トローデス王国
「運転しづらいぞ、ミーシャ」
「そんな……」
あれから俺達は召喚しまくった物を一旦消し、トローデスに向かっている。ガーデリックさんが時折険しい目で僕を見た様な気がしたのは、気のせいだったことを祈る他ない。この日も一本道をただひたすら進むハンビィー馬車である。
「あ、城壁が見えてきましたよ!?」
「ほぇ~」
そこにそびえ立つのは、洋風版万里の長城と言うに相応しい建築物だった。
少し舐めてたこの世界の建築水準に俺は申し訳なく感じた。
ハンビィーはそのまま関所らしき所まで進んだら門番らしき武装集団に取り囲まれた。
「止まれ~何者か!」
しまった……ハンビィーで乗り込んだら怪しまれるの確実じゃん!
そんな俺を見ていたミーシャが誇らしげにいい放った。
「私にまっかせなさーい!」ニヒ♪
そんな彼女は笑顔をみせハンビィーを降りてゆく。
ミーシャが下りると門番からは動揺が走る。
「ミーシャリア姫だ!」
「俺ら剣向けちまった……大丈夫かな……」
「最悪、国家反逆罪で打ち首だなぁ……」
「俺はまだ死にたくない! 嫁も子供も居るんだ!」
車に居る俺らにも彼らの悲痛な叫びが聞こえてくる。スミマセン、お騒がせします……
「門番長はどちらに?」
ミーシャが近くに居る兵士に問いかけた。
「ひぃ……は、はい! 門番長は執務室にて仕事中でございます!」
「そうかですか……ミーシャリアが来たと伝えてもらえませんか?」
「た、只今!」
そう言って兵士はすっ飛んで行った。本当にお騒がせします……そう心の中で謝罪をした。
「もう城に着いたも同然だよ♪」
「どう言うことだ?」
「ここから転移ゲートで城の庭にいくんだよ♪ スゴいでしょ!? 普段は王族や国賓を送り迎えするときに使うんだけど、今回は勇者様のために初めて私の権限で使います」ウヘヘ
成る程……何処に危険があるか分からない町中を進むリスクを抑えるためか……しかし転移ゲート等と言う夢のある単語が実在していたとは……
そんなことを考えていると、さっきの兵と一緒に少し豪華な装備の男が走ってきた。
「姫様……お待たせして誠にスミマセン! 何分、ご到着はまだ先かと考えていたもので……しかし転移ゲートの準備は出来ております。そちらの方は……」
「私の婚yケフン……客人です」
「さようでございますか。ささ、こちらへ」
「少し待ってください。ガーデリック、これを……」
渡したのは……紙?
「サインは渡しました。これをギルドに渡せば正式に依頼完遂のはずです」
「確かに、受け取りました」
あ~依頼成功の証明書見たいな物か……
護衛メンバーは泣いている者も居る。
「吉晴殿、結奈殿、達成できたのは二人の力のお陰だ。本当に有難う!」
「えぇ。また会いましょう!」
「それでは、またいつかどこかで、ほら、泣いてないでさっさとしないと俺が持ち逃げするぞ?」
「それは冗談になりませんよ!?」
彼らは歩きでギルドに向かった。
「そう言えば結奈、さっきから大人しいな? どうしたんだ?」
「だって本物のお城だよ!?」
結奈の顔色が悪いと思ったら、緊張してたのか……。
そういや、ハンビィーはもう必要ないのか……何かこいつに随分お世話になったな……今まで有難う! M2、お前も居なきゃミーシャ達は助からなかった。ハンビィーとM2はうんともすんとも言わないが、感謝の言葉を送り消去した。
そんなことがあったが、今俺達は厳重に警備された部屋のなかに居る。
「ではゲートを起動します」
よくある魔方陣の上に立たされたかと思うと、徐々に輝きだし、気づけば違う景色になっていた。
「本当に転移したのか……」
「ようこそ♪ わが家へ♪」
「うへぇ~」
結奈も緊張を忘れ、万里の長城(仮)よりも壮大な建築物にポカーンと口を開けていた。
「姫様のお帰りだ~!」
何処からともなくそんな声が響いたかと思うと、城が少し騒がしくなった様な気がした。
「姫様!お帰りなさいませ、こちらでお召し物を……」
「後にしれくれませんか?こちらの方をお父様に紹介しなくてはなりません」
「承知しました」
「こちらへお越しください」
結奈と俺はミーシャ達に連れられ、迷路のような道を進む。金の枠組みと白の板材で作られている扉の前につく。
「王はこの中にいらっしゃいます。では私めは失礼させてもらいます」
そう言うと、メイドさんは一礼して歩いていった。
ミーシャに俺は問いかけた。
「こんな服装で良いのか? 俺は戦闘服で、結奈は学生服だぞ?」
俺はまだ海兵隊の格好で、ズボンの裾には、昨日倒した奴の血が所々飛び散っている。
「大丈夫だよ?父はそう言う細かいところは気にしない人だから」
「そうなのか?」
不安が残るがここは信じるしかない。
ミーシャがドアをノックする。
「心の準備が!?」
と結奈は呟くが、もう遅い。
「ミーシャリアです。只今戻りました。勇者をつれて」
扉の向こうからバタバタ走ってくる音が聞こえる。
次の瞬間勢いよく扉が開かれ、おっさn……王様が現れた。
「どう言うことだ~!」
俺が最初に聞いた言葉だった。
取り敢えず王は落ち着いて僕らを招き入れ、紅茶を出してくれた。
「お父様。彼らは伝説の彼らと同じ国から来た、私の婚約者です!」
「もう訳がわからん……続けてくれ」
もう、国王様は脱力状態である。
それから、これまでの経緯をミーシャは10分に渡って語り尽くした。
「そうか、隠された真実も話したか……」
国王は深く息を吐き、確認を取るように俺に視線を送る。うわぁ……この目は完全に父親の目だ。
「君が吉晴君で良いのかな? そして君が結奈さんだね」
「はい。新島吉晴と言います」
「綿嶬結奈と申します!」
「まず、君たちが違う世界からやって来たと言うのは、真実かな?」
俺はその言葉に頷いた。
「生憎、此方にもそれを証明できるものはこれくらいしかありません」
俺はミーシャから預かっていた物を召喚する。
それはテーブル上にゴトンと小さな音をたてて現れる。
「これは私たちの国の歩兵の基本的な武器です。名前を89式小銃と言います」
この話を聞き国王の目が今までで一番開く。
「お察しの通り、伝説の彼らも、使ったかは分かりませんが、確実にこれと同じ物を持っていたことでしょう。ちなみにそれはもうミーシャリア様にお譲りしたものです」
「お父様に結婚を認めてほしくて彼をここに連れてきたわ」
ミーシャはそれはもう必死な様子だ。
「結奈さんはそれで良いのかね? ミーシャリアが居て邪魔ではないかね?」
ミーシャリアを含めた全員の視線が結奈へと向けられる。
「そこについてはミーシャさんとかなり話し合いました。結果は仲良く奪い合いましょう! と言うことに決まっていますので、問題ありません!」
えぇ! 何それ!? 初耳なんですけど~!?
「大変じゃの……」
王様は俺に哀れみの目も向ける。
「良いだろう。私は許そう!」
こうしてミーシャのお父さんへの挨拶も無事に終了した。
そして俺達はミーシャの部屋に通されて待たされている。
「スゴいね~私の部屋と比べると、あの部屋が物置に思えちゃうよ……」
「そしたら俺の部屋は豚小屋だな……」
そんなことを思えるほど、キレイだ。暖炉の上に89式小銃が飾られている以外には……しばらくして扉が開かれ、ミーシャが戻ってきた。ガラスケースを持って。
「これが例の手紙か……」
確かにそこには日本語で 魔王について。と書かれてある。
俺はゆっくり読み聞かせるように話した。
《この手紙を読める者が現れるのを信じて書こう。魔王と呼ばれた者についてだ。
結論から言うと、奴は簡単に死ぬが殺すことは出来ない。不可能だ。我々自衛隊の力を持ってしても、奴を封印することしか出来ない。しかし、魔王と呼ばれた者に実際に会って考えてやって欲しい。我々自衛隊も答えを見いだすことはでず、封印することにした。完全な丸投げだ。どうか許して欲しい。場所は地図に書き込んである。どうか彼女を救ってやって欲しい。これは私の個人的な願いだ。》
「どういう意味でしょう? 死んでも殺すことは出来ない……」
「さあな、行ってみなくちゃ分からないな……」
「行くの?」
ミーシャが不安げに訪ねてきた。
「追々ね今は色々と忙しいからな……」
今は結婚式である。その為の準備は大変だ!
「大事になってきた……」
しかしこのあと思いもよらない場所へ旅に出なくてはならなくなるのだが、そんなことはいざ知らず、召喚した結婚指輪のカタログを見る吉晴と、召喚したウエディングドレスのカタログを見る乙女二人には知るよしもない。
「遂に吉晴君と、け……結婚かぁ~」
「こんなに美しいウエディングドレスなんて見たことがありません!」
「どうしてこんなに指輪があるんだ……」
中々苦戦しそうな新郎新婦たちであった。