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「15歳-親を亡くした寂しさから……-」

後鳥羽家訪問から数か月。

菅野は親のように思う裾野の実家を理解したいようで?


※思い出しながら書いております。

※8,300字程度です。


2011年7月某日……

藍竜組 菅野&裾野の部屋

菅野



 裾野の実家に行ってからもう何か月。

俺も高校1年生になったし、そろそろ16歳。やっぱり早いわ。

 高校にあがってからちらほら聞くのは、”ミスター殺し屋”っつー……1番カッコええ殺し屋を決めるコンテストについてや。せやけど俺は出る気無いし、頭の良さも見るんやて……うん、無理やわ。

てか裾野も出ればええのにな~。年齢制限も無いのに~。

 高校あがってから入ってくる殺し屋も”本当なら”()んねんけど、今年は()らんねんて。

まぁええけど。


 ほんで今は、ダイニングテーブルにノートを広げて悩んでるところや。

何してるって……後鳥羽家まとめや!

ほんま誰が誰だが覚えてへんねん!

そしたら、裾野が俺のノートを見て「ふふっ」って(わろ)ってきてん。

「覚えられないのか?」

「当たり前やろ! ちゃーんと説明してや?」

俺がノックの部分がたこ焼き形のシャーペンを持って、ギリッと裾野を見上げてん。

「よし……」

裾野は俺の向かい側に座って、「まずは男兄弟から!」言うて切り出してん。


「長男・智輝(ともき)。漢字は、『知』るの下に『日』の方の『智』に『輝』く、だ。」

裾野は背筋もピンと張って座ってたんやけど、漢字があってか気になったんか、身を乗り出して見てきてん。

「次男・龍之介。俺の本名の『龍』に、茶柱を立ててその下に『Z』のような字が『之』、最後は介護の『介』。」

「よし、この2人が偉そうやった双子やんな?」

「あぁ。次に三男・紅夜(こうや)。糸に図工の『工』を組み合わせた字に、『夜』。この御方が……いや、車いすに乗っていた方だ。」

俺はそう聞いて、衝撃を受けてん! だってあいつ、めっちゃだるそう眠そうやったぞ!?

「え!? 三男って、結構偉いやんな?」

「まぁ……な。次行くぞ。四男・透理(とうり)。透明の『透』……優秀の『秀』に、之繞(しんにょう)、それと理科の『理』。う……ウサギに似た人が居ただろう? あの人だ。」

裾野はさっきと違って、早いとこ話終わらせたい感じがしてんけど……もしかして苦手?

「あー……仲悪いんや~。」

俺が「ふむふむ」言いながら頷いてたら、裾野は肩をすくめて、

「はい、次。」

なんて言いだすから、

「え!? スルーはキツいて!」

ってツッコんだんやけど、裾野はわざとらしく目を逸らしてん! 今までの仕返しされたわ!

「五男・瀧汰(りょうた)。俺の本名に『さんずい』つけて、『太』いにも『さんずい』。……女の人と一緒に居たな。それにしても、まさか顔を覆うなんて……」

裾野は1人でブツブツ言い出すし、なんやろ……不思議な紫色のオーラが出てて怖かってん。

「裾野?」

俺が呼びかけると、裾野はハッとしていつものオーラに戻ってん。何があったんやろ?

「ん。あ……忘れてくれ。六男は俺。七男は潤。見るからに人間か疑いたくなる弟。」

裾野は下を向いて淡々と言うんやけど、たしかにあれは……。

 そう言えば、俺が気を失ったときの説明してもらってへんやん!

まぁ状況が状況やったから、あの時は仕方なかったんやけど…………。

「なぁ、裾野。」

「どうした?」


「俺が倒れたとき、何があったん?」

裾野の顔を見て、訊いてしまったことを何となく後悔してん。

触れるなオーラ……この兄弟、何を隠してるん?

「……」

裾野はだんまり。俺と目も合わさへんし、冷たいオーラも出てはる。

「お前は……知らない方がいい。」

「……なんで?」

「言ったら絶対、俺に殴りかかりそうだからな。どうしてもっと早く止めなかったんやー! とか言ってな。」

裾野は細く、力なく笑って言うてる……。

「じゃあ……いつか。理解できるようになったら、話してくれる?」

俺が上目遣いで裾野を見ると、裾野は急にオーラの色を無くして、

「それまで俺が生きてる保障は?」

……こんなこと、訊かれたこともなかったし、裾野の口から1番聞きたくなかったことかもしれへん。

「……」

「俺は神様じゃない。お前を愛したり、料理を振舞ったり、稽古をつけてやることも、勉強を教えることも……生きていれば、他にも出来ることはある。だが、キリスト教の神様と違って復活は出来ない。……それに、お前の思考すべてを察してやることも出来ない……。これはあくまでも俺の予感だが、出会ったときからお前より早く死ぬ気がしている。」

裾野は立ち上がってふらふらと歩きながら言うて、そのまま後ろから俺の肩に腕を回して座り込んでん。

その声は……誰かに言われたみたいに、別人の声やってん。

「……」

裾野が半袖を着てるからかもしれへんけど、ぬくもりが直に首と肩にきてん。

せやから、何でかわからんけど安心したんや。

 そのとき、一瞬首にピリッという痛みなんか、痒みなんかようわからへん感覚がきて、ハッとして裾野の方を見たんやけど、裾野は俺の(うなじ)に顔を(うず)めてるし、何もしてへんと思うんやけど……。まぁ……強いて言えば、めっちゃ触ってくるくらいやし?

「菅野。」

俺の項を好きなだけ撫でたり……してる裾野が、顔をあげて言うてきてん。少しくすぐったいねん、これ。

「言いそびれていたが、お前の槍を研いどいた。あの時みたいに鉄も肉もバッサリ斬れるから、いつ怪盗の仲間になっても大丈夫そうだ。」

裾野は脂肪の少ない二の腕を撫でながら言うてるけど、怪盗の仲間ってなんやろな?

「……? ありがとう。」

「あぁ。そう言えば、八男の話からだったか。逸れてすまなかった。」

裾野は後ろから顎を撫でてから席に座ると、今度は少し姿勢を崩して話し始めてん。

後ろからはほんまに嫌や……裾野も気配を消すし、身体一同驚くねん。

「八男・竜馬。お前の本名の『竜』に『馬』。怒りっぽいが、ヨーグルトが大好きだ。」

裾野は嬉しそうに話してるんやけど、あの傘男やんな? ヨーグルト好きって要らんくない!?

 ほんで俺がツッコミ入れようとしたときに、裾野の携帯がブルブル振動を立ててん。

「ん……菅野。先に後醍醐家近くのシックストゥエルブ前に居てくれ。総長から呼び出しだ。」

裾野は携帯を2,3回振りながら言うて、部屋を出てってん。


 ……しゃあないか、先に行こう。

とりあえず、後鳥羽家のことは多分覚えられたと思うし! ん? なんでこんな俺、頑張って覚えようとしてるんやろ?

俺を1度は買った家……やのに。

 あー!! 沸騰するから無しや! 依頼、依頼!

俺は身支度を整えながら、そんなことを考えてたんや。


 シックストゥエルブ前に着いたんやけど、徒歩だと結構かかるやんな……少し疲れたわ~。

あとで裾野が車で来てくれる言うから、仕方ないんやけどな。

 ……って、ん?

――着の身着のまま来た感じの服装に、炎天下でも目立つ長い金髪、鼻以外くぼんだ顔の男の人。

 なんか困ってるみたいやし、聞く限り片桐組の場所やんな……。よし、助けたろ!

「なぁ兄ちゃん。俺それどこか知っとるで。」

俺が笑顔サンサンで話しかけると、男の人は嬉しそうに目を輝かせてくれはった。

「本当ですか!?」

「うん。案内したろか?」

俺はそこまで言うて、「マズイ……」思ってん。

裾野が来るまであと5分。行って帰ってこれるかな……まぁええか!

いや、あかんやろ。やっぱり連絡しよ。

 俺は男の人にそう伝えると、裾野に連絡してん。


 しばらくすると、「はい、裾野」言ういつものトーンの声がきてん。

「裾野~あんな? 俺人助けしてん。」

「嘘をつくな。」

「ついてへんってば! カニ電楽に誓うわ!」

「よりによってそれに……。」

「ほんまやの! ほんで俺、今からその人を片桐組まで案内するから、よろしく!」

「あ!? じゃあ俺と……! いや……勢いはよくない…………。とにかくダメだ!」

「なんで!? ええことするんやで?」

「ええこと……!? 絶対にダメだ!」

「なんでや!? ええことやのに~!」

「お前……それはいくらなんでも……! 相手は男か、女か?」

「男の人やけど……?」

「絶対にヤラれる!」

「俺は()られへん!」

「……わかんないやつだな!」

「あー、面倒やから切るで~?」

「あ!? すぐに行ってやる!」

「絶対に来んな!」

――ブチッ。

はぁ……なんでいっつもこうなるん?

これだから電話は嫌やねん。特に裾野。こいつは特例や。


 ほんで騅が話してくれたのと同じになるから省くけど、この時の印象は『真面目ちゃん』やねん。

金髪やから~とか言う偏見は持ってへんから、尚更かもしれへんけど。

あと、後醍醐のことを訊いたんは、裾野に訊いとけ言われてたからやねん。

なんやろ、まぁ片桐組前で笑いを……作り笑いをしたのは、早う帰らんと怒られるからやねんけどな……。


 ここからは騅とは違う話になるけど、面倒やったんは裾野との待ち合わせ場所までの道で起こってん。

俺はチラチラすれ違う人から見られつつ、街には馴染んでた筈なんやけど、路地裏からオンチな歌が聞こえてきてん。

「真っ赤な印の~菅野さんは~いっつもみんな~の~笑い者~。でもっそのっとっしっの~暑い夏の日~裾野お兄さんが~救いまっしった~っ。」

俺の名前に裾野の名前。多分、そこらへんのおっさんとちゃうやんな?

そう思って、俺は聞こえてきた路地裏に周囲を見渡してから、警戒心フルマックスで入ってん。

 ほんでしばらく進んで『この先、行き止まり』いう看板が見えたから引き返そうとしたら、突然真上から声がしてん。

「お久しぶりだねえ、マイスウィートダーリンのハニー。」

声のする方を首が痛くなるくらいまで見上げると、そこには縦にも横にも大きな男の人が居ってん。

全身黒スーツ。……なんやけ、後ろが鳥っぽいスーツ。あれや。それに白いシャツ。蝶ネクタイまでしてはるんやけど、よくサイズあったな……。

それにこの話し方やと、絶対に合宿帰りに会ったあいつや。

「お前は……」

「よく生きていたねえ。あのまま死んで剥製にでもしたら、もっと美しかっただろうに。俺は残念さ、ハニー?」

こいつの話し方ほんま嫌い。さわやかな声なんやけど、高すぎて気持ちが悪いねん。

「だから――」

「ああ、こんな人気の無いところで2人きりになれるなんて……今日の俺は最高にツイてるし、ああ美しい。ああ――」

 手鏡まで見やがって、裾野が待ってるのに失礼やん! それに俺の話も聞く気無いし……!

俺はそう思って模造紙入れから槍を出して、地面を蹴って心臓に向かって斬りかかってん。

そしたら男の人の背後からエライ大きいハンマーが出てきて、片手で振り下ろしてきてん!

「…………っ!!」

俺は咄嗟に両手で槍を防御態勢で構えて防いだんやけど、向こうは片手。

それでも腕がはち切れそうなくらい重くて、何も出来へん!

「ああマイスウィートダーリンのハニー。これじゃあサービスになってしまうよ。」

酔いしれるように言うて、そいつは懐からナイフを取り出して脚を斬ろうとしてきたから、ひょいと後ろに避けてん。せやけど、ビリッて音が鳴ったから服は切れたな……って、よりによって印のところやん!

「ああ、なんて綺麗な模様だ。もっと見せてごらん、ハニー?」

言うて今度はナイフをしまって、手で掴もうとしてきたからまた避けようとしたんやけど、あいつの方が少しだけ早くてビリリッという服の裂ける音が聞こえて、一瞬下を見たら深緑色の南国感あるパンツが膝の方まで破けててん。

結構お気に入りのパンツやったのに……!!

 流石にこれにはキレたで。

裾野が研いでくれた槍で勝ってみせる……!!

俺は一瞬、ほんの一瞬だけ力を抜いて、ハンマーを地面に叩きつけさせて距離を取ると、胴体やなくてハンマーを持ち手まで縦真っ二つに薙ぎ払ってん。

そしたら、綺麗に切れてん!!

この時めっちゃ俺賢い思ったんやけど、今よう考えたら裾野が前こいつにやったことやん……。

 ……戻すで!

ほんで、槍をぐるっと回して本体に斬りかかろうとしたところで、あいつは舌なめずりをしててん。

めっちゃ気持ち悪かってん……。

「見せないとは焦らすねえ、ハニー。」

「やかましや!!」

向こうは素手……やと思ってたんやけど、そいつは割れたハンマーを両手で持って攻撃をしかけてきてん!!

こいつの方が断然賢かったわ~。

って、感心してる場合とちゃうくてな、俺は一旦路地裏の入り口まで距離を取って片方をまず粉々にして、次にもう片方も上手く隙をついて粉々に出来てん!

 よし、これで素手や思って何とか首に飛びつけたんやけど、脚で首を折ろうとしたら悲劇が起こってん。

「……っ!? 全然折れへんやん!!」

普通ならグリッと折れる首なんやけど、こいつのは丈夫すぎてビクともせえへん。

「それはそうさ、ハニー。首の後ろにいやらしいものを当てるなんて、ふしだらだよ。」

言うて俺を乗せたまま首をグイッと振ってん!

「はぁ!?」

この時の俺には考えられへん行動に驚いている隙に、逆に首を片手で掴まれて思い切り頭に衝撃がきてん。

「うっ……」

俺の視界が白黒するんやけど、よう気失わなかったなぁ……ここはマルをあげるべきや。

「さてと……これは危ないからねえ。」

言うて俺の右手首を(わし)みたいにギリッと握ってきて、槍を落とそうとしてきてん。

めっちゃ痛いし、肌の色も変わってるけど、何よりも骨折れそうやってん。

それでも裾野に貰った槍やから……!

「絶対に……離さへん!!」

「汚わしい!!」

そいつは一旦手首から手を離すと、象に腹蹴られたくらいの威力のパンチを食らってん。

「ぐぼっ……!!」

組に入るときに受けた裾野の蹴りも痛かったけど、はっきり言うとそれ以上やねん。

せやから、胃から逆流してきたものも口から吐き出してん。

それは俺の首をジリジリ絞めてる腕にもかかってん。

「ああ汚い。ほら、早く危ないものを離してよ、ハニー!!」

その叫びと同時にガッと首を絞められて、また白黒したんやけど、すぐに持ち直してん。

絶対に……絶対に!!


「そこまでだな。」

その声は、空気を切り裂いた……! この表現かっこええな、使ってこ。

「ああ、マイスウィートダーリン! 君のハニーへの調教が足りてないよ~。」

そいつは目を輝かせて言うてるんやけど、こいつの横幅が広すぎるせいで誰が助けに来たんか見えへんねん……。

「俺の相棒は俺のもの。お前が手出しするな。」

言うて、絶対裾野やけど、その人は剣でそいつの腹を血で汚してん。

「失せろ。」

倒れていく男の人と、見えてくる裾野の顔。

俺まで震えあがったやんか! 明らかに仕事の時の顔やもの!

「菅野。……大丈夫か?」

裾野は刀を置いて座り込む俺の側に来ると、ハンカチで顔や服に飛んだ返り血を拭きながら言うてるんやけど、その声めっちゃオトンみたいやわ。

「……」

怖かったなんて言えへんし? ありがとう、はなんか嫌やし、大丈夫でもないし……。

勝てなくてごめんなんて絶対嫌やし。

……結局黙ってん。

そしたら裾野は、親がするみたいな笑顔で俺の頭をポンポン撫でてん。

「また服、買ってくるから。」

嫌や……最近の裾野、貧乏になる前のオトンみたいや……。

甘えたくもなるし、反発もしたくなる……。

よくわからん感情がぐるぐる回ってん。

「や……やかましや。」

俺は頬を膨らませてそっぽ向いて言うてん。

それに対して、裾野は苦笑いしててめっちゃムカつく。

「菅野。」

「な、なんや?」

「この依頼が終わったら、スーパーに寄ろう。菅野の分の替えの服も持ってきたし……な?」

裾野は俺の手を引いて立ち上がらすと、どこかに電話してん。

まぁ……車までの目くらまし依頼やろな……2人とも酷い状態やから。



数時間後……(夕方)

む・ぱにえ(スーパーマーケット)

菅野



 人生初スーパー……やねんけど、どこもかしこも女の人だらけ…………やんか。

それにコンビニとは比べ物にならんくらい大きくて、一周回るのに何時間かかるんやろ、なんて考えてたら、裾野は慣れた手つきで灰色のカートと緑色のカゴを取って、先に行こうとしてん。

「待ってや」言うて小走りしたら、裾野はニヤッと悪い笑顔を浮かべて走って行ってん。


 あー……まさか見失うとはなぁ……。

せや、裾野がめっちゃ足早いの忘れてたわ。

それにしてもこんなに野菜と果物がたくさんあるけど、全部売れるんかな~?

試しにレタスを手に取ってみたんやけど、う~ん、他のと同じに見える……。

それなのに、女の人たちは何個か手に取ってカゴに入れてはる。

「重さと大きさ、芯の色を見ればわかる。」

って、後ろから話しかけんなアホ! ほんま焦るわ……。

それにカゴの中にはもう美味しそうな野菜と、キノコと……うーん色々あるけど……餃子の皮?

「へー。今日は餃子なん?」

「あぁ。あとは、あんこか。」

裾野はカートをスッと滑らせて方向を左に変えると、女の人たちを避けて売り場を駆けていってん。

「あんこって、おいしいん?」

女の人たちのうっとりした目線を感じつつ、歩きながら訊いてみたんやけど、裾野は「人によるかな」しか言ってくれへんかってん。

ほんでカゴにお饅頭を入れると、そのままレジに向かってん。

 で、ここからが裾野らしいと思うねんけど、

「こんばんは、岡崎さん。ポイントカード、お願いしてもいいですか?」

まるまるとした女の人に、カードをヒラヒラさせる裾野。

「あら~! カミューちゃん! ポイント、多めに押しておくわね!」

女の人は嬉しそうに体をくねらせながら受け取り、裾野が持ってたあたりを指でなぞってん。

それとカミューって?

「いつもありがとうございます。」

「いいのよ~! みんな多めに押してるんでしょ~? おばちゃんからの、さ・あ・び・す・よ!」

女の人はお釣りを渡しながら手を握ってるんやけど、裾野は全然嫌そうな顔もしてへんし、ほんますごいわ……。

 ほんで袋に詰めるのもめっちゃ早いし、ドンと置いても全然崩れへんから、毎日買い物するのも大変やな思ってん。

俺なら面倒臭くなりそ。



数十分後……

藍竜組 菅野&裾野の部屋

菅野



 俺らは冷蔵庫に明日使うものを詰めて、裾野は早速餃子の下準備に入ってん。

「餃子を包む段階だけ一緒にやらないか?」

裾野は台所で何かしながら訊いてきたから、俺は饅頭をもぐもぐしながら「うん!」言うてん。

饅頭の中のあんこ……やわらかい。

は!? 俺の脳みそやわらかい言うこと!?

……めっちゃ誉め言葉や~ん。恥ずかしいわ~。

あっという間に3つ食べると、ちょうど裾野がテーブルに具材の入ったボウルと、水の入った小さな器、それと餃子の皮を持ってきてん。

「まずは餃子の皮を手のひらに乗せて、具材をスプーン大さじ2杯くらい置いて、端全体にほんの少しだけ水をつけて、こうやってヒダを作って閉じる。」

裾野は実際にやりながら教えてくれてんけど、めっちゃキレイすぎてじっと見ててん。

「わかった。」

俺がやってみると、ヒダがヒダやない何かにしかならんくて「もう嫌や!」と投げ出すと、裾野は「下手くそ」言うて、また後ろに回られてん。

ほんで俺の腕をとって教えてくれてん。

「指でこうやって……ヒダを作る。」

「わかってるて……」

「わかってるなら手を動かす。」

「……うん。」

……そうやって出来上がった餃子たちは30個。

結局作りすぎた気がすんねんけど……まぁええか。

 ほんで食べたんやけど、何かが違うような……?

「裾野お得意のこだわりがあるん?」

もう7個目の餃子をお酢につけて食べていると、

「ん、ナスとエリンギだ。」

……は!? なんてもの入れてんねん! 嫌いなのを知っててこいつ!

でも全然ナス臭もせえへんし、味も全然……。

「まぁナスが入ってるといっても、水っぽくなっただけだろう?」

「う、うん……せやな!」

「なんだ? 将来のお嫁さんにも教えておいた方がいいか?」

裾野はイタズラ笑顔を浮かべて言うんやけど、それって……あかんあかん! 俺には早すぎ!

「いい。おいしいから、今は考えたない。」

「ふぅん?」

裾野も何だかなんだ嬉しそうに頬張ってる。

 いつまでもこんなのんびりした時間が続いてほしい気もするし、依頼で追われてみたい気もすんねんな……。

意外とこの業界も複雑や……。



現在に戻る……

藍竜組 裾野、菅野&騅の部屋

菅野



 あーあ、帰国してもうた。

俺のテンションはだだ下がりやねんけど、それはこの親子にも伝わってるみたいやねん。

「菅野さん……残念そうです。」

「そうね~。てことは騅、きっと夜はアツかったのよ。」

「そこの親子。」

裾野がピシャリと言うから、何かマズイことでも言うたんかな思ってたんやけど……。

「裾野さん、すみませんでした!」

「違う。……夜は涼しかった。」

裾野は残念そうに言うし、騅とリヴェテも俯いててん。

「……?」

1人だけ取り残されてる俺が首をかしげると、3人は俺のことをニヤニヤしながら見ててん。

 ほんまこういう話題苦手やし、多分もっと時間が経っても……大人になってもわからへん気がする。

のんびりか依頼続きか。

揺れる菅野の心、そして裾野からの愛。


果してどうなるのかは、来週わかるそうです♪

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