅ……」

俺が唇を噛んで涙を流さへんように耐えてると、裾野は指で涙をすくって、

「……欲しい」

言うて、俺の喉に唇を当ててそのまま噛みついてきてん。

「いっ……何すんねん!」

俺がバッと裾野を押し返すと、裾野はきょとんとしててん。

何が悪いん? みたいな顔で……。

「…………え? ごめん?」

これには逆に俺が、罪悪感みたいなんを感じる羽目になってん。

せやけど、裾野はハッと我に返ったんか、喉の赤い傷を見て目を見開いてん。

「いや、今のは俺が悪い。おじい様が亡くなって、気が動転しているかもしれない……。」

「うん……あんな、裾野?」

俺は裾野の気持ちがようわかる……俺もオトンが亡くなったときは……。

「俺を……俺だけを関東に行かせたのって……何でなん?」

「……お前の母上様から貰ったという話は嘘だ。本当は自費で、ようやく買えたのが1人分」

「なんで……」

「このまま貧乏だったら、狭い世界で一生を終えることになる。だが希望に満ち溢れた関東に行けば、広い世界を知ることが出来るだろうと……おっしゃっていたよ」

「…………」

俺は黙って笑顔を浮かべる裾野のことを見上げてん。そしたら指で涙をすくって「また泣いてる」言われてん。

「だって……だって……」

言葉にしたいのに出来へん。涙ばっかり出てきて、喉が全然開かへん。

「本当に愛されているな、竜斗」

裾野は何とも言えへん表情で、喋ろうとする俺を見守っててん。


 もっともっと…………こんなに弱くなかったら…………

早く……自分で稼げるようになれてたら……

俺の勇気軍がポンコツやなかったら…………

俺がもっと――

「そう言えば、ご祖父様はこうもおっしゃっていたよ。『泣き虫の孫のことだから、きっと裾野さんにはご迷惑をかけているだろうな。それに勇気も無いから、俺は女房に愛想つかされて出ていかれちまったしのう……。裾野さんや、どうかウチの孫を見捨てないでやって下さい。』と」

「…………」

めっちゃおじいちゃんに会いたなってきた……。それに涙も止まらへんし、救いの目で裾野を見てん。

「何て目で見てんだ?」

裾野に茶化されて少しムッとしたんやけど、オトンみたいな裾野やけど顔に疲れも出てるし、こんな話辛かったやろうし、裾野のおじいちゃんも亡くなったばかりやし…………頑張ってみたってええやろ?

「俺が料理作ったる!!」

デデーン!! あれ? 効果音出えへんなあ……って、当たり前やろ!!

「明日は菅野の槍が降るのか? 鉄の傘でも差して――」

「本気やぞ!! 裾野は黙って席について見とき」

俺は裾野からエプロンをひったくって、台所に立ってん。

よし、料理するでー!


 …………って、何からすれば?

丁寧に置かれた包丁、まな板、鍋……

ここからボワンとチャーハンでも出てくるんかな……?

まぁチャーハンを作りたがったんは、裾野が最初に作ってくれたから……ま! 本人には言わんけど?

「うーん……」

俺が頭を抱えていると、また気配を消した裾野が真後ろに立って「どうした?」言うてきてん。

「……別に。」

俺がもごもご口の中で言うと、裾野は左腕を腰に回して、

「難しい年ごろだな」

言うてニヤニヤしながら…………文章にしたないけど、その……!

身体が拒否反応でビリリッとなる感覚? 難しいけど……。

「ここは大分やわらかいけどね」

撫でながら、タバコを咥えてそう言ってん。せや、裾野は20歳になったその日からタバコを吸い始めてん。

きっかけは……疲れたって言うてたで?

俺は別に気にせえへんけどな。

「触んなや!」

俺が手を払いのけながら言うと、裾野は慣れた手つきでタバコに火を付けてん。

「それにしても……よく俺の手つきを見ているな」

裾野は優しい目で言うんやけど、どの手つき……? 変態行為? タバコ?

「……包丁と鍋。特に鍋だな。そこから推測すると…………チャーハンか?」

俺がどんな顔をしてたんかは知らんけど、難しそうな顔をしてはったから、眉をひそめてたんかな?

「別に……」

「いいよ、俺が作るから」

裾野は手を洗いながら言うんやけど、そうやなくて……!

「……」

感謝したい。それだけやのに、言うのが……なんか嫌やねん。

「ん?」

「……手伝う」

「ん、そう?」

それから裾野は細かい、細かい、細かい、細かい、細かい指示をしてきて、正直頭にきてはいたんやけど、感謝したかったから我慢したんやで!

この時の俺に花丸サービスやな!


 食器も準備して綺麗に丸く盛られたチャーハン。

湯気もふわふわ出てはるし、見た目も具が少なめでシンプルやから、ほんまドームみたいで美味しそうやねん。

「菅野、どうして拒否しなかった?」

裾野は端からちまちま食べながら言うてん。

「何のこと?」

俺は真ん中からカルデラみたいにしながら食べてん。

「いや……嫌なら拒否しろよ?」

「……?」

 このとき裾野が何を思って訊いたんか、この時はわからんかったけど、今ならわかるで。

裾野はきっと、俺の身体に触ることがエスカレートしてること……ここで気づいたんちゃう?

「おいしい」

「当たり前だ」

「あんな、裾野? 明日……後醍醐傑と戦うことになってん。でも別に来なくてええから」

「はぁ……無理なお願いをするな」

裾野は、さくらんぼを何個かお皿に乗せて持ってきてん。

「……知ってたし」

俺は早速もう3つ食べてんけど、めっちゃおいしい!! これも高いんやろな……。

「結局、俺もお前も欲しがりだな」

裾野は頬杖をついて、むしゃむしゃ食べる俺をじーっと見ててん。

付き合い長なってきたけど、たまーに何言うてるか、わからん時あるわ~。

「……?」

「そうだ。淳とはどうだ?」

この裾野のにんまり顔。いやらしいわ~。

「どうって……喧嘩もそんな無いし、上手くいってるで」

「ハグは?」

「まだ」

「キスは?」

「……まだ」

「抱いたか?」

「…………殺すで? ほんま!」

「これ以上彼女を焦らすなよ。もう何年経ってる?」

「しゃあないやん。やり方も知らんし」

俺が口をひん曲げて言うと、裾野は長い長い溜息をついてん。

「抱きしめてみて」

裾野は俺に立つように言うと、俺の正面に立ってん。

「……うん」

俺は淳やと思って、ぎゅっと抱きしめた筈なんやけど、上からはククク……という笑い声。

「恋人なんだから、背中を撫でたり髪を撫でたり……今でなくて良いから、できるな?」

裾野はあきれ顔で俺を見下してるんやけど、裾野が大きいからしゃあないやん。

絶対本番は出来る筈!! 俺はそう思って大きく頷いてん。

「キスは……ケーケンだ」

裾野は顔を真っ赤にして言うてん。何やろう、独特な言い方やんな?

「ケーケン?」

「そういうことだ」

裾野はピシャリと言葉を切ると、頭をポンポン撫でてそのまま俺のシャツの襟を正してくれてん。


 明日は後醍醐傑との対決。2回目。

騅を助けるときは3回目やったから、俺の日記もあともう少し。

残りのページ数は、ほんの数枚。

俺の日本語も上手くなってるやろ? そう思わへん?

後醍醐傑との対決。

2回目にして互いに成長した2人の対決……!

次回は「恋愛関係」「女性」がサブキーワードになります。


残念ながら、来週の土曜日は諸事情でお休みです。

……が、11月1日(火)に臨時更新いたしますので、お楽しみに^^


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