刻み込まれた光景
最初に一ヶ月もの間が空いたことにお詫び申し上げます。
背の高い樹木が生い茂るジャングルのような森の上空を低高度で疾走するOH-1観測ヘリコプター。
敵を観測する……つまり偵察ヘリコプターと同様の作戦を担う俊敏な機体だ。
その機動力を見た人々からは「ニンジャ」とかそれらしい愛称で呼ばれてもいるが、自衛隊内ではオメガと総称されるらしい。
「オメガ1は、これより敵自走砲及び周辺脅威の捜索を開始する」
OH-1のコックピット上部の丸い突起物がグルッと向きを変え角度を変え、機敏に回転する。
「熱源探知っ! これより確認に向かう!」
《了解、敵の反撃に注意するんだ》
「了解!」
索敵サイトに搭載された赤外線カメラが、かなりの熱量を放つ高温体を見つけ出した。
この涼しい森の中から探し出すのは、そう難しいことではなかった。
超低空で接近していくOH-1。
こう言った森の上空を日本国内のヘリで超低空レースをするならトップを飾るのはきっと……このOH-1じゃないだろうか。
「敵を発見した! 目標は4! これより座標を送る!」
映像に写し出された、空高く伸びた長砲身な自走砲。その砲は馬鹿みたいにとてつもなく砲口が巨大で、周囲を圧倒していた。
それと同時に写し出されたもう2つの脅威……
「ッ!? 竜、竜に発見された! 離脱するっ!」
いくら姿を隠した忍者と言ってもローターの発する空気を切り裂く音は、竜の耳を誤魔化すことは無理だったようだ。
モニター越しに目が合い、寝ていた竜がムクッとその巨体を起こす。得たいの知れない飛行物体が上空で制止している姿を捉えた灰色の竜が2匹、OH-1に向かい咆哮を放った。
周りに居た兵もたちまち活発に移動を開始し、ついに竜が羽ばたく。
カメラ越には羽ばたく風圧で砂ぼこりが舞い散るのが確認できた。
OH-1はすぐに機首を180°転換の後、機体を前方に傾け最速で現空域からの離脱を試みた。
《了解、安全空域まで離脱せよ。今から特火の射撃を開始する。オメガ1の援護に AH-60D3機を向かわせる》
「了解! 感謝する!」
280km/hで地面を這うように猛スピードでひたすら逃げる。
この機体の最高速度は270km/h 。絶対に越えてはいけない超過速度は290km/h ……つまり、完全にレッドゾーン手前のグレーゾーンで飛行している訳で、何が起きるか分からない。
だが、そんなに必死に逃げていたOH-1であったが、2匹の竜にはすでに背後を取られていた。完全に主導権を握られていた。
刹那、パイロットは殺気と言うものを感じ取り、回避行動を目一杯行った直後、機内が突然眩しいほどの光に照らされた。
竜の口から吐き出された高温の炎は、OH-1を僅かに掠めて付近の森へと直撃した。
水を含んでいるはずの樹木が一瞬にして丸焦げになり消し炭となる。
直撃でもしたら墜落待ったなしだ。
「こちらオメガ1! 敵を振り切れそうにないため、対空戦にて敵を撃破する!」
《脅威は2つだ。対処は可能なのか?》
「……このままでは次期に墜ちる。やらないよりやった方がましに思える」
《……了解した。AH-60Dは数分後に到着予定だ。地上部隊も進行しつつある……ほんの数分持ってくれ》
「感謝する……」
OH-1が携行している対空兵装は護身用で本来は歩兵が運用する91式携帯地対空誘導弾が4発のみ。
他に機関砲や機銃といった類いは全く一切装備していない。
操縦桿を強く握り締め直したパイロットの手には脂汗が染みた。
しっかり後ろに張り付いて来ている2匹の竜を揺さぶるついでにチラッと後方確認しながら時を待った。
(今だッ!)
一気に操縦桿を強く引き寄せた。機体は大きく機首を上げると同時にパイロットは右フットペダルを踏み込んだ!
高度計が15mから50mへ急激な上昇を示す。
すぐに機体をさらに180°反転させ、一瞬で竜を前に出した。
2匹の竜たちは突然の挙動に対応が遅れ、それぞれ違う行動を見せた。
片方は両翼を大きく広げ減速し、その場で方向を変えようとして、もう一方は急旋回でまた俺の背後につこうとしている。
すかさず目の前で減速した竜にロックオン。91式携帯地対空誘導弾のシーカーが、竜の放つ強力な赤外線を捉えた。
【ジィィィィィィィィィ】
特有の重低音が機内に籠る。
発射スイッチを押すと共に、91式携帯地対空誘導弾に火が灯る。
【バシュッ!】
機体が僅かに揺れる。
ミサイル本体が白煙を吐き出し、とてつもない加速度で竜へと突き進む。
「目標命中!」
ミサイルには多くの場合最低射程と言うものが存在する。姿勢制御に必要な大気との相対速度が充分でないと、安定翼がいくら動いてもミサイルは向きを変えない、もしくは不安定な状態になる。最低射程距離ギリギリの今のこの状況下では、ほぼ正面の制止目標に向けた発射であったため、影響は少なかった。
ミサイルは竜の背面、広く開いた翼の根本へと吸い込まれるように直撃した。
ほぼ体の中心、人間で言うところの肩甲骨との間だ。
撃墜判定をする間も無く、背後に回り込もうとしていたもう一匹の竜を視界に収めるために機首を回転させるが……
思った以上に旋回スピードが追い付かなかった。
竜は着実に旋回半径を狭めて、距離を縮めてくる。
もうダメだ……瞬時に炎がこぼれる竜の口を見てそう思ってしまった。
《オメガ1! 聞こえるか!竜から離れろ! 》
「りょ、了解!」
不意に飛び込んできた怒号に近い呼び掛けに、パイロットは反射的にスロットルレバーを絞り、操縦桿を斜めに押し倒し、フットペダルに足を押し込んだ。同時にレーダーを一瞬だけ凝視する。
ローターが奇妙な音を立てて、ほぼ垂直にロールしながら機首が下がり、さらに旋回運動も加えながら複雑な機動を見せた。
現状で一番効率がよい敵との距離を離すためには、重力を利用にて落下すること。
が、それは敵に上をとられると言うことを意味し、多くの戦いで上をとられるのは不利となり得る。空戦もその例外ではない。
それでもパイロットは無線の主を信じた。
案の定、竜は今にも攻撃してきそうで回避不可能な位置関係になってしまっていた。
竜の熱気の籠る巨大な口が開かれた。瞬間━━━━
ガラス越しの真っ青な空のキャンバスに白い線が1本こちらへと伸びてくる。
その線はこちらへ近づくにつれて目で追えなくなるほどの速度を感じた。
一瞬後、音の衝撃が機体とパイロットの背中に届いた。
「オメガ1から射撃要求です。修正射、座標1485,3496、標高25、観目方位角3400、敵曲射砲陣地、正面300、縦深300、効力射には92CVT」
待ちわびていたかのように速やかに拡散する通信手。その報告を受けた野戦特火中隊が一斉に動き出した。
「第1中隊、中隊基準砲による修正射撃指令、目標地図座標1485,3496、M557信管、瞬発モード、装薬は白7。 効力射撃指令、92式信管、CVT(時限)モード、弾数10発!」
中隊長がついに射撃命令を出した。
射撃命令を受け取った算定陸曹が瞬時に射角やその他射撃に必要な諸元を弾き出し、ここで目標の位置座標が、方位角。つまり方向が示される。
「中隊、修正射撃指令、M557信管、瞬発モード、装薬は白7、方位角は3985ミル、射角は224ミル、中隊斉射。 効力射ではCVTを10発なので準備せよ!」
ほんの数秒足らずで、とても長い砲身がグワンと空をかけ合図を待つ。
【よーい! 撃てぇッ!】
一門の自走155mm榴弾砲が爆音と共に火を噴いた。
野原に波紋状の衝撃波が広がり、大地に音の波が襲う。
しかしこれは修正射、つまり試し撃ち。限りある弾薬で無駄弾を抑えることや、初弾の発射でこちらの火力が図られないようにする配慮だ。
流線型のそれは空を貫くように空高く突き上げた。
【だんちゃーく……今!】
《こちらオメガ1。弾着点、目標より遠く右へ8ミルずれている。左へ8ミル修正し100m手前へ弾着させよ》
再び観測任務へと戻ったOH-1が、射撃結果を伝えてきた。
【よーい! 撃てぇッ!】
2発目の砲弾が放たれた
《命中! 効力射!》
「了解、待て」
「オメガ1から効力射要請! 諸元同じ!」
「諸元よし!」く
「…………斉射よーい、撃て!……中隊、効力射初弾発射」
【斉射よーい、撃てぇッ!】
10門の155mm砲が白煙と共にいくつもの砲弾が投げ出された。
「最終弾、だんちゃーく、今!」
《全弾命中! これより前進する。火力支援感謝する》
「こちらオメガ1。AH-60D、先程の援護感謝する。特火の射撃が終了した」
《間に合って何よりだ。これより敵残存兵力の掃討を開始する!》
3機のAH-60Dが低空で未だ粉塵で覆われた空域に突っ込もうとした……直前
《っ!? レーダーに反応! ち、直上! 回避! 回避ッ!》
オメガ1に悲痛な無線が届いた。
慌ててオメガ1もレーダーに目をやると、そこには数秒前まで無かったはずの未確認機。
3機のAH-60Dはすぐさま散会したが、Δ(デルタ)のセンターを飛行していた機体が、紅いレーザーに焼かれ……そして爆散した。
燃料、弾薬がすべて誘爆したのか……その爆発は尋常では無いくらい大爆発を引き起こした。
「アパッチの装甲が……1発で……」
《お、応戦!》
《こちら掃討班! 報告にあった白色の航空機と遭遇! 攻撃を受け1番機がロスト! 繰り返す! 白色の航空機と遭遇! 攻撃を受けた! こちらの対空能力では対処は不可能! 至急応援を要請する! 》
《了解、こちらからはレーダーで捕捉できないため、そちらの位置情報を便りに増援を送る。到着には3分ほど要する》
OH-1も残りの91式携帯地対空誘導弾3発を目視できるほど近くを飛行する物体に向けた。
「……やはりロックオンが安定しないか」
そもそも91式携帯地対空誘導弾は対空ミサイルの中では低速目標用だ。ヘリやその他航空機に歩兵が対抗しうるための兵器に、亜音速戦闘機に使う時点で間違っていると言うものだが……
この状況では当てると言うよりは注意を逸らす使い方が正しいだろう。
2機のアパッチの内、1機に向かい敵機が進路をとった。
水平に横スライドしながらも30mm機関砲で相手の狙いを逸らさせようと射撃する。
幾重もの曵光弾が敵機の周りを通過していくが、当然のように未だ命中弾は見られない。
そして30mm機関砲で応戦していた3番機が1番機同様、レーザーに貫かれて爆散。
ワンパンも良いところだ。
《3番機ロストッ!》
オメガ1は今まで見たこともない地獄を観測した。
旋回半径が有り得ないほど小さく機敏に動き回り、ヒットアンドアウェイ戦法で撃ち抜ていくレーザー攻撃は航空機の装甲なんかじゃ紙にもならない。
そんのそこらの攻撃なんか弾いてしまうハズのアパッチを貫通するにとどまらず、余ったエネルギーが地上に当たり、ちょっとした空爆のように樹木が根こそぎ吹き飛ばされる。
もうダメだ……
何かを諦めたような感情が脳裏を過った……その時
《こちら迎撃隊、標的はこちらが引き付ける。すでに地上部隊の展開は完了した、掃討部隊とオメガ1は帰還せよ》
「順調に進んでるみたいだな」
「本当にこんなところから敵を攻撃できているのでしょうか……」
「まぁ、視界外攻撃だから実感は湧かないだろうけど……きっと“向こう側”は大変なことになってるよ」
「そう……なのですか」
納得するには少し足りなかったようにミーシャが口を尖らせた。
「俺達もやることがある。今のところ敵の真っ白なステルス機? の報告は無いけど、今来られたら最悪俺らはレーザーに焼かれる。だからあいつに対抗できる戦闘機の準備をしたいと思うんだ。」
「そんなのがあるなら最初から使えば良かったじゃない?」
シヴィが少し冷たい目で言ってきた。
【緊急ッ! 白色の航空機1機出現ッ! 掃討部隊に被害あり!】
「やっぱり来たか、あのレーザーなら戦車の上部装甲は貫通されるか……まるでアベンジャーだな」
アベンジャー……か、いや、それは俺の方か。どちらにせよ、あいつには借りがあるからな……今度は必ず叩き落としてやる!
俺が異世界に来て初めての完全な敗北を飾ったあの戦闘機。
今度こそ負けられない。こんなチートを授かっての敗北なんてもう許されない。
「な、何が起きたの!?」
「……場所はここであってるはず……だけど」
護衛対象の新兵器との合流場所の上空についたと思えば、そこで待っていたのは広範囲に広がる砂塵と黒煙。
明らかに普通ではなかった。
ザーザッザー……《……e、ジェル……ン ……エン……1 聞こえる……か、》
「っ!? こちらエンジェル1、聞こえている! 現状の説明を頼みます!」
《……よ、かった。》
「フィリ! どうにかならないのか!? 雑音が多すぎて聞き取れない!」
「多分まだ距離があるのね…… 調整してるけど感度あげたら雑音が酷くなるわ。そもそも通信半径は10kmしかないの。これ以上無理は言わないでちょうだい」
《敵……攻撃を受けて、部隊壊滅……現在……敵接近、中……助けて……くれ》
雑音に混ざる味方の悲痛な呻き声に似た交信。
途切れ途切れの内容は、風の轟音の中では非常に聞き取りづらかった。
「ん? あれは……」
偶然視界に動く物体が入った。
砂煙に向かう3つの物体。まるで森に隠れるかのような保護色の武骨な物体を見た彼は、一瞬で確信した。
「あいつだ」
「そうね、珍しく同意見よ。この前は機体破壊を優先して本人は見失ったけど……こんなところで再会するとはね」
状況敵に見て間違いなかった。
「やるぞ」
「了解、新兵器? の護衛は果たせなかったけど、まだ私たちには障害の排除の任務が残ってる。任務範囲内よ」
一気に敵の頭から突き落とすように降下し、必中距離まで距離を縮めた。
「撃てッ!」
深紅の光が敵の頭から貫き、一撃で爆炎に包まれた敵は破片と共に森へ降り注いだ。
その光景を横目にエンジェル1は大木ギリギリを掠りながら機体を引き起こし、再び高度を獲得する。
改めて言うがこの機体は推力偏向ではなく、スラスター機動機だ。分かりやすく言い換えるなら、機体のあちこちに推進ノズルがあるような感じと言うところだろうか……
当然のように搭乗者にはそれ相応の負荷が掛かり、楽なものではない。
「敵の攻撃よ!」
「わかってる! ……あと少し……」
無数の光る何かが高速で通りすぎる。本能的に当たればお仕舞いだと思ったが、ここで離脱すれば被弾面積が大きくなる。
チキンレースだ。
心拍数、脈拍、呼吸数が自然と増大する。
「撃てッ!」
目の前で再び起こった大爆発。
それを一瞬確認したらこれまでの緊張からだいぶ解放された。
あと1機……
「ん? 撤退を始めた……? 追撃きs《後ろっ!》……っ!?」
条件反射的に急上昇。いつもより激しい機動に体にとてつもない負荷が加わり、肺から空気が漏れる。
直後、先程いた場所に光の雨が通り過ぎた。
「後方敵機8!」
「クッソ!」
いつの間にか目視距離まで近づいていた8つの小さな黒点。
「助かったよ……フィリ、ありがとう」
「お礼は良いわ。それよりどおするの? さすがに多勢に無勢よ?」
「……相手もこう短時間では前回とそう変わらないはずだ。今回も迎撃する」
「そう。わかったわ (飛行戦用意)」
静かにフィリが呟くと僅かに機体が振動するが、それはすぐに治まり、いつもと変わらない状態へ戻る。
しかし……
「ねぇ、敵機とあんなに近づいてた?」
「いや……そんな!? もうこんなに近く!」
少し目を離したうちに考えられない距離に近づいている敵機を受け入れがたい様子で驚いてきた。
雲をまとったそれを見て、彼は思った。
“どんだけの速度で飛んでいると言うんだ!?”
その直後、耳を引き裂くような馬鹿げた衝撃が彼らを揺さぶった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
Su-30M。
大国ロシアが誇るスホーイ多用途戦闘機であり、推力偏向ノズルやカナード翼の導入に、今まで電子装備が遅れていたことが多かったが、このSu-30MはSu-27に比べて飛躍的にアビオニクスが強化され、機動力も大空の覇者F-15を凌駕するほどにまでなった。
「そう言えば一緒に乗るのって初めてだね!」
「あ、そうだな。ま、複座機だし当然でしょ」
二人乗りのこの機体には結奈と二人で搭乗している。
さすがに最近ハンヴィーの運転をできるようになったリュミやミーシャに乗らせるのは危険と言うか、無理だからな
「それにしても……あれだな」
現状、歴史上とんでもないことが起きているなんて、結奈は知らないんだよなぁ~
だって……
このSu-30の4機編隊の隣には、F-22の4機編隊が飛んでいるんですもん。
こんな光景、地球で拝めたときには戦争もんですよ。
思わず苦笑いが溢れるのは俺だけじゃないだろう。やっぱり異世界って平和だぁ~
F-22とSu-30の最大の共通点とは推力偏向機であることだろう。F-22は2次元ノズル、Su-30は3次元ノズルを搭載しており、機能的にはSu-30の3次元ノズルの方が機動制限が少ないため、いわゆる多くの変態機動なるものが可能になる。
が……ミサイルが空戦の主役となった現代戦に置いて、これらのクルビット機動やコブラ機動と言ったマニューバ機動が必要かと言われれば、まだそれは誰にもわからない。
しかしながらミサイルが便りにならない以上、ドッグファイトと言う初心に戻らざる終えない現状で機動力はいくらあってもありがたい。
《こちらラプター1、機器及び兵装に問題なし。しかし、まさか彼らと共に戦う日が来るとは誰が思っただろうな》
《こちらフランカーF1、現在コードネームはそちらNATO用語を用いている。こちらも敵国だった国の最新鋭戦闘機と飛ぶ日が来るとは夢にも思わなかった。本ミッションはよろしく頼む》
両編隊の最前を飛ぶリーダー各のパイロットが短い挨拶を交わす。
もっとも聞いている俺は“もしもの事”を考えるとヒヤヒヤしてならなかったが……
「挨拶は済んだようだな、先程も伝えたが作戦は至って単純だ。最悪、その場でドッグファイトに入る可能性もある。何度も言うようだが敵はあり得ない機動をしてくるし、ミサイルロックも安定しない。その事を十分に理解しておいてくれ」
《了解》
「吉晴君、もうすぐ作戦開始距離だよ!」
「よし、5カアウント後に作戦開始だ」
「……3、2、1」
ゼロと共に全機背面飛行に移り、同時に機種下げし高度を落としていき、35゜の角度になると背面から通常飛行へ戻るためロールを行う。
すると、出力を変えていないのに速度がみるみるうちに増していき、さらに追い討ちをかけるように、エンジンスロットルをミリタリからドライへ押し倒す。アフターバーナーか焚かれ排気ノズルから火柱が吹き出す。
「全機へ通達、各機マッハコーンに気を付けろ」
すでに音速に迫ろうとしている8機の編隊は、真っ直ぐ敵機へと突っ込んでいく。
速度が増していくにつれて、機体がガタガタと振動し始めるが、それはやがて治まり若干の静寂がコックピットに広がる。
「結奈、これが音速だよ」
「音より速いの!? ……でも、あんまり変わんないねぇ~」
「本当は無音になるみたいだけど……振動とかあるから完璧な無音にはほど遠いね」
自衛隊のパイロット訓練生も初めて音速飛行したとき、あんまり実感が湧かないらしい。
実際はガレッド城空爆の時にも音速飛行はしたが、結奈はもう忘れているんだろう。
《もう一度確認する、この作戦で本当に敵機撃墜できるのか? 》
「かなりの確率で敵機が致命的なダメージを負うはずだ。……時間がない、結果はすぐにわかる」
《エンゲージ! 距離約15km!》
いよいよだ。付近の密林からは黒煙が空高く伸びているのが見受けられる。恐らく撃墜されたAH-60の痕跡だろう。
黙視の時点からスレ違うまで10秒かその位だろうから、敵機に回避の隙はほとんど無い。
「気付いたな、でも遅かったな。全機出力最大! 通過後減速しドッグファイトの準備だ」
《了解!》
さらなる加速に伴うGが背中を座席へ押し付ける。
一呼吸する合間にみるみるうちに敵機が鮮明に拡大されて行く。
ついにそのときが来た。
音速を超えた8つの物体が、太陽に照らされ白銀に見える戦闘機の僅か十数m上方をすれ違った。
スロットルレバーをミリタリー推力に戻し、高度をあげるため機種上げをゆっくりと行う。同時に速度エネルギーが位置エネルギーに変換され、自然と減速も行える。
しかし、M2という数字は侮れない。
若干の機種上げだけで体にかかる負担は増大してしまう。
「結奈! 後ろはどおなってる!?」
「まだ飛んでる!」
やっぱり撃墜までは無理か……
「各機作戦通りドッグファイトを開始する」
F-22には主翼下に空対空ミサイルを装備させ、さらにレーダー反射板を取り付けてある。
ステルス性が失われるが、この世界にレーダー反射を利用する機器は皆無。
さらに、このSu-30のレーダーではステルス性が非常に高いF-22を捉える事は困難で、共同作戦を行うには高い壁となる。
さあ、反撃の時間だ。
本文中の榴弾砲とOH-1の無線内容はネットを参考にさせていただきました。詳しい肩には矛盾があるかもしれませんが、よろしくお願いします。
次回は地上戦を予定しております。
ご意見、ご感想お待ちしております。




