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日本一の朝日

私は今、山を登っている。

ジョージ・マロリーが言った有名な言葉で、

「Because it's there. (そこにエベレストがあるから)」

があるのだが、日本では、

「Because there is a mountain.(そこに山があるから)」

という誤訳されて流布されているのを好き好んで使っている人はいる、だけど今の私にはこの言葉があう

「そこに最高の景色があるから」

そう、今私は日本一の山から見える日の出を写真に収めようと日本一の山に登っている。

そんな単純な理由で富士山に登っている私はどうしようもないバカだと思う。


だけどそんなことはどうでもいい!

私は撮りたいんだ!

そう!

日本一の日の出を!


一週間で富士山に登る準備をし、私は登山が趣味の親友と登っている。

一人だと流石に危ないなと思い、急遽親友に連絡して一緒に行ってくれる事になった、んだけど。

どうやら彼氏とデートの約束があったみたいらしい、でもこっちを優先してくれたみたい。流石ね。

親友が言うには、

「あんたを私以外の人と行動させると、その人があんたの所為で死んじゃうでしょ?」

私はあんたの中でどういう人間になっているの…。

まぁあんたが来なかったらガイドさんを雇うつもりだったわよ。

勿論、殺すつもりもなかったけどね!無茶はするかもしれないけどね!

そんなこんなで、あと30分くらいで頂上らしい。

五合目から短い距離のルートを登って来たにしてもさすがに長かった、合計何時間かかったのかな?

4時間?5時間?それぐらい長い時間登ったような気がする。

だけど登っている最中でも景色がものすごく綺麗で、片時もカメラを離すことができなかった。

幸い天気も良かったのもあって昨日は駿河湾を一望しながら欲望のままにカメラで撮りまくり幸せのひと時を過ごしていたんだけど、流石は富士山と行った所ね。私をこんなに苦しめた山はあなたが初めてよ。

まさかこの私が高山病なんてモノにかかってしまうなんて思いもよらなかったわ。頭が痛い。

今は何とか我慢して登っている。

そう言えば親友は、

「あんたは欲望に忠実だから高山病にかかったとしても我慢して登って行っちゃうと思うんだけど、我慢するなよ?絶対だかんな!?」

なんて事を昨日言ってたような気がする。

「あんたは登山初心者なのよ!?最悪死んじゃうんだかんね!?」

なんて事も言ってたような気がする。

ふふふ

そんな脅しでこの私が引くとでも思っているのかしら?

絶対に富士山から見える日の出をこのカメラに収めてみせる!

そう意気込んでいると、

「ほら、あと少しで頂上よ。」

親友のその一言で私は下を向いていた顔を進んでいる方向に向けてみた。

そこにはあと10歩くらいで頂上に行けるぐらいの距離になっているのが私の目に入ってきた。

「あと少しで、最高の景色を私のカメラで撮ることができる。」

なんて呟き、ニヤニヤしながら頭が痛い事も忘れ、歩くスピードを少しだけ上げながら頂上へと向かう。

あと少し1歩

あと少し2歩

あと少し3歩

と、ぶつぶつと頂上へのカウントダウンを私は開始し始めた。

もう少し4歩

よし5歩

さぁ6歩

もうちょい7歩

ここらへんで私は変なテンションになってきた。

よっしあとちょっと!8歩!

もうすぐもうすぐ!9歩!

9歩目の足が地面に着いた…。最後の一歩、この最後の一歩で私が求めていた最高の景色が見える。


これで最後よ!10歩!


最後の一歩を踏んだ瞬間、小さくガッツポーズをし、

「よっしゃぁああ!」

心の底から小さく叫んでいる。

「頂上に到着してガッツポーズを決めてる所悪いんだけど、もうすぐ日の出が出ちゃうわよ。」

そう言い親友は腕時計を見ながら私に話しかけてきた。

「えっ、あと何分くらいなの?」

私は登頂した感動が掻き消えるぐらい慌てながらカメラの準備をし始めた。

「あと3分くらいかな…。」

腕時計を見ながら指で日の出までのカウントをし始めている。

ちょっと待ってちょっと待って、最高の景色を撮るための準備がまだ終わってないのよ!

「あと2分でーす。もう、日の出が出ちゃいますよぉ。」

こ、この野郎、慌てさせながら楽しんでいるな。この親友様は!

「もう少しで準備終わるから日の出は待ってください!お願いします!」

なんて言いながら、カチャカチャとカメラを今までの人生の中でありえないくらいの速さで準備を終えていく。

「ふふふ、さぁラストスパートですよ。あと1分です!」

くそぉぅくそぉぅ、楽しみやがってぇ。私はオモチャじゃないんだぞ!と、若干涙ぐみながらカチャカチャ。

「あと30秒!」

もうすぐ、もうすぐ終わりますのでもうちょっと待って!ここまで来て諦められるか!

「あと10秒!」

うひー!

「5、4、3、2、1」

1、と聞こえた瞬間に私はカメラの準備を終え、日の出が出る方向にカメラを向けた。

「これが富士山から見える日の出です!」

と、親友が言い終わるか終わらない内に、私が富士山に登り体調が悪くなりながらもどうしても見たかったモノの顔が出てきた。

一瞬、時が止まったかと思うぐらい私たちの周りは静かになり、

「すごい…。」

私は言葉をこぼしていた。それぐらいの言葉しか今の私には発言が出来ない。


感動


私は身体が震えるほど感動していた。もしかしたら、涙を少しだけ流していたのかもしれない。

私達の目の前には雲という真っ白い海から光り輝く黄金の太陽が少しずつ顔を覗かせてきた。

他人が撮った写真ではなく、肉眼で確認できる距離で私達は実物を見ている。

少しずつ

ゆっくりと

昇ってきている

この感動の産物である景色をカメラに収めようとシャッターを押し始めた。

いや、この景色を保存するしかないと無意識に脳が直接指に信号を送り、押し始めたというよりいつの間にか押していた感じだ。

「どう?日本一の山に登って見ることができた日の出の感想は。」

親友がドヤ顔を私に向けて話しかけてきた。

なんだそのドヤ顔は、親指も立てるんじゃない。グッとかやめて。

でも、一つだけわかるのは、

「最高の気分。」

私は笑顔で親友に向けてそう一言。

「この期に私と一緒に登山初めて見る?こんな景色がまた見れるわよ。」

その提案は私にとってとても魅力的だったんだけど、

「すごく魅力的な提案なんだけど、また頭が痛くなってきたら嫌だから、また今度ね。」

なんて事を言ってしまった。

「あんたやっぱり高山病にかかっていたのね!ほら!速く下山するわよ!」

そう言いながら親友は下山の準備をし始めだした。

「待って!まだ撮り終わってない!この景色をまだ撮り終わってないの!」

「バカ!また自分の事よりも景色を優先して!」

親友は私の腕を掴んでくる。

「ダメよ!まだこの感動をカメラに収めてないの!」

親友の腕をふりほどこうとした。

「しょうがないわね。あと10分くらいで下山するからそれまでにその景色を撮りなさいよ。」

諦めながら我が理解ある親友はため息をつき腰を下ろせる場所を探しながら移動を始めた。

「あんたは最高の親友よ。」

そんな事を一言呟き、カメラを構え最高の景色を、私『橘 葵(たちばな あおい)』は撮影を再開した。


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