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異世界でも、チートよりも大切なこと。  作者: 芳賀勢斗
失われた自由。
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人形

「ん…つ!? あれはなんだぁ!?」


「なにをいきなり…」


「あ、あれを見ろよ!」 


1人の兵士が遥か水平線を指さし叫んだ。

それを聞いた者は、一旦作業の手を止め男の指刺す方へ興味を向けた。

その中に綺麗な軍服を着こなす兵士も含まれていたが、その者は周囲の泥だらけの作業員とは違い“それ”に対する反応は異なっていた。

気づけば海岸で作業をしていたほとんどの者が“それ”の存在に気づき各々驚愕の反応を発していた。

 


「報告! 敵の船団を発見!」


「聞いていた予定より随分早いな…よぉし、来てしまったのなら仕方ない。作戦を次の段階へ進める! 海岸での作業は中止し、速やかに所定の場所へ向かわせろ」


伝令の兵がビシッと敬礼を決めて、足早に去って行った。


報告を受けた将軍デルスは、不安など一切感じられない態度でたばこを吹かした。


「デルス殿は相変わらず頼もしいのぉ」


「ヴレッシュか、相変わらず影が薄いな。まぁいい、蛮族どもになにを臆すればよいというのだ。…それにしてもお主の“人形”も初の実戦ではないか、誇らしいだろう?」


「いやいや、まだ1回も通しで試験したわけでは無いのでのぉ…なにが起こるかわしにもわからんよ」


「時間もないのだ仕方あるまい。陛下もお主の人形に大層な期待を持っておられると聞いておるぞ。噂では念願の宮廷魔術師にも候補として上がっているらしいではないか」


「それ以上いわんでくれ…緊張で異が潰れてしまうではないから」


それを聞いたデルスは大層大きく笑い、窓際に向かった。

が、唐突に虚空を見るように静かになったデルスに怪しいローブを羽織る老人は異変を覚えた。


「なぁ、ヴレッシュ…」


「なんじゃ」


「…これから戦場はどう変わるのか…。」


ヴレッシュは言葉の意味がわからないと言うような顔をして、返答は避けた。


「今回の戦争は私にも経験したことがない事が多い。どんどんと完成していく全く新しい強力な武器、初めて指示された特殊な防衛陣地。この戦争は全く新しい大規模な戦場となり、これまでの戦争はお遊びと感じる程の残酷な戦闘になる。ヴレッシュや、お主には正直に言うと、私はこの戦争に、これからの戦争に恐怖を抱いているのだ。決して敵に恐怖などは抱いてはおらん。世界が変わるこの戦争に恐怖している」


滅多に聞かない勇猛果敢なデルスの内なる本音にヴレッシュは驚くが、すぐに静かに口を開いた。


「確かにこの戦争には新兵器が大量に投入される。どれもどれも試作レベルの代物で、いきなり実戦で仕えるものは少ない。そして、この戦争で確実に世界は変わるであろう。それはあの勇者という存在と、“あの男”の影響に他ならない。この戦争をきっかけに死ぬ兵の数も桁違いに増える。お主の言うように今までが遊びのような戦争になる。じゃが、見方を変えればワシらが世界の先陣を切るんじゃ。そう思えば幾分か気が楽になるじゃろ?」


「そう…だな。我が国が先陣を切り、その指揮を私が執る。なかなか良い響きだ」


「そうじゃ。いつまでも将軍が消沈していては、ただでさえ新兵にも及ばん兵の低い士気が、さらに下がってしまう。」


「うむ。では、私達は先陣を切る。その幕開けの合図をここに示そう!」


せわしなく動き回る兵達と黒いローブの者たちが“発射台”から逃げるように走り去る。


「報告! パペットアーチャー発射準備完了! いつでも撃てます!」


伝令の兵に、告げた。


「…発射だ」





抑揚のない少女の声があちこちから聞こえた。

不気味以外の何物でもないのだが、兵士達にそれを口出す物は居なかった。


【動力用魔道回路解放、魔力流入確認、動力安全装置解除、強制始動開始…】


淡々と無駄のない動きで作業していく姿はまだ少女と言う容姿よりも、機械のような感じを受けた。

そもそも異世界人に機械の概念すらないのでただ、不気味と言う感覚しかなかったことだろう。

噴射炎が緑から黄緑へ、黄緑から水色へ色を変えていき、それと共に空気を震わす噴射音が砂浜を埋め尽くす。

タービンすら存在しない魔道噴射エンジンにはキーィィンと言うような耳が痛くなるような高周波は一切なく、ただただ噴射の轟音が空気を震わす。


それが、10機分ともなればとんでもない轟音となる。


有人対艦兵器【パペットアーチャー】。それがこの機体に名付けられた名であった。

構造や運用としては大日本帝国海軍、特攻兵器【桜花】と全く同様な物だ。


胴体のコックピット以外の空間を余すことなく爆裂系コピースペルをビッシリと詰め込み、当然のように着陸装置や脱出装置なる物は存在しない。機体、爆弾、そして人間。それ以外の物は軽量化という前では全くの無駄であった。

機体はほとんどが木で構成される物の、強度上の問題から所々不思議な金属が使われていた。


それが、今一斉に空へ放たれた。


発射台(カタパルト)から打ち出されたパペットアーチャーは海岸の砂を盛大に巻き上げ、とんでもない速度で加速していく様は、数万の兵全ての視線をかき集めた。

カタパルト発射に航続距離の長い魔道噴射エンジンはまさに桜花43乙型と疎遠ないものであると共に、特攻という概念の先駆けでもある。

それに端から見ても人が乗っていることに目をつむれば、いっぱしの地対艦ミサイル、もしくは巡航ミサイルだった。



パペットアーチャーはぐんぐんと速度を増していき、視界の彼方に存在する敵船団へ突っ込んでいく。


この機体に減速も加速の調整はない。

エンジンこそ試験機であるエンジェルシリーズと同様の物であるが、生産性と信頼性の面で調整機構は省略された。

これはあくまでミサイル。目標へひた走る自爆兵器。

前進加速あるのみと言うとんでもない代物。


だが操作性だけは桜花同様さほど癖があるものでもないのが驚きどころでもある。



それでも音速に迫る速度というのは、高度が下がるほどに恐怖の感情も増えるというものだが…彼女達にはそれがなかった。

感情が欠落しているような、抜け殻のような、本当に人形のような彼女達は、無表情で操縦桿を握っていた。


首の辺りに張られた電極パットのような物と座席とが特殊なワイヤー出繋がれ、淡く光っている。


悲しみも恐怖も微塵も無い彼女達が、あるか彼方の敵の船団を目指し進路をとる。まるでロボットのような決められた動きのように操作する彼女達だったが…


そんな自我すら消された彼女達に現実はさらに非情であった。


続けざまに5機のパペットアーチャーが、爆ぜ消える。


プログラムのように残りの5機は、条件反射的に障壁(バリア)を展開し機体を守る。

しかし、そこへ無人の迎撃ミサイル、SM-2ミサイルがさらに襲いかかる。

正面からすれ違うように接近した多数のSM-2は、プログラムに従い起爆する。

多数の破片をまき散らした効果でパペットアーチャーの側面。つまり障壁の無い部分を食い破る。

強度を保てなくなった機体が音速に迫る速度の影響で激しくフラッターが生じ、その激しい振動がさらに機体を破壊していく。

やがて制御不能に陥った機体が、海面に激突し大爆発と共に海の藻屑となる。


数秒のうちに10機が5機に、5機が3機へ数を減らしているが、それにうろたえるような感情を持ち合わせていない彼女達は、冷静に蛇行飛行を開始する。

蛇行飛行と言っても操縦に支障が出ないほどの緩やかな物だが、それが功をなしたのか、152mmの砲弾が中々当たらなかった。

近接信管の作動範囲外を多くの砲弾が素通りしていく。


しばらくして1機が砲弾の直撃を受けて爆弾と共に木っ端微塵になって海に降り注いだ。

いくら正面特化型の強固な障壁でも152mm砲弾の直撃はそれを容易く引き裂いて、パペットアーチャーを正面から貫いた。


気づけばすでに敵の前衛艦隊を目前にした距離になっていたが、目標は一番大きく、かつ数が多い船、つまり輸送艦もしくは

揚陸艦であったため立ちはだかる鈍足な巨艦の隙間をすり抜けようとした。


が、直後、先頭を進んでいた1機が突如として現れた光の蛇に捕まりたちまち空中分解し爆発する。

彼女とて無事ではなかった。

先頭の機体が爆発するやいなや、すぐに光の蛇は目標を自機へ変え海の藻屑にせんと視界をいっぱいに埋める。


障壁に対し角度が浅く入った弾は弾くことはあっても、翼など障壁がない部分に被弾した箇所はたちまち吹き飛ぶ。

ましてや機体のほとんどは木製であるため20mm砲弾などの直撃に耐えられる訳がない。


翼の破損で進路がずれた影響で、輸送艦への直撃コースから外れてひときわ巨大な船と衝突不可避な状態に陥る。

いっそのこと「この船に…」とも脳裏に浮かんだが、本能的に大したダメージを与えることはできないと悟った彼女は必死で回避を試みる。

瞬く間に距離は縮まり、ガンッと言う重い衝撃が体を襲い、機体が弾けるように跳ねた。

戦艦アイオワの艦首装甲と機体を守る障壁とが激しく衝突し、何とか進路を変えた。


だがすでに機体の制御はままならない。光の蛇(CIWS)にやられた尾翼、左翼の翼端。そして先ほどの衝突で右翼も大きく損傷していた。

慣性でとんでいると言っても過言ではない状態で彼女は飛んでいた。


しかし彼女は目の前の()に向け血眼を向けた。

エンジンの耐久性?、限界値?

そんなのは今の彼女の頭には存在しない。


今出せる精一杯の魔力を注ぎ込みさらに加速すると、破損箇所がボロボロとさらに崩れるように失われていく。

次第に目の前に雲のような白い靄が視界を埋める。





───音が消えた。

その中で彼女は微かに残る自我で呟いた。






お、ねえちゃん…






静寂の空間で彼女の意識は途絶えた。

























「…提督。0930、砲撃地点に到着しました」


「うん。それじゃあ全艦に通達。0935から全艦主砲発射。弾種榴弾、それ以降は各艦自由に砲撃。イージス艦は対空警戒を厳とし空母ニミッツは敵情の偵察、及び爆撃を命ずる。まだ対艦兵器が存在するかも知れない。兵器と思える構造物は徹底的に排除しろ」


「了解。0935より全艦攻撃を開始します」



敵が待ち受けて居るであろう砂浜を前に、何隻もの鋼鉄の城がその巨大な砲口を向けた。

ひときわ目立つ46cm砲が3基9門。常軌を逸する世界最強の戦艦、大和も例外なく全砲門を装填し砂浜に砲を向ける。


「アイオワ、大和、金剛だけで地図の書き直しは避けられないな」


「そうですね、3日間も砲撃し続けるのでしょうし、月の表面より大変なことになりますね」


「違いない」


しばしの沈黙が続いた。その様は城と浜がにらみ合っているかのようだった。


ついに0934が終わろうとしていた。


「揚陸艦の兵を甲板にでもあげてくれ」


「それはかまいまんが…」


「こちらの兵の不安を少しでも減らしておきたいんだ。こちらの力は圧倒的かつ絶対優勢。負ける要素はなにもない。兵にはこう思わせておきたい。上官も同じ様なことを思っているのは問題だが下っ端の兵士には不安は邪魔な物だからな…それに、いやこれは良いか」


こちらの兵にも現実を教えたい。この戦争が終われば次に敵になるのは彼らかも知れない。その時のためにも反抗心すら抱けないような絶対的な力を誇示しておきたい


なんて事、この場で言うことでもないか。


「…なるほど。了解いたしました。その様に連絡しておきます」


本当に始まる。果たして俺がこの戦争に加勢して良いのかは実際の所はわからない。だが乗りかけた船だ、今更おりることはできない。忘れてはいけないのは俺達の第一の目標は敵の技術革新の重要人物の拘束か抹殺と言う事。


「吉晴君…大丈夫、だよね」


「うん…。きっとね」


「吉晴さん…私…震えてます…」


しがみついてきたリュミの体は確かに震えていた。彼女達をこんな血生臭い世界に連れてきたのは間違いだったかも知れない。

けど今の俺には他の方法をとれるようなそんなことはできない。


「私…頑張ります!」


「そんなに強がるなって、ミーシャ姫どの?」


彼女はこう見えても1国の姫だ。そんなにオドオドしていても良い訳でもないけど、声とか震えてるし、足とかも少し震えてるし、無理してるのは目に見えてわかる。やせ我慢が体に表れやすいのが彼女の可愛いところだ。


「いきなり吉晴様の口から姫だなんて…不意打ちはよろしくありませんよっ!」


顔を真っ赤にして抗議するミーシャのこの顔も好きなところの1つ。

半年前の俺なら考えられない今の俺を取り巻くこの環境を俺は気に入っている。

もっとも半年で3人の美少女を嫁にしたと親が知ればどうなるか…。でも関係ない。これは俺と彼女達が決めたことで俺は彼女達が大好きだ。だから…


「─────提督。時間です」


だから彼女達を害する物はなんであっても許容することはできない。絶対に排除する。だから…


だから俺は躊躇しない。守るものが明確でやるべきごとがあるなら躊躇する理由なんてない。なにを犠牲にしようとも全力で彼女達を守り抜く。


「全艦! 撃ち方はじめっ!」


「てぇーっ!」


爆風が海面を吹き飛ばし、艦が揺れる。

腹を叩くような衝撃が海に轟いた。


しばしの沈黙が再び訪れた。


着弾まで数秒。

ゆっくりと双眼鏡を構える。


───着弾。


初弾は砂浜に広範囲に散らばる形となったが、その強大な火力は文字通り地形を整地していた。


隕石でも落ちたのかと錯覚するほどに凄まじい破壊力であり、一瞬にして爆煙で埋まる。


だが大和はすぐに第二斉射の準備を始める。

1トン強もある巨大な砲弾をエレベーターで一気に上げて、とても複雑で芸術品のような装填機構で薬室に押し込み、火薬も銃とは比較にならないほどの量が押し込まれる。

複雑かつ信頼性の高かったこのシステムはまさに芸術そのものだ。


それが済むとついに薬室の蓋となる巨大で重厚な扉が閉められ、ガチャリとロックされる。


再装填が早い艦はすでに第二斉射を終えているが、大和もそれに続くような形で再装填が終了する。


再び雷鳴にも似た轟音が海面を吹き飛ばず。


「大和、このまま明日まで砲撃を続けてくれ。そこで上陸を開始するか砲撃続行かを判断する」


「了解いたしました」





ここまで俺が単独で物事を進めているかのような展開だが、けしてそうではない。

トローデスや他国の指揮官とももちろん連絡を取り合っている。


中には艦砲射撃の有効性を疑問視しているものも少なくはなかったが今のこの惨事を見れば自然と口は閉まるだろう。


だが今直面している問題はそこではない。


しっかりと訓練通りに事が進むかどうか。




でもない。

もちろん上陸の訓練は2回のみ。日程の都合上それが限界であったが、その時は案外良い動きをしてくれたものの実戦の前でそれが発揮されるかと言えば疑問が残る。と言うのも問題である。


艦砲射撃であらかた敵は倒せてもその数は0にはならないことは予想が付くが、戦闘機を倒すのに戦闘機を、戦車を倒すのに野砲を、船を攻撃するのに対艦ミサイルを。

まるっきり異世界(地球)の知識を取り込んでる奴らに対して、艦砲射撃にはどう対抗する?

と言う問題が頭から離れない。


俺の立てた作戦など現代戦を知り尽くした軍の人間が見れば一瞬で看破されて、楽に対抗策を講じてくることだろう。


それが今もっとも俺が恐れている事だった。


この作戦など艦砲射撃をかいくぐれば、地の利も含め数で圧倒する敵軍の方が絶対有利なのだ。

そして艦砲射撃を凌ぎ方など確立された方法が腐るほどある。


「吉晴…様? 顔色が悪いようですが…いかがされました?」


「い、いや何でもないよ」


「そ、そうですか…」


ミーシャは不思議そうに俺の顔を伺うが、良くこういうときに彼女達の勘は鋭い。

俺が考え事をするたびに彼女達に気づかれている気がする。


「それよりこれからミニッツに向かうけど、みんなはどうする?」


「お邪魔でなければ付いていきたいです」


「私も」


「ニミッツさんのところへは何をしに行くのです?」


「敵情をこの目で見たいってのと、さっきのミサイルの破片の整理が終わったようだからそれも見に行くよ」


結局みんなで空母ニミッツへと向かうことになった。


「大和、俺達が飛び立つまで三番砲塔を休ませてくれないか、できれば一番二番も頼みたい」


「了解いたしました」


46㎝砲の衝撃波で吹き飛ばされるのは勘弁だからな。吹き飛ばされなくても確実に耳はやられる。安全第一だ。


艦橋を離れ後部甲板に向かう。後部甲板にはギリギリヘリを飛ばせるだけの空間があるから船間の移動は大抵ヘリを使っている。


「少し寄り道をしても良い?」


「私たちは構いませんよ」


彼女たちの確認も取れたので少し道を外れて目的の部屋へ向かった。さりげなく腰の拳銃の重みを確認し一息ついた。

そうして向かった先はもちろん…








2回ノックする音が返事がない。


「吉晴だ。入るぞ」


声もかけるが返事がない。

吉晴は特に気にした用でもなく鍵を開け、扉を開いた。

金属製の扉はキィーと音を鳴らしながらゆっくり開いた。


「…船旅はどうだ?」


彼女は視線を一瞬向けるが、すぐにそっぽを向いた。


チッ…

後ろから舌打ちが聞こえた…


「シヴィ、無理して付いてくることはないんだからな」


「別に…。」


はぁ…


気を取り直して本題に入る。


「ギリタフルへの…いや正確にはガレッド帝国への攻撃が開始された。そしてこちらの艦隊にも被害が出た」


彼女は首にかけていた…貝殻か?

貝殻のネックレスを手元で転がしながら口を開いた。


「私に聞いても、残念ながらそれに関わる作戦は何も聞いていない。そもそも私があなたたちの元に来たあとに立案された物でしょう? 私が知り得るわけがないわよ」


「まぁ、それはそうなんだがな。少なくともミサイルについては何か聞かされてるんじゃないか?」


「みさいる? 何かしらそれは」


そうか、ミサイルでは通じないか。

どう説明したものか…

俺が悩んでいると、代わりにととなりのリュミが口を開いた。


「フィリさんの乗っていたものに、爆発系のコピースペルのようなものを大量に積んで敵に体当たりするものです」


彼女の貝を転がす指が止まった。

それどころか聞いた彼女は唐突に態度を変えた。


「…知らない」


「そうか。じゃあもう話はないな。失礼した。」


「まって…」


小さく震えた声。

初めて目の当たりにする彼女の弱い面。確実に何かを知っている。


「それがどうかしたの」


《それ》の指すものがミサイルであることに間違いはないだろう。


「先ほど10発のミサイルがこの艦隊に向けて発射された。こちらは9発を撃ち落としたが、うち漏らした1発が駆逐艦暁に命中して沈んだ」


「10発…そんな…」


「何か知っているんだな」


「…それは今見れる…のかしら」


あぁ。

それだけ短い言葉で告げると彼女は首飾りを強く握りしめ覚悟したように俺に告げた。


「それを見たい」








「提督、お待ちしておりました。例のものは格納庫に並べてあります」


「仕事が早いな、助かるよ」


俺達を出迎えたこの船の疑似人格のニミッツは、予定にはなかった見ない顔、捕虜のフィリを確認するも、それをとやかく言うことなく一目見るだけで終わった。

察しが良いのは助かる。


「ではこちらへどうぞ」


ニミッツに案内され巨大な迷路のような通路を最短距離で格納庫へと向かった。


捕虜の扱いに関しては今回は結構気を遣っている。

それが原因で過去に痛い目をくらったのは俺自身なのだから…


しかし魔術師相手に手錠だけというのも効果はあるのかと疑問は残るが、今とれる方法はそのくらいしかないから仕方ない。

あとで聞いた話だが魔法を使えなくする道具はないのかと尋ねたとき手錠のように手軽にできるものは見たことがないとの事だ。

魔術妨害結界のなかに魔術師を閉じ込めるという方法が牢屋では使われているらしいが…


俺達も今後の捕虜への扱いを考えなければならないようだ。


「こちらになります」


ニミッツがそう言ってドアを開けた先には、バラバラになり爆発で大きく原形はとどめていないものの、だいたいの形状が判別できる程度の残骸がゴロゴロと転がっていた。


その残骸を前に俺は息を詰まらせる。


「嘘だろ…これって…」


「はい。すれ違いにF/A-18が撮影した画像を処理したところ、このミサイル、いいえ機体は有人兵器であった可能性が非常に高いと言う結論に達しました」


結奈たちもその意味することを理解すると驚きのあまり口元を塞ぐ。


バラバラに吹き飛び一瞬訳がわからない残骸でも、キャノピーのフレームを見た途端血の気が引いたのを覚えている。


しかしこの光景を見て一番動揺したのは俺達ではない。

いや、動揺の枠を超えていた。


【いや…そんな、噓よ…だって、だって…】


足に力が入らなくなったのか、ストンと膝が折れる。


突然の出来事にミーシャが腰の拳銃に手を伸ばしかけたか、俺の静止で大惨事は免れた。


目の瞳孔が完全に開ききり、全てを失ったかのようなどん底の顔をしていた。







うーん。魔法使い要素がなくなってきたな…よしだそう!

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