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異世界でも、チートよりも大切なこと。  作者: 芳賀勢斗
失われた自由。
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王都攻防戦2

「っ! クソッ! 巻き込まれるぞぉっ! 退避ぃぃぃっ!」


「なんだよこれっ! なんなんだよぉっ!?」


兵士達の慌てふためき、我先にと撤退していく様がそこにはあった。

隊列なんてもはや存在しない。 


なぜなら…一撃で大地を薙ぎ払う要塞砲と、一撃で何物をも貫く戦車砲の撃ち合いがそこにはあったからだ。


【全車停車ッ! 弾種徹甲ッ! 小隊集中正面射ッ!! てぇっ!!! 全速後退っ! 右へっ!】


4両の74式戦車が息のあった動きで瞬時に停車。すぐさま105mmライフル砲が城壁上に鎮座する要塞砲に向けられる。

その瞬間、4門の砲が火を噴いた。

強烈な衝撃で巻き上がった砂煙に巻かれるな、4両の74式戦車は砲撃の直後にすぐさま唸りをあげて後退を開始。


そのまま右へ旋回し、今度は全速力で前進し“それ”から逃げた。


放たれた4発のAPFSDS弾が吸い込まれるように要塞砲に集中する。

しかし、戦車装甲すら貫くそのタングステンの矢でさえ要塞砲の障壁の守りは堅く寄せ付けなかった。


直撃したAPFSDS弾は障壁に衝突した瞬間にユゴニオ弾性限界をタングステンの侵徹体“だけが”突破し形状を保てなくなった侵徹体は真っ赤に粉砕され明後日の方向に跳弾していく。


そしてお返しと言わんばかりに、あの悪夢のようで馬鹿げた砲撃が放たれる。

核爆発のような凶悪な極光が視界を奪い去った。


しかし全速力で移動中の74式戦車に狙いを定められなかったのか着弾地点は74式戦車の僅か後方に逸れ、直撃弾ではなかった。

強烈な熱線が四方八方に飛び散る中、光の中から4両の74式戦車が飛び出してくる。その姿は熱線に焼かれ全体的に塗装が焦げ、肉厚の薄い履帯上部は真っ赤にその温度を上げていた。

ゴム製の泥よけは蒸発し、見るからに痛々しい姿であったが74(ナナヨン)はその歩みを止めなかった。


生身の兵士達は目の前で繰り広げられる人知を越えた砲撃戦に身をかがめては逃げ、伏せては逃げてを繰り返しながら後退していった。

そんなことが何回も繰り返されている惨状に誰も巻き込まれたくはなかった。


「…4発同時でもダメかっ! そうだ、バンカーバスターを直撃させれば…B-2は今どこに!?」


トローデスに近い森の中に作っておいた陸空の統合基地にいる疑似人格に無線を飛ばす。


「上空待機中は2機だよ。どっちもバンカーバスターは積んでるからいつでも」


「よし、今すぐに要塞砲に直撃させてくれ」


「あいよー」


十数秒後、ドゴォォォン!!!という地響きに似た爆音がとどろいた。

圧倒的な重量と高高度から落下してくるエネルギーは地面を何十メートルも掘り起こすパワーを持つ。


しかし…


「これもだめなのかっ…」


爆炎が障壁を避けるように広がる様を見て、唇をかむ。


硬すぎるだろうと舌を鳴らした。


なぜあの砲台だけ守りが硬い!?

他の砲台はトマホークの先制攻撃であっけなく沈黙したのに…

まさかそれらは未完成だった?

もしくは…カムフラージュ?


破壊できたと思ったのはデコイ?


「でもなんで…そんな回りくどいことを」


あの砲台だけ異常なまでに守りが硬かった。

城壁の上にあるからと城壁自体を破壊してしまえと攻撃するが、やはり強力な障壁がすべての攻撃を無効化してしまう。


「シヴィ、障壁ってあんなに頑丈にできるのか!?」


何発のAPFSDSを食らったと思ってる!

まるで傷一つなく鎮座する敵要塞砲があざ笑うかのように見下ろす。


要塞砲は固定武器というデメリットがあったが、動かない代わりに移動式よりも大型の砲にすることができた。

しかし航空機の発達とともに衰退して行くことになるが…この要塞砲は完璧なまでの守りを備え、強力すぎる一撃を放てる。

魔法という力を使って成しえた理想的で完成された要塞砲と言わざる負えなかった。


「ありえないわよ! あんなの私の知る障壁なんかじゃない! あんな強力な砲撃と強固な障壁を維持できるだけの魔力なんて人の扱える域を超えてる!」


魔法障壁はその性質上変形するという現象が起きない。

耐えるか割れるか。振動もしないし音も伝えない。

だから破壊するには障壁の耐久力を上回る必要があるのだが、耐久力の元になる魔力が要塞砲の場合莫大な量で、障壁の耐久力も底が知れない。


だから一点集中のAPFSDS弾をいくつも撃ち込んでいるが…結果は見ての通り傷一つとして付けられない。

ましてや跳弾はしないといわれるAPFSDS弾が弾かれる有様だ。


原因はやっぱり障壁が強力すぎることが原因だ。


障壁にどんなに力が加わっても、それが耐えられる範囲内ならば変形は一切しない。

つまり微塵も侵徹作用が通用しないから、タングステンの侵徹体は自己破壊しながら滑って跳弾してしまうんだ。


ヤバいだろ…


今まで何気なくシヴィが使ってきた障壁だが、魔力量によっては本当に手の負えない壁になることをいまさら痛感した。


行き過ぎた科学は魔法と同じ。そんな言葉を聞いたことがある。

…ならば行き過ぎた魔法は何だというのか。



「吉晴殿! 軍はもうバラバラだ…っ、このままでは!」


「わかってます…あの要塞砲さえなんとかできればっ…」


何かほかに手は…


内部から? …不可能だ。王都に近づくことすらできない。

120mmの戦車砲なら…いやそれも駄目だ。あれだけ105mmを直撃させても駄目だったんだ。その程度の変化でどうこうなるとは思えない。

飽和攻撃も障壁の性質上無意味だし、なにより74が証明している。必要なのは障壁の耐久値を上回る強力な一撃…


障壁を圧倒する絶対的な力…










核…?







「何馬鹿なことを考えているんだ俺は…」


確かに熱核攻撃なら通常兵器とは比べ物にならないくらいの威力で国もろとも消し去ることができるだろう。


でも後に残るのは何だ?


核兵器なんて使った日にはギリタフルは歴史も文化も人の歩んできた軌跡すら残らず無に帰してしまう。何も生まないし、残るものは全て負の“何か”だけだ。


簡単に核が使えてしまう力だからこそ、使ってはいけない。

そう思い続けて来たはずなのに…


そんな俺を心配そうに見つめる彼女たちの目に気づいた。


「吉晴さん、一人で悩まないでください。リュミだってここに居るんですから」


「そうよ、あんたはいつも勝手に一人悩んで何の相談もしないんだから」


リュミが心配そうに俺の手の上に、その小さな手を添える。

シヴィがその上に座り俺を見上げてくる。


「それが吉晴様の良い所でもあるのですけど、少しは頼ってくれても良いんですよ?」


連合軍の被害は大きいがまだ壊滅的ではない。十分に戦う力は残っている。

しかし戦車隊が要塞砲の注意を惹いてくれてはいるが、ひとたびあの砲撃が連合軍兵士に向けられたら…取り返しのつかないことになる。


そんな後に引けない状況でも落ち着きを変えないミーシャ。

まっすぐと俺に問いかける目が、冷静になれと俺をクールダウンさせた。


そして…俺にずっと付き合ってきてくれた結奈が不安そうな顔で近寄ってきた。


「吉晴君。ついさっき怖い顔してた…なにを考えたの? 教えて」


教えて。その言葉が妙に強く聞こえたような気がした。

つられるように嘘偽りなくそのことを話した。


「俺は…核なら…核兵器ならあの障壁を破れるんじゃないかと思ってしまった…」


「…」


分かっていた。結奈の反応なんて最初から分かっていた。

唯一の被爆国日本。そんな核兵器の悲惨さをずっと教えられて育ち、漠然と核兵器はダメなものと認識して、この世界にきて俺が原爆の映像を見せた時に、漠然な危ないものから明確に使ってはいけないものとして認識していた結奈。


でも他に手はない中で、使わなければ連合軍の大勢は死ぬ。

かといって使っても大勢の一般人が死に絶える。


憎き宗教信者相手でも無差別な大量虐殺など許されない。


「ほかに手はないの…?」


「思いつくことは全部したんだ…もうあの障壁を一撃で破れるだけの攻撃は…」


「一撃で破る…」


一撃で破れるだけの火力、エネルギーなんて…

静まり返る指揮車の中には、ただ戦車隊から送られてくる大破報告がたびたび響いている。


時間はそう余りない。


撤退の二文字が脳裏に浮かんでくる中…


「…あるかも知れない」


「え?」


静寂を撃ち破ったのはシヴィだった。


「うん…あるわ。これなら破れる…」


「本当かっ!?」


「…でもこれは危険よ。特に結奈が…」 


「えっ、私?」


「なんで結奈が?」  


突然シヴィが思いついた案に俺は絶句してしまう。そうまでしないと撃ち破れないのかと…


なぜなら


「結奈の底知れない魔力。それを結奈が直接障壁にぶつける」


「…それはっ」


それは結奈をあの要塞砲の前に立たせると言うことだ。さらに言えば敵のど真ん中。要塞砲の直ぐ側まで行くと言うこと。


「そんなの…近づくことすら不可能だっ」


「他に手はないのよ! この戦争に勝ちたかったらそれしか無い! 結奈は属性魔法はまだ不得意で膨大な魔力を変換するのは無理、だから純粋な魔力を膨大な量でぶつける。非効率すぎるけど結奈ならそれが出来る!」


結奈は俺とは違い魔力無限と言う…無限と言うあり得ない能力を持っている。

訳あって厳密には無限と言うことにはなってはいないが、その量も莫大な量と聞いている。


だからシヴィの言うことも接近することを除けば現実味がある。


だけど…結奈の危険が大きすぎた。


あの砲撃に巻き込まれれば塵一つとして残らず消えてしまう。


だから俺はその案を代案も無いのに、ただただ拒絶してしまった。

ならどうするんだよ!

自分に問い詰める。

代案も答えも何も出てこない。


俺がしばらく黙っているのを見た結奈がついに口を開いた。


「私の力があれば…あれを超えれるんだね」


「まて、待てよ結奈っ!」


「やるよ、私」


結奈はこう言うやつだ。

自分の力で他者を救えるなら喜んで力を振るう。

自分の手が助けになるなら、喜んで手を差し出す。

そんな彼女がこの現状を打破できる力を持っていると知れば…


こうなることは予想できた。


「…私だって戦いたくないよ…。でも私が頑張れば今怯えてる兵士のみんなは嬉々として戦える…。“そんな物”なんて使わずにこの戦争も終われるなら…やる。やりたい! …吉晴君、お願い」


「でもっ…死ぬかも知れないんだぞ…」


「そんな事分かってるし、何度も一緒に乗り越えてきたでしょ? それに今外に居る兵士のみんなはいつ死ぬかもしれない今を必死で生きてる…そんな時に先頭に立ってみんなを活気づけるのが私達勇者じゃないかな」


「それは…」


ぐうの音も出ない正論。

俺はこの軍の指揮官である前に勇者として呼ばれる存在。

自ら勇者と名乗った覚えはない…が、

俺達を勇者と呼び、それが人々の支えとなっているなら、俺達には勇者と呼ばれる事に対しての責任があった。


現状を打破できる力を持ちながら、それを命ほしさに使わないのは…


「確かにそんなのは勇者じゃないな」


「それじゃっ…」


「ただし条件がある。…俺も一緒に行くからな」


「…わかった。お願い吉晴君」


俺は結奈を強く見つめた。こんなに真剣に見つめあったのはいつ以来だったか…

俺達の交わす目は、互いに死ぬときは一緒と強く訴えあっているようだった。


「だめですよ」


「え?」


「そんな危ない場所にお二人で行かせるなんて許せません。えぇ許せません」


「こんな時にミーシャは何を言って…」


このままだとこの戦争は事実上敗北だ。

ここまで来て…あれだけの犠牲を払って何の成果もなく帰るというのかと、一国の姫に問いただそうと口を開いた瞬間だった。


「だから私たちからも条件があります」


「「私たちも行きますよ」」


当然じゃないと呆れた顔を向けてくるシヴィがリュミの肩に座る。

そのリュミとミーシャの視線もまたまっすぐと俺の目を貫いていた。仲間として、家族として、妻として。

無茶する俺達を放って置くことなんてできないし、最期の時も共に居ようという訴えが伝わってくる。


「みんな…」


「ありがとう…そしてよろしく頼む」

















「ほら陛下! ご覧下さいよ勇者の兵器が全く通用していない様を!」


「これはすごい! クラフターのガキの置き土産は想像以上の威力だ」


王城から戦闘を見ていた王と濃いグリーンの服に身を包む男が並んで我が軍の圧倒的な力の前に成す術の無い異端者どもを眺めていた。


「それもこれもドラゴンというエネルギー源を確保してくれた陛下の力ですよ」


「何を言う、この国をここまで短期間で軍事的にも外交的にも強くしたのはお前だろう? 異界の軍人ブルクハルトよ」


様々な勲章をぶら下げたM36型士官用野戦服を身にまとうドイツ国防軍ブルクハルト大佐は満面の笑みで戦況を楽しんだ。

同時に興味深くも敵兵器を観察した。


(あれは戦車か。丸みを帯びた車体はT-34に似ているが…いやそれ以上に高性能なのは見ただけでわかる。それに先ほどの爆発は爆撃か…さすがにヒヤリとしたがさすがはドラゴンの力か…)


「勇者の能力は兵器を召喚する力か…欲しいな」


ブルクハルトがこの世界にきてすでに三年の歳月が経過していた。本人の希望と国の方針が合致しその存在はひた隠しにされ続けて来た。

勇者を否定する国柄、異界の住人を召喚したとすればこの国が神教軍に異端として抹殺されてしまう。


召喚された瞬間こそ状況が呑み込めず、まるで敵陣の中に取り残されたかのように孤立感と恐怖が襲ったが、いつの間にか軍事の質問をされたり、外交のアドバイスをしたりとしていた内に、異世界人ではなくそれなりの権限がある軍人として晴れて公の元に立った。


その間にこの国の現状を学習した。


グローラリアという神の信仰と亜人の存在。そしてその扱い。

正直亜人の扱いに関しては何の違和感も感じなかった。

ユダヤ人が亜人に置き換わっただけだ。

もっともこの世界では労働力として生かして貰ってるだけありがたいだろう?


そんなことより魔法の存在だよ。


なんと便利な奇跡があるもんだとその時は声も出なかった。


しかし残念ながら俺に魔法の適正はなかったようでがっかりはしたが、俺はまず軍備の拡充に取り掛かった。

まずは何といってもこの世界の主体の白兵戦から射程を生かした遠距離戦にしていこうと武器を研究した。


研究といっても科学者…いや魔法だから違うな…まぁいい研究者に

“こういうものを作れないか”

“違うこうじゃない、もっとこうだ”

とかを言いながら作り上げた。


最初こそ銃なるものを作ろうとしたが、この世界の加工技術では一個ぐらい何とか作れるかもしれないが、安定供給するのは不可能だった。なにより火薬という概念もなかった。


一旦一般歩兵装備の遠距離化は諦め、拠点防衛用の武器を考えた。イメージしたのはMG42、機関銃だ。


圧倒的弾幕で集団密集の剣を持った無知な愚かどもを蹂躙する様を想像してなおさら力が入った。


しかし火薬の概念がない以上、重火器の製造は不可能。

開発は難航を極めるかと思ったが、発想の転換であっさりと解決した。


「魔法…か」


俺はあらゆる魔法の話を聞いた。使えそうなものはメモして、魔術師に無理難題を押し付けながらもなんとか形になったそれはすぐに国王へ紹介。


たった一人で弓兵100人、いや1000人分の力が持てるという謳い文句は国王を含めて大臣クラスのものも集めるお披露目になった。

中には嘲笑するやつもいた。


だが、現実に何百の矢が連続で放たれる様を現実に見た者は、みな驚愕の一言だった。

もちろんデメリットも十分にある。でもこういうお披露目会というのはそれを隠しつつ改良の余地はまだまだあると、追加資金をもらうためにあるといっていい。


のちに日本人の子供が転移者として召喚され、クラフトという力を手に入れた。これまでの加工技術的問題で頓挫していた大型兵器も次々に作り上げた。


そうやってこれまでいくつもの改革を進めて、いまや多数の国相手に優勢に戦えているのだ。

にやけ顔が収まらないが、それは陛下も同じ。


うれしいのだ。


けして大国とは言えなかったギリタフル王国。

鉄の製鉄で金貨を稼ぎ、こつこつと着実に国力を付けていった過去を知る俺たちは、こうして高笑いしていられることがなにより愉快だった。


「これだけの火力、相手がソ連とて手も足も出まい」


「敵はどうやら軍を再編したようだな、今更何をしようというのだ」


「無謀な突撃か…」


勝ったな。

なぜかそんな確信が持てた。


この兵器が東部戦線にあったらと思うと笑いが込み上げてきた。自然と二人は勝利のワインを飲みかわす。


だが俺たちの高笑いはたった一つの報告によって、打ち壊された。

それは終わりの始まりの合図。











【障壁がっ… 障壁が破られましたぁぁぁ!!!!】

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