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「13歳-好きなことは裁縫と槍を振り回すことで、-」

新たな出会いと、菅野の成長。

そして裾野との衝突。



※3,900字程度です。

※思い出しながら話しています。

2008年12月23日昼……

藍竜組付属中学校 中庭

菅野



 裾野からメールで呼び出されて中庭に来てんけど、居らへんかってん。その代わりにめっちゃ細くて焦げ茶色っぽい髪の男の人が、中庭の中心にあるベンチの側に立っててん。

佇まいに覇気を感じるんやけど、どこか頼れそうな雰囲気も持っていたで。

それに腰に差した刀……裾野の友達なんかな?

「誰や?」

俺が近づきながら呼びかけると、男の人は俺の方に向き直ってん。

「俺か?」

男の人の声は見た目ほど声には覇気を感じなかってん。

「面倒やなぁ。」

「紹介が遅れたね。俺は如月龍也(きさらぎ たつや)。」

男は笑顔で言うてん。そないな嫌いやない雰囲気、やな。

近くに寄ると刀は(あや)しいオーラを放っていたんやけど、普通の刀とちゃうんかな?

「君が菅野くん?」

「……?」

俺が首をかしげると、龍也さんは微笑んでいてん。

「裾野に呼び出されているんだよね?」

「せやけど……。」

俺がそう言っていると、裾野が片手を振りながら歩いてきたんや。

ほんで隣に立つと、手で丁寧に指し示して、

「悪い悪い。この人は俺の先輩の龍也さん。」

裾野と並んでみると、龍也さんと呼ばれた人は更に華奢に見えてん。

「先輩ってどういうこと?」

「9つ上で、菅野から考えると13歳年上だな。」

と、速攻で計算した裾野やけど、俺なんてそうする気すら無かったで。

「そうなんや。よろしく~。」

「あのなぁ菅野……聞いてたか?」

「いいよいいよ、気にしないで。菅野くん、よろしくね。」

龍也さんは微笑むと裾野の方に向き直って、

「じゃ、俺はそろそろ行くわ。」

言うから、裾野は会釈してん。ほんま礼儀正しい。

「わかりました。すみません、忙しい時に。」

「大丈夫、気にすんな。」

「ありがとうございます。また手合わせ、お願いしますね?」

「……困ったな。じゃ。」

「はい、お疲れ様です。」


 裾野は龍也さんの姿が見えなくなるまで見送り、それから俺の方に向き直ってん。

「龍也さんとよう手合わせしてるん?」

「うん。負けたことは無いよ。」

「あ~。」

なるほど。それで困っていたんやんな。

「でも、手合わせだって死ぬかもしれないからね。油断はしない方がいい。」

裾野と部屋に戻りながら話していたんやけど、油断云々とちゃうねんな。

「……そうやなくて。」

「ん?」

「何でもない。また先輩が居たら紹介してや。」

「うん。」

裾野は嬉しそうに頷いているんやけど、やっぱり交流は上手そうやもんな。

総長とも仲良いし、副総長とも仲が良いってよう聞くしな。


 その翌日、ついに裾野の誕生日がやってきたんや。

俺はケーキと部屋の飾りつけを用意してやったで。面倒やったわ、もちろん嘘やで。




2008年12月24日深夜……

裾野&菅野の部屋

菅野



 真っ赤なお鼻の~トナカイさんは~いっつもみんなの笑いもの~…………

赤鼻のトナカイやっけ? それをアレンジしたメロディーを、金色のぐにゃっと曲がった大きめのカッコイイ楽器で吹く裾野は、いつも見ている怖い裾野とは全然 (ちご)うてジャズなんちゃら奏者みたいやったな。

そう言えば、裁縫は出来へんクセに楽器なんて吹けたんやな。

ん~何か知らんけど悔しい。

 しばらくして吹き終わった裾野が一通り楽器の掃除をすると、黒くて重そうなケースに入れて書棚の1番下の広めの扉の床下に入れてん。厳重やな。

「菅野。」

しまい終わって「手続きが多いな……」なんて呟く裾野は、ベッドルームのパーテーションから入りながら言うた。

「ん? ハッピーバースデーもケーキも食ったやんか。まだ何かあるん?」

俺が裾野のオサガリの部屋着のグレーのパーカーのヒモをグイグイいじってると、裾野は「それまだ着てるのか」と、嬉しそうに表情を緩めてん。貰ったのは、何年前やろ? 10歳の頃? 知らんけど……。


 18歳の誕生日。あ~そうや、業界テレビでも18歳はやたら取り上げてるなぁ……華があるとか言うて。

なんだかんだ言うて俺は裾野にもあると思うで。顔はカッコイイ方やと思うし、センスも(わる)ない。真面目で優しい印象なのは変わらんけど、どこか怖いオーラがあるところもこの業界の人っぽいし。

 そないなことを考えとると、裾野は閃いたような顔をして、

「うん。明日他の先輩に会ってみないか?」

言うから、

「……?」

何も言わずに首をひねる俺に、裾野は無意識なのか知らんけど徐々に口の両端を広げていってん。

全く。何考えてんねん、こいつ。

「いや、先輩に会うことに関しては全然下心は無い。」

……はぁ!? それ真顔で言うこととちゃうし。

「んじゃ、他にあるんか?」

「まぁ……な。」

「本当に面倒やな、はよ言えや。」

苛立って俺が早口で言うと、裾野は誰にも聞かれる心配なんて無いのに耳元で、

「最近お前、変だよ?」

なんて意味不明なこと言われるし、めっちゃ耳元で(わろ)てくるし、俺の短い導火線はあっという間に爆発や。

「どこが変なんや!! 言うてみ!?」

「まぁそう怒鳴るな。誰しもが通る道だから。……そわそわしてるだろ。」

射竦(いすく)められるような鋭い視線でそう言う裾野に、俺はぐうの音も出えへんかった。


 実を言うと図星やねん。

自分では何かわからんのやけど、何だかそわそわするし、身体が熱くなる感じの変な夢も見たことがあってん。せやから正直不安やってん。

それを裾野に言おうと口を開いたんやけど……

「……菅野。」

それを言う前に出た言葉には、俺をギクッとさせるものがあってん。

慌ててオーラを見てみると、今まで見たことのないようなオーラがあったんや。暗めの桃色?

「な……何や?」

と、警戒する俺に対し、裾野はパッと明るい笑顔になって、

「俺、バイセクシュアルなんだ。」

・ ・ ・ ? それ明るい口調で言うてるけど、何語? 英語? ドイツ語?

俺の頭の中には、はてながたくさん出てきてんけど、裾野は何故かガッツポーズしとるし、そないな嬉しいことなんかな?

「裾野。バイなんちゃらって何や? 大会で優勝でもしたんか?」

俺は真面目に聞いてるっちゅうのに裾野は大爆笑してん。何でなん?

「違う。ん……わかりやすく言うね。お前は男と女、どっちを好きになる?」

「女に決まっとるやろ? 男同士なんておかしいやんか。気持ち悪いし。」

最後の言葉を言うた時、若干やけど裾野の表情が曇った。あまり顔に出さへん裾野が。

「……普通そうだよな。」

裾野は目を伏せてため息をつきながらそう言うてん。

「何や? 裾野は男が好きなん? じゃあ俺の――」

俺はほんの冗談のつもりで聞いただけやってん。俺のことが好きなんて……ありえへんやろ?

だって、裾野はごっつええお金持ちのべっぴんさんと結婚しそうやもん。せやろ?

俺はそう返されると期待していたんや。せやけど――

「お前のこと”も”好きになれる。」

その言葉に俺は言葉を失ったんや。バイなんちゃらがどんなんか知らんけど、男の俺のことを好きになれるなんて……最近覚えた言葉を使うなら、虫唾が走る。使い方自信無いけど平気やと信じとこ。


 それに俺は自分では気づかへんかったけど、涙がどんどん頬を伝っていく感覚を感じたんや。

――どうして泣くんや?

裾野に辛い思いをさせていたから。

――どうして今まで気がつかへんかったのか?

言うまで辛かったやろうに。


 そういう後悔やと今はわかってる。せやけど、この時は何をしでかすかわからんやつと近くのベッドで寝ていたと思うと、むかむかと蒸気が上がってくる感覚があってん。

 ほんで俺はバッと立ち上がり、身長差20cm以上もある裾野の胸倉を掴んで、

「俺のことも好きになれるような相棒なんて、俺は要らん!! ほんま気持ち悪いねん!!」

俺は一時(いっとき)の感情に任せて暴言を吐いた後、今度は力任せに裾野をベッドに叩きつけた筈やのに、身体がふわりと浮いて一回転して俺が下になってて、そのまま背骨折れたんちゃう!? と疑いたくなる程の痛みが襲ってん。

 裾野の胸倉を掴んだままの俺に、肩を上下させて歯ぎしりをする裾野。

何か言いたそうにしてるのに言うてこない。このむずむずした嫌な時間。こんなしょうもないことをするなら、俺を早く追い出せばええやんか……。

それか、いつもみたいに余裕そうに「そう言うと思ってたよ~」とか「気持ち悪い、かぁ。ははっ。」とか言うて笑えばええやん。どうしてそんな反応するん!?

 もう俺の怒りのボルテージは限界を超えてるんやけど、裾野がガッチリ押さえているせいで動けへん。

動けへんイライラも時間を追うごとに、どんどん積み上がっていって関西で1番高い塔くらいまではあったと思うで。

「……菅野。」

「もうお前と話もしたくないねん! はよ退けや!」

そう言うてジタバタする俺に、

「……ごめん。」

ボソリ言うて退く裾野の顔は、よう覚えてへん。頭が完全に沸騰してたからな。

せやけど、その面を見て殺気がわいたのは覚えてるで。


 俺は夢中で走って屋上に来てん。

ここなら鳩村はんも居るし、何か話してくれはるやろうなんて思て。

でもそこには誰も居らんかったけど、静かに星が瞬いて、夜風も心地よいくらいに吹いていてん。

「……」

俺は何となく、いつも鳩村はんが居る屋上の真ん中でしゃがんでみたんや。

そしたらもっと星が遠く見えて、ジャージのズボンから出た肌着との隙間から風が入ってきて、少し寒気も感じたで。まぁ冬やから上着も着てるんやけど、短いからすぐに背中が見えてしまうねん。

 それにしても裾野のことが許せへんかった。

今まで黙っていたのもそうやけど、ずっと俺のことが好きなまま何ともないフリをし続けていたことにも……俺はアホやからそういうの出来へんし、そうやる神経そのものが理解できへんかったんや。

 俺はこの日を境に、本当なら両親にやる筈の反抗期を……裾野にし始めてしまったんや。



現在に戻る……

裾野、菅野&騅の部屋

菅野



 俺がそこで話を区切ると、裾野はバツが悪そうに視線を泳がせていたんや。

「菅野……」

「なんや? もう怒ってへんやん。」

「違う。そうではない。」

裾野はそこで口を真一文字に結んでん。何でや? 俺は普通に言うただけやん。

 そこで騅とリヴェテの方を見ると、やっぱりニヤニヤしながら俺と裾野を交互に見ていたんや。

どうしてこの1人と1匹には俺らのことがわかるのか、教えてほしいくらいや。

せやけどいくら視線を合わそうとしても、わざとなのか全然目が合わへんかった。

反抗期が始まった菅野に対し、親でもない裾野は一体どうするのか?

龍也との出会いは彼らに何をもたらすのか。


それは来週の土曜日に解明します。お楽しみに。

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