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異世界でも、チートよりも大切なこと。  作者: 芳賀勢斗
世のため国のため。
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何でこうなるかな~…。

俺達がトローデス王国に入国して一夜明け、異世界突入3日目となる。結奈と俺は城に客人としてもてなされて、丁重に扱われた。昼過ぎまで部屋でゆったりすごしていると、ノックが聞こえた。


「はい、どうぞ?~」


一礼して入ってきたのは王の近衛兵だった。


「吉晴様へ王から話したいことがあると仰せつかりました。こちらへお越しください」


「なんだろう……」


「申し訳ございません……私には……」


「そうだよな、すみません……。さあ行きましょうか」


そうして廊下につれられ迷路のような道を進み、やって来たのは昨日と同じ部屋だった。


「何でしょうか?話とは……」


「ふと気づいた事があってな……これが少しめんどくさいのだ」


何だかよく分からないな……


「ミーシャリアが婚約者を探していたと言うのは知っておろう?しかし国中の貴族にミーシャリアが興味をしめさなかった。それどころか、自分を婚約者にしてくれと言うものも極端に少なかった……何故だか分かるか?」


「どういう事です?」


どうも話が見えてこない。何が言いたいんだ?


「防衛大臣、ガマデス殿の圧力じゃよ」


国王はやれやれと言う一息をつく。


「ガマデス殿は自分の息子をミーシャリアの婚約者候補に推薦したが、ミーシャリアはそれを頑なに拒否した。ミーシャリアは言っておったな……何であんなイチイチ偉そうにする奴と……結婚なんて死んだ方がましだわ!!! とか部屋で叫んどった……」


普段落ち着いてる娘の荒れようはすごいと言うらしいからな……

何となく話が見えてきたぞ、つまり嫉妬だな? 女々しいやつめ!


「じゃが、ガマデスは諦めなかった。それどころか他の貴族に圧力をかけ、金で黙らせ、脅しもやったらしい。そうして婚約者候補を減らしていったのじゃ。結果はわしもガマデスの息子を選ばざる終えなくなった……」


「そんなときに、ミーシャが俺を連れてきて、今までの苦労が全て水の泡になったんですね……」


成る程、成る程……今までの話を聞くに、ろくでもねえ奴なのは十分理解した。その子供もろくでもねえ奴だろう。さっきの王様も嫌そうな顔をしていたし、そんなやつがミーシャと結婚なんて俺が死んでも許さん!


「理解してくれたか…」


「はい……たしかにめんどくさいけど何とかやりましょう」


その言葉に王はホッとした顔をした。


「これは王の立場ではなく、一人の父親としてだが……」


言葉を選んでいるように、考え込む。


「ミーシャリアの父親として、ミーシャリアの婚約者には君がなって欲しいと思っている。君が勇者だと言う事ではなく、ミーシャリアが喜べる相手が良いのだ。母はミーシャリアを産んで直ぐに死んでしまった……ミーシャリアも母親の愛情を知らずに過ごしてきた。その分、私が頑張ったつもりだったのだが…君に負けた様だ…素で笑うミーシャリアを最後に見たのは何年前だっただろうか……」


ここでフッと笑った。そう言えば随分と甘えてきたのはその為だったのか。


「父親として娘の幸せを願っている。しかしその前にこの国の王でもある。わしの一存で決められる事にも限りがある。君には何としてもミーシャリアと結婚して欲しい」


ここで王がもう一度笑った。それからも話は続いた。内容はこうだ。

今日、ミーシャリアの誕生日の前夜祭でガマデス親子が来る。何してくるか分からないから気をつけて行動してくれと言うことだった。


「実に的確で分かりやすい説明でした。」


「ガマデスもそれなりの貴族だ。常識も少しは備わっているはずだから、表だっての暗殺はしてこんじゃろ」


穏やかじゃない表現があったが、そこはスルーすることにした。でも、ここはお城だろ? 何で暗殺者がうろうろ出来るんだよ!


「話は以上だ。……が1つ頼みたいことがある。結婚したあとの事じゃが……ミーシャリアと旅をしてくれないか?」


「えぇ!? 旅をするのは構いませんが……仮にもお姫様をホイホイ城外に連れ出してもいいんですか!?」


俺は心底驚いた。暗殺よりももっと驚いた。


「ダメに決まっておろう!……しかし…だ。わしはミーシャリアを箱入り娘にしてしまっての~今回の遠出がミーシャリアが城外にでる最初の事だったのだよ……わしは不安で不安で……寝られんかったわ!」


「ちょ、私にキレないでくださいよ! でも、私の国には昔から可愛い娘には旅をさせろ。と言うことわざがありますよ?」


「そうなのじゃ……ミーシャリアにも外が知りたい! と、せがまれて仕方なく隣の昔からの同盟国であるマリーデス王国にお使いを任せたのじゃ……」


あれが初めてのお使いだったのか……中々にハードなお使いだったな……


「それにしても、トローデス王国にマリーデス王国とは似ては居ませんか?」


「それもそうじゃ。あそこを治めるのはわしの弟だからな。それにマリーデス王国はもともとトローデスの土地だったそうだ。数百年前にトローデスから独立したらしい。あそこの王はトローデス王国国王の身内が代々治めているんじゃ」


へぇ~取り分け土地が広がったけど管理しきれなくなったから、お前らにやるけど、俺の監視下だからな。と言うぐあいだろうか。


「このトローデスは海の貿易で栄え、マリーデスは陸の貿易で栄えている。この二国が手を取り合って今の王国は繁栄しているのだよ」


海か~現代兵器は活躍するのかな~、ん? そもそも大型船を1人いや2人か、使いこなす能力があっても、2人なんかで運用なんて不可能だ。そこんとこ、どうなんだろうか……


「考え事かな?」


「いえ、それほどの事ではないので、」


「そうか、さっきの話は考えておいてくれ、」


「ミーシャがどう言うかですね……」


「それでは、またあとで会おう」


「失礼します」


こうしてミーシャのお父さんとも、親睦を深めた吉晴は、このあと、要らぬことを口走ってしまう。



「衣装か……何で行くべきか……」


「なんだったら、伝説の国の正装でも問題ないと思いますよ?」


「ミーシャ……いい加減伝説の国はよしてくれ……あんな借金まみれの国……」


「良いじゃありませんか~こちらでは世界を救った勇者の国ですもん!」


「吉晴君~こんなのどお~?」


結奈は腰に1つの赤いバラをあしらったウエディングドレスを1人で歩けるバージョンにしたような真っ白いのドレスを着ている。腕は純白の長い手袋を肘までつけて、肩見えな衣装だ。俺の好みを具現化したような姿に言葉をなくす。


「私は~」ヒラリ~ン


「これはなんと言う……」


地球でこの手の人に聞いたら、ゴスロリだ! 発狂するだろう。黒を基調としたドレスに黒とピンクのシマシマニーソ。背中丸見え衣装にまたも言葉を失う。


「パーティーで一番はお前たちで、決まりだ……」


他の女性がどんなドレスかは知らんが、彼女たちにかなうものは、いないだろう。

とんだ、人を嫁にしてしまった様だ。

そんな俺と言えば、たいした冒険もせず、どこに行っても差し支えのないスーツで会場に向かった。

結奈が少し冷ややかな視線を向けてきたが、ま、問題は無いだろう。

今回のパーティーは前夜祭と言うことだが、明日の誕生日パーティーと同時に結婚式をすることになったので今夜の前夜祭が実質的に誕生日パーティーなのだ。

案内役の人に連れられパーティーの会場に到着する。係りの人が両開きの重厚な扉を開く。

そこには学校の体育館を思わせるような空間が広がり、シャンデリアの光で神々しく感じる。

が、集まった人々に会話はない。こちらをずっと見ている。あちこちで小声で話す声が聞こえる。


(彼が噂の勇者ですか……まだ子供ではないか)

(しかしオークの群れを一瞬で倒したとも言われていますぞ?)

(人は見かけによらぬと言うことか……)

(それにしても姫様と言えもう1人の女性も美しい……)

(知らないのか? あの女性も勇者で彼の婚約者ですぞ? それに姫様から求婚なされたそうだ)

(なんと!? それにしても……ガマデス殿がどう動くか……)


「ん……何だか大変なことになっているな……どうすりゃ良いんだ?」


「なったものは仕方ないじゃない!」


「美味しそう……」


「オイオイ、ヨダレ……」


結奈は通常運転だ。お城に入るときはあんなに緊張していたのに……


「皆の衆! 娘の誕生日の前夜祭に良く集まってくれた! 今日は感謝する! それと今日はもう1つ知らせなくてはいけないことがある。」


ここで発表するのか~考えたな。個別に手紙で知らせるよりも、公の場で発表した方がガマデスも動きづらくなることだろう。


「わが娘、ミーシャリアについてだ。われも悩んだ結果、ミーシャリア直々の要望を受け入れ、新島吉晴殿に娘を任せたいと思っている。ついては後に伝えるが、婚礼の義はミーシャリアの誕生日。即ち、明日に執り行いたいと思っている。何分急な話だ。今日は城に泊まって行ってくれたまえ。安心してほしい。部外者は一切の入城を禁止し城内の警戒を最大に上げよう」


その時、グラスが割れた音が響いた。あの貴族が手に握っていたワイングラスを握りつぶしたらしい。状況的に見てあいつがガマデスのやろうに違いない。しかしあの国王様も中々の頭のキレである。

あの短い時間でガマデスがしようとしていたであろう暗殺計画を根本からへし折ったのである。

まずは知らされていない結婚式の日程を明日にすることで、事前に準備をする時間を無くした。

二つ目は城に泊めると言う事である。ここにいる貴族はトローデス中から集められた貴族だ。建前上、明日が結婚式だから家に戻っても大変でしょ? なら泊めてあげるよ! これの本音は、これで貴族たちを目の届く所に置いておくことができる。つまり暗殺を暗殺者に接触させず依頼できなくするのだ。ガマデスはまさか誕生日に結婚式をするとも思っていなかったろうし、案の定ガマデスがああいった態度をとってくれたお陰で、失敗したのは目に見えるが~……

かといってここで無理やり帰ろうとすると国王に怪しまれ、後々目をつけられるかもしれない。そうなれば今よりも動きずらくなるだろう。三つ目が、城の警戒を最大に上げようと言うことだが、これは不審な者を見かけたら容赦しないと言うことだ。


「国王様って、見た目に依らず天才だよな……」


「お父様ってば……私にか関わることだけは本気で取り組むのよ……」


成る程ね~多分、徹夜で考え抜いたんだろうね~偉い! 凄い! お父さん!


「それでは楽しいパーティーを楽しんでくれたまえ」


国王が外出すると会場が少しガヤガヤし始めた。


(国王様は完全に吉晴殿に結婚させる積もりのようだ)

(ガマデス殿のあの顔を見たか!? グラスを割りおったぞ)

(それほど悔しかったのだろう)

(しかしどうする?)

(何がだ?)

(ガマデス殿につくか、吉晴殿につくかの話じゃよ)

(そりゃ~ガマ……いや乗り換え時かもしれんな)

(やはりそう思うか……)

(私も吉晴殿についていきますぞ!)

(バカ! そんな声で話したら……ヒィ……ガマデス殿がこっちを向いたぞ!)


ガマデスが見たのは貴族の方ではなく、その奥にいる吉晴だった。

ガマデスはゆっくり吉晴の元に歩みよる


「初めまして、吉晴殿。」


その声に会場は凍りつく。


「こちらこそ初めまして、ガマデス殿」


焦るな……ビビるな……舐められるな……そう言い聞かせた。内心パニックである。冷静冷静……


「姫様とのご結婚、さぞかし嬉しいことでしょうね」


なんだ? 嫌みをいいに来ただけか? 違う気もするが……しかしそっちがその気ならこっちにも考えがある。


「え、えぇ、名のある名門貴族の方々よりも私に結婚を申し込んでくれたときには、信じられませんでしたよ」


こう言う、言い合いなら結構得意である。恥ずかしいが、そんなことを気にしているときではない。

だがこの男は何か分からないが、危険である。攻めどころはバカ息子の方だろう。


「噂によれば吉晴殿は勇者だとか……そんな勇者殿に込み入った話が有るのです」


勇者柄みの相談?


「実は、貿易船の航路に海龍種が現れたらしいのです。龍種は非常に手強いため勇者殿に相談したのであります」


なるほどな、ここで断れば。人気が落ち自分の息子にもチャンスが来るかもしれない。最後の悪あがきってところか。その海龍種がどんなものがモノかは知らないがなんとかなるだろ。確認したいこともあることだし。


「良いでしょう! ただし今は結婚式で立て込んでおりまして、明日が結婚式なので式が終わりしだい出発しましょう。宜しいでしょうか?」


ガマデスの中では俺が海龍種とやらに食い殺されるのが確定らしい。なんと言うか……アホと言うか……


「ほぉ助かりますぞ! それではよき幸せを」


心にもないこと言いやがって。


(海龍種!? 流石に……)

(吉晴殿が海龍種を見事討伐したら私は一生吉晴殿についていきますぞ!)

(私もそうしよう)

(海龍種を見たことあるんだが、あれに勝つのは不可能だ!)

(俺も噂には聞いているぞ。存在そのものが災害だとか)

(それは私も聞いたことはあります)

(勇者様はどうするおつもりなのか……)


彼らの視線の先には、結奈とミーシャに引っ張られながら、つれ回される勇者の姿があった。

龍種。それは現れる度にある種族が滅ぶとされている。かつて世界を恐怖に陥れた魔王ですら手なずけることを諦めたと言われる生物だ。そんな生物にどう立ち向かうのか……ま、答えは決まっているが。

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