表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/69

「14歳-日本語以外は喋れへんし、-」

裾野の過去を聞いても、未だ完璧には信頼されていない菅野。

そして持ちかけられるとんでもない話、そして合宿――

菅野の激動の1年、後半戦。


※9,700字程度です。

※フランス語訳は裾野さんの後付け訳であって、当時の菅野には理解できていません。

2009年8月……

藍竜組 菅野&裾野の部屋

菅野



 裾野は食器を一通り片づけると、食後に食べるとサッパリするとか言うて梨を剥いてくれてん。

いつもフルーツは芸術的に並べてくれはるんやけど、今日は緑色というか、茶色っぽい巨人の灰色の皿やから、なんだか美味しくなさそうに見えてん。

う~ん、疲れてるんかな?

俺はそう思いながらも、小さめのフォークでシャリッと刺してみずみずしい食感を味わっててん。

てか、これめっちゃ美味しい! 前に銭湯仲間に(もろ)た梨は、ジョリジョリやったのに……あー、あかんあかん! 裾野のことやから、絶対高い梨なんやろうな……。

「4年前、お前と出会うまでの話をする。」

そう話し出した裾野は、フォークも持ってへんし梨にも手を付けへんまま真剣な顔して言ってん。

なんやろ……この前ドラマで見た感じの……「お父さんを僕に下さい!」を言い出す直前みたいな表情やってん、俺まで緊張してきたわ。

「少し前にも話したが、佐藤順夜が俺を組織から追い出した後――」

「待ってや?」

俺はここ数年で組織の名前はだいたい覚えたで。だから、どこかが気になってん。

「ん?」

裾野は、ほんまに何のことかわからんような顔してはる。せやろな、俺も”ド”アホとちゃうねん。

「裾野は前、どこに居ったん?」

「ほほう……それを聞くか。だがそれはダメだ」

裾野は俺と目も合わさへんで、梨をじーっと見てる。話す言うたやんか。

「なんで? 話してくれる言うたやん」

「それは……」

口を濁す裾野の顔、ほんまに言いたなさそう。そんな顔されたら言いづらいやんか。

せやけど、構わず勇気軍は進軍するで!

「やっぱり、信じられないん?」

「違う。でも……」

すっごい困った顔してはる。俺の方が悪い気がしてきたわ……。

「あ~もうええよ、裾野。続き話してや?」

俺が微笑みながら胸の前で手を振ると、裾野は「悪いな」言うて表情を緩めてん。

「じゃあ……組織から追い出された後から話すが、前の組織の副総長から”藍竜組(ここ)”に行くように色々やってくれていてな、いざ来てみたら”相棒待機組”に入れてもらったんだ」

裾野はほんまに嬉しそうに話してるけど、オーラは暗めやな。多分まだ話せへんのか、アホな俺には理解できへん謎があるんやろうな。

「それから、藍竜総長に4年間みっちり剣技、体術、筋トレに基礎体幹諸々を教わった。その中で、あの兄弟を邪魔するよう言われて極秘でオークションに参加した。その時に言われたのが、『あいつらが連れていく高価な子どもをお前の相棒にしろ』だった」

裾野は単調に何の感情も出さへんように言うと、やっと梨を手で掴んで、青色の小皿に移してからフォークで刺して食べてん。

……って、裾野もあの会場にいたん!? え~どいつやったんやろ?

そないなことはどうでもええけど、その命令が無かったら俺と裾野は会ってへんってことやんな? 合ってる?

「だから、俺の実家がお前を買ったときは椅子から転げ落ちそうになった。これであの兄弟が居なかったら、奪い返すのも大変だろうな、と考えながら。でも2人は予想通り会場を荒らして、お前は連れて行かれた」

裾野はジェスチャーも何もせんで淡々と話してるんやけど、ほんまは俺に話したくなかったってこと?

それとも、俺が理解できるように言い換えるのが面倒なんかな?

 せやけど、裾野は急に表情をパッと明るくして手を大きく広げてん。

「まぁここからが奇跡の話だ」

「そんなんあった?」

俺が最後の梨を口に運びながら言うと、裾野はガックリと肩を落としてん。

「お前じゃ気付かないか」

「え!? 助けに来たこと?」

俺が身を乗り出して言うと、

「違う」

裾野はため息をつきながら言う。

「ん! わかったで! 兄の方が路地裏に入ろうと言ったこと!」

これは自信満々やってんけど、裾野はまた小さくため息をついてん。

「半分正解」

「半分!? あとの半分どこやったん?」

俺が色々思い出しながら言うと、裾野は皿と食器を片づけて洗いながら、

「お前のあんこ脳みそのどこかだ」

と、半身だけ振り返って言うんやけど、

「……あんこ? 何やそれ?」

俺何も知らん方やと思うから、「あんこ」も初耳やってん。

「ケーキはわかるのに、あんこは初耳、か。じゃ、今度スーパーに行くときにでも買っていくか」

裾野は机を除菌スプレーをかけながら綺麗に拭くと、黒のエプロンをぴっちり畳んで机の上に置いてん。

「……うん」

何か悔しかったんやけど、スーパーにあるってことは食べ物なんかな?

「じゃあ半分も種明かしをしようか。ヒントは白猫だ」

「…………あ!?」

あの時の白猫は知らん言うてたやんか! 裾野の嘘つき! ……この恨みのこもった威嚇、受けとめきれるんかな?

せやけど裾野はやっぱり、あきれ顔やってん。

「威勢の良い虎みたいな声出してどうした?」

「あれは裾野が?」

「あぁ。常套手段を使ってもよかったが、アレは幼くて今でも白いお前には無理だっただろうな」

裾野は日本語を話してるはずやんな? 9割理解できへんのやけど? 昔を懐かしむみたいに言われてもわからん……わからん。ここはやっぱり。

「裾野ほんまありがとう! 話、面白(おもろ)かったで~?」

俺は椅子から立ち上がって、無理して明るく振舞って風呂に向かおうとしたんやけど、裾野は後ろからぎゅっと抱きついてきてん。

「この話、お前にしか話してないから」

そうかすれた声で耳元で言われたんやけど、てことは鳩村はんも龍也さんも知らんてこと?

何でそんな話を俺にしたんやろ……? 付き合ってるなら、弓削子さんにしたらええのに。

 それにしても、急にどないしたん……裾野。

俺は抱き着いてる裾野が泣いているような気がしたから、振りかえってみたんやけど、迷っているような困っているような顔してん。

ほんで俺と目が合うと、バッとそっぽ向いてん。

「裾野?」

俺が呼びかけると、裾野は抱き着いていた腕を離して、か細い声で「お風呂入るなら行け」言うてん。

せやから、いつも通り笑顔で「覗いたら殺すで~?」言うたんやけど、裾野は顔を赤くするだけやってん。いつもなら、微笑んで「いいから入れ」言うのに。

 ほんで電気も消して寝る準備も終わったころ、俺が布団に入って目を閉じようとしたんやけど、そのときに名前を呼ばれてん。ちょっと嫌やったわ~……だって、もう寝る時間やぞ!?

「タイミングが悪くてすまない。来年の12月24日に俺の実家に来てくれないか?」

裾野の顔色は暗くてよう見えへんけど、声は落ち着いている感じやってん。

「なんで?」

「お前を正式な相棒として家族に紹介したい。一応、それが父上様との約束だからな」

裾野は少し戸惑ってる感じがしたけど、俺の方に顔を向けているのはわかったで。

「それは別にええけど、約束って?」

俺は目を閉じながら言うたんやけど、裾野はため息もつかへんで話してくれてん。

「後鳥羽から逃げたから、血縁……つまり親子では無くなったと思い込んできたが、父上様はそれでも切らないとおっしゃっている。そこで話し合った結果、相棒ができる度に紹介に来ることを条件に藍竜組での生活を許してくださったのだ。」

「そうなんや。てか、なんで来年なん? 今年はあかんの?」

俺が片目だけ開けて言うと、裾野は「う~ん」言うてん。何があったんやろ?

「あぁ……今年は…………鳩村の部屋で過ごしてくれ」

そう恥ずかしそうに言うんやけど、言うてることも普通やし恥ずかしがることなんてある?

「ん?」

お互いに顔が見えへんから、大きめに聞き返すと、

「仕事なんだ」

いつもより低い声で残念そうに言うてん。

「ふーん」

何だかわざとらしくて、適当に流しておいたわ。

でもそのおかげで、友達から誘われてたこと思い出したわ!

「あ! バイクの免許取ってもええ?」

ヤリ……の友達から、バイクに乗れば女はオチる! とか自慢げに言うてたし、それに付き合うのも悪ないかな、思ってん。いつも裾野に乗っけてもらうのも悪いし。

「構わない。免許を取るなら”合宿”と言って、泊まり込んでやるから、くれぐれも印には注意しろ」

裾野は空気を切り裂くような鋭い声で言うたんやけど、たしかにそうやった。

お風呂が温泉じゃなきゃええんやけど……ちゃんと調べなあかんな。

「うん」

俺が大きめに頷くと、裾野はふふっと笑みを漏らして、

「菅野。龍勢淳(たつせ じゅん)も車の免許を取るらしいぞ?」

なんていやらしく言うから、多分告白できへんかったこともバレてるみたいやな。

「うん、ありがとう」

まぁとりあえず、流しておくのが一番や。裾野に関しては、やけど。

「はぁ……おやすみ」

ほんでいつも残念そうにため息をつくんやで。4年もいればわかることやろ?

「おやすみ」

俺は目を瞑ってから3秒で眠りに落ちてん。いつも夢見いひんし、眠りと槍だけは誰にでも勝てる自信あるで?



2009年12月某日(合宿最終日)

大型二輪免許合宿所・ホテル

菅野



 日付がこんなにずれ込んだのは、まぁ……淳が申し込んだ日と同じにしよう考えてただけやねん。

それと裾野に何度も直された告白の言葉やけど、結局吹っ飛びそうやからわざと忘れた。

しかも淳役を裾野がやってくれたけど、裏声でやっててかなり気持ち悪かったわ~……まぁ言うても助かったけどな!

 ほんで持ち物とか色々調べて行ったんやけど、持ち物が多すぎて詰めてもらうのは結局裾野にやってん。

ちなみに場所は、藍竜組のある関東からずーっと北にある東北や。北海の手前の場所やから、めっちゃ山や。

あと、覚えてる限りの持ち物リスト、心得とか話しとくわ。


〈持ち物リスト〉

・武器(ほぼ常備可能ですが、大きさや形の問題もあるため一度スタッフにご相談下さい)

・集中力(学科試験には”一発で”合格していただきます。受からなかった方には、”片道学科検定料首入因死”を4番窓口にてお渡しします)

・覚悟(皆様”早く”免許が欲しいのです。尚、覚悟とは転倒した時の為のものです)

・グローブ(色は問いません。形などもご自身の趣味嗜好で選んで構いません)

・運転しやすい服装(男女共に長袖長ズボン、ライダーブーツかスニーカー)

・日用品(歯ブラシ・歯磨き粉、シャンプー・リンス・ボディーソープ、洗顔料など)


〈心得・注意事項〉

・大型二輪は普通二輪より大きい為、選択の際はご自身の身長などに注意してください。

・人を轢きたいなら、小回りが利くので大型よりも普通をお勧めします。

・モテたいなら、目を引くので大型をお勧めします。

・テクニックに自信のある方は是非とも大型にしてください。スタッフ一同気合を入れて指導します。

・事故死及び教習生同士の故意による轢き逃げ等のトラブルに関しては、一切の責任を放棄します。

・予定日を1日でもオーバーした教習生につきましては、”片道特別講習”を行います。

・また、学科・技能を含めた卒業試験と免許交付の際の筆記試験は、この会場で行います。

 こちらも一発で受からなければ、”公開再試験”を行いますので、ご注意ください。


……やったかな? 多分抜けてる箇所もあると思うんやけど、大型の説明はこんな感じやってん。

ほんで、最短9日で取れるし値段も安い言われたからめっちゃ必死でやってん。

だって俺はまだお金を自由に使わせてもらえへんから、裾野に出して(もろ)たし無駄には出来へんやろ?

あと学科がめっちゃ不安やってんけど、裾野からアドバイス(もろ)てん!

「生きるために覚えろ」

この言葉がめっちゃ染みてるおかげで、往復してこれたんやからな。

……ん? 片道の話気になるかもしれへんけど、俺も友達もようわからんくてな~。

ほんで淳にも聞いたんやけど、ハッキリとはわからんのやて。

とりあえず教官たちは、「往復できればいい」言うてたから、別にええんとちゃう?


 そんなことを思いながら、ホテルの小さなステージ付きのホールで、免許交付式を終えたんやけど、ここから全員一緒に帰るんやなくてここで解散なんやて。


 解散ってことは、チャンスやろ!?

よっしゃ!!

俺の勇気軍はザッと一列に並んだ。

友達とは別れを告げて、退路と応援も断つ。

狙いは淳。

本人は、合宿で仲良くなったらしい友達と話している。

守りは1人。

待機か進撃か、それとも――

悩むまでもあらへん、突撃やろ!!


「淳、お疲れ~」

俺が正面から手を振りながら話しかけると、友達は「淳ちゃんすごい! モデルさんだよ! 写真撮ってもらおうよ~!」なんて言いだしてん。

 菅野軍、早速予想外の展開……。

そこに大砲を撃つのは淳や。そうやろ?

「あ! たしか、佐藤組は一斉に帰る言うてなかった?」

淳はハッとした表情で胸の前でポンと手を組んでん。

「あっ、そうだった! 淳ちゃん、ありがとう! また連絡するね~!」

友達はそう言いながら、走り去ってん。

 敵軍退去~……てかさっきから言うてるけど、なんやこれ?


「ごめんな。友達と帰る予定やったやろ?」

俺がもっこもこの赤黒いカーペットに目を移しながら言うと、淳は「気にせんといて」言うてくれてん。

ほんま、優しいわ~。

 って、待て待て。淳の私服、初めて見たで!

靴がスニーカーなのは勿論なんやけど、濃い青のジーンズも白いふわふわそうなブレザーっぽいコートも格好ええし、長さはセミロングくらいなんやけど少しくるくるっとした髪型も似合っててん。

 ほんで俺は茶色のスニーカー、暗い緑色の迷彩柄のパンツ、ジーンズ調に色の落ちた青いカーディガンの中に白シャツ、それにワインレッドのPコートやってん。髪色はこの時は……地毛より1こだけ明るくした茶色やったな、知らんけど。

「あんな、淳。俺、言いたいことあんねん」

緊張でドキドキうるさい胸を押さえるフリして、自分に鼓舞を送ってん。

「なに?」

淳は薄いピンク色のカバンを肩にかけながら言うてん。

「……」

マズイ……たった2文字なのに口から出て行ってくれへん。

目の前に居るのに、あともうちょっとやのに……!

俺が落ち着かんくて手ばっかりせわしなく動いてるせいか、淳は黙る俺の目をじぃっと見上げて心配そうにしてん。

 勇気軍、劣勢ながら奮闘中。

大将の勝利を願う兵士たちのために、いざ王手を……!

「……好き」

俺が目を泳がせて顔を真っ赤にして言うと、淳もほんのり頬を染めてん。

「私も」

小さかったけど、周りでガヤガヤ騒いでてもスッと入ってくる声やってん。

俺の心の中がじんわり温まってきて、それが「嬉しい」と気づくまでに時間差はあったけど、淳も同じやったんか、ほぼ同じタイミングで目が合ってん。

「あんな?」

「菅野?」

ここも同じタイミング!? ほんま困る……心臓がもたんから。

「ありがとう」

俺が照れ隠しで笑うと、淳も「こちらこそ」言うて笑ってくれてん。

 この後はどないしたらええんやっけ……裾野が教えてくれたのに、すっかり吹っ飛んでたわ。

口づけもハグもしたことないし、皆居るからそれは嫌やし……頭が沸騰しそうや!

むしろ湯気出てるんちゃう?

とか何とかしているうちに、淳はサッと俺の隣に立って、

「一緒に帰らへん?」

ニコッと笑って俺の手を取ってん。あ……習ったセリフそれや……。

「う、うん!」

危うく裾野がやってた裏声の真似をしそうになったんやけど、何とか自分の声でできた……はぁ。


 ほんで藍竜組前まで無事に行けたんやけど、急に後ろからさわやかな声の男に話しかけられてん。

真っ暗やったから、顔も体型もよくわからんかってん。

「君がマイスウィートダーリンのハニーの菅野か?」

暗闇から金色に光る薔薇(ばら)を差し出してきたんやけど、とりあえず受け取らないで放置してみたわ。

「……誰や?」

俺が首をかしげると、男は人間か疑うくらい太い腕で俺と淳の手を引きはがしてん。

金薔薇のおかげで見えたけど、ほんま一瞬やってん。

「マイスウィートダーリンの好みが変わったね。だが残念。俺の方が少なくとも君よりは愛されていたよ」

多分背も俺より大きいんか、上から声が聞こえてる気がすんねん。

まぁ俺もこの時まだ大きい方じゃなかったから、しゃあない気も……それにしても上すぎる。

しかも、チラッと手鏡が見えてん。

「ノンケに手を出す美しいダーリンと付き合っていた俺、今日もイケメンだなあ」

またチラッと見えたから、多分手鏡をしまった? あと、色々わからん単語だらけなんやけど?

「おっとつい美しい顔に見とれてしまっていたよ。まぁ今日は君の顔を見に来ただけだから、この辺にしておくよダーリンのハニー。じゃ、バーイ!」

男は金薔薇を、俺の胸元まで開けている白シャツに差し込むと、いつの間にか気配も消えていてん。

一瞬チクッとしたけど薔薇だけピカピカ光ってて、なんだか不思議な感じやってん。

「なんやったんや……?」

俺が戸惑いながら、胃から這い上がる何かを我慢していると、

「ちょっと貸して?」

と、淳はトゲが刺さらへんように、ひょいと薔薇を抜いてん。

そしたら金薔薇はピカピカ光らなくなってん。

……どういうことや?

「よくわからないけど、勘は鋭い方やからやってみたんや」

「すごい! それは鳩村はんに渡すわ。賢いし、物知りやから」

俺が歩きながら笑顔でそう言うと、淳は「光るから私から渡すわ」言うてくれてん。

「ありがとう」

「ええよ。あと、ちゃんと休むんやで?」

淳は俺のほっぺを指でツンと刺すと、鳩村はんの部屋に行ってしまってん。


 ほんで淳とも別れて部屋に戻ると、血相を変えた裾野がバッと俺に飛びついてきてん。

「菅野、説明は後だ。早く脱げ」

言うて俺のコートを無理矢理脱がせたんやけど、なんでいきなり!?

「はぁ!? ちゃんと説明してや!」

俺が脱がされへんようにぎゅっと服を掴むと、裾野はため息をつきながら、

「お前の鎖骨付近に刺さってる金色の薔薇のトゲを抜く」

と、冷静に言うたと思ったら、

「菅野、胃からぞわっと来るような変な吐き気を感じなかったのか?」

続けて額に汗をかきながら言うてん。裾野がこんなに焦るんやから、ほんまなんやろな。

 たしかに感じたけど、それはてっきり合宿の疲れやと思っててん。

まさか薔薇のトゲやなんて……

「感じたけど……まさか――」

俺がさっきのことを話そうとすると、裾野は俺を壁際に追い詰めて、

「悪い。時間が無い」

言うて俺の両腕を上にねじりあげると、片手で慌ててボタンを外して長細いトゲを取ってくれてん。

せやけど、まだ焦りの表情が見える。

「菅野、しばらくその体勢で頼む」

ほんで早口でそう言うと、急いで本棚の引き出しを開けて透明な瓶に入った、ペースト状っぽい銀色の薬を持ってきてん。

その蓋を外して、トゲが刺さっていたところに塗り込まれると、すっごくヒリヒリしてきてん。

ほんでまたかゆいから掻こうと手を伸ばそうとしたら、裾野に掴まれてん。

もうかゆくて、かゆくて、でも掻けへんように腕を押さえつけられてるから、身動きも取れへんくて、ずっと歯を食いしばっててん。

「本当にすまない……あと5秒」

そう言うてる間に5秒がきて、すっと楽になってん。

せやけど裾野も俺も息が荒くて、俺はずるずると座り込んでしまってん。

「顔色、戻って……きたな」

裾野は俺の顎をくいと上げて、まじまじと俺の顔を見てん。

「どんな……顔、し、てたん?」

俺は肩で息をしながら、裾野の鋭い眼に焦点を合わせようとしてん。

「真っ青だ。俺の読み通り、”金色の薔薇のトゲによる吐瀉(としゃ)死”になりかけていたんだ。」

裾野は両頬をぐいと下げて吐く動作をしながら言うてん。せやけど、「としゃ」が何かわからんくて、

「……アホにもわかるように頼むわ」

と、手をじりじりあげながら言うと、裾野はメガネをあげるフリをして、

「ん。まずは症状から。”金色の薔薇”は佐藤組が特許を取っている劇物で男に反応して光る。持っている分には何ともないが、その長細いトゲに刺されると、約1分で臓器も心臓も吐いて死ぬ。だから俺は時間が無いと言ったんだ」

そこで区切ると顔を覗き込んでくれたから、俺は何度も頷いてん。

それにしても、臓器と心臓を口から吐くって……絶対見たくないんやけど……うぅ。

「で、トゲを抜いてこの特効薬を塗って治す訳だが……残念ながら8秒間は痒みに耐えなければならない。だが後遺症、つまり治った後も気分が悪くなったりすることはない。あと、2本以上同時に刺さるとその場で死ぬ」

裾野は数字の部分はわかりやすくジェスチャーを交えて話してくれてん。

それにゆっくり話してくれはるから、ほんまわかりやすかってん。

「よくわかったで! せやけど裾野、俺の顔を見て血相を変えたやんか。でも、淳は『ちゃんと休むんやで』としか――」

「鋭い! 本当によくわかったな……辺りは暗かったのだろう?」

裾野は目を大きく見開いて感動してるんやけど、たしかに夜の学校くらいの非常階段の灯りだけやからな。

俺が頷くと、裾野は「ほう……」と顎をさすって、

「もう1つの特徴として顔が真っ青になるのだが、これは暗闇だと見えない筈なんだ。」

言うんやけど、そしたら淳は持ち前の勘で……?

「えっ……」

「いい彼女をもったな、菅野?」

裾野はわしゃわしゃと俺の髪を撫でつけると、ぐいと俺を立ち上がらせてくれてん。

「うん!」

俺が笑顔で言うと、そのままぎゅっとしてくれてん。

裾野にぎゅっとされると、オトンを思い出すから心が温かくなるねんな~。

「少しずつだが、お前も言葉を覚えてきたな」

「なんやそれ? ほんまオトンみたいやな」

「そうか」

裾野はふふふ……とほほ笑んでいるんやけど、そうしていると頭がくすぐったいねん。

 ちょっと待てや? なんで裾野、淳と付き合ったこと知ってるん!?

「なんで付き合ったこと知ってるん?」

「言わなかったか? 情報屋が同期だって」

「せやったな~」

俺は裾野の腕から離れて、お風呂のある部屋のパーテーションをくぐる前に、

「ほんまありがとう!」

と、満面の笑みで言うと、裾野はカーッと顔を赤くしてん。

最近どないしたんかな?


 それから俺と裾野は一緒に依頼をこなしつつ、来年の後鳥羽家訪問までの時を待った。

そしてついにその時が来た。

俺はそこで何を見ることになるんか……この時の俺はワクワクしていてん。



現在に戻る……

グアム島 某ホテル

菅野



 俺と裾野は約束通り、グアムに来てん!!

初めての海外! やっぱり海が綺麗やな~! 裾野とめっちゃはしゃいでいたら、何人かに声をかけられたけど、何言うてるかさーっぱりやってん。

まぁ……雷もとんでもない迫力で、へそを取られたくなかった俺は、大汗をかきながら丸まって耐えてたわ。

 えっと、今は騅たちとテレビ電話で話してるで。

「うわ~! ホテルからオーシャンビュー! 羨ましいです」

騅は目を輝かせながら、リヴェテを顔を寄せながら見てん。遠くから見てるからかな、結構癒されるわ~。

「ねぇねぇ、トラブルはあった?」

リヴェテは興味津々なんか、尻尾をひゅんひゅん振ってるわ。

「あぁ……。こいつと海ではしゃいでいたら、『君らは恋人かい?』って外人グループに聞かれてな……英語を話せない菅野が、訳もわからずに『Yes!!』とか言うからな? 誤解を解くのが大変だったんだ」

裾野は頭を抱えてるんやけど、ほんまその通り。だって、初めての外人やし少しでも話してみたかってん。

「あらら……。でも裾野さん? N'est-ce pas qu'il est nécessairement incorrect?(あながち間違いじゃなくてよ?)」

"Si. Je ne sais pas.(いやまぁ。どうでしょう)"

"Ah,bon? Pourquoi?(あらそう? どうして?)"

「リヴェテさん、騅と菅野が固まってますから……」

「あら、ごめんなさい」

「何言うてるかさっぱりやねんけど……」

と、俺が言うと騅はめっちゃ頷いてくれてん! 仲間や~。

「仏語だ。まぁお前がわかったらマズイ会話だから、気にするな」

「はぁ!? めっちゃ気になるんやんか! リヴェテ~教えて~!」

テレビ電話の画面を揺らしてんねんけど、リヴェテはプイとそっぽ向いて、

"Non!(いやよ!)"

という仏語と一緒にブツと回線の切れる音。断られたんかな?

 それから俺ら2人は、夕焼けを一緒に眺めて明日も海ではしゃごうと決めてん。

ついに後鳥羽家訪問の日がやってくる。

後鳥羽家の兄弟(姉妹)は、この時どんな人物だったのか?

それがわかるのは……来週の土曜日(予定)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ