表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/69

「15歳-相棒の実家は酷いもんで、-」

ついに裾野の実家、後鳥羽家に挨拶に行く菅野。

後鳥羽家の兄弟たちは、一体どんな人たちなのか?


※10,000文字程度です。時間のあるときにじっくり読むことをお勧めします。特に前半~中盤部分。

※菅野の偏見、考えなどに基づいて書いております。

2010年12月24日……

後鳥羽家 本館前庭園

菅野



 俺も15歳なんやな……え、早ない!? 身長も160cmまで伸びたし、中学3年になったからかもしれへんけど、髪色は元の暗い茶色に戻してん。

まぁ淳とも上手くいってるし、冷やかされることも無くなってん。

相変わらず笑わせるのが好きなせいか、皆からよく話しかけられんねん!

……そうは言うても良いことばかりやない。

彼女が出来てからは女子に「鈍い」言われることも無くなったし別にええんやけど、男子が問題やねん。

腹筋触ってきたり、1人でしたことも無いことをからかわれたりするし、ほんま嫌や!!

それに俺短気やから、すぐにカッとなるし……多分それが面白おもろいからやと思うんやけど……。

俺には大きな……何やけ? 壁みたいな……もうええわ! まぁそういうこと!


 ほんで今は裾野と実家の後鳥羽家の扉の前に来たんやけど…………どこからツッコめばええんかな?

とりあえず…………庭デカッ!! 家デカッ!! 門から家まで遠ッ!! 迷路!! 寒ッ!!

……まぁこんなもんですわ。俺に細かい描写を任せたらあかんよ。

せや、騅が言うてたやんな? なんちゃら宮殿に似てるって。そんな感じや。

 俺が屋根まで見えへん後鳥羽家を口を開けながら見上げてると、裾野に思い切り背中を叩かれてん。

「監視カメラに映るからやめてくれ。」

ハッとして裾野の方を見ると、耳まで真っ赤にしてはる。

裾野は相変わらずシンプルな恰好が好きみたいで、黒いロングコート、深い青の無地のマフラーに黒いパンツやってん。

俺なんてオリーブブラウンのジャケット、Vネックの黒ニット、深い青のジーンズやぞ。カジュアルすぎ!? そないなこと……ないやんな?

「あと、ドアを開けた瞬間ナイフが飛んでくるから、俺の後ろに居てくれ。」

「はぁ!?」

「だよな。これも家を守るのが面倒な人が1人居るせい……本当に悪いな。」

裾野はため息交じりに言うてるんやけど、10割意味わからへん。ん? それって全部なんちゃう!?

「……」

よし、スルーでええやろ。それに、裾野の後ろに居ればええんやろ?

なんて余裕をぶっこいていたら、カウントダウンと共にドアを開けてん。

そしたら、裾野の方が10cm以上背が大きいから音だけやけど、めっちゃナイフ飛んできてん。

俺が後ろに居るからかもしれへんけど、1つ1つ全部剣で弾いてん!

 しかもそのナイフの大きさが尋常やない!!

刃渡り何cmかはわからへんけど、料理用の長さの1.5倍くらいはあるんちゃう!? 盛ったわ、ほんまは1.4倍。変わらへん? それで…………30本!? これはちゃーんと数えたで。

ほんで、そのナイフを全部斬撃に乗っけて家の中に返してん!!

どうなったかな思って、ひょこっと裾野の脇の下から覗くと、向こう側には傘をクルクル回してる人が()ってん!!

もうどうなってるん!?

俺は完全に混乱してんねんけど、裾野はため息1つだけ。


「ふあ~……さっすが龍。全部返してきた~。」

何か眠たそうな男の声が聞こえてきてん。

その直後にキッツイ舌打ちが近くで聞こえて、

「全部返すんじゃねぇよ、クソ兄貴。」

このトゲみたいな声の男の人は傘を閉じながら言うてるから、この人がナイフを受け止めたんかな?

「怖い怖い。」

裾野はふっと息をついて言うてん。ほんでハッとして俺の方を振り返ると、

「今のがお出迎え。」

…………それ、笑顔で嬉しそうに言うこととちゃうやろ!!

「……」

もうあかんわ。ツッコめへん。

俺はとりあえず裾野の隣に並んでん。

 って、なんやこの人数!?

顔が似すぎている偉そうな2人、腕組みをしている焼けた肌の人、車いすに座ってあくびをしてる人、ウサギみたいな顔の赤い目の人、色気ムンムンのロン毛の人、袴を着ている凛とした人、黒いマスクをした正気やない人、ほんで傘を使ってた怖~い人。全部で9人て……裾野入れたら10人兄弟!?

 流石名家様やな~…………はぁ。

「ほう、このお客様が裾野の新しい相棒、ねぇ?」

「スタイル、顔良し。文句なしのモデルさんですよ、ねぇ兄さん?」

「そうだな。ええと、雑誌で1度だけお見掛けしましたよ、お客様?」

顔が似すぎててどっちが何喋ったかわからんのやけど……どっちに答えれば……?

それに雑誌て何のこと? どうでもええから日記に書かへんかったけど、1回だけスタジオを使ってどえらいキメてる俺の写真を撮った気がすんねん……もしかしてそれ?

「ああ! それは『Killers' Collections』ですよね?」

裾野が助け船を出してくれたんやけど、この業界に雑誌があることを知ったの、たしかにこの時期やったわ~。裾野が言うてた雑誌は、メンズのファッション雑誌やで。

「そうそう、流石デキる弟。」

「これは認めざるを得ません。」

やっぱりどっちがどっちかわからんなぁ。

2人とも黒髪短髪で、目の色も顔の形も一緒やし……強いて言うなら、前髪の分け方が逆なんやけど、ほぼ判別不可能やねん。

せやけど、裾野は久々に会えて嬉しかったんか、思い出話に花を咲かせてん。


 すると、ウサギみたいな男の人と正気やなさそうな男の人に詰め寄られて、俺は扉にドンッと背中がぶつかってん。

そしたら身体も動かなくて、意識も……わからんくなって…………

でも何か触られてるような感覚だけはあってん。

何やろ……ふわふわ身体が浮いてる感じで……どんどん……どこかへ飛ばされるような……

……飛ぶ……飛べるん?


――ッ!!

ブツッという太い糸が切れる音が近くでしたと思ったら、何でかわからんけど裾野に角材みたいに担がれてん。

ほんで裾野の方を見ると、何か必死で言うてるのに俺の耳は何も拾ってはくれへんかってん。

その代わりにめっちゃ低い声で、「こいつはお前を殺す……」とか「デキる弟は敵……殺せ……」とか意味わからんことが頭の中で再生されて、ずっと目をぎゅっと瞑って、耳も塞いでたんや。


――バタン!!

どこかの扉が閉まる音がやけに大きく聞こえて、でも耳も目も開けたらまた意味わからん声が聞こえてきたり、幻覚が見える気がしてそのままにしてたんやけど、俺はどこかに座らせられてん。

ほんで首に生暖かい何かが当たって、何かを吸われた気がする……ようわからんけど、少し楽になった気がしてん、目を開けたらほんま、ほんまに目の前に裾野が居ってん!!

さっきのこともあって、大声をあげそうになったんやけど、見事に裾野に手で塞がれてん。

 せやけど裾野は何も喋らんまま、手で「待て」言うただけで、一旦部屋を出てん。

うぅ……頭が重い。それに首に違和感もある……ん!?

このボツボツした2つの丸い、牙みたいな跡は……?

 それに何かを吐く裾野の苦しそうな声も聞こえるんやけど、ほんま大丈夫なんかな……?

「裾野?」

「げほっ……悪い。兄と弟がっ……うっ……げほげほ!」

裾野は必死に息を吸う音も聞こえるくらいに辛そうで、俺はすぐに部屋……え、ホテルみたいなトイレやん。まぁ、個室の外に出てん。

「…………っ!!」

これは……見いひん方がよかったんちゃうか…………。

そう後悔するくらいのもんやってん。

ライトに言うなら……粘り気のある赤黒い血が、洗面台にべちゃっと張り付いててん。

「菅野……大丈夫か?」

裾野は激しく肩を上下させながら、また咳を繰り返してん。

「自分の心配せえや……」

「同じ血が……抜かないと…………お前も……血に飢えてしまう……から。」

裾野はまた苦しそうに咳をすると、水を出して手で全部洗い流してん。

「同じ血?」

「あぁ、同じ後鳥羽家の血。だからその、透理兄さん、いや……ウサギみたいな人には注意してくれ。」

裾野はハンカチで口元を拭うと、「まだ血ついてるか?」言うてきたから、首を横に振ってん。

「……説明してや。」

「わかった。兄弟が居る前で全員に説明してもらう。」

「うん。」

俺が小さく返事すると、裾野はいつも通りの笑顔で「じゃあ行こうか」言うてくれてん。

なんとなく、なんとなくやで? それでも気が楽になってん。



後鳥羽家 本館

食堂

菅野



 食堂言うたら全校生徒が入れるくらいの大きさ、無機質さを想像するやんか?

ほんで10人言うたらそんなに大きさも装飾も必要ないやん?

なんでほぼ同じ大きさなん? てか学校の食堂より豪華すぎやし。お金持ちはわからんわ~。

それに肖像画も壁に貼られてるわ~……あ、右から7番目のあれ、裾野っぽいわ。

なかなか上手いけど、やっぱり絵よりも実物やんな?

他にも貼られてるから、兄弟全員分あるんかな?

傘持ってた怖い人ならすぐわかったんやけど、他の人はまだ一致せえへんわ。

 俺の席は入口の目の前の席。

この部屋変やねん。だって、入り口が左側で向かいの方にもまだ扉があってん。

形は縦に長い長方形で、真ん中にはドーンと長いテーブルがあってん。

そこには赤いクロスがあって、椅子側には金色の刺繍がたくさんしてあるんやけど、英語は読めへん。

とりあえず裾野に言われた席には、「Customer」って書かれてたで。んークストメ?

あと、俺の左隣の裾野のところには「Greed...」この先は裾野が足を組んでるせいで見えへんかってん。それと右隣はあのウサギ男で、こいつも足組んでるから「...vy」しか読めへんねん。

これって何のことなん?


 そうこうしているうちに、料理が向かい側の部屋から運ばれてきてん。

執事にメイド……やっぱりと言うべきなんかな? ほんで1番偉い雰囲気のあるおじさん執事が扉の前で、

「本日のお料理は、ステーキでございます。」

と、上品なんやけどエラく通る声で言うてん。

その言葉に裾野もウサギ男も無反応なんやけど、返事とかせんでええんかな?

 それとおかしなことも起きてん。

みんな肉がちゃう気がする……気のせい? 真向いの傘男は俺と全然目を合わせてくれへんし、裾野も無表情で料理を待っててん。

ほんで俺の目の前にも来たんやけど、裾野ともウサギ男のともちゃうねん。

周りの野菜もソースの色もちゃう……。

まぁみんなわがままってことかもしれへんし、気にしすぎたらお腹減った!

 しばらくして全員の前に肉も来たし、食べようとしたんやけど、突然双子がフォークとナイフを持って手をあげてん。

「すべての食材に祝福を!」

「我らの栄光に更なる光を与えたまえ!」

……もうええかな思ってたら、急にカチカチ鳴らし始めて、ドンドンと足音も鳴らして、30秒くらいやったら急に止まって、

「いただきます!!」

これ全員で声を合わせて言うててん。……え、何この家ルール?

しかも音も立てへんでゆっくり食べ始めてるし、俺も食べてええんやんな?

 と言う訳でしばらく食べてたら、グラスとドリンクを持った執事とメイドが出てきて、それぞれ違うグラスに何かを入れてん。俺はお客様用っぽい豪華なグラスに緑茶やったけどな。

せやけど、裾野はやたら横に角の生えたグラスで、そこにもドリンクが入って……何だか多いように思えてん。

それにウサギ男のグラスには何も無くて、グラスも穴だらけやってん。

真向いの傘男のグラスは雫をズバッと切った感じの鋭いグラスで、グラスからも怒りを感じてん。

あとあの双子のやつ……めっちゃ細長いグラス!! あんなんズルいわ、1番入るんちゃうん!?

せやけど飲みにくそうやから、まぁええか。

結構和やかなムードで隣同士で話してるし、結構仲ええんやな~なんて感心してたんやけど……


瀧汰(りょうた) 兄さん、お顔が随分と変わられましたね?」

裾野のこの何気ない一言から、小さな兄弟喧嘩は始まってん……。

「”強欲”な男よ、どこまで欲しがる?」

瀧汰さんは、後頭部で結んだ長い毛をイジリながら言うてん。

てか、肘置きには1人の死んだ目をした女の人が座っててん。

上手く言えへんけど、2人ともとにかくすごく色気のある人やねん。

「いいえ、欲しがっていませんよ。少なくともあなたほどは。」

裾野は肘置きに肘ついて手の甲に顎を乗せてはるんやけど、この2人は仲悪いんかな?

「よく言う。俺は女を欲しがる。お前は物を欲しがる。わかるか? デキる弟よ。対象が違う。」

瀧汰さんは女の人の太ももを撫でながら言うてるんやけど、女の人は全然嫌がってへんの。俺やったらドつくで?

「ご丁寧にどうも。それに俺は教育係が素晴らしかったおかげで、それほど欲しがらないので。」

裾野のこの発言には、双子も眉をギリッと潜めてん。まぁ瀧汰さんに至っては歯ぎしりに食器が曲がる程握ってはるから、余裕もない感じやったけど。

「あぁムカつく!! 折角のディナーにお客様もいらっしゃってるのに!!」

吐き捨てるように言うんは、傘男。よう見たら俺よりも年下そうやな……。

「あーあ、瀧汰の整形はイジらないっていう暗黙の了解を破っちゃうなんて、デキる弟にはつくづく”嫉妬”しちゃうな~。」

ウサギ男はくりっくりの大きな赤い目を細めて、流し目で裾野のことを見てるけど、裾野は目も合わせてへんな。

「でも龍お兄ちゃんは、俺に人間の良さを教えてくれたよ……?」

ほっそい口ごもった声がした思ったら、裾野の隣からやってん。

よう見えへんけど、みんな食事も終盤やのにこいつだけ全然終わってへん。

だってお皿に肉が……肉言うても……あの形…………人間の腕ちゃう?

「お前は黙りなさい。”悪食”野郎。」

双子のどっちかの声やな。エライ上からやなぁ……。

「ふあ~。なぁ~他所(よそ)でやってくれないか~?」

もっこもこの白い羽が周りに付いた車いすに座ってる男は、世話役の執事に飲み物を上から吊るしてもらって飲んでるんやけど、どんだけ動きたないねん。


 でもこのままやと崩壊しそうやし……話題を振ってみようかな!

「すみません、何でみんな違うグラス?」

うわマズイ。敬語といつものが混じったわ! せやけど双子は顔を見合わせて笑いあってん。

「教えてやりましょう。」

「無知なお客様のために。」

双子はそう言うと、まず自分らが立ちあがってん。

「俺らは”傲慢”な双子。だからグラスも長細い。だって自分たちが1番だから。」

「しかし平べったくすると、お客様のグラスと同じ大きさなのです。ですが、とても認めたくありません。」

傲慢って何やろう……さっきから偉そうやから、そういうこと?

 ほんで双子が座ると、次に車いす男が手をだるそうにあげてん。

「あ~……”怠惰”な男は、他人に世話をしてもらうんだよ~。吊るしてもらえれば飲めるし~。」

ほんま眠そうやけど、白い肌のせいかめっちゃ隈が濃く見えてん。眠れないんかな?

”怠惰”は予想がついたで! だらけるんやろ?

「こう見えても外でのお仕事となれば、しゃんと歩かれますのでご安心を。」

世話役の20代くらいの執事は、一礼して言うてん。

こんな奴の世話もするんか……すごいわ~。

 次にウサギ男が肩を叩いてきてん。

「他人のものが欲しくて欲しくて妬んじゃうんだよね、ボク。だからグラスも穴だらけで何も入らないようになってるでしょ? ほんっと酷いよねぇ。」

ミルクティー色の髪を短く頬にかかるように切りそろえたウサギ男の目の奥には、メラメラと燃えるものがあるんやけど、あまり気にせん方がよさそうやな。てか目が赤すぎるのもあるんやけど、肌も車いす男以上に真っ白やねん。逆に怖い……。

 ほんで次はどこかな、ときょろきょろすると、紫がかった黒いロン毛の男・瀧汰(りょうた)さんが女の人を腕に乗せながら立ってん。

「俺は自分では飲めない。なんせこのように鎖で女性にグラスが縛りつけてあるからね。」

渋い声で言うてるけど、こいつ整形してる言われてたやんな? 背もそこまで高ないし、モテなかったんかな~?

「カレハオサナナジミナノ。」

死んだ目した女の人はロボットみたいに単調に言うてん。元からこんな人とちゃうやんな……?

 うわっ……次は人の肉と思われるものを食べてたやつや……。

立ち上がってもまだ食べてはるし……怖いわ~。

「このグラス……食べながらでも零れない。」

しかもほっそい声でそれだけ言うて、すぐに座ってん。これ下手したら噛む音の方が大きいんちゃう?

 そんなやつに呆れてるんか、ため息をついて立ち上がったんは傘男や。

「”憤怒”の象徴、怒りの雫。ったく、こんなの教えてどうするんです?」

傘男がつり目から放たれるゴツイ目力で双子を睨むと、ギョッとしながらも口を開いてん。

「新しい相棒に我が家を勉強させるためだ。」

「おっと兄さん。大事な人を忘れています。」

「さぁデキる弟よ、君も紹介しなさい。」

双子に促されて立ったんは裾野。俺を見下す目は何だか寂しそうやってん。

「この6つの角にも飲み物が入るだろ? 俺はしきりに物を欲しがる”強欲”な男だが、他の兄弟とは違う。」

その発言に双子は唇を白くなるまで噛んでん。

「教育係さえしっかりしていれば……!」

「こいつは出来損ないだ!」

なんて大声で言いだしてん。そしたら、瀧汰さんもウサギ男も同調してん。

「この子のせいで、デキないボクがどんだけ惨めな思いをしたと思ってるのかな?」

ウサギ男の鋭い目に、裾野は切れ長の目を更に細くして言い返そうとしてん。

 せやから……俺は……

「本当に自分ら、兄弟なん?」

本心から思ったことを言うたら、2人の女の人が頷いてくれてん。多分、姉と妹?

だけどすぐに傘男がナイフを俺に向けて、

「あなたには関係ない!!」

ほんまナイフみたいに刺さる声で叫んでん。


 それからもヤジが飛んだりしてたんやけど、後ろから聞こえる足音だけが何故かはっきり聞こえてきてん。ほんでドアが開くと、あんなにやかましかった食堂が一瞬で静まってん。

振り返るとそこには――


――「10億だ!」

あの声で俺を落札した……

――「こんな良い”商品”、どこで仕入れたのかね?」

あの時の目は……”人間”を見る目とちゃうかった……


――嫌な記憶がフラッシュバックする。

まさか――俺を買った奴……!?

とてつもない寒気に思わず自分の肩を抱くと、後鳥羽家当主はすぐに俺の方に目を遣り、

「龍の新しい相棒、か。それにしても君、見覚えがあるぞ?」

なんて有無を言わせへん顔で言うてきて、怖くて視線が外せへん……!

頼む、思い出すな!

勇気軍、防衛に徹します!!

「……う~む。」

顎髭をさすって悩む当主。お願い……もう帰りたい……!!

「父上様。今回は顔見せのみですから、もうこの辺で。」

裾野は笑顔でそう言うと、兄弟と当主に一礼して俺の手を引いたんやけど、その時に「待て」と厳つい声で止められてん。

あと数mやったのに……!!

「君の名前は?」

「菅野……です。」

「違う、本名だ。答えなさい。」

そんな脅すような目で見られるの嫌なんやけど、裾野……賢いんやろ? 何とかしてや……。

俺がそんな救いを求めるような顔を向けると、裾野は目を伏せてふっと息をついて、

「そんなものは捨てたそうですよ。」

言うてん。流石やわ! 俺なら思いつかん!

「お前はこいつの本名を食ったのかね?」

ギロリと睨みあげる当主に、裾野は少し困った顔をして、「そうですね~」言うてん。

「名前は欲しがりましたよ。だからこいつの名前は菅野です。」

「コントロールは出来ない筈だ!!」

当主は唾を飛ばしながら怒鳴りつけてん。どんな育て方してんねん、この家……。

裾野は俺に後ろに行くように手で指示をしながら、

「俺も後鳥羽家として残念なりません。それも、当主であるあなたの教育係への教育が足りなかったのでは?」

なんて言葉をサラッと言うて俺の手を取ると、とてつもないスピードで走り出してん!

 後ろからは銃も針もナイフも何でも飛んできたんやけど、構わず走り続けてん。



――家を出て


――庭を越えて


――越えて


――門も裾野のおかげで自動に開いて


――走って走って走って


――足が引きちぎれるくらいに走って


 ほんで2人で息を切らしながら着いたんは、建物の中が良いという裾野の考えにのった結果……

……派手な青いランプと赤い字が目印のカラオケ店。

すぐに自動ドアをくぐってカウンターを確認してん。

よし、偶然空いてる!

言うても、人生初のカラオケ店なんやけど、全部こんな派手な感じなん?

まぁええけど。てか、店員さんエラい引いてる……せや、俺ら走って入店したもんな。

それでドリンクをどうするか訊かれたから、最近いつも飲んでるロイヤルミルクティーにしてん。

裾野はアイスコーヒーやて。まぁ冬やし外は寒いけど、今は正直暑い。

料金は後払い言われたから、裾野が小さいカゴを貰って部屋番号92に行ってん。


 中に入ると、思ったよりも狭くて真っ暗で居心地が悪かってん。

角部屋やから広いと思いこんでたんやけど……。2人部屋ってどんな2人を想定してるんやろ?

裾野は俺に奥に行くように手でやって、カゴをテーブルに置いてん。

それに俺の分のコートまでキッチリ畳んでん。

ほんで隣に腰を下ろすと、四角い端末をイジり始めてん。

「何してるん?」

タッチペンで文字を打つ裾野の顔を覗きこんで言うと、裾野は「まぁ見てて」言うてふわふわと髪を撫でてきてん。いい加減慣れたけど、今でも友達からは「おかしいだろ」言われてん……感覚おかしなったかな?

 ほんでピピピ……鳴って画面が切り替わったんやけど、俺ほんま音楽も知らんくて。

でもゆっくりした曲調やし、落ち着けそうな感じしてん。

……でな、でな! 歌いだしたら驚きの連続やってん!!

めっちゃ歌上手いねん! ツヤがある低い声で、ずっと聴いてたいな思ってん。

せやけど店員さんがドリンクを持って入ってきた時は、マイクを遠ざけてそっぽ向いててん。

「歌わへんの?」

立ってる裾野を見上げると、俺の目の高さまで屈んで耳元で、

「……恥ずかしい。」

言うてん。もっと自信持ってもええんちゃう? せっかく盛り上がってるところやったのに~。

でも店員さんが出て行った瞬間から歌いだしてて、歌うのは好きなんやな思ってん。

それに右上に「採点中……」って出てるのもあるんかな? 歌に点数なんてどうやってつけんねんやろ?


 歌い終わってそっと座った裾野は、マイクをテーブルに置いてアイスコーヒーを一気飲みしてん。

「デートに行くなら、流行りの曲くらい歌えないとな。」

裾野は俺にそう笑いかけてくれてるんやけど、画面には大きく「100点」の文字。

「うん……裾野?」

「ん?」

「100点やて。」

「ほう……いつもなら95点なのにどうした?」

裾野はマイクを持ち上げたり、機械を見に行ったりしてるんやけど、疑うところはそこなんやな。

「偶然か。なぁ菅野、告白してもいいか?」

裾野はモニターまでじっくり見ながら言うてるんやけど、告白ってこの前俺が淳にしたアレやろ?

「嫌や。俺には淳が居るやん。」

俺がそっぽ向いて口を尖がらすと、裾野は俺の隣に座って、

「菅野。死ぬまで相棒で居たい。裏切らないでほしい。そして……ずっと好きでいていいか?」

裾野は思ったよりも近くに座ってるらしくて、息が若干うなじにかかってくすぐったい。

せやけど、好きって裾野が言うってことは……相棒の信頼やろ?

もちろん、ええに決まってる! 俺はそう思って裾野の方を向いて頷いたんや。


――せやけど、これが大きな間違いやってん。


 今やから間違いやとわかるし、原因もわかる。

それは他でもない……この後見せた裾野の目の色とオーラが物語ってるで……?


 俺が頷いた後、裾野は俺の胸あたりをドンと強めに押してソファに倒すと、すぐに馬乗りになってん。

「えっ、裾野?」

俺が驚きで目を見開くと、ぐっと身体を倒して耳元で、

「”好き”、なんだろう?」

ゆっくり吐息をかけながら言われて、思わず遠ざけようと抵抗すると、

「……なんで?」

そう震える声で言う裾野の顔は、暗くてもようわかるくらい戸惑っててん。

「聞いてや?」

「うん。」

「俺は、俺は……相棒の信頼やと……そう、思ってん。」

俺が顔を背けたり、目を泳がせながら言うと、裾野は俺の顎をグイとあげて喉に触れるくらいの口づけをしてん。

「そういうこと、か。だが俺はお前を恋愛面で好きだ。それでもいいのか?」

裾野は心配そうに俺に語りかけるんやけど、俺は淳と将来を考えてる…………せやけど、そうなんやけど、裾野が居らんかったら、こんなに俺のことを好きやなかったら、後鳥羽家に置いてきてたかもわからんやろ?

 それに…………ここで拒否したら、今までの裾野のことも拒否することになりそうやし。

「別にええよ。でもこんなことはせんといてや? あとキスも嫌や。」

俺が裾野を押し返して起き上がると、裾野はふふっと笑って、

「教育係に感謝しに行かないとな。」

言うて、わしゃわしゃ髪を撫でてん。


 まぁ……これがある意味きっかけというか…………裾野がやたら俺の身体を触るようになったんは、これのせいやんな。裾野に嫌われて組を追い出されるか、髪をわしゃわしゃされるか言うたら、どっち選ぶ?

言わんでもええやろ。

……そういう訳で、騅が話してた時も出てきた感じに絡んでくるようになってん。

なんやろ、言い換えたい。

裾野は親みたいなもんやから、親子のスキンシップ?

……うっ、それは気持ち悪い。

自分で言うて何やけどな、まぁええわ。



現在に戻る……

グアム島 某ホテル 昼

菅野



 騅とリヴェテとテレビ電話してたんやけど、話し終えたところで急に回線が切れてん。

「あれ……?」

「あれ、とちゃうやん。」

言いながら水着に着替え始めると、

「ん? 印が大分グロテスク。」

言うて裾野が太ももをじーっと見てるんやけど、実は印はグアムに来てからは良くなってきてん。

「良くなってる方やで?」

「悪かった。」

裾野はそう言いつつズボン裾から手を入れてきたから、ぐりっと腕を捻りあげてん。

「そういうことはせん、やろ?」

「ハイハイ……」

青ざめながら頷く裾野は少し新鮮やってん。

 はぁ……明日には帰国かぁ。嫌や……。

裾野の告白を半分受け入れる形となった菅野。

かなり喜ぶ裾野だが、次に2人を待ち受けているのは裾野の因縁の人であった…………


これは来週にわかるそうです! お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ